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事業創出の新手法「エフェクチュエーションワークショップ(後編)」から生まれた7つのアイデアとは?【横浜オープンイノベーション・プロジェクト】第四弾イベントレポート

事業創出の新手法「エフェクチュエーションワークショップ(後編)」から生まれた7つのアイデアとは?【横浜オープンイノベーション・プロジェクト】第四弾イベントレポート

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7月7日、「横浜オープンイノベーション・プロジェクト」主催による「エフェクチュエーションワークショップ(後半)」が開催された。横浜オープンイノベーション・プロジェクトとは、イノベーション都市・横浜を掲げ、領域越境(クロスオーバー)をさらに加速する試みとして、横浜2大学(横浜国立大学・横浜市立大学)の最先端研究ラボを中核に始動したプロジェクト。真鍋誠司氏(横浜国立大学 経営学部⻑・教授)と芦澤美智子氏(横浜市立大学 国際商学部 准教授)が共同プロジェクトリーダーを務めている。

今年の5月にキックオフイベントを開催後、第二弾となるイベントをへて、第三弾より「エフェクチュエーションワークショップ」と呼ばれる参加型のイベントが開催された。参加者は横浜に事業所を置く大企業の社員たち。30名近い新規事業担当者が同じ場所に集い、7つのチームに分かれアイデアの創出に向き合った。

今回の会場となったのは、株式会社資生堂が横浜・みなとみらいにオープンした「S/PARK(エスパーク)」。最先端の研究施設と体験型のミュージアムなどを兼ねそなえた複合体験施設である。本記事では、大いに盛り上がりを見せたワークショップの様子を、イベントレポートとしてお届けする。

※エフェクチュエーション理論(Effectuation Theory):成功を収めている起業家に共通する思考プロセスや行動様式の調査研究によって導き出された意思決定の理論。インド出身の経営学者 サラス・サラスバシー教授によって体系化された。「目標主導型」ではなく「手段主導型」で周囲を巻き込みながら、コントロール可能な目的を紡ぎ、徐々に目的を拡げ未来を切り開いていくことが特徴。

「わらしべワーク」と“無茶ぶり”をへて、アイデアの整理・集約へ

前回のワークショップでは、個人の抱く「願望」の棚卸し、個人の持つ「宝もの(人脈やスキル)」の棚卸しや、それらを基にして、スケールアウト社独自のフレームワークである「アイデア実現シート」で可視化を行った。続きとなる今回、最初のワークは「わらしべワーク」だ。

■わらしべワーク

ここでは、7チームのメンバーをシャッフルする。そして自分たちのチームに訪れたゲストから、「宝もの(各自の持つ知識・ノウハウや人脈)」や意見を提供してもらい、よいものを取り込みアイデアのブラッシュアップを行うという。


▲各チームのメンバーが混ざり合い、アイデアに対するアドバイスや、提供できそうなリソースの提示が行われた。


▲「そのアイデアなら、○○を紹介できる」という声や、「○○してみたらどうか」と助言する声が、各所からあがる。

■不測の事態“無茶ぶり”

アイデアが磨き込まれ、終わりが見えてきたところで一転、ここで難問が降りかかる。整理されつつあるアイデアを、横浜市立大学 コミュニケーション・デザイン・センター センター長 武部貴則 氏の研究テーマである「ウェルビーイング」、あるいは横浜国立大学 先端科学高等研究院 台風科学技術研究センター センター長 筆保弘徳 氏の研究テーマである「台風」いずれかと結びつけよ、というのだ。そのうえで、再度 アイデア・実現シートを作成し直すよう指示が出された。


▲突然の“無茶ぶり”に、会場からどよめきが起こる。


▲ホワイトボードを囲んで、熱い議論を再開。


▲最終的に、「アイデア名とステートメント」「3コマ漫画」「活用する自分たちの手札=リソース」で構成された、アイデア・実現シートを作成する。

エフェクチュエーションワークショップから生まれた、7つのアイデアとは

予期せぬ“無茶ぶり”に見舞われた各チームだったが、最終的にどのようなアイデアへと着地したのか。ここからは、2日間にわたるエフェクチュエーションワークショップから生まれた、7つのビジネスアイデアを紹介する。

◆チーム① 「世界最大級の防災プラットフォーム」

1チーム目は、「台風」と絡めた防災プラットフォームに関するアイデアを披露。具体的には、台風被害への備え方や被害後の修復の仕方といった悩みに対し、ノウハウを持ったアドバイザーが手頃な価格で相談に乗ってくれるサービスを提案した。

スマートフォン上でやり取りが完結する手軽さを特徴とした、コミュニティ上で支え合う仕組みも検討。例えば、空き部屋を持つ人が避難用の部屋を提供したり、ペット好きの人がペットを一時的に預かったりといったものだ。「宝もの」としては、台風の多い沖縄の人脈(ノウハウ)、プラットフォーム構築のためのITスペシャリスト、ペット好き、空き部屋保有者などを挙げ、それらを活用していきたいとした。


◆チーム② 「台風よ来い!台風の中で思いっきり遊べるキャンプ場」

続く2チーム目も、「台風」と絡めたアイデアを発表。もともとは「たくさんの人にキャンプを楽しんでほしい」という願望をもとに、キャンプ関連ビジネスを構想していたそうだが、「台風」を絡めたことで、今回のものに着地した。

具体的には、台風を逆手にとった、台風を楽しむキャンプ場を提案。透明のボールを用意し、その中に入って台風を身近に学んだり、台風下でサバイバル感覚を味わったり、サウナ後の台風シャワーを楽しんだりと、台風ならではのアクティビティを構想する。ユニークなアイデアに会場からは笑いがもれた。「宝もの」としては、台風の知見、行政の防災担当者の知見、親族の保有する山などを挙げた。


◆チーム③ 「海と生活と人生がつながる海族館」

3チーム目が発表したのは、「もっとたくさん、子どもとワタリガニを採取するような体験をしたい」という願望から生まれたアイデアだ。同チームが提案する水族館ならぬ“海族館”では、漁師から魚の食べ方を学んだり、養殖の技術を教えてもらったり、ブルーカーボンやフードロスへの理解を深めたりといった体験ができる。

洋上風力と地熱発電をもとに発電した電力で運営し、CO2の排出も減らすという。活用する「宝もの」には、水族館運営ノウハウや再エネ発電ノウハウ、漁師・水産加工者などを挙げた。


◆チーム④ 「地元貢献の新しいカタチ、地元系VTuberになろう!」

続いてのチームは、「大好きな地元への貢献の仕方が分からない」という課題・願望を起点に、VTuberと絡めたアイデアを発表。具体的には、地元活性化に特化したVTuberの事務所を設立するという。これにより、様々な立場の人たちが顔出しをすることなく、あるいは身体的な制約があったとしても、VTuberとして地元に貢献できる世界を目指す。

また、VTuber同士のバーチャルな交流の場も設ける。こうした活動を通じて、地方創生・地域活性化を実現すると同時に、グローバルにも情報を発信したいとした。活用する「宝もの」としては、フォロワー数の多いVTuber、司会者、カメラマンなどを挙げる。


◆チーム⑤ 「イネーブリング・ツーリング・シュミレーター」

5チーム目は、「ロードバイクで友達とツーリングに行きたいが、忙しくて行けない」という想いを起点に発想。これを解決するために、VRゴーグルをつけて旅に出られるバーチャル・シュミレーターをつくりたいと話す。行き先は、富士山、横浜、モンサンミッシェルなど、メタバース上に有名観光地を再現するため、時間をかけずにあらゆる場所に行ける。

地元の人たちとの交流も促し、関係人口の増加につなげるとともに、健康増進にも寄与していきたい考えだ。活用する「宝もの」には、シミュレーション技術、機械の設計や画像処理技術、写真撮影のスキルなどを挙げた。


◆チーム⑥ 「人間性の回復」

「人間性の回復」をテーマに考えたという6チーム目は、現地の人と自然を通して学び合いながら、自分自身と向き合える場所をつくるアイデアを発表。オフィスビルの中で仕事に打ち込んでいる毎日を脱し、自然豊かな地方で現地の人たちと触れ合いながら、自分自身と向き合える場づくりを目指す。

イメージしている場所は福島県の浪江町で、訪問割合としては週末を中心とした20%程度を検討。活用できる「宝もの」として、すでに福島県でスタディツアーを実施している知人、所属企業の保有する拠点、街づくりのノウハウなどを挙げた。



◆チーム⑦ 「令和版 寺子屋」

「子どもの自己実現・健康・幸福のために寺子屋をつくりたい」という願望から、アイデアをまとめ上げたという7チーム目。学校では学べない色々な経験を親と一緒に学ぶことで、気づいたらウェルビーイングが実現でき、子どもたちが夢を持てるようになる、というアイデアを披露した。

具体的には、さまざまな現場で活躍する社会人が先生となり、リアルな知見をもとに教える。親子も一緒に学ぶことで、親があらかじめレールを敷いてしまうことを防ぐという。「宝もの」として、子ども食堂の運営者や、子どもの支援に取り組むNPO法人、メンバーら社会人の知見を挙げ、それらを活かしていきたいとした。


「Crazy-Quilt」「Lemonade」を実践――ワークショップの種明かし

すべての発表が終了した後、ワークショップの進行を担当する株式会社スケールアウト ユニゾンリーダー 絹川 輝和氏が再登壇し、今回行った2つのワークの種明かしを行った。

まず、最初の「わらしべワーク」についてだが、これはエフェクチュエーション理論の5原則のうち「Crazy-Quilt(クレイジーキルト)」に該当するという。端的に言うと、外部のステークホルダーを巻き込みながら、ステークホルダーが提供してくれる資源も柔軟に組み合わせて、価値あるものを生み出すことだ。『わらしべ長者』とは、思いがけない物々交換によって富を得る昔話だが、共通性があることから、こう名づけたという。

また、後半の「無茶ぶり」は、エフェクチュエーション理論の「Lemonade(レモネード)」にあたる。これは、アメリカの“When life gives you lemons, make lemonade.”という諺をもとに生まれた、予期せぬ出来事が起こった場合も、それを柔軟に活かして変化しようという原則だ。

絹川氏は、コロナ禍もまさに予期せぬ出来事であったと説明。コロナ禍という逆境において中核ビジネスを巧みに転換した企業の例に触れながら、その重要性を強調した。

ワークショップ終了後、参加者たちからは以下のような感想が語られた。

「わらしべワークでアイデアが広がり新鮮だった」

「外に目を向けて技術・サービスを探しがちだが、実は内側にも宝ものがあって、それがビジネスにつながることがあることを、体験を通して知ることができた」

「“無茶ぶり”があったおかげで議論が活性化した」

「とくに大企業だと、個人の願望と企業で実現したいことの折り合いをつけていくことが難しい」

「知っている内容やスキル、つながっている人材が多様に分かれている人たちと、一緒にディスカッションをすることで、新たな発想が生まれていくことを体感できた」

「信頼の醸成されたネットワークを維持するには、継続したコミュニケーションが必要」

ワークショップ終了後は、横浜オープンイノベーション・プロジェクトのプロジェクトリーダーを務める 横浜市⽴⼤学 国際商学部 准教授 芦澤美智子 氏、横浜国立⼤学 経営学部⻑・教授 真鍋誠司 氏、および横浜市立大学 コミュニケーション・デザイン・センター センター長 武部貴則 氏(研究テーマ「ウェルビーイング」)と横浜国立大学 先端科学高等研究院 台風科学技術研究センター センター長 筆保弘徳 氏(研究テーマ「台風」)が登場。参加者に向けてスピーチを行った。ここでは、芦澤氏と真鍋氏のスピーチの一部を紹介する。

最初に壇上にあがった芦澤氏は、横浜・みなとみらいエリアにおけるイノベーション・エコシステムの成り立ちを紹介した後、「世界中でイノベーションを起こしていこうとする動きが加速している。そうしないと未来はないという形で、イノベーションブーム・スタートアップブームが到来している。スタートアップは、ひとりの天才がつくるのではなく、街でつくるという考え方が、世界共通になってきている」と話す。

そのうえで現状の日本のエコシステムに関して、ある調査(※)によると「日本は1年前に東京が世界で9位にランクインした。中身を見ると“コネクテッド力”が弱い」と指摘する。横浜も東京と同様だとし、横浜オープンイノベーション・プロジェクトなどの活動を通じて、産学官がつながってコネクテッド力を高め、一緒になって連続的にイノベーションを起こしていく街にしていくことが重要だと語った。

※Startup GenomeとGlobal Entrepreneurship Network (GEN)が調査する「Global Startup Ecosystem Report」(参照


▲横浜市⽴⼤学 国際商学部 准教授 芦澤美智⼦ 氏

続いて登壇した真鍋氏は、イノベーションを起こすために必要な要素として、「アイデア」「起業家精神」「お金」の3点を挙げ、それぞれが欠かせない理由を解説した。

そのなかで真鍋氏は、ワークショップの序盤では気持ちの通じ合いづらい場面もあったようだが、回を重ねるにつれて信頼関係が構築されていく様子を見て取ることができたと話す。これは、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)、つまり信頼の醸成されたネットワークが育まれていく過程であったと振り返る。

しかし一度あたためたネットワークは、継続的にコミュニケーションを取らないと冷めてしまうものだと説明。「ここで終わらせたらもったいない」と語り、今後も継続して関係構築が進むことに期待した。


▲【画像左】横浜国⽴⼤学 経営学部⻑・教授 真鍋誠司 氏、【画像右】横浜国立大学 先端科学高等研究院 台風科学技術研究センター センター長 筆保 弘徳 氏

最後に、エフェクチュエーションワークショップの企画・運営を担った株式会社スケールアウトの共同代表 飯野 将人氏が壇上にあがり、本ワークショップに込めた想いを語った。

飯野氏はエフェクチュエーションワークショップの設計にあたり、個人に内在する動機を掘り出すことに主眼を置いたと語る。さらに、企業のテーマではなく「台風」や「ウェルビーイング」といった中立的なテーマを据えることで、企業の代表者ではなく個人として、各テーマに向き合えるようにしたと話す。

最終的に「企業の壁を超えて、何か一緒にできそうだ」という雰囲気を醸成することがゴールだったという。そして今後、この雰囲気を結晶化して、実際の事業へとまとめていくことが重要だと伝えた。


▲株式会社スケールアウト / Scale Out Corp. 飯野 将人 氏


▲会場は資生堂の「S/PARK」にある広々としたホール。


▲参加企業からドリンクの提供も。

取材後記

「横浜オープンイノベーション・プロジェクト」主催で行われた、計4回にわたるオフラインのミートアップを追ってきた。同じ横浜という場所で活動をする新規事業担当者らが集まり、膝を突き合わせてディスカッションを行う稀有な機会から、新たなネットワークが構築されていく様子がうかがえた。「イノベーション都市・横浜」を掲げるこの街から、新たなイノベーションが連続的に生まれる。そんな未来図が現実のものとなる日も、そう遠くないのではないだろうか。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)


■連載一覧

第1回:横浜に事業所を置く大企業の新規事業担当者が集結!―「大学のスター研究者を中心とした実践的なつながり」から新たな価値の創出を目指す【横浜オープンイノベーション・プロジェクト】のキックオフイベントを密着レポート!

第2回:新規事業担当者がオープンイノベーションを「体感」!先駆者たちから共創を学ぶ――【横浜オープンイノベーション・プロジェクト】第二弾イベントをレポート!

第3回:約30名が参加、事業創出の新潮流「エフェクチュエーションワークショップ(前編)」に密着!【横浜オープンイノベーション・プロジェクト】第三弾イベントレポート

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