【Open Innovation Guide④】 オープンイノベーション実践手順の正攻法は、仮説検証型アプローチ(リーンスタートアップ)
eiiconは、2017年10月12日に”オープンイノベーションの手引き”というコンテンツを公開しました。これは、経済産業省「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(初版)」を元に、事業提携を成功させるための各種ノウハウをわかりやすくWEBコンテンツ化したものです。自身の課題感や、状態に合わせて検索、読み進めることが可能となっています。もともとの手引きも100ページ以上ある大作ですが、eiiconのコンテンツもボリュームがあるため、eiicon founder 中村が解説していきます。
◆Open Innovation Guide④:仮説検証型アプローチ(リーンスタートアップ)の重要性
おはようございます。中村です。前回は昨年末に「連携したい事業領域が曖昧である」という壁の越え方という、まずオープンイノベーションを始める段階で大切なポイントについてお話ししました。今回はもう少しフェーズが進んだ実践編、「実際に出会った後の進め方」についてのお話しします。
手引きでは「契約開始~次フェーズの意思決定のサマリ」についてという項目で共創パートナーが見つかった後、共創を進める上で3つ大切なポイントに触れていますが今日は、そのひとつ、連携プロジェクトを開始後、当初立案した仮説が検証されないままに継続されてしまうことを回避することが重要であるというお話にフォーカスしてまいります。
◆オープンイノベーションの重要性
手引きでは、そもそも「オープンイノベーションが現代に必要である」理由に
●既存企業は持続的に顧客価値を創出するため、新しい価値の創造、すなわち新規事業・新プロダクトリリースは生命活動として求められていること
●「新しい価値の創造」自体が「製品寿命短命化」と、新興プレイヤーの台頭により、更に難易度が上がっていること
を挙げています。
(※「連帯の必要性と現状 事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携の必要性」より)
「新しい価値の創造」を限られた資源で効率的・スピーディーに実現するには、外部資源を有効に活用するこができる「オープンイノベーション」が有効であるというロジックです。
そのため、何か新しいプロダクトを既存企業が創る際、先人たちが繰り返してきた「あるある失敗事例」=「その事業におけるプロが創るため、新しいプロダクト自体が知らず知らずに玄人好みになっていたり、ニッチになっていたり、その法人の主観に染まっていたりして、まったく市場にニーズがない」という結果を繰り返さないために、そもそも「社内の技術・アイデアのみで製品開発を遂行しない」というのが「オープンイノベーション」の醍醐味であったりするのです。
「社内外から幅広く・技術・アイデアを取り入れ、アウトプットも多様にする」――それが、オープンイノベーションです。
◆連携プロジェクトを開始後、当初立案した仮説が検証されない!?
そこで、話は実践中のフェーズに戻ります。
なぜ、社内外からアイデアを取り入れるはずのオープンイノベーションで当初立案した仮説が検証されないという事態が起きるのか。
これは根深いプロダクトリリースにおける既存企業の慣習が起因します。
元来、新規事業の創出は、
①企画・社内承認 → ②事業計画・社内承認(予算獲得) → ③開発開始~完成 → ④リリース・販売
という手順で行われてきました。このプロセスでは、意思決定がすべて「社内」のみで行われているというのがポイントです。
いわゆる「クローズドイノベーション」の手法ですが、これが実は「オープンイノベーション」という手法を実践する過程で深く論議されず、気づけば、共創パートナーと協業・共創を進める中で行われてしまっていることが多いのです。
手引きでもありがちなアプローチとして下記の記述をしています。
①当初のアイデアを計画し、計画実行(資金を投じることがここで発生) → ②その後検証せずにリリースし、失敗。
事実として、行われてしまっていることが多いこのクローズドイノベーションの手法が転用されている過程ですが、立ち戻ると「オープンイノベーション」という手法から外れて行っている……ということがわかると思います。なぜならオープンイノベーションはクドイようですが「社内外から幅広く・技術・アイデアを取り入れ、アウトプットも多様にする」という方法なのですから。
◆仮説検証型アプローチ(リーンスタートアップ)での実践
ではどうすべきか。
オープンイノベーションの実践手順として最適なのは、「仮説検証型アプローチ(リーンスタートアップ)」である、と言えるでしょう。
つまり、当初のビジネスアイデアが間違っていることを前提に、外部の視点を取り入れた「仮説検証を繰り返す」ことで 結果的に、「成功への近道」を探り発見し、低リスク・小投下リソースに繋げるのです。
オープンイノベーションの手引きでは、先行企業の事例として、いくつかリーンスタートアップの仕組みを導入している企業に触れています。
◆事例:GE社「Fast Works」
たとえばGEの「Fast Works」というフレームワークですが、これは3週間で試作品を製作→ターゲット層(潜在顧客にヒアリング)→顧客からのフィードバックを製品に反映→3ヶ月以内に製品化→リリース・顧客のフィードバックをもとに本リリース後半年以内に次の製品開発に着手、という驚異的なスピードでのサイクルを繰り返し、いくつも新たなプロダクトを創出しています。
◆事例:ソニー社共創プラットフォーム「First Fight」
手引きではクラウドファンディングを活用したリーンスタートアップの事例にも触れています。社外との共創を強化するためのプラットフォームを立上げ、クラウドファンディングを運用しているのがソニー社です。①まず製品のアイデアに対してフィードバックを求め、②アイデアレベルの商品・サービス自体に対して資金調達をクラウドファンディングとして試みる、というもの。
もちろんここで開発資金が集まらなければ、またステップは①に戻ります。①~②を必然的に繰り返すことができ、フィードバックを得る過程で、また新たなアイデアを創出していくことができます。
いずれも、仮説検証型アプローチ(リーンスタートアップ)で、ポイントは、早期に外部にお披露目し、市場の反応を反映するという点です。
◆共創を進める上でのボトルネックが、それでも社内にいたら、無視するが吉
共創パートナーを発見し、いざ共創を始めた段階で、よく聞く担当者の悩みは、実行する事業部に必ずと言っていいほど存在する「ストッパー」の存在です。「過去の経験」「自身の価値観」をもとに、批評を繰り返す輩をさします。大企業内で、実績をあげていく上では周囲の理解・協力が不可欠ですが、新規事業・新プロダクトにおいては必ずしもこれが絶対ではない、というのは心に留めておいてほしい点です。「ストッパー」を納得させるということは、実は社内を向いている、ということになるのです。
ストッパーを納得させたからといって売上が上がることは絶対にありません。答えは市場にあります。まずは外に目を向けること、そして早くお披露目し、反応を獲得すること、それがオープンイノベーション実践の正攻法です。
「どうしても、ストッパーを突破しなければいけない」とお感じになられている担当者の方、冷静に考えてみてください。他にもキーマンはいます。その共創パートナーとのプロジェクトに最適ではなくとも、同じだけのレイヤー・実力を持った社員が必ずいることが、事業会社の強みでもあります。専門領域が少しずれていることはあると思いますが、それより大切なことは、まず試し市場の声を聴くことなのです。
本年も「オープンイノベーションの手引き」の解説を続けてまいります。先人たちが失敗し、苦労した経験をまとめた内容が詰まっている最高の教科書をぜひご一読ください。
●他詳細はこちらから オープンイノベーションの手引き https://eiicon.net/about/guidance/
解説/オープンイノベーションプラットフォーム「eiicon」Founder 中村 亜由子(nakamura ayuko)