【インタビュー】業界トップクラスのマーケティングリサーチ企業GfKが、オープンイノベーションに取り組む理由とは?
ドイツに本社を置き、世界100カ国以上でサービスを展開しているGfK。同社は、グローバルトップクラスのマーケティングリサーチ企業。その日本法人として1979年に設立されたジーエフケー マーケティングサービス ジャパン株式会社(以下、GfK ジャパン)は、家電・カメラ・IT・通信機器・オプティックス・映像ソフトなどの小売店パネル調査で実績を積み上げ、業界内で圧倒的な知名度を誇っている。
GfKジャパンは、現状に満足することはなく、2015年から新規事業の創出に着手。スタートアップとのオープンイノベーションへの取り組みを始めている。こうしたGfKジャパンの新しい試みを牽引しているのが、デジタルサービス担当 執行役員の三田村忍氏だ。創業からおよそ40年が経ち、業界で盤石なポジションにいるGfKジャパンがなぜ、オープンイノベーションへの取り組みをスタートさせたのか?そして、スタートアップとの共創を生み出すためのノウハウとは?三田村氏に話を伺った。
▲GfK ジャパン デジタルサービス担当 執行役員 三田村忍氏
ITベンチャーに参画後、日本国内のみならずアジア圏で新規事業立ち上げを経験。2015年2月にジーエフケー マーケティングサービス ジャパン株式会社に入社。同社内で、新規事業創出のプロジェクトを牽引している。
業界に「変化の時代」が到来。危機感から、新規事業への挑戦へ。
——三田村さんは2015年2月に、GfKジャパンにジョインしたと伺いました。まずは三田村さんご自身のプロフィールを教えていただけますでしょうか。
私のキャリアは、90年代のインターネット黎明期に検索エンジン事業を立ち上げたベンチャー企業からスタートしました。そこで、事業開発から、役員として企業経営まで幅広く担当したのです。当時、検索エンジン大手であるYahooやGoogleといったプレイヤーが事業を拡大しており、私が所属していた会社も事業のピボットを余儀なくされる中、様々な事業開発を経験しましたね。
——その後に、GfKジャパンに入社したのですか?
いえ、そのベンチャー企業の次は、日本をはじめアジア圏を中心とした各国で、これまでの経験を活かした事業開発を手がけていました。中国、シンガポール、インドネシアなどで現地法人の立ち上げなども経験しましたね。そうした中で、出会ったのがGfKジャパンだったのです。今まではアジアを中心に仕事をしてきたので、ヨーロッパ圏に拠点を持つグローバル企業で働くことに興味を持ち、入社しました。
——GfKジャパンに入社して、現在、三田村さんはどのようなミッションを担っているのでしょうか?
端的に言えば、「マーケティングリサーチ業界の中で、新しい事業を作る」というミッションですね。GfKは100カ国以上でサービスを展開しているグローバルマーケティングリサーチ企業です。日本国内においても、家電に代表される耐久消費財のマーケティングリサーチでは確固たるポジションを築いています。
——事業が安定しているようにも思えますが?
コストメリットが大きい新興プレイヤーや、ポイントカード経由のビッグデータを持ったプレイヤーが出現し、マーケティングリサーチ業界も「変化の時代」に突入しています。現状だけ見れば、GfKジャパンは安定かと思われますが、実はそんなことはありません。
——なるほど、業界に変動が起きていると。
GfKグローバルはもちろんGfKジャパンの経営陣も常に変化に対応していく必要があると強く感じています。このような背景の中、私が入社し、「デジタル」をテーマにした新しい事業創出への挑戦が始まりました。
社内の全セクションに働きかけ、周囲を巻き込む。
——実際に、どのようにして新規事業の立ち上げを推進していったのですか?
GfKジャパンに入社したものの、新規事業に着手できる人材はほとんどいないという状況でした(笑)。私一人では限界があります。ですので、周りを巻き込む必要がありました。そこでまず、社内に向けて、新規事業立ち上げに協力してくれるメンバーの立候補を募りました。これが、とても大きな意味を持ちました。
——"大きな意味"というと?
新規事業の担当部署のメンバーだけだと、社内のアセットを十分に理解できていない可能性があります。全セクションから意欲のあるメンバーを募ることで、各セクションが持つさまざまな視点で社内のアセットを知ることができました。そこで、私も多くの気づきを得ることができましたね。
——なるほど。
次に、新規事業支援会社のプログラムを導入し、スタートアップからの当社との「共創」を生み出せるビジネスアイデアを募りました。スタートアップと当社のメンバーとの協業というのは、これも大きな意味がありました。
——どのような点でしょうか?
当社は、独自のデータサービスに強みがあることもあり、他社と触れ合う機会というものが非常に少なかったのです。スタートアップとの交流を通じて、純粋に「他社と仕事をやっていいんだ」という新鮮な驚きを当社メンバーが感じていました。
スタートアップの持つ技術やアイデアを”翻訳する”。
——こうした取り組みの中で生まれてきた新規事業/オープンイノベーションの実例はあるのでしょうか?
新規事業支援会社のプログラムを通して、10社のスタートアップと新規事業を検討しました。最終的に形になっているのは、画像解析に強みを持つリープマインド社(http://leapmind.io/)との事業提携です。TwitterやFacebook、Instagramなど、SNSを通じて画像を介したコミュニケーションが増えていますが、そこから得られるデータを高い精度でマーケティングに活用できるよう、当社とリープマインドの持つ技術やアセットを掛け合わせた画像解析レポートサービスを共同開発しています。
——リープマインド社の実例を通し、スタートアップとの「共創」=オープンイノベーションにおいて重要なことは何だと実感されましたか?
スタートアップが持つ技術やビジネスアイデアを、社内の経営メンバーに向けて“翻訳する”ことが重要だと思います。最終的に、新規事業をジャッジするのは社長を含めた経営陣。彼らに対し、スタートアップと組むことで創出される利益をきちんと翻訳して、提案することが重要です。
——なるほど。
また、新規事業創出やオープンイノベーションといった試みを社内に定着させるために、社内のトップから情報発信してもらうことも重要です。新規事業を生み出すには、人事や経理、法務といったセクションの協力も必要になります。だからこそ、トップから継続的に発信してもらうことも重要になりますね。
——今後、GfKジャパンとして、新規事業創出やオープンイノベーションにどのように取り組んでいくのでしょうか?
2017年度内には、アクセラレータープログラムを立ち上げる予定です。こうした取り組みを通じて、スタートアップから広く技術やビジネスアイデアを募っていきたいですね。
取材後記
マーケティングリサーチで世界トップクラスのGfK。業界が急速に変化しているという危機感から、新規事業創出に着手したという。インタビューの中でも印象的だったのが、「スタートアップが持つ技術やビジネスアイデアを“翻訳する”ことが重要」という三田村氏の言葉だ。
オープンイノベーションが失敗してしまう事例として、「経営陣の理解が得られなかった」という理由も少なくない。それを打開すべく、“翻訳者”のスタンスで、スタートアップの技術やアイデアを分かりやすく伝えていくことが、オープンイノベーション成功のための鍵となるだろう。
(取材・文:眞田幸剛、撮影:佐々木智雅)