
【BAK成果発表会レポート#2】神奈川県を舞台に大企業×スタートアップの連携で挑む――第2弾のテーマは「子ども・食」
神奈川県は、大企業とベンチャー企業が持つリソースや技術、アイデアを結びつけ、双方の強みを活かした新規事業やサービス、プロダクトの創出を目指す「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」を積極的に進めている。
そのBAKが提供するプログラムの一つが、支援金と伴走支援を通じて共創プロジェクトの成長をサポートする「BAK INCUBATION PROGRAM」だ。同プログラムの2024年度の成果発表会が、2月27日と28日の2日間にわたって開催された。会場は、京セラ株式会社の研究開発拠点「みなとみらいリサーチセンター」。登壇者や関係者が集まり、発表に耳を傾けるとともに、発表後のネットワーキングで活発に意見交換が行われた。

TOMORUBAは、「KANAGAWA INNOVATION DAYS Meetup Fes 2025」内で開催されたBAKの成果発表会を現地で取材。本記事では、2024年度のプログラムから誕生した17の共創プロジェクトを3回に分けて紹介する。第一弾の「脱炭素・環境・インフラ保全」に続く、今回の第二弾では、「子ども・食」をテーマに取り組んだ6つのプロジェクトに焦点を当てる。
【GUGEN Software × イントラスト】 離婚後の子育てを支える包括パッケージを開発
■発表タイトル『離婚後の子育て包括パッケージ共創プロジェクト』

GUGEN Softwareは、離婚後の子育てアプリ『raeru』を展開する企業だ。『raeru』の特徴は、定型文やAIなどで離婚後の父母のやり取りのストレスを軽減するほか、養育費や親子交流の予定管理機能も備えていること。養育費や親子交流の実施率は全国平均で30%以下と低いが、『raeru』ユーザーに限れば80%以上と高い。
一方、イントラストは賃貸住宅における家賃債務保証を主軸とする総合保証サービス会社であり、2018年より養育費保証サービスも展開中だ。同社が連帯保証人の役割を担い、養育費の不払いが発生した際に立替送金と養育費の回収を行う仕組みだという。養育費不払いは、このサービスを展開する同社にとっても課題だと話す。

今回のプログラムでは、両社のサービスを連携させ、自治体の補助事業とも組み合わせることで、離婚後の親子が支援を受けやすくする包括的な支援パッケージの構築を目指した。プログラム期間中は、ニーズ調査や自治体との補助事業の構築、認知拡大のための広報物制作や相談窓口での配布などを実施。また、『raeru』の有料プランやオプションを無料提供する取り組みも行った。こうした活動を通じ、父母間の問題に関係なく子どもが健やかに育つ環境を守っていきたいと語った。
【hab × IR】 放課後等デイサービスに通う子どもの移動をライドシェアで解決
■発表タイトル『子ども・福祉限定ライドシェア事業』

子ども専用の送迎サービスを展開するhabと、放課後等デイサービス『アレッタ』を運営するIRは、放課後等デイサービスに通う子ども向けのライドシェア事業の構築に取り組んだ。背景にある課題は、子どもたちの移動手段の不足だ。habに寄せられる問い合わせの中で最も多いのが、放課後等デイサービスなのだという。
施設利用者数は増加傾向だが、昨今のドライバー不足により送迎の担い手確保が難しい。施設スタッフが送迎を兼任することが多いが、兼任により子どもの支援に充てる時間が減っている。代替手段としてタクシーや福祉有償運送の活用が考えられるが、供給が不足しているのが現状だ。そこで、habの提案する解決策がライドシェア、つまり、自家用車(白ナンバー)での一般人による送迎である。

プログラム期間中、IRが運営する『アレッタ 井土ヶ谷』に通う子どもたちを対象に、一般のボランティアドライバーによる試験走行を実施した。実現にあたっては東宝タクシーの協力も得た。
ボランティアドライバーや施設運営者からの声も聞き取り、今後のサービス設計に活かす考えだ。自家用車での有償送迎は、交通空白地など特定の条件でのみ許可されている。そのため政策提言なども行い、すべての子どもが安全に移動できる社会の実現を目指していきたいとした。
【Herazika × 日本漢字能力検定協会】 漢検と継続学習支援で子どもの自己効力感を醸成
■発表タイトル『⼦どもの学習意欲と自信を取り戻す漢字学習×継続学習⽀援』

『漢字能⼒検定』を運営する⽇本漢字能⼒検定協会(漢検)と、やる気に頼らない学習継続支援サービス『ヤルッキャ』を提供するHerazikaは、漢字の継続学習を通じて「⼦どもたちの⾃⼰効⼒感の醸成」を目指した取り組みを実施した。
漢検は検定運営に加え書籍販売も行っているが、購入後の家庭学習支援ができていないという課題があった。そこで、将来的な事業目標として『ヤルッキャ』のQRコードを漢検書籍に付与し、学習支援を行う構想を立てている。ターゲットは、漢検受験を目指す小学生の保護者である。
『ヤルッキャ』の仕組みは次の通りだ。アプリで事前に勉強時間を設定する。フレンド機能で友だちとID交換すれば、一緒に勉強もできる。同じ時間にログインすれば、お互いの様子を映像で確認することも可能だ。さらに、努力した分はAmazonポイントに交換できる特典もある。これにより継続学習を支える。

プログラム期間中、プロモーション施策を行い、無料登録率や課金率などのデータを取得した。課金率は47%と良好な結果を得られ、使ってもらうと購入に至る確率が高いことが分かった。しかし、無料登録率は思うように伸びなかったため、どう興味を引くかが今後の課題で、書店での販促を行い、改善を図る。こうした活動を通じ、子どもたちが諦めずに学習を最後までやり遂げる仕組みを作っていきたいとした。
【ビー・ケース × ハウス食品グループ本社】 鶏卵アレルギーに対処する卵白パウダーを共同開発
■発表タイトル『STOP食物アレルギー!家族が笑顔で食事を楽しむ社会をめざす』

両社の共通課題は食物アレルギーだ。特に幼児のアレルギーは20年前の約2倍に増加している。アレルゲンを摂取すると、命に関わるアナフィラキシーショックを引き起こすことがあり、これが教育現場や保護者にとって大きな負担となっている。
この問題に取り組んできたのが、製薬企業OBで構成されたビー・ケースだ。国立成育医療研究センターの研究に基づき、鶏卵アレルギーの早期摂取予防を進めている。この方法では、少量の加熱卵白を毎日6カ月間与える必要があるが、この負担を軽減するために、1回分の加熱全卵粉を小袋に詰めた『ミルステップ(R)egg』を開発した。
しかし、最近では卵黄による新生児消化管アレルギーが増加しており、卵黄を含まない卵白のみのパウダー開発が急務に。そのため、今回のプログラムを通じて、ハウス食品グループ本社の協力を得ることにした。ハウス食品はこれまで食物アレルギーへの取り組みを進め、アレルゲン負荷食の開発実績を持っている。

本プログラムでは、ハウス食品の製造ノウハウを活かし、卵白のみのパウダー『ミルステップ(R)卵白』を共同開発。これを基に、ビー・ケースはクリニックなどで観察研究を進めている。将来的には、鶏卵に限らず食物アレルギーによる悩みのない社会を目指していきたいと語った。
【カマン × 湘南ベルマーレ】 スタジアムグルメの容器をリユース容器に変更し、廃棄物の大幅削減を達成
■発表タイトル『リユース容器を活用した廃棄物ゼロスタジアムの実現』

両社が取り組む課題は、プラスチック廃棄物の削減だ。日本の年間廃プラ総排出量約800万tのうち、半分が容器包装プラごみだという。この容器包装プラごみを減らすため、カマンはリユース容器シェアリングサービス『Megloo』を展開している。今回は、プロサッカークラブである湘南ベルマーレのスタジアムにおいて、食品・飲料の使い捨て容器をカマンのリユース容器に置き換えるプロジェクトを実施した。
具体的には、2024年11月の湘南ベルマーレVS横浜F・マリノス戦において、スタジアムグルメの容器をカマンのリユース容器に変更。全容器にRFIDシールを貼り、返却ボックスへ返却する際に投票しながら返却できる仕組みやゴールシーンの動画が流れる仕組みを導入し、返却することそのものに楽しさを加えることで回収率向上を目指した。また、RFIDシールを使い、誤廃棄された容器の回収にも取り組んだ。返却ボックスは3Dプリンタで制作したという。

試合当日、全35店舗に協力してもらった結果、5698個の容器のリユースに成功。返却率は91%と高水準で、推定100キロ以上のゴミ削減を達成した。SNS等では「欧州リーグのようにリユース容器がもっと広がるとよい」といった好意的な声が確認できたそうだ。今後は、オペレーションの改善や賛同するスポンサーの獲得などにより継続可能な運営を目指すという。
【Beer the First × 明治】 在庫が増加するSNF原料を使い、新飲料『MILK MOON』を共同開発
■発表タイトル『乳製品で新たな価値創造!SNF原料(無脂乳固形分)を活用したクラフトアルコール飲料』

乳業メーカーである明治と廃棄予定食材を活用してクラフトビールを製造するBeer the Firstは、SNF原料(無脂乳固形分)を使った新しいアルコール飲料を開発した。
今回、材料に使われたSNF原料は、乳製品製造の過程で発生するもので、スキムミルクなどに使用されている。このSNF原料の在庫が、乳業界全体で年間7.1万t(牛乳(1Lパック):7億1千万本相当)にも達しており、年々増加傾向にあるという。SNF原料の有効活用は、フードロス削減が叫ばれる中、乳業界全体の課題のひとつとなっていると話す。
そこで、RTD市場(※)をターゲットに、Z世代の女性を意識したミルクサワー『MILK MOON』を開発。これにはSNF原料が10%使用されている。開発過程では、明治の20代女性社員へのインタビューや試飲を重ね、桜木町でサンプリング調査も実施し、消費者の反応も確認した。

この『MILK MOON』は3月中旬に発売予定で、紀ノ国屋や成城石井などの小売店舗で販売が決定している。コンビニやスーパーなどとも商談を進めているそうだ。この活動を通じて、両者はサステナブル製品への関心の高まりを実感したことから、アップサイクル製品をさらに拡充するほか、乳業界全体で情報発信をしていきたいと語った。
※RTD(Ready To Drink)=缶チューハイなど蓋を開けてすぐ飲めるアルコール飲料のこと。
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次回の第三弾記事では、「観光、ヘルスケア・健康経営等」をテーマにした共創プロジェクトを紹介する。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)