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【インタビュー】「新型コロナウイルスにオープンイノベーションの力で立ち向かう」神戸市主催のプログラムがスピーディに推進できる理由とは?

【インタビュー】「新型コロナウイルスにオープンイノベーションの力で立ち向かう」神戸市主催のプログラムがスピーディに推進できる理由とは?

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2020年4月20日、神戸市が発表したオープンイノベーションプログラムが注目を集めている。

神戸市の地域課題解決プロジェクト「Urban Innovation KOBE」が公募を開始した「STOP COVID-19×#Technology」は、現在世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの対策となり得る、テクノロジーや提案を全国のスタートアップから募集するプログラムだ。審査はフルオンラインで実施し、最短2営業日以内の審査、関係部署との調整も最短1週間以内を目標にし、最短即日での実証実験も検討するなど、スピード感を重視しているのが特徴だ。

新型コロナウイルス感染拡大によって、市民生活や自治体業務においてもさまざまな課題が発生しているなか、このようなスピーディな意思決定が実現している理由とは──。プロジェクトを担当する神戸市 企画調整局 医療・新産業本部 新産業部 新産業課 課長の武田 卓氏に話をうかがった。

■武田 卓 氏  Takeda Taku

2001年神戸市採用。行財政局、保健福祉局、企画調整局、環境局等を歴任。神戸アイセンターの立ち上げや病院の統合、福祉現場の最前線、ごみ収集体制の効率化などの業務を経験。2019年に様々な行政課題解決のための改善策を検討し、関係部署や官民の間の「つなぎ」と、連携強化を進めながら課題解決に導く専門部署「つなぐ課」の特命課長として着任。2020年より医療・新産業本部新産業課長に着任。「500 KOBE ACCELERATOR」、「Urban Innovation KOBE」事業や、「UNOPS Global Innovation Center」との連携など神戸市のスタートアップ育成・集積の推進を図る。

官民一体型で新型コロナの課題解決を目指す「STOP COVID-19×#Technology」

──まずは改めて、今回のプロジェクトについて教えていただけますか?

まず「Urban Innovation KOBE」ですが、これは2018年、国内自治体で初めてスタートした官民一体型のオープンイノベーションプログラムです。地域の抱える課題に対してスタートアップと市職員が協働し、実証実験を経てサービスの実装を目指すもので「STOP COVID-19×#Technology」もその一環です。

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、市民の方々の暮らしや行政の仕事にも新たな課題が発生しています。そこで、優れたテクノロジーと柔軟な発想力を持つスタートアップから課題解決のための技術を募集し、スピーディなサービスの実現を目指したいと思っています。

──これまでの「Urban Innovation KOBE」の実績や成果を教えてください。

現段階では実証実験を進めているプロジェクトが多いのですが、これまでに約200社からご応募をいただいています。また、行政の課題に対する解決率は70%、採択され予算化まで進んだプロジェクトは53%と高い数字(2018年度)となっています。

──進行中のプロジェクトにはどのようなものがあるのでしょうか。

分野は多岐に渡りますが、いくつかご紹介したいと思います。

▲「Urban Innovation KOBE」を通じて生まれた子育てイベント参加アプリ「ためまっぷ」。

一つは神戸市長田区まちづくり課とためま株式会社とが協働で子育てイベント参加アプリ「ためまっぷ」を開発しました。子育て世代の方々に向けて親子参加型のイベントを開催してきたものの、チラシなどの紙媒体で告知していたため、認知度が低く参加率が上がらないという課題がありました。そこで、地域の子育てイベント情報をスマホから取得できるアプリを導入した結果、参加率が約1.5倍にアップしました。

教育現場の事例もあります。教職員の通勤手当を算定する際、以前は事務員が書類を一枚ずつ手作業で点検していたため膨大な作業時間がかかっていました。そこで、株式会社モンスター・ラボと協働し、「RAX EDITOR」を基に専用ツール「手計算ロボット」を開発・導入し、業務を自動化し、約1,900時間の労働時間削減につなげました。

区役所業務では、窓口案内の担当者によってどうしてもノウハウや力量に差が出てしまい、サービスレベルの不安定さが課題でした。そこで、ACALL株式会社と窓口案内担当者の知見をアプリに蓄積しタブレットから検索できる仕組みを導入しました。情報共有と効率化を図り、ご来庁者の満足度向上と業務の負担軽減に貢献しています。

いずれも我々だけは成し得なかったことです。スタートアップの柔軟な発想と最先端の技術から課題解決に至っています。

──武田さんがご担当になった経緯は?

実は私は4月に着任したばかりでして、前年度までは「企画調整局 つなぐ課」という少しユニークな部署におりました。行政課題の改善策を検討しながら、官民を問わず連携を強化しながら課題解決に導く専門部署で、従来の行政の枠組みにとらわれないプロジェクトを推進しています。

──そのようなユニークな部署やオープンイノベーション推進の流れは、現市長の体制も影響しているのでしょうか。

そうですね。現在の久元喜造神戸市長が2013年に就任してからは新産業の育成・集積に積極的です。シリコンバレーのシード投資ファンド「500Startups」と連携して2016年にスタートした起業家支援プログラム「500 KOBE ACCELERATOR」も、市長が2015年にサンフランシスコへ出張に行ったことがきっかけでした。これはシリコンバレーをはじめ世界各地のトップメンターから指導を受けられる短期集中型の起業家育成プログラムで、これまで71チームを輩出し総額100億円を超える資金調達を達成するなど、着実に成果を重ねています。

市民が直面する喫緊の課題をオープンイノベーションの力で解決したい

▲神戸市 企画調整局 医療・新産業本部 新産業部 新産業課 課長の武田 卓氏。

──今回のテーマを設定した理由は?

今年3月下旬に前任の担当者が「500 KOBE ACCELERATOR」のテーマ設定を新型コロナウイルス関連にとのアイデアはすでに出しておりましたが、世界的な実施であり開始まで少し時間がかかる状況でした。

新型コロナウイルス対策において、医療分野ではまさに今、世界中の専門家が問題に立ち向かっています。私たちの身近な生活も一変しました。教育や子育てにおいてもこれまでと違う日常生活が強いられています。少しでも早く、市民のみなさんが直面する喫緊の課題をオープンイノベーションの力で解決できないだろうか。「Urban Innovation KOBE」のノウハウを活かして、いますぐにでも行動を起こせるのではと考えました。

──新型コロナウイルスによって、自治体ではどのような課題が発生していますか?

それこそ課題は多岐に渡ります。スピード感も重要です。そこで、「STOP COVID-19×#Technology」では、特定のテーマを設けず広く提案を募集しています。策定期間は約1週間で、4月20日に記者発表を行いました。

──意思決定のスピーディさにも驚きました。

自治体というと、階層が複雑な縦割り組織で、意思決定に時間がかかるイメージがあるかもしれませんが、神戸市では意思決定のシステムを改善するため組織体制の見直しを図っています。従来の「課長」「部長」「局長」などの役職のうち、部長職の一部廃止を進めています。組織内にも、サービス向上のためにもスピード感を持とうという気質が生まれていますし、当事者意識を持って取り組んでいます。

──公募を開始してから現在の応募状況は?

スタートから10日ほどで既に100件ほど応募をいただいています。予想を上回る反応で大変嬉しく思っています。提案のテーマは「飲食店の支援」「サーモグラフィを活用した技術提案」「店舗の混雑状況を把握できるシステム」などさまざまです。最終的には10件程度の採択を目指していますが、期限は設けず優れたアイデアはできるだけ採用したいと考えています。

──募集要項に「最短即日で実証実験の実施・実装」とあるように、審査から実行へのプロセスもスピード感を重視していますね。

審査はフルオンラインで実施し、最短2営業日以内の書類審査、関係部署との調整も最短1週間以内を目標にしています。審査を通過したスタートアップへは1件あたり上限50万円の開発支援金を提供し、市民によるテスト利用や市役所業務の中での試行導入・実証実験を経て、成功したモデルは神戸市での実装も検討します。

今は緊急事態宣言が発令しており、物理的な実証実験が難しいケースも一部はあるかもしれません。ですが、優れた技術があればできるだけ早い実装を目指したいと思っています。すでにいくつか実証実験が進んでいるプロジェクトもあります。

──国内スタートアップに限らず、海外からの応募もあるのでしょうか?

そうですね。何件かはすでに応募があり、大使館経由や英語での問い合わせもいただいたりするケースもあります。我々のチームには英語も堪能なスタッフもいますので、受け入れ自体は可能です。

「神戸=イノベーションが生まれる街」としてのブランド確立を目指す

──神戸市がスピード感を持ってオープンイノベーションを推進できている理由はなんだと思われますか?

市長をはじめ、職員それぞれが柔軟な発想と当事者意識を持って取り組んでいること、組織全体を挙げてのスピード感がイノベーションにつながっているのではないでしょうか。

市として民間人材も積極的に採用しており、私のスタッフはほぼ民間出身なのも特徴です。中には「イノベーション専門官」というプロフェッショナル人材もいます。民間経験のスキルやノウハウを活用しながら、市民にとって本当に必要な行政サービスをあたりまえに提供していくことが自治体の使命だと考えています。

──今後の展望・ビジョンについて教えてください。

「Urban Innovation KOBE」がスタートして2年が経ち、着実に成果を上げています。最近では「神戸ってこんなことやってるんだ」と注目いただく機会も増えました。「神戸」という街について、皆さんさまざまなイメージをお持ちかと思います。港町であること、海外との接点、歴史ある街並みや空気感。

将来的にはシリコンバレーのように「神戸=イノベーションが生まれる街」として注目してもらえたらと思っています。取り組みを通してスピード感を持って社会の課題解決に率先して取り組んでいる市役所にしていきたいですし、それが都市のブランド力向上にも直結すると考えています。

また、2019年からは「Urban Innovation KOBE」の枠組みを拡大し「Urban Innovation JAPAN」をスタートしました。これは自治体の垣根を超えて、スタートアップと協業しながら全国の地域の課題解決を目指すプラットフォームです。今は物理的に積極的な往来が難しい時期ではありますが、世の中の状況を随時把握しながら最適な方法を見つけていきたいと思っています。

──最後に、今回応募するスタートアップに期待したいことは?

もし、今回ご提案いただいた技術が神戸で実証実験に至らなかったとしても、「Urban Innovation JAPAN」のプラットフォーム上でなら、他の自治体とのマッチングが生まれるかもしれません。これからの時代、行政とスタートアップが共創する「官民一体型」のオープンイノベーションが新産業の創出に繋がると考えています。

「独自の技術で世の中を変えたい」というモチベーションがスタートアップの最大の強みです。その強い想いを活かしてぜひチャレンジしてほしいと期待しています。

編集後記

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスは私たちの日常生活を一変させた。市民の暮らしに直結する行政も、日々刻々と移り変わる状況に応じて、迅速な情報提供とサービス体制の構築が求められている。

先日、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトがオープンソースで公開され、国内外のプログラマーが協力し合い公開に至ったことも大きな話題となったが、官民の垣根を超えた連携は今後も拡大していくと考えられる。神戸市の取り組みと意思決定に対する姿勢は、オープンイノベーション推進に悩む他の自治体にとっても大きなヒントとなり得るだろう。優れた技術やアイデアが集まることに期待したい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:星久美子)

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