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スタートアップ×事業会社の”企業間共創”が加速する!名古屋発ピッチイベント『CROSS』に密着――生成AI・廃棄プラ・メタバースなどに挑む注目のスタートアップ10社が求める共創ニーズとは?
イノベーション拠点を核とした共創促進事業「The SCRAMBLE」に取り組む名古屋市。本事業では現在、5つのプログラム(CIRCLE/PARK/COLLAB/CROSS/TRY)を一体的に進め、名古屋エリアでイノベーションが恒常的に生まれる状態を目指している。
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▲イノベーション創出の仕組みや機会作りを行うプログラム「The SCRAMBLE」の概念図
この事業の一環で2024年12月10日、スタートアップと事業会社の共創促進に向けたオープンイノベーションイベント『CROSS』が開催された。場所は、名古屋市中区栄にある「ナゴヤ イノベーターズ ガレージ」。中部経済連合会と名古屋市が共同で設立したイノベーション拠点だ。
本イベント『CROSS』の狙いは、オープンイノベーションによる企業間共創を促すこと。イベント当日は、共創を希望するスタートアップ10社が登壇し、自社のビジネスの特徴や共創に期待することを壇上で発表。それを、製造業を中心とした幅広い業界の事業会社の担当者たちが聞き入った。ピッチ後にはマッチングタイムも設けられ、まさにスタートアップと事業会社が共創に向けて議論を深める場となった。
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――本記事では、『CROSS』で披露されたスタートアップ10社のピッチ内容を中心に、イベント全体の様子を紹介する。名古屋を代表するイノベーション拠点でどんな企業と企業が交差し、新たな価値創造へと歩み出すのか。ぜひ、名古屋のイノベーションシーンに思いを馳せてほしい。
“企業間共創”を促進する、スタートアップ発オープンイノベーションイベント
イベントの冒頭、名古屋市 経済局 イノベーション推進部長 齋藤氏が登壇して開会の挨拶を行った。挨拶では、名古屋市がスタートアップ・エコシステムのグローバル拠点として、スタートアップ支援に取り組んでいることが強調された。特にオープンイノベーション支援に注力しており、このイベント『CROSS』も共創を促進するための機会であることが伝えられた。
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▲名古屋市 経済局 イノベーション推進部長 齋藤 俊宏 氏
続いて、本イベントを運営するeiiconの中村氏がイベントの趣旨を説明した。『CROSS』の目的は、企業間共創を促進し、スタートアップの事業拡大や、大企業が進めるテーマにおけるパートナー企業の参画を促すことにあると伝えられた。また、2024年9月に大企業発のリバースピッチイベントが実施されたことを踏まえ、今回はスタートアップ発のピッチイベントであることも説明された。
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▲株式会社eiicon 地域戦略事業本部 東海支社 東海支援2G. Project Director/マネージャー 中村 仁美 氏
次に、eiiconの伊藤氏が登壇。「新規事業担当者が陥りがちなオープンイノベーションの罠」というテーマでセミナーを行った。セミナーの中で伊藤氏は、オープンイノベーションに取り組む前の事前準備の重要性を強調。オープンイノベーションを実践するにあたり、(1)全社戦略との整合性/OIの明確化、(2)方向性の明確化、(3)体制プロセスの整理、(4)事業化/協業判断基準の明確化、(5)適切な発信とソーシングの5点が重要だと説明した。
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▲株式会社eiicon 執行役員/地域戦略事業本部 本部長 伊藤 達彰 氏
セミナー終了後、各ピッチに対するコメントやフィードバックを行う篠原氏が挨拶に立ち、「社会課題や町のさまざまな問題、企業の課題を解決できるサービスについて聞けることを楽しみにしている」と述べ、ピッチイベントへの期待感を示した。
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▲エバーコネクト株式会社 代表取締役 篠原 豊 氏
「生成AI」「廃棄プラ」「メタバース」などを事業テーマとするスタートアップ10社が登壇!
――ここからは、発表順にスタートアップ10社のピッチ内容を紹介していく。
(1)Sotas株式会社 <化学産業向けSaaS>
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最初に登壇したのは、化学産業に特化したSaaS事業を展開する「Sotas」。同社は、国内に約50万社あると言われる化学産業向けに、3つのサービスを展開している。1つ目は化学素材や企業の詳細検索ができる『Sotasデータベース』、2つ目は化学産業向けの生産・在庫管理システム『Sotas工程管理』、3つ目は化学調査の負担を軽減する『Sotas化学調査』だ。
化学産業の市場規模は国内50兆円、グローバルで600兆円に達し、国内では売上、純利益ともに自動車産業に次ぐ第2位の規模を誇る。同社は、こうした業界向けにデータを構造化し、必要なタイミングで情報を引き出せるプラットフォームの構築を進めている。すでに大手化学メーカーを含む100社以上に同社のサービスが導入され、直近ではプレシリーズAラウンドで4.8億円の資金調達を実施した。さらなる事業拡大に向け、化学産業のDXやAI活用、資源循環分野に関心のある企業とディスカッションを行いたいとした。
(2)株式会社Algomatic <生成AI>
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「Algomatic」は、2023年4月にDMMから20億円を調達して誕生したスタートアップで、生成AIを活用した様々なプロダクトを開発している。同社はカンパニー制を導入しており、複数のカンパニーごとにCxOを配置して、独立採算で各事業を進めている。各カンパニーに課せられた制約は、生成AIを使ったサービスを開発すること。それに沿っていれば、どんなことでも挑戦ができるという。
すでに生成AIを活用したサービスが多数誕生しており、例えば、工場における製造作業を手順書に沿って評価するシステムや、小売の市場/競合分析とSNSコンテンツの自動生成システム、問い合わせ対応の効率化・自動化システムなどを開発しているそうだ。また、自治体や事業会社との連携事例も生まれている。掲げるビジョンは「AI革命で人々を幸せにする」こと。このビジョンの実現に向け、事業共創を加速させていきたいとした。
(3)株式会社BIOTECHWORKS-H2 <廃棄物から水素生成>
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22歳でアパレル企業を創業し、約25年経営に携わってきた西川氏が設立した「BIOTECHWORKS-H2」は、廃棄物から水素を生成する事業に取り組む。従来のごみ焼却場をカーボンニュートラルな発電所に転換すると同時に、CO2削減量をデジタルプラットフォームで可視化するサービスを目指している。
同社はすでに、アメリカでテストプラントを稼働中で、家庭ゴミやタイヤ、汚泥、建設廃棄物など多様な有機性廃棄物で実証を進めている。CO2を一切排出せず、デジタルプラットフォーム上では、「どのゴミからどれだけ水素が生成できたか、CO2を削減できたか」を確認できる。Scope3にも対応予定だ。
海外からの評価も得ており、フランスでは「Deep Tech Pioneer」に選出されたほか、アメリカのメディア「WSJ」にも日本発のイノベーターとして紹介された。マレーシアでは商用プラントの検討が進む。国内では大阪・関西万博への出展も決定し、名古屋においても廃棄物の水素化を通じてクリーンエネルギーを普及させていきたいと語った。
(4)エイトス株式会社 <改善アイデアの集約プラットフォーム>
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「エイトス」は、現場からの改善アイデアを集約し、カーボンニュートラルを推進するプラットフォーム『Cayzen(カイゼン)』を提供している。アイデアに基づくCO2削減量の計測やモニタリングが可能で、同社の蓄積したノウハウも併せて活用できるものだという。
従来、紙で運用されることが多く負担の大きかった改善提案フローを、同社のサービスを使ってデジタル化することで、業務改善効率を大幅に向上させることができる。また、製造現場では、省エネ施策がCO2削減に特に効果的だが、現場から幅広い削減アイデアを容易に収集することができる。削減効果を簡単に試算できる機能も盛り込んだ。さらに、アイデアに対しAIがフィードバックを行う機能も搭載したという。このサービスの展開により、現場目線でのCO2削減を支援していきたい考えだ。
(5)株式会社HACARUS <AIとロボットによる外観検査>
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「HACARUS」は、ロボットとAIを組み合わせた外観検査システム『HACARUS Check』を展開する企業だ。特に自動車業界のダイキャスト部品や金属部品の外観検査への活用を目指している。製造現場での外観検査は、依然として目視検査が多く、労働力不足や採用・教育コスト、不具合の見逃しが課題となっている中、自動化の必要性が高まっている。
同社の『HACARUS Check』は、ロボット、カメラ、照明を組み合わせた最適な検査環境で、AIを活用して外観検査を行う仕組みで、業務負担を軽減しつつヒューマンエラーの抑制につなげることができる。
同社ならではの強みが、スパースモデリング技術により少量の学習データで高精度な検査を実現できること。特別なスペックのマシンが不要で、現場導入のハードルが低い。金型劣化などで環境が変化しても、迅速に再学習ができる。この外観検査システムを自動車業界に限らず、広く必要とされている場所に広げていきたいとした。
(6)Industry Alpha株式会社 <FMSによる工場のスマート化>
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「Industry Alpha」は、AI、ロボティクス、最適化技術を活用し、工場のスマート化を推進する企業で、「スマート工場・スマート倉庫をデザインし実現する」ことをミッションに掲げている。主なプロダクトはAMR(自律走行搬送ロボット)だが、1台のロボットを単体で動かすだけではなく、複数台や周辺機器も含めて制御するFMS(Fleet Management System)の開発に強みを持つ。工場内のエレベーターやシャッター、フォークリフトなど、多様なIoT機器を一元管理するシステムを構築できる。
特徴は高い拡張性と接続性。追加費用を最小限に抑えたシンプルな制御設計が可能だという。また、メーカー問わずシステム統一ができる点も特徴だ。制御システムには、いくつかのコンポーネントが必要になるが、コンポーネント毎に開発をしており、現場のニーズに応じた最適な機能を選択し実装できる。これにより、各現場に適した運用ができるという。こうした取り組みにより、スマート工場をデザインしていきたいと語った。
(7)KUROFUNE株式会社 <外国人労働者の管理・定着支援アプリ>
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「KUROFUNE」は、外国人労働者の登録支援を行う企業だ。現在、愛知県の製造業では多くの外国人労働者が働いているが、外国人を受け入れる企業からは「言葉や文化の壁」「管理費の高さ」「突然の退職」などの相談が寄せられているという。同社はこれらの課題に対応するため、特定技能労働者の管理・定着支援アプリ『KUROFUNE PASSPORT』を開発した。
このアプリの特徴は、ワンストップで登録支援を行うことで人的工数を削減し、管理費を業界水準の半額程度に抑えていること。また、24時間体制でいつでも対応ができるほか、同社の半数以上が日本語の堪能な外国人スタッフであることから、きめ細やかなサポートが提供できるという。外国人労働者の悩みを把握できるダッシュボードも提供しており、こうしたサービスを普及させることで、外国人労働者の長期的な定着につなげていきたいとした。
(8)株式会社REMARE <廃棄複合プラの再資源化>
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「REMARE」は廃棄プラスチック問題に取り組む企業で、プラスチックの大半が焼却処分され再利用されていない課題に着目している。再利用が難しい理由は、廃棄されるものが単一素材ではなく複合プラスチックであることにある。複数の素材が混在すると、既存の樹脂産業では機械を安定稼働させることができないため、再利用が困難となる。
こうした現状に対し、同社は複合材のままで板材にする技術を開発した。通常、複合材だと融点が異なるため、表面が凸凹になったり割れてしまったりするが、同社の技術はこれらの問題を解決している。既存の切削加工産業に展開可能だという。
現在、同社では化粧材の受注数が急増しており、建材の共同開発も開始している。この板材を製作することでCO2削減効果もあるため、脱炭素ソリューションとしての可能性も広がっている。複合プラスチックのリサイクルを最適化するデータベースも開発予定で、これらの活動を通じて、廃棄複合プラスチックを資源に変える未来を作りたいと展望を述べた。
(9)株式会社SPLYZA <単眼カメラ・マーカーレスでの3Dモーションキャプチャー>
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「SPLYZA」は、モーションキャプチャー技術を活用し、人の脊椎や骨盤、重心を捉えて動きを3次元で推定するプロダクトを開発している。元々はスポーツ領域で活用されていたが、今後はヘルスケアや製造業界への展開を目指している。ヘルスケアでは膝や腰の疾患の診断に活用できる可能性がある。製造業では生産現場で作業負荷を定量評価することにより、離職率の低減や作業効率の改善を見込んでいる。
従来のモーションキャプチャーでは、体にマーカーを多数装着し、複数のカメラで追跡する必要があり、高額で利用シーンが限られていた。それに対して、同社の技術では、単眼カメラかつマーカーなしで3次元認識が可能だという。脊椎や骨盤、腕や足のねじれ、関節間の長さや道具なども認識できる。そのため、場所や人を選ばずに動作の定量評価が可能だ。現在、大学医学部や整形外科での活用や、大企業への導入が進んでおり、大学医学部との共同研究も進行中だという。
(10)株式会社Urth <メタバースプラットフォームと建物空間>
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「Urth」は早稲田大学の支援を受けて創業した企業で、主にメタバースプラットフォームと、メタバース上の建物空間の提供を行っている。メタバースの注目度が下がった2022年以降も、事業は継続的に成長を遂げ、売上規模も拡大しているという。特に若年層への普及が進んでおり、新しいオンラインコミュニケーションツールとして十分に活用ができるものになっていると話す。
製造業においては、法人向けの販売促進などへの活用が見込まれている。実際、ある大手シリコンメーカーは、Zoom営業からメタバース展示会へ切り替えたことで、双方向でのコミュニケーションが可能になり、効果的な新製品の紹介が実現したという。導入にあたっては、用意されたサンプル空間から選んで始めるプランや、ゼロからオリジナル空間を開発するプランがあり、費用は3カ月で15万円からと手頃である。同社はメタバースという新たなコミュニケーションツールを、販促や採用活動などに広げていきたいと語った。
――10社のピッチ終了後、登壇企業がブースを設置し、ディスカッションを行うマッチングタイムが設けられた。ピッチを聞いた事業会社の担当者が興味を持ったブースを訪れ、共創に向けて熱心に意見交換を行う様子がうかがえた。
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取材後記
このイベントでは、生成AIや廃プラ、スマート工場といった最先端のビジネステーマを追求するスタートアップが多数登場し、それぞれの革新的なアプローチに触れることができた。特に、テクノロジーを活用した新たなサービスやソリューションが印象的だった。ピッチ後のマッチングタイムでは、登壇者と来場者の活発な意見交換が行われ、『CROSS』の狙いにある通り、“企業間共創”が始まる兆しを感じることができるイベントだった。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)