【製造現場・食文化・食品工場・アパレル業界・建設業界】老舗総合商社・原田産業のアクセラ説明会をレポート!――6つの参加メリット、過去事例紹介など
2021年7月、老舗総合商社である原田産業株式会社(以下、原田産業)が主催するアクセラレータープログラム「HARADA ACCELERATOR」の募集が開始された。
昨年に続き、第2回目となるHARADA ACCELERATORのキーコンセプトは「顧客の変革パートナーとして、最高の一手を共創する」。グローバル市場に幅広いネットワークを有し、多種多様な顧客と接点を有する原田産業が、スタートアップ企業との共創により、顧客の課題解決や業界構造の変革に挑むというコンセプトだ。
プログラムでは、6つの募集テーマのもと、8月17日まで参加企業を募集。2度の選考を経て、最終選考で採択企業を決定し、その後、採択企業はメンタリングや各種支援を受けながら約5ヶ月間の共創にのぞむ。
去る7月13日、原田産業はHARADA ACCELERATORはプログラムの内容などを紹介するオンライン説明会を実施した。説明会には、原田産業代表取締役社長の原田暁氏を始め、採択企業のメンタリングなどの支援を担当する株式会社ゼロワンブースター(以下、ゼロワンブースター)の鈴木規文氏、プログラムの運営を担当する原田産業の鈴木一平氏が登場し、プログラムにかける想いや募集テーマの解説などを行った。
今回、TOMORUBAでは、説明会の様子を詳細レポート。100年近くの歴史を誇る老舗総合商社が目指す共創プログラムの全体像を追った。
※関連記事:ユーザーヒアリング先紹介93社、営業開拓、海外市場開拓など――老舗総合商社・原田産業のアクセラの魅力を、昨年採択2社との共創事例から紐解く。
「最高の一手を共創する変革のパートナーであり続ける」ことが私たちの使命
説明会は、原田産業の代表取締役社長・原田氏による会社紹介からスタートした。冒頭、原田氏は原田産業の歴史を振り返る。
▲原田産業株式会社 代表取締役社長 原田暁氏
原田産業の創業は1923年(大正15年)。創業当初は、建築資材の板ガラスなどの輸入販売を主力事業としたが、その後、原田産業は時代の流れとともに事業内容を変遷させていく。
戦後復興期には造船業、バブル期にはエレクトロニクス分野に進出するなど、着実に事業領域を広げ、現在では「造船・海洋」「建設・インフラ」「エレクトロニクス」「ヘルスケア・ライフサイエンス」「食」「生活」の6事業を展開するに至った。
2021年3月期の年商は約165億円。大阪・東京に拠点を設けるほか、東南アジアを中心に海外8ヵ国10拠点を展開するなど、グローバル市場でも強固なネットワークを構築している。また、商品の調達・提供のほかにも、国内メーカーと共同で国内市場向けの商品開発にも取り組むなど、幅広い手法で価値提供を行ってきた。
多岐に渡るビジネスを展開する原田産業だが、原田氏は「私たちの使命は『自らが挑戦者として最高の一手を共創する変革のパートナーであり続ける。』という言葉に集約されます」と語る。これは原田産業が自社のミッションとして掲げるフレーズ。このミッションを実現するための手段として、HARADA ACCELERATORも位置付けられているという。
最後に、原田氏は「社会が複雑化していくなかで、原田産業は全社を挙げてイノベーションに取り組む必要があります。今年度は、昨年度よりも解像度を上げたテーマ、課題設定を行っています。皆さんと共に、社会を変革するパートナーになれることを期待しています」と述べ、挨拶を締め括った。
アクセラレータープログラムに参加する6つのメリット
続いて、第1回のプログラム以来、応募企業のメンタリングなどに携わっているゼロワンブースター・鈴木氏から、本プログラムの特徴などについて解説がされた。まず同氏は、近年、既存企業とスタートアップ企業のオープンイノベーションが国内で盛んに行われていると述べ、その一つのツールとして、アクセラレーターも活発化していると語る。
アクセラレーターは、スタートアップ企業に対して、投資、メンタリング、教育、オフィスなどを提供し、事業成長を支える効果を持つ。さらに、近年では、スタートアップ企業を取り巻くエコシステムの創出も、アクセラレーターの役割になりつつあるとゼロワンブースター・鈴木氏は述べ、HARADA ACCELERATORもそうした取り組みを目指しているとした。
では、HARADA ACCELERATORの特徴はどこにあるのか。鈴木氏は以下の6点を挙げて、プログラム参加のメリットを解説した。
【「HARADA ACCELERATOR」の特徴】
①原田産業の資源・ネットワーク
原田産業が長い歴史のなかで蓄積した経営資源やグローバル市場におけるネットワークを利用できる。ゼロワンブースター・鈴木氏は「現在、世界を代表する巨大企業のなかにも、既存企業の資源提供を受けて、事業成長を達成した例は少なくありません」として、原田産業の豊富な資源や広範なネットワークを利用することで、急速な事業成長を期待できると語った。
②カタリストによる支援
原田産業の担当者が、各参加企業に「カタリスト」として伴走し、各種支援を行う。カタリストは、原田産業の資源やネットワークにスタートアップ企業を橋渡しすることで、共創を加速させる役割を担う。
③信用力の補完・PR効果
総合商社として豊富な実績を有する原田産業と共創することで、スタートアップ企業に不足しがちな信用力や発信力を補うことが可能となる。
④参加者同士のピアプレッシャー・ピアサポート
複数企業の採択を予定しているため、採択後はスタートアップ企業同士の情報交換や資源の共有が可能。また、参加者同士の切磋琢磨により、より質の高い事業創出が期待できる。
⑤締め切り効果・スピード
プログラム参加により、共創に期限が設けられるため、いわゆる「締め切り効果」による急速な事業成長が可能となる。ゼロワンブースター・鈴木氏は「アクセラレーターは『加速させるもの』という意味です。ぜひ、事業成長のアクセルを踏むためにも参加してほしいと思います」と語った。
⑥出資の検討・事業連携の検討
共創に将来性が期待できる場合、原田産業による出資や事業連携を通じた事業化が検討される。
以上の特徴点を述べた後、ゼロワンブースター・鈴木氏は締め括りとして「昨年度のプログラムを経験して、原田産業さんはスタートアップ企業とのコミュニケーションに熟達しています。そのため、今年度のプログラムは昨年度以上のものになると確信しています」と述べ、多くのスタートアップ企業からの応募を期待すると語った。
5か月で90社以上のユーザーヒアリングをコーディネートできるスピード感と、商社ビジネスならではの柔軟なサポート力がプログラムの特徴
次に、HARADA ACCELERATORの事務局を務める原田産業Business Co-Creationチームの鈴木氏から、今年度のプログラムの詳細が説明された。
▲原田産業株式会社 Business Co-Creationチーム 鈴木一平氏
まず初めに、原田産業・鈴木氏はHARADA ACCELERATORの開催に至る背景について語る。
HARADA ACCELERATORが開催された背景には、近年の市場環境の変化が大きく関わっている。従来、原田産業は、老舗の総合商社として、世界中から商品を調達し、ユーザーに提供するビジネスモデルを築いていた。
しかし、近年、社会全体におけるグローバル化やデジタル化が加速度的に進むなかで、商品の調達と提供を中心に据えた従来のビジネスモデルでは、競合他社との差別化が困難になりつつある。そこで、従来のビジネスモデルのサービス化、デジタル化などを図ることで、新たな価値提供を行いたいというのがHARADA ACCELERATORの開催に至る背景だ。
また、そうした事業創出にのぞむうえで、オープンイノベーションという新たな開発手法に挑戦することも、HARADA ACCELERATORが開催される動機の一つになっている。
今年度からは「事業創造エコシステムへの貢献」もプログラムの目的だ。原田産業・鈴木氏は、昨年度のプログラムの経験を通じて、「自社のことだけを考えて事業を創っても、いずれ立ち行かなくなると学びました。スタートアップ企業の皆さんを取り巻く事業創造のエコシステムに貢献することが、ひいては原田産業の成長につながるのだと思います」と語り、今年度は昨年度よりも広い領域で支援に取り組む姿勢を示した。
続いて、原田産業・鈴木氏は、今年度のプログラムのキーコンセプトやテーマなどについて解説する。
今年度のプログラムのキーコンセプトは「顧客の変革のパートナーとして、最高の一手を共創する」。このなかで、原田産業・鈴木氏は「顧客の」という箇所を強調した。共創における原田産業の強みは、顧客(及びユーザー)への接続。グローバル市場における広範なネットワークを生かして、様々な顧客との接点を確保できるのが、共創における大きな提供価値となっている。そのため、今年度のプログラムは「顧客への価値提供」という目線をスタートアップ企業側と共有して、共創を進めていく方針だという。
今年度の募集テーマとしては、以下の6つが設定されている。
【募集テーマ】
①電子デバイス製造向け品質・生産性向上ソリューション
原田産業の顧客である、半導体やコンデンサなどの製造業界向けに、品質・生産性向上ソリューションの提供を目指す。
・ソリューション例:高度なダスト管理による、生産現場のクリーン化ソリューション。
②100年先も、誰もが食を楽しめる世界をつくる
原田産業が現在、取り組んでいる蛋白肉の開発など、食を起点にした商品・サービスの開発により、サステナブルな社会基盤構築を目指す。
・ソリューション例:プラントベース(植物由来)の食品を開発し、企業におけるSDGs達成に貢献する。
③外食・食品工場向けサステナブルソリューション
外食産業におけるキッチンや、食品工場における設備・資材の安全・安心を守り、環境への配慮を実現するソリューションの提供を目指す。
・ソリューション例:環境に優しい容器や素材を開発し、その運用の仕組みを構築する
④創るひと、着るひと、誰もが喜びを感じる持続可能なアパレルのかたち
縫製、生産、デザインなどの領域にテクノロジーを活用し、アパレル産業における新たな価値を創造する。
・ソリューション例:誰もが自由にアパレルのデザインができるテクノロジーの開発。
⑤建設業界向け快適・安全な空間ソリューション
原田産業が提供する建設業界向けの空調設備・機器などを活用し、新たな空間ソリューションを提供する。
・ソリューション例:新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ気流制御技術の開発。
⑥未開拓分野への挑戦
セキュリティ、5G・6G、地方創生など、原田産業の既存の事業領域に囚われない領域における価値の創出を目指す。
・共創を想定する領域・分野:海洋・漁業、セキュリティ、サプライチェーン、5G・6G、地産地消、地方創生、アバター、エンタメ、遠隔コミュニケーションなど。
尚、募集テーマについては、以下のエントリーページで、さらに詳細な内容や募集テーマごとに提供できる原田産業の強み、活用できる顧客ネットワークなどを紹介している。
https://eiicon.net/about/harada-accelerator2021/
以上の募集テーマを踏まえて、原田産業・鈴木氏は「今年度の募集テーマは、それぞれ原田産業の事業部がオーナーになっています」と述べ、それが今年度のプログラムのポイントだとアピールする。今年度の募集テーマは、各事業部が顧客とのコミュニケーションのなかで把握した顧客業界の課題やニーズを反映している。そのため、昨年度よりも、各事業部が共創にコミットしやすいテーマ設計になっている。
また、原田産業・鈴木氏は「商社ならではの柔軟さ・スピード感」もプログラムのポイントだと付け加える。昨年度は、約5ヶ月間のプログラム期間中に、合計93社のユーザーヒアリングを実施するなど、驚異的なスピードと情報収集力で共創を後押ししている。今年度も、そうした柔軟かつスピード感のある支援を継続する方針だという。
昨年度のプログラムから生まれた2つの共創事例から見る、プログラム特徴
さらに、このパートでは昨年度のプログラムにおける共創事例の紹介も行われた。紹介されたのは、昨年度の採択企業9社のなかから、AlacarteVentures社とオーシャンアイズの2社の事例だ。
【共創事例①:AlacarteVentures社】
AlacarteVentures社は、スペイン・バルセロナのスタートアップ企業であり、「栓を抜かずにワインのアルコール度数を下げる技術」を保有している。
AlacarteVentures社との共創で、原田産業は、国内のワイナリーやレストランへの市場調査やヒアリング、新規顧客の開拓、試飲会の開催による品質の確認やアンケート分析、国内向けのリーフレット作成など、幅広い支援を展開した。
原田産業・鈴木氏は「国内外の企業に関わりなく、今年度も、必要であれば、こうした広範なご支援やご協力をさせていただくつもりです」と、プログラムにおける充実した支援体制を強調した。
【共創事例②:オーシャンアイズ】
オーシャンアイズは、衛星データを利用した海洋情報のナビゲーションサービスを提供するスタートアップ企業。
オーシャンアイズとの共創で、原田産業は、ナビゲーションサービスの東南アジア地域への展開を支援した。コロナ禍により、現地における調査や営業活動を実施しにくい状況下にあったが、原田産業は現地のパートナーを開拓して、サービス展開を推進。現地のパートナーに、東南アジアの漁業におけるデジタル技術の活用状況などを、代理調査してもらうなど、精力的な支援活動を実施した。
こうした支援活動について、原田産業・鈴木氏は「困難な事態や苦しい状況にあっても『どんな支援なら可能か』と可能性を模索していくのが、原田産業のスタイルです」と、力強く語った。
最後に、原田産業・鈴木氏は、応募を検討しているスタートアップ企業に対して、「ニッチな課題や業界に興味がある方、ユニークなアイデアをお持ちの方、一つの業界を根底から変革したい野心的な方、接点のない業界にアクセスしたい方、原田産業の理念に共感していただける方…これに限りません。自らのアイデアをとにかくぶつけたいという方を歓迎いたしますので、ぜひご応募をお待ちしています」とメッセージを送り、自らのパートを終えた。
質疑応答
説明会では、参加者からリアルタイムでプログラムに関する質疑応答が行われた。以下では、その内容を一部紹介する。
Q.メインビジネスとプログラム参加のバランスに悩んでいる。プログラムの参加に、どれくらいの時間を要するのか教えてほしい。
A. ゼロワンブースター・鈴木氏:プログラムについては、メインビジネスを成長させる取り組みだとご理解いただきたい。そのためメインビジネスとの兼ね合いについては、考慮する必要はないと思っています。
Q.出資に対するスタンスを教えてほしい。
A.原田産業・鈴木氏:出資については、お約束はできかねますが、検討はいたします。出資の時期については、採択が決まった後を想定しています。また、出資の際には、情報の開示やリサーチを求めることになるので、その点にもご留意いただきたいです。
Q.採択したい、又は採択しやすい、スタートアップ企業のステージは想定しているか?
A. 原田産業・鈴木氏:アーリーからミドルを想定しています。PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を済ませているほうが、採択しやすいとは思います。しかし、例えば、募集テーマ⑥の未開拓分野など、新たな分野への挑戦も期待しているため、シード期のスタートアップ企業にもぜひご応募いただきたいと考えています。
取材後記
HARADA ACCELERATORの特徴は、なんと言っても、カタリストを始めとした原田産業の担当者による「コミットする力」だろう。コロナ禍で海外渡航が制限されるなか、スタートアップ企業のサービスの海外展開を推進した実績が、その力を物語っている。「一定の期間で急速な事業成長を達成したい」。そう考えているスタートアップ企業には、非常に魅力的なプログラムと言える。
HARADA ACCELERATORの募集締切は8月17日。応募を検討する企業は、本記事のほかエントリーページなども参照し、ぜひ「最高の一手」になり得る共創案を築き上げてほしい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太)