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FUJITSU ACCELERATOR | “5カ月”で実証実験→製品化→販売 富士通総研×ヒトクセによる共創の裏側

FUJITSU ACCELERATOR | “5カ月”で実証実験→製品化→販売 富士通総研×ヒトクセによる共創の裏側

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富士通グループとスタートアップが組み、新たな価値の創出を目指す「FUJITSU ACCELERATOR(富士通アクセラレーター)」――。8期目となる同プログラムは、2月10日に行われるピッチコンテストに向けて、現在準備が進められている最中だという。

過去には、人事労務ソフトの「株式会社SmartHR」、ビジネスAIソリューションの「株式会社シナモン」、電子薬歴システムの「株式会社カケハシ」など、数々のスタートアップがこのプログラムを経験してきた。

中でも、第6期に協業を開始したアドテク企業「株式会社ヒトクセ(以下、ヒトクセ)」とは、富士通グループ企業である富士通総研との共創によって異例のスピードで製品化・販売をして注目を集めている。

両社はどのようにして出会い、共創プロジェクトを進め、製品化にまで至ったのか。本記事では、5カ月で実証実験から製品化・販売まで至った、富士通総研×ヒトクセによる共創の裏側について紐解くと同時に、ピッチコンテスト開催が間近に迫った「FUJITSU ACCELERATOR 第8期」についても紹介していく。

■富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATOR 代表 浮田博文氏

2000年富士通に入社。ネットワークエンジニアとして、アメリカのクライアントを担当。その後、企画部門に異動し、さまざまなプロダクトの事業戦略立案に携わる。2007年からは、クラウドビジネスの立ち上げに参画し、富士通の新たなサービスとしてクラウドサービスをローンチ。それを世界5拠点に展開する。また、新規事業創出のワークグループを立ち上げ、その中で『FUJITSU ACCELERATOR』をスタートする。2019年からは、FUJITSU ACCELERATOR代表として、同社のスタートアップ協業を牽引。

■写真左:株式会社ヒトクセ 執行役員 経営企画室 室長 島田賢悟氏

会計コンサルタントとしてのキャリアを積んだ後、2014年9月にエンジニアとしてヒトクセに参画。その後、ネイティブ広告サービス「Chameleon」の開発責任者とDSPチームの営業責任者を兼任。2017年4月より営業本部長に就任し、営業全体の統括を担当。2018年3月より執行役員に就任し、経営にも従事。2018年11月から新規事業の統括部署を設立すべく、経営企画室長に就任。

■写真右:株式会社ヒトクセ 経営企画室 渡邉勇輝氏

学生時代に百貨店商品開発や新卒採用コンサルタントを経験し、走りを科学するメディア「ShoesPicks」を開発。その後、2019年4月新卒でヒトクセに入社。経営企画室にて新規事業開発やそれに伴う実証実験、内部監査、社長補佐などに従事。2020年1月より富士通総研との共創プロジェクト「GazeAnalyzer」のプロダクトマネージャーに就任。

「単独」では生み出せない価値を、「共創」する

――まずは今回の共創の契機となった「FUJITSU ACCELERATOR」についてお伺いします。現在、第8期が進行中ですが、今期の特徴についてお聞かせください。

富士通・浮田氏 : プログラムの目的は富士通単独では生み出せない価値を、スタートアップと一緒に創り出していくことです。この点は、これまでと変わりはありません。ただ、7期との大きな違いは、当社の社長が時田に変わったこと。社長交代に伴い、「IT企業からDX(デジタルトランスフォーメーション)企業へ」という新たな経営方針が打ちだされました。

8期はいかに新たな経営方針にそったプログラムにしていくかがポイントだと考え、取り組んできました。経営方針の中で、注力する技術領域が7つ提示されています。「Computing」「AI」「5G」「Cyber Security」「Cloud」「Data」「IoT」です。8期はこの7領域で、富士通が求めているテクノロジーを具体的に公開し、スタートアップの方たちから応募を募りました。

グローバル展開により過去最大の応募数

――応募企業に変化はありましたか。

富士通・浮田氏 : ご応募いただいたスタートアップの数は、今回が過去最大です。国内は横ばいですが、海外からの応募が増えました。今期から海外での知名度向上にも力を入れており、その一環としてポルトガルで開催されている世界最大級のテックイベント「Web Summit 2019」にブース出展を行ったりもしました。海外メディアに取り上げていただき、富士通の存在を海外のスタートアップに知ってもらえる、よい機会にもなりましたね。

――2月10日に、書類選考を通過したスタートアップ15社によるピッチコンテストを開催すると聞きました。ピッチコンテストの目的は何ですか。

富士通・浮田氏 : ピッチコンテストは、8期採択候補のスタートアップの発表をプログラムに参加している協業検討責任者が聴いて、協業検討フェーズに進むかどうかを判断する場です。また、富士通グループの事業部や営業部、さらには富士通のお客様で新しいデジタルビジネスに興味のある方たちが見に来られ、一般の方の参加も可能です。実は今回初めて、社長の時田も参加する予定になっています。

――ピッチコンテストは、スタートアップとの協業の「出発点」 になるわけですね。トップが参加することで活動がさらに活発になりそうですね。

富士通・浮田氏 : その通りです。実際、ピッチコンテストを契機に協業を開始し、製品化にまで至った事例も生まれてきています。

共創で生まれた、新たなデジタル広告サービス

――続いて、ピッチコンテストを経て協業へと進み、新たなサービスローンチに至った、ヒトクセさんとの協業についてお聞きします。ヒトクセさんは、なぜこのプログラムに応募しようと考えたのでしょう? 

ヒトクセ・島田氏 : 実は、プログラム運営事務局の鈴木智裕さんに誘っていただきました。鈴木さんとは、鈴木さんが前職の株式会社リコーさんにいらっしゃった時に、360°カメラ「THETA(シータ)」を用いてVRでバナー広告を表示できるプロダクトを創ったことがあります。それが私たちの中に成功体験としてありました。

ですから、鈴木さんから「富士通とも何か一緒にできないか?」とお声がけいただいた時、「ぜひまた一緒に新たなビジネスを創りたい」と思ってプログラムに参加しました。

私たちヒトクセは、WEB広告のソリューションを提供するシステム会社です。これまでも、大企業との協業に取り組んできましたが、パートナーは主に大手広告代理店でした。しかし、リコーさんの際に初めてメーカーとの協業に取り組み、メーカーともシナジーを生み出せることに気づきました。だから、「富士通さんともうまくいくのでは?」と考えました。

――富士通さんは、なぜヒトクセさんを協業パートナーに選ばれたのですか。

富士通・浮田氏 : FUJITSU ACCELERATORは、富士通の各事業部やグループ企業とスタートアップのマッチングを図るものです。ヒトクセさんの技術が、プログラムに参加していた富士通総研のニーズにマッチしたことが、採択させていただいた一番の理由です。

お話に出た鈴木は、ヒトクセさんがお持ちの技術をよく知っていました。それは、スクロール操作やタップ位置などから、ユーザーがページ内のどのあたりを見ているかを判断する「視線推測技術」です。このヒトクセさんの強みである独自技術を活用すれば、よりユーザーの興味関心に近い広告の表示や、ページの中でより訴求力の高いコンテンツを分析することが可能となります。

一方で、富士通総研が抱えている「デジタルマーケティング領域で、より深く顧客を理解したい」というニーズも理解していたので、両社がうまくマッチングすると考え、お誘いしたのでしょう。

――実際に両社が出会ったのはいつ頃ですか。その後、どのようなプロセスを経て、販売にまで至ったのでしょうか。

ヒトクセ・島田氏 : 初めてお会いしたのは、ピッチコンテストの後です。私たちは、2018年7月末にピッチコンテストに出場し、保有する技術について富士通グループの皆さんに紹介しました。その後、8月の中旬に富士通総研さんと面談をして、9月から協業がスタート。

その後は、2週間に一度の頻度でお会いし、実証実験に向けた準備を進めました。2019年の年が明けた頃には、ある程度プロダクトが完成し、4月からテストマーケティングを開始。パフォーマンスが確認できたので、2019年の9月からβ版として販売を開始したという流れです。

――具体的に、どのようなプロダクトなのですか。

ヒトクセ・島田氏 : ユーザーのスクロール操作やタップ位置情報、操作時間などから、ユーザーの視線をトラッキングする「Gaze Analyzer」というデジタル広告サービスです。

従来の広告ツールは、「ページの遷移」や「ページ内でどこを見たか」を把握することは可能でした。しかし、「ページ内のどこに関心を持っているか」までは把握できなかったのです。

そこで、ユーザーがどこを注視したのかをデータ化し「ページの遷移データとの紐づけ」を行い分析ができる「Gaze Analyzer」を開発しました。実証実験では、コンテンツを注視したユーザーの方が、そうでないユーザーに比べて約1.6倍、コンバージョンが高いことが分かりました。

――オンラインでビジネスを展開するあらゆる企業にニーズがありそうですね。実証実験から製品化がわずか5ヶ月と、とてもスムーズに販売開始にまで至った印象を受けますが、うまく進んだ要因は?

富士通・浮田氏 : やはり、マーケットが求めていたプロダクトを生み出せた点が大きいでしょう。現在の市場のトレンドとして、大きく3つの傾向があると考えています。

「ハードウェアをソフトウェアでより賢くすること」「少ない教師データで精度高くディープラーニングを行うこと」「人の感性・特性をうまくデータ化して価値に変えること」です。この中でヒトクセさんの技術は、人の特性をキャプチャし、価値に変えるという点で、マーケットにフィットしたのだと思います。

ヒトクセが実感した、富士通と協業する魅力とは?

――今まで複数の企業様との共創経験がある中で、富士通さんと協業して、どういったメリットがありましたか?補完できたところなどがあれば教えてください。

ヒトクセ・島田氏 : 一緒にプロダクトを作り、いざ販売する段階になった時、初動を熱心に助けていただけたのが、非常にありがたかったです。当社はシステム会社なので、提案やコンサルティング、顧客基盤に関しては強くありません。つまり、営業や拡販力は弱いのです。

プロダクト化した後に、富士通総研さんから「一旦、お客様の前に出してみようか」とご提案いただき、テストクライアントを紹介してもらいました。「提案するなら、他のプロダクトとセットにした方がいい」などのアドバイスをいただけたことも、心強かったです

ヒトクセ・渡邉氏   加えて、私たちが開発した視線を予測して数字化する「Gaze Analyzer」は、お客様の事業内容によって見え方が少しずつ違います。サイト構造の改善なのか、UIの改善なのか、あるいは広告の最適化なのか…。富士通総研さんの助力がなければ、お客様がどうこのプロダクトを見るのかを理解しないまま、リリースしていたでしょう。

富士通総研さんが、お客様にこのプロダクトを提案し、お客様からのフィードバックを私たちに共有してくださいました。この過程があったからこそ、マーケットにフィットした形でリリースすることができたのだと思います。

ヒトクセ・島田氏 : この一連のトライ&エラーがなければ、「こういうプロダクトを作りました!」と市場に出して、市場から良い・悪いの判断が下され、悪いと判断されたら、……そこで終わりでしたね(笑)。商品としてリリースするまでに、お客様の意見をヒアリングして改善できたのは、富士通総研さんの培ってこられたお客様との信頼関係があってこそです。

――なるほど。初動の速さは共創において非常に重要になりますよね。

ヒトクセ・渡邉氏   初動を助けていただいたことに加えてもう一点、富士通さんとの協業でよかった点があります。決裁権限者に関わっていただけるので、スピードが速い点です。

と言いますのも、0→1でプロダクトを作る時、マーケットのニーズに沿って方向性が頻繁に変わります。なので、それに応じて迅速に必要なリソースも変える必要があるのですが、現場の担当者間だけではリソースの調達に時間を要してしまうことが多々あるんです。

ところが今回は、決裁権限者にご参加いただけた為、すぐに必要なリソースを確保することができました。

富士通・浮田氏 : FUJITSU ACCELERATORでは、富士通側からは、ある程度決裁権限を持つ役職者に来てもらえるよう促しています。ヒトクセさんとの協業も、富士通総研のエグゼクティブ・コンサルタント(役員クラス相当)に担当いただきました。

なぜ決裁権限者に参加いただくかというと、たらい回しを避けるためです。たらい回しにあって、物事が進まないことを防ぐため、意思決定者に参加いただき、物事が進む設計にしています。ですから、ヒトクセさんのケースも、実証実験でパフォーマンスが出ることを確認できた後、製品化までの動きはとても速かったですね。

――なるほど、初動の速さやサポート力の裏側には富士通グループのコミットメントがあったのですね。逆に、協業を進める中で大変だったことは?

ヒトクセ・島田氏 : 最初の書類のやりとりは大変でしたね(笑)。私は社会人人生のほぼすべてがヒトクセなので、上場企業に必要な契約フローや決済フローなどをあまり理解できてなかったんです。それと、アイデアを具現化していく段階で、会議室の中だけで話していた時間が長かったので、そこはもう少し短縮できたかもしれません。

「豊富なリソース」と「起業家マインド」をお互いに使い倒す

――最後に、本プログラムへの参加を検討しているスタートアップに向けて、メッセージをお願いします。

ヒトクセ・島田氏 : ビジネスが行き詰った時に、大企業の知見やリソースを借りられるプログラム に参加することは効果的だと思います。私たちはこれまで数々のプロダクトを作り、販売してきました。自分たちが当たれる販売先はすべて当たりきったと思っていても、思わぬところに可能性は広がっているものです。

富士通総研さんとお話をする中で、「ここで使えばいいじゃん」といった話も出てきて、「そんな使い方があったか!」と驚くこともありました。アイデアをもらって視野を広げ、可能性を拡張するよい機会です。機会を求めるために、アクセラレータープログラムに参加するのはアリだと思います。

ヒトクセ・渡邉氏    このプログラムでは、富士通さんのリソースを惜しみなくお借りできます。 スタートアップには足りないものがたくさんありますから、顧客基盤など富士通さんのリソースを活用できる点は、大きな魅力です。

たとえば、今後プロダクトの精度を上げていくにあたって、実際の生の視線のデータを照合し、機械学習化させていくことも検討しています。それをやろうとすると、ハードガジェットが必要です。でも、私たちはハードを持っていませんし、高価で手が出ません。そういう場合にも、事務局の方が別の部署につないで、助けてくださる。本当に富士通さんのリソースを活用させていただいています。

富士通・浮田氏 : 「富士通のリソースを惜しみなく活用する」 はその通りで、私たちも惜しみなく活用してほしいという気持ちで取り組んでいます。一方で、富士通が忘れがちなのは起業家マインドです。分業、サイロ化することで、新しい事業を生み出そうという熱意が薄れてしまいます。ですから、私たちは、逆にスタートアップの方から、起業家マインドをいただきたい。良い意味で、お互いに使い合えばよいのだと思っています。

取材後記

「4月にテストマーケティングを行い、パフォーマンスが確認できたので、9月にはβ版としてリリース」――このスピード感に驚いた。オープンイノベーションにおける取組みは、「実証実験・PoC止まり」になる事例は多い。本件が5ヵ月でリリースまで至った理由は、「マーケットがこのプロダクトを求めていたから」であり、「マーケットにフィットしたプロダクトを開発できたのは、富士通グループのスピーディかつ的確なサポートがあったからこそ」だという。

この事例にはヒントがたくさんありそうだ。2月10日には、8期のピッチコンテストが実施される。ここからどのような共創が始まるのか――。今後の動きも追っていきたい。

<第8期ピッチコンテスト開催概要>

■日時 : 2020年2月10日(月) 13:00受付開始 13:30イベント開始

■場所 : BASE Q(東京ミッドタウン日比谷 6F) 東京都千代田区有楽町1-1-2

■対象 : 富士通との協業に興味のあるスタートアップ/事業会社の新規事業担当者

■定員 : 100名(先着順)※定員に達し次第、受付を締め切ります。

■受付 : 参加申し込みはこちら

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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