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スポーツビジネスのフロントランナーによる鼎談から紐解く『スポーツ産業の発展につながるヒント』とは【後編】

スポーツビジネスのフロントランナーによる鼎談から紐解く『スポーツ産業の発展につながるヒント』とは【後編】

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スポーツの市場規模を15兆円にまで拡大することを目指し、さまざまな施策を講じているスポーツ庁。その活動の一環として取り組んでいるのが、「スポーツオープンイノベーション推進事業(地域版SOIPの先進事例形成)」だ。スポーツ業界が持つ有形・無形のリソースと、業界外のサービスやプロダクト・技術・知見を掛け合わせ、新たな事業の創出を狙っている。

今年度の地域版SOIPでは全国4つのエリア(北海道・関西・中国・沖縄)で、地場に根差したスポーツチームと外部の企業を結びつけ、新規事業創出を図るアクセラレーションプログラム「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD(ビジネスビルド)」を開催。現在、複数の共創プロジェクトが進行している。


▲2021年11月に全国4エリアで開催されたビジネスビルド(写真は沖縄のビジネスビルドの様子)。

TOMORUBA編集部では、ビジネスビルドに運営パートナー・メンターとして参加した3者を迎え、それぞれの視点からスポーツビジネスを取り巻く環境について語ってもらう連載を企画。前編では業界の抱える課題や打開策について聞いたが、続く後編では「スポーツ×○○」の事例をもとに、外部の企業・団体がスポーツチームと連携することのメリットを探る。


▲プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社 代表取締役 インキュベーター 平地大樹 氏

大学卒業後、プロバスケットボール選手を目指し渡米。帰国後、人材コンサルティング会社、WEBコンサルティング会社を経験。2011年に、WEBのコンサルティングなどを手がける株式会社プラスクラスを設立、代表取締役に就任。さらに、スポーツ業界のビジネスを加速させるべく、プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社を設立。プロ野球からJリーグ、Bリーグ、マイナースポーツまで幅広いクライアントを支援。


▲公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)社会連携部 部長 鈴木順 氏

大学卒業後、株式会社日本マーケティング・システムズにてリサーチ業務に従事。その後、日本シグマックス株式会社にて主にマーケティングを担当。2011年、東日本大震災を機に、株式会社川崎フロンターレに転職。フットサル施設の運営や、グッズの販売、ボランティアの運営、ホームゲームでのイベント企画・運営、そのほか社会連携活動などに尽力。現在は、Jリーグで社会連携活動を担う。


▲スポーツデータバンク株式会社 代表取締役 石塚大輔 氏

2003年にスポーツデータバンク株式会社創業メンバーとして参画。2015年にスポーツデータバンクコーチングサービス株式会社、台湾思邦動有限公司(Taiwan Sports Data Bank Co,.Ltd)を設立し、代表取締役に就任。2016年にスポーツデータバンク沖縄株式会社を設立し代表取締役に就任し現職。スポーツ庁、経産省などの委員などを歴任し、国内外にてスポーツ・ヘルスケア事業領域における地域課題解決型事業のプロデュースに従事し、現在に至る。

スタジアムでの復興支援物産展「陸前高田ランド」が大盛況

――スポーツに違う分野の取り組みを掛け合わせることで、価値を増幅させられた事例があればお伺いしたいです。

鈴木氏: 非常にたくさんの事例があります。スポーツ×福祉や教育、健康、防災、それに農業もあります。本当に多様な掛け算があると思いますね。なぜかというと、スポーツはポジティブなものなので、組みやすいからです。難しくもないし、ポップでラフさもあって垣根を作らない。それに、スタジアムや競技場、体育館といった人の集まる場所も持っています。こうしたスポーツならではの特徴があるからこそ、多くの共創事例が生まれているのだと思います。

――鈴木さんが川崎フロンターレ時代に取り組まれたプロジェクトの中で、とくに印象に残っている事例は?

鈴木氏: 印象に残っているのは、東日本大震災の復興支援を掛け合わせたプロジェクトです。フロンターレの試合日に、スタジアムの外にあるイベント広場で「陸前高田ランド」という物産展を開催しました。陸前高田の企業を10~20社ほど呼び、海産物や日本酒、お菓子などを販売してもらうというものです。

――そこからどのような成果が生まれているのですか。

鈴木氏: 出店してもらった企業の方に話を聞いたところ、都内の百貨店で同様の物産展を行ったときよりも、何倍もの売上があったとのことでした。それぞれの物産が魅力的で、おいしいのはもちろんなんですけど、フロンターレのサポーターが、自分の応援しているクラブが支援している地域だからという理由で、一緒になって陸前高田を応援してくれているのです。なかには、陸前高田に旅行に出かけたというサポーターもいました。

石塚氏: サポーターの皆さんがフロンターレの想いを汲んでいるから、購買率が高いということですよね。そのウェットさが、スポーツビジネスらしさでもあるんでしょうね。

鈴木氏: おっしゃる通りです。売上以外の成果もあります。フロンターレの集客力は、コロナ前だと1試合につき2万人前後。陸前高田市の人口は約1万8000人なので、自分たちの市の人口を超える数の人たちがスタジアムに来るわけです。

そんなスタジアムで、自分たちの物産を「おいしい!」と、たくさんの人たちに食べてもらえる。このことが、出店する人たちのやる気や自己肯定感を高めることにもつながっています。そうした場所を提供できるのは、スタジアムを持つスポーツチームならではの魅力ではないでしょうか。


▲ビジネスビルドにメンターとして参加した鈴木氏。

スポーツチームを経由するだけで、ダイレクトメールの開封率が数倍に

――平地さんは、スポーツチームのデジタルマーケティングを手がけておられますが、「スポーツ×IT」だと、どのような事例がありますか。

平地氏: 「スポーツ×IT」に取り組んでいて思うことは、このマーケットの熱量がとても高いということです。何らかの施策を打ったときの反応率が、他と比較して非常に高い。例えば、ドラッグストアチェーンが自社で「新しい商品を出しました」と謳ったSNSの投稿をした場合と、スポーツチームが「スポンサー企業のドラッグストアが新しい商品を出しました」と謳ったSNSの投稿をした場合とでは、まったく反応の大きさが異なります。スポーツチームを経由した発信のほうが、圧倒的に高い反応率を示すのです。

なので、スポーツチームが望まれている商品を出せば売れるし、おもしろい取り組みをすれば興味を持って参加してもらえます。もともとホットなので、そこに落とすべきものを落とせば火がつくのです。メールマーケティングひとつとっても、一般的には開封率が3~8%程度と言われています。しかし、スポーツチームの開封率は非常に高く、人気のあるサッカークラブだと約50%と驚異的な数字を叩き出せるのです。

――たしかに、開封率50%は驚異的ですね。

平地氏: はい。もうひとつ例を挙げると、ある通信大手のプロモーションで、自社のユーザーに対してキャンペーンを打ったときと、Jリーグのアカウントからサポーターに対してキャンペーンを打ったときとで、メールの開封率がまったく違ったという事例があります。同じキャンペーンを打ったにも関わらずです。スポーツチームを絡めるだけで、見る人の反応が変わるのです。

このように、非常に熱量が高いマーケットなので、スポーツチームとコラボレーションすることで、さまざまなシナジー効果を期待することができると思います。


▲ビジネスビルドにメンターとして参加した平地氏。

「スポーツ×教育」を軸に、地域PRや企業の海外進出を絡めて展開

――石塚さんからも「スポーツ×○○」の事例についてお聞きしたいです。

石塚氏: 私たちの会社とFC琉球さんとで、「スポーツ×地域PR」に取り組んでいます。具体的には、サッカーやランニングといったスポーツの指導コンテンツを、ひとつのプラットフォームにのせて海外展開を図るという取り組みです。部活動をはじめとした日本のスポーツ指導は、指導の技術だけではなく礼儀などの教育的要素も強いことから、ASEANの高所得者層に展開すれば、より価値が高まるのではないかという考えから始めました。

とはいえ、スポーツの指導コンテンツを展開するだけでは収益化が難しいのも事実です。なので、構築したプラットフォームを、自治体に地域PRの場として活用してもらう事業も進めています。海外から誘客を図りたい日本の自治体に、地域の観光PRを行う場として使ってもらうというものです。

また、「スポーツ×企業の海外展開」ということで、沖縄の企業がスポーツチームと一緒に海外へと進出し、新たなマーケットの探索や進出の可能性を探るような取り組みも進めています。

――自治体の観光PRや企業の海外展開に、スポーツを絡めているのですね。

石塚氏: はい。ほかにも「スポーツ×教育」という観点で、新たな展開を模索する取り組みを推進中です。というのも、これまで何十年にもわたって、学校の先生が無償で部活動を支えてきました。

しかし、先生の働き方が見直されるなかで、従来の構造が崩れつつあります。仕組みを変えていく必要があるのです。そこで私たちは、スポーツ関連のリソースを持ったチームや団体・企業が、部活動に関わるような仕組みに変えていこうとしています。

――先生ではなく外部の人たちが、部活動を支えるのですか。

石塚氏: そうです。例えば、高校や大学でスポーツに力を注いできた人ってたくさんいますよね。Jリーガーやプロ野球選手を目指していたけれども、それには至らず一般企業に就職したという方が日本には数多くいらっしゃいます。

こういう方たちに、地場の学校に指導者として入っていただく。そうすることで、地域課題の解決につながることもあると思うのです。もしくは、地域のスポーツクラブが部活動に対し、リソースは割けないにしてもノウハウを共有する。そういった地域連携の形も考えられると思っています。

「スポーツの持つ熱量の高さを、活かさない手はない」

――最後に、これからスポーツビジネスに関わっていこうと考えている方たちに向けて、メッセージをお願いします。

平地氏: 先ほどの話と重なりますが、熱量の高いマーケットなので、ビジネスとして非常に大きなやりがいを得られます。この熱量の高さを活かさない手はないでしょう。スポーツとのコラボレーションで、新たなビジネスの創出にチャレンジしたいという方は、ぜひ参画してください。

鈴木氏: 熱量や想い、人間らしさなどのウェットさが、この業界の特徴だと思います。仕事でこれほど喜怒哀楽を出せる業界は、他にないのではないでしょうか。そうしたところを、おもしろいと思える人には最適な場所です。こんなに近くで誰かが思いっきり笑っていたり、逆に涙を流していたり。この距離感で見ることのできる業界は稀です。

もちろん人に近い分、人の嫌な部分も見えますが、それ以上に人のいい部分をたくさん見ることができます。経済的な豊かさをすぐに実現することは難しくても、人生の豊かさを手に入れることはできるでしょう。ですから、ぜひ飛び込んで来てほしいです。そして、経済的な豊かさも得られるだけの業界水準を共に創っていきましょう。

石塚氏: 熱量を持った皆さんが関わってくれると、業界はさらに活性化すると思います。オープンイノベーションという発想のなかで、チームと地元企業が関わったり、地域外の企業、あるいは自治体が関わったりと、これまでになかった交流が生まれてくると、少しずつこの業界にも変化が生じてくるでしょう。ぜひ、多くの方にスポーツビジネスに関わっていただき、新しいチャレンジ、新しいアクションを起こしてもらえたらと思います。

取材後記

興味深かったのは、スポーツチームを絡めることで、物産の購買率やメールの開封率が高まったという事実。この事実があるからこそ、「スポーツの持つ熱量の高さを、活かさない手はない」という言葉には大きな説得力がある。インタビューのなかでは「ウェットで熱量が高い」と表現されることの多かったスポーツビジネスの領域。ウェットさや熱量の高さの本質をより深く追求すれば、スポーツとの巧みなコラボレーションの在り方が見えてくるのかもしれない。

なお、地域版SOIPからすでに複数の実証実験が始まっている。関西では、株式会社ガンバ大阪とOpenStreet株式会社がシェアサイクル事業を開始。北海道では、株式会社レッドイーグルス北海道と株式会社タザワが、ウェアラブル端末を用いた取り組みをスタートした。地域版SOIPを通じて、スポーツチームを起点に新たな取り組みが始まり、周辺地域を刺激しようとしている。今後、地域版SOIPがスポーツ産業、および周辺経済にどのような変化をもたらすのか。引き続き注目していきたい。

※地域版SOIPを通して得られたスポーツにおけるオープンイノベーションの実践的なナレッジ・ノウハウは後日、スポーツ庁より「手引き書」としてリリースされる予定となっている。スポーツビジネスの知見を深めたい方は、ぜひご一読いただきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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