クックパッドが語る、オープンイノベーションを推進する理由。連携をスムーズに進める「4つの心構え」とは?
国内最大級の料理レシピ投稿・検索サービスで知られるクックパッド株式会社。同社では料理の課題解決を軸とした新規事業にも積極的だ。
その一つが2018年にスタートした生鮮食品EC「クックパッドマート」。各地域の生産者、小売店と連携して数千種以上の商品を取り揃えるだけでなく、東京メトロやローソン、町田市など他業種や地方自治体との連携を進めサービスを拡充している。
現在直面する料理の課題と他社との連携を推進する理由、そしてプロジェクトを円滑に進めるための心構えについて聞いた。
■水上 真介さん Shinsuke Mizukami
クックパッド株式会社 買物事業本部 本部長
2001年早稲田大学卒業後、フリーランスのコンサルタントとして10年間活動したのち2011年株式会社ライブドア(現LINE)に入社。2012年のLINEの法人事業立ち上げ、LINE公式アカウント、スポンサードスタンプ等の事業責任者を経て、2019年クックパッド株式会社に入社。2020年9月より買物事業本部 本部長を務める。
「毎日の買い物をもっと自由に」クックパッドマートが目指すもの
──まずは、改めてクックパッドマートについて教えてください。
水上 真介さん(以下、水上):クックパッドマートは2018年9月にローンチした生鮮食品ECのプラットフォームです。アプリから生産者が販売する肉や魚、野菜などを1点から送料無料で注文でき、出荷した当日にお客様へお届けします。
一般的な宅配サービスと異なる点は、商品をご自宅ではなくご指定場所にお届けする点です。商品は地域の店舗や施設内に設置された『マートステーション』と呼ばれる受け取りボックスに配達され、好きな時間にピックアップできます。
──サービスの目的は?
水上:日々の買い物をとりまく「不自由さ」を、クックパッドマートを通じて解決したいと考えています。不自由には2種類あると考えています。一つは「新鮮でおいしい食材が手に入りにくい不自由」です。
かつて日本では、毎日夕方になると主婦が商店街へ買い物に行き、八百屋や魚屋などから新鮮な食材を手に入れることができました。しかし近年、生活スタイルが変化し、共働き世帯や単身世帯が増加しました。食材は仕事帰りや休日に近所のスーパーで手に入りやすいものを購入するようになり、料理もそれらの食材に依存する傾向があります。
日本各地にはおいしい食材を作っている生産者、販売する小売店や飲食店があります。しかし営業時間も限られているため毎日気軽に立ち寄るのは難しく、新鮮な食材が容易に手に入りにくいというミスマッチが起きていました。
もう一つは「買い方の不自由」です。現代の忙しい生活スタイルでは、食材は数日分の「まとめ買い」に頼らざるを得ません。生鮮食品の宅配サービスも増えていますが、送料がかかるため毎日買うにはハードルが高く、週1回などにまとめて利用することがほとんどです。その上、配達時間に在宅必須などの制約もあります。
クックパッドのミッションは「毎日の料理を楽しみにする」ことです。買い物をとりまく不自由を取り払ってもっと手軽に食材を購入できたら、毎日の生活スタイルも変わり料理の楽しみも広がります。そのために1品から送料無料で注文でき、受け取り時間や場所を自由に選べるサービス設計にしました。
買い物を取り巻く課題を連携で解決する
──今年に入ってから、東京メトロやローソン、町田市など他業種との連携にも積極的です。協業推進のねらいについて教えてください。
水上:2020年2月に東京メトロの駅構内に、6月からは都内ローソン3店舗にマートステーションを導入しました。まず受け取り場所の選択肢を増やしユーザーの利便性を向上させるねらいがあります。
また、ローソンのようなコンビニエンスストアは全国あらゆる場所にあり、便利で高品質な商品が24時間購入できます。クックパッドマートで購入した商品をピックアップした際に我々が取り扱っていない商品を「ついで買い」するなどあわせ買いも期待できます。
町田市とJA町田市とは、今年8月に「町田市内産農産物の地産地消推進に関する連携協定」を締結しました。JA町田市の直売所「アグリハウス鶴川」内にクックパッドマートの共同集荷所を設置し、市内生産者が簡単に出荷できるようにします。また、町田市が管理する施設などにマートステーションを設置し、町田市民がサービスを利用しやすくします。
取り組みの背景として、町田市は生産者と消費者の距離が近い「都市農業」の立地を活かし、市内産農産物の直売所や朝市・マルシェでの販売、学校給食・市内飲食店等への提供を通じて、地産地消を推進してきました。一方で、需要増加に対して、生産者が自ら配送するのは限界があり、安定的な供給が難しいことから、農産物を効率的に配送する流通システム構築が課題でした。
そこで、我々が持つノウハウやデータ、クックパッドマートのプラットフォームを活用し、市内生産者が作った農産物を出荷当日に町田市民へ届ける流通システムを実現しました。
今後も地域の生産物流通に課題を持つ自治体や農協、市場組合に向けて、提案から流通システムの構築までをトータルで提案し、一緒に解決に取り組みたいと考えています。
連携をスムーズに進めるために意識したい「4つの心構え」
──企業や自治体とオープンイノベーションを推進する理由とは?
水上:私たちが掲げているミッションを実現するためには、一社で取り組むより、立場が異なる企業や自治体と一緒にお取り組みをさせていただく方が好ましいケースがあります。
最初にお話しした買い物の課題解決のために「一緒にチャレンジしたい」という想いが同じであることが連携の出発点です。
──他社との役割分担はどのように進めていますか?
水上:クックパッドの強みはIT技術やプラットフォーム構築など、プロダクトや仕組みづくりに長けていることです。買物事業本部はエンジニアやデザイナーが半数を占めます。技術とデザインの知見を生かして、生産者や販売者の価値最大化を目指しています。
一方で、私たちは受け取り場所を設置するための実店舗を持っていませんし、様々な地域に根付いたネットワークもありません。そこは様々な企業、自治体、生産者団体との連携でお互いの強みを活かしていきます。
──他者とのプロジェクトを進めるにあたって、成功させるポイントがあるとしたら何でしょうか?
水上:連携をスムーズに進めるための心構えは4つあると考えています。
①「Why」が同じであること
何のために協業するのか。「what」や「how」ではなく「why」 が一緒であることが重要です。売上や利益は事業ですので当然大事ですが、社会課題解決への共通の想いが一緒でなければ円滑に進まないと思います。
クックパッドは創業以来ミッションを大事にしています。事業の根幹が同じであることが、二人三脚で進める前提だと思います。
②選択権が平等にあり自律していること
参加する企業や団体、メンバーはそれぞれ立場が異なります。立場は異なりますが、それぞれのプレーヤーには「選択権」があるべきだと考えます。選択権があることで、強制ではなく自律的な活動となります。自律している状態では主体的に物事に取り組め、創造性が高まります。
たとえば生産者さんであれば、「もっと美味しい食材を届けるためにはどのようにしたらよいのか?」と誰に問われることもなく、自発的に考えられている状態です。自律している人が集う事業・サービスは多くの人を惹きつけます。
③成功のための機会をつくること
これは私がこれまでのキャリアで感じたことですが、大規模なプロジェクトになるほどスキルやキャリア、年齢などさまざまな背景を持ったメンバーが集まりますが、いわゆる「先行者利益」で、後から加わったメンバーが活躍しづらい環境が生まれがちです。
商品も同様です。クックパッドマートでは数千種の商品を取り扱っており、日々増え続けています。生産者さんや農家さんの生産規模や背景などステータスはさまざま。売れ行きが偏る場合もありますが、売れている商品ばかりを販売していたら品揃えは増えません。
新商品や販売数量が少ない商品にも販売機会を与えるなどの仕組みが用意されていることが大事で、機会が多様性を生み、多様性は多くの人を惹きつけます。
④フェーズごとに目標設定する
短期(1〜3ヶ月)、中期(1年)、長期(3〜5年)と3つのフェーズに分け目標設定を行うのがよいでしょう。
大きなプロジェクト・事業では社内外の多くの関係者が関わります。多くの人が心を動かし、自分も行動を起こしたい!と思えるような中長期の目標が理想的です。一方で、理念やビジョンはとても大事ですが、短期間で具体的な成果をあげることも大事です。
足元の目標をクリアし、一つ一つの成果を着実に積み上げていくことが、ミッション実現のための重要なプロセスだと思います。抽象と具体を行き来するイメージです。
連携により強みを掛け合わせながら「買い物をもっと自由」にしていく
──これからクックパッドマートが目指す姿とは?
水上:昨年まではプロダクトマーケットフィットの状態でしたが、2020年以降は拡大のフェーズと捉えています。そのためにも、今後はマートステーションの設置強化を進めます。今年初めは約70箇所でしたが、現在は約200箇所。2020年末までに数百箇所規模への拡大を目指しています。100戸以上のマンションには無料設置も可能です。
生産者と協力して、品揃えと商品の魅力深掘りも強化します。今年8月にはTwitterと連動して湘南のしらす漁に密着し、獲れたその日のうちに食卓へお届けするイベントも大反響でした。
YouTubeチャンネル「マートのちゃぶ台」では全国の生産者を訪ねて、商品のこだわりやオススメの食べ方を聞くコンテンツを発信し、生産者とユーザーとの接点を増やしています。
買い物をもっと自由にしていくために、今後も自社と協業先双方の強みを掛け合わせながら、生産者や販売者、ユーザーと一緒にアップデートしていけるプラットフォームを作っていきたいと思います。
(編集:眞田幸剛、取材・文:星久美子)