FUJITSU ACCELERATOR第8期ピッチコンテストに登壇した全15社を一挙紹介!
富士通グループとスタートアップが組み、新たな価値の創出を目指す「FUJITSU ACCELERATOR(富士通アクセラレーター)」。同プログラムは2015年からスタートし、これまで合計120以上のスタートアップと協業検討フェーズに進み、70件以上もの協業実績がある。
現在、8期目となるプログラムが進んでおり、書類選考を通過したスタートアップ15社によるピッチコンテストが2月10日、 東京ミッドタウン日比谷「BASE Q」で開催された。会場には富士通グループの協業検討責任者が来場し、スタートアップとの協業の可能性を判断。――結果としてピッチを行った全15社が個別面談フェーズに進み、これから新しい事業創造に向けて話し合いを進めていくことになった。
本記事では、最優秀賞および優秀賞を受賞した企業を紹介しつつ、登壇した15社のピッチの様子をレポート。さらにはFUJITSU ACCELERATORのピッチコンテストに初参加した富士通 代表取締役社長 時田隆仁氏のコメントについて紹介していく。
テーマ設定から事業部門を巻き込む。他社のアクセラレータープログラムとの違い
各社のピッチに先立ち、FUJITSU ACCELERATOR 代表である浮田氏より本プロラグラムの特徴が紹介された。第一に、一般的なアクセラレータープログラムでスタートアップの負担になっている課題が工夫、改善されている点を挙げた。具体的には、スタートアップ側から中止の申し出ができるという。共創検討期間が始まってしまうと、スタートアップからはなかなかストップの申し出がしにくいものだが、本プログラムでは「効果がでない」と感じた時点で中止が可能だ。
▲富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATOR 代表 浮田博文氏
また、遠隔での協業が可能なのも特徴の一つ。首都圏への拠点移動が条件になるプログラムも多い中、地方のスタートアップも気軽に協業できる。続いては協業検討責任者の顔が見えること。アクセラレーターで最も課題とされているのが、事業部門の巻き込み不足により温度差が生じることだが、富士通ではテーマ設定の時点から事業部門を巻き込むことで、同じ熱量で協業検討を行える。
最後は専任のサポートチームが協業を支援してくれる点。大企業との文化の違いに戸惑うスタートアップも多いが、サポートチームが間に立つことでスムーズな協業が可能だ。
――これらの特徴を活かし、本プログラムはこれまで実績を重ねてきた。8期目となる今回も、スタートアップに寄り添った運営を行い、7月のデモデイに向けて協業を検討していく。
最優秀賞・優秀賞に輝いた企業は?
さっそく、第8期ピッチコンテストの「最優秀賞」(1社)・「優秀賞」(2社)の受賞企業を紹介していきたい。
【最優秀賞】 株式会社RevComm
RevCommはAIを活用して、電話営業の内容を可視化して生産性を上げるサービスを開発しており、「最優秀賞」のほか、協賛の「fabbit賞」も受賞した。これまでの電話営業は担当者と顧客との通話内容が分からず、成約あるいは失注した原因が分からなかった。そのため、とにかく数を追う非効率な電話営業が繰り返されてきたのが現状だ。
RevCommはCRMと連携したIP電話を提供しており、顧客の番号をクリックするだけ発信ができ、会話の内容が可視化され分析まで行われる。会話のやりとりや沈黙の回数などが表示されるほか、相手と自分の話すスピード、電話中によく使われたキーワードまで計測可能。それらのデータをもとに、電話営業をブラッシュアップでき、さらにはデータを上司に共有することで適切なアドバイスを受けられる。
▲株式会社RevComm 代表取締役 會田武史氏
これまで成約した内容をCRMに入力していた作業も、音声を共有することでテキスト情報だけでは分からなかった細かなニュアンスまで共有可能だ。架電の統計情報も分析されており、「何曜日の何時であれば電話が繋がりやすいか」まで把握できる。実際に導入した企業は成約率が上がったことによって利益がアップ。一方で、電話料金や教育コストは下がったという。
初期費用がかからず、1ヶ月単位での契約が可能という気軽さも相まって、既に業界や規模を問わず3,000社に利用されている。世界中のデカコーンを超える勢いで成長しており、大きな期待が寄せられている。今後は自動でアポがとれる機能のほか、営業以外のマーケティングや経営に関する人工知能プラットフォームの開発を手掛けるという。また、音声解析の技術をカスタマーサポートやHRにも活用し、多角的にビジネスを支援していくようだ。
今年中にはフィリピンを始めアジア圏からグローバル市場にも進出を予定。プレゼンの最後には販売パートナーの他、音声解析エンジンを組み込みたいパートナーも募集していると語った。
最優秀賞を受賞したRevCommの會田氏は、「日本は信用経済なので大企業がスタートアップを後押ししてくれる意味は大きい。我々だけではなく、他の大企業もスタートアップを後押ししてもらって一緒に日本を良くしていきたい」と語った。
【優秀賞(1社目)】 テックタッチ株式会社
非エンジニアでも簡単に、システム画面に操作ガイドを追加できるシステムを開発しているテックタッチが優秀賞を獲得した。ビジネスで使うシステムの操作方法がわからない場合、操作マニュアルや研修、ヘルプデスクといった解決策があるが、どれも手間で時間がかかるものだ。
▲テックタッチ株式会社 代表取締役 井無田仲氏
テックタッチのサービスを使えば、システムを操作しながら操作画面が現れるため、手間をかけずに使い方を理解できる。ほとんど全てのシステムに、ノンコーディングで操作ガイドを追加可能だ。システムの担当者が自分で操作ガイドを追加できるため、マニュアルを作成したり研修を開く必要がない。
サービスのリリースからわずか1年で、様々なエンタープライズ企業に導入され業務効率ツールとして注目を浴びている。富士通とはパートナーセールスやデータ活用など、多角的な協業を検討しているようだ。
【優秀賞(2社目)】 Anyflow株式会社
Anyflowは増え続けるSaaSを連携するサービスを開発しており、優秀賞を受賞した。現在、1社あたり10~20個のSaaSサービスを導入しており、今後さらに増加することは避けられない。そして、複数のSaaSを効率よく使うにはSaaS同士の連携が必要だが、その都度エンジニアに依頼するのは手間と時間がかかる。
▲Anyflow株式会社 代表取締役CEO 坂本蓮氏
Anyflowのサービスを使えば、エンジニアでなくても簡単にSaaSの連携が可能だ。例えば新しく社員が増えた際に、一つのSaaSでアカウントを作れば、自動で連携しているサービスでもアカウントが発行させることができる。日本に比べて膨大な数のSaaSが存在する海外では、既に大きな市場ができあがっており、これから日本でも市場が拡大することが予想されている。言語の違いから外資が参入しにくい領域のため、Anyflowには大きな注目が集まっている。
富士通・時田社長――「私たちのケイパビリティを存分に使ってほしい」
ピッチコンテストのエンディングには、富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏が登壇した。
「富士通グループはグローバルに事業を展開しているが、全社員約13万人のうち9万人が国内におり、”日本に根ざした企業”と言える。課題先進国と言われる日本において、富士通はさまざまな社会課題にダイレクトにリーチして解決していきたい。また、多くの大企業が大都市圏に事業を集中させる動きを見せているが、私たちは全国津々浦々の地域課題にも取り組んでいきたいと考えている。そのためにも、スタートアップ企業の知恵をお借りしたい。また、スタートアップのみなさんには当社のケイパビリティを存分に使っていただき、アイデアを早く社会に届けていきたい」と熱意を込めて話した。
▲富士通株式会社 代表取締役社長 時田隆仁氏
スタートアップによる熱のこもったプレゼン
続いて、FUJITSU ACCELERATOR第8期ピッチコンテストに登壇した12社のピッチの概要を紹介していく。
●株式会社IDEAAI
IDEAAIは最先端の画像処理とAI技術を組み合わせて、動画や画像から特定の形状を分類・検出するシステムを開発している。5Pixelほどの微細な傷や欠陥も検出することが可能だ。これまで検査員が行っていた目視検査を、サーバー一台で検査員数百人分の作業を行うことができる。既に台湾の大手メーカーから受注を受け、数百人の検査員の削減に成功している。富士通と協業することで、エンタープライズ企業に導入を進めようとしていると語った。
●株式会社キャッシュフローリノベーション
AIを活用した、生産性向上システムを開発するキュッシュフローリノベーション。工場で働く職員にセンサーを取り付けることで、職員の作業中の動きを検知して改善案を指導する。位置情報だけでなく、手元の作業内容まで細かく撮影できるため、従来の生産性向上システムに比べ、より効果的な改善が可能だ。富士通との協業を成功させることで、海外マーケットも視野に入れていると語った。
●OVOMIND株式会社
OVOMINDはAIを活用して、人の感情を読み取るシステムを開発しているスタートアップ。ゲーム業界をはじめ、様々な業界で感情を感知してサービスの品質向上に活かしたいというニーズが高まっている。OVOMINDのシステムを利用すれば、ユーザーの生体反応からリアルタイムに感情を検知して、様々なUXを築くことができる。既に世界中の100以上のゲームデベロッパーと交渉し、PoCを始めているという。
●株式会社ホイップ
ホイップはコンテンツマーケティングプラットフォーム「Char☆me(チャーミー)」を展開するスタートアップで、協賛企業の「パソナグループ賞」を獲得した。Char☆meは企業や地方自治体とオピニオンリーダーを繋ぎ、低コストかつ手軽に効果的なコンテンツマーケティングを可能にするサービス。自社でプロモーションのためのコンテンツを作成するのに比べ、費用を30%、時間を50%削減できる。
クライアントはChar☆meに出向先や予算などを入力するだけで、わずか10分ほどでコンテンツの制作依頼が可能。これまでの事例ではTwitterで1000万回以上再生された動画を制作したケースもある。富士通と共創することで顧客の声を情報価値化し、広告不況を解決する情報サービスを目指す。
●株式会社xenodata lab.
自然言語処理技術を活用して経済や需要を予測するSaaS「xenoBrain(ゼノブレイン)」を開発しているxenodata lab.。自然言語処理技術でニュースや開示資料、レポートなどの文章情報を解析し、企業の業績や資材の価格などの将来動向をスコア化することで、経済トピックや企業の動向を予測。社会的に起きている出来事が、どのような業界のどんな企業に影響を及ぼすのか予測できるため、株価変動や市場動向をスコアで表示できる。
既に金融業界や保険業界の企業など、70社以上のエンタープライズ企業が導入しており、今後は海外企業の分析も始める予定だ。富士通と共創することで、同社が持つ莫大なデータと組み合わせて、より高度な予測モデルを組み込んだサービスを共同開発していきたいと語った。
●株式会社アルステクネ・イノベーション
アルステクネ・イノベーションは、3D質感処理技術を使って美術品を精密に再現したデジタルアートビジネスを展開している。人の脳は美術品など美しいものを見て感動することで前頭連合野が活性化、共感性や洞察力が向上し、ポジティブな思考に変わっていく。アルステクネイノベーションは高精度な美術品のレプリカを生産し、豊かな人間性の創出に貢献したいと語った。
フランス国立オルセー美術館とは民間企業として世界で唯一デジタル・アーカイブ契約を結び、マスターレプリカの公式認定を受けるなど、国際的な活躍を見せている。今後は世界的な北斎ブームなど、大きなチャンスを生かしてビジネスを展開していく予定だ。富士通と協業することで、美術を使った教育プログラムや認知症改善プログラムなどの開発を検討している。
●株式会社DATAFLUCT
企業などに埋もれているデータを活用して、新しいビジネスの創出を支援するDATAFLUCTは、協賛企業の「KEPPLE賞」を受賞した。多くの企業がデジタルトランスフォーメーションを推進していく上で、自社だけでデータ活用するのは難しい。そのような企業に対してDATAFLUCTはデータの収集・分析からソフトウェアの開発まで一気通貫で支援している。
自社サービスの「DATAFLUCT Marketing」は、飲食店などが新規出店する際に商圏を分析して、業績や業態に合わせて成功率の高い立地を分析できるサービス。常に最新のデータを使用することで、リアルタイムな状況を把握可能。店舗のデータ事業だけでも4,000億円の市場規模が存在し、富士通と共創することでよりスケーラビリティのあるビジネスを展開していく予定だ。
●Datumix株式会社
Datumixは優秀な人材の思考プロセスなどをモデル化し、若手社員へノウハウを共有するためのシステムを開発している。例えば若手社員がSlackに営業資料を作成すると投稿すると、優秀な社員の資料作りのプロセスを学習したbotがノウハウ共有してくれる仕組みだ。
Datumixは富士通との協業で、物流業界の優秀な人材のノウハウを共有化できるようにしたいと語った。物流業界は宅配数が増加する一方で、労働人口が減少しており業務の効率化が強く求められている。システムを作るには物流業界のデータ取得が不可欠。富士通の協力のもとデータの取得からモデル化までを共同で行っていく予定だ。
●株式会社AnchorZ
バックグラウンド認証技術を開発するAnchorZ。これまでの認証技術は顔認証にしても指紋認証にしても、それを打破しようとする悪意のある人間とのいたちごっこが繰り返されてきた。どんなに高度な認証技術でも、時間さえあれば打破できるからだ。
バックグラウンド認証は、本人がスマホを操作している間にバックグラウンドで認証を行う技術。顔認証や指紋認証、使い方のクセなど、スマホユーザーの特徴をとらえて複合的に認証を行う。どの技術で認証されているかもユーザーはわからないため、打破するために対策することもできない。AnchorZは富士通と協業することで、絶対に本人にしか使えない安心安全なAndroid端末を開発したいと語った。
●株式会社MeeCap
MeeCapはPCで行うキーボード、マウス操作など全てのデータを収集して業務の可視化を行うシステムを開発している。1クリック単位のデータを分析できるため、高度な業務効率化を可能にしている。国内のプロセスマイニング市場では2年連続シェアトップを記録した。
これまでは主にバックオフィスの定形業務で活用されていたが、最近では営業業務で活用されるなど、活躍の場も増えている。今後はさらに導入社数を伸ばし、様々な業界で活用されるサービスを目指していると語った。富士通と協業することで、より大きなデータを活用して高精度なシステムを共同開発していく予定だ。
●NeoX株式会社
物体をスキャンするだけで、情報を引き出す物体認識ソリューションを開発しているNeoX。その最大の特徴は、エンジニアでなくても自社のサービス内容に沿ったAIモジュールを開発できること。これまでも農家が人工知能を使い、撮影するだけでりんごが完熟しているか、傷ができてないか見分けるサービスを作った。
また他社の類似サービスに比べ、コストを100分の1に抑えられる上に、他社では1ヶ月かかる学習を10分足らずで可能にする。既に世界4,000以上のデベロッパーに技術を提供しており、富士通への技術提供も行っている。今後富士通の持つ5Gの技術を使って、ネット上で物体認識ができないか検討していると語った。
●株式会社Linc’well
テクノロジーを活用した医療施設「スマートクリニック」をプロデュースしているLinc’well。日本には大きなクリニック市場があるが、予約ができず現金払いしか対応していないなど顧客の満足度は決して高くない。そこでLinc’wellがオープンしたのが「クリニックフォア田町」だ。来院してから15分で診察が終わり、キャッシュレスに対応し過去の検査結果もスマホで閲覧可能。会員から数ヶ月で事業が立ち上がり、1日の患者数は平均的なクリニックの約3倍にものぼる。早速新しい拠点の立ち上げも進んでいるようだ。
海外ではクリニックでの診療データがテクノロジーで共有され、顧客一人ひとりに合った診療が行われている。しかし日本では、クリニックにテクノロジーが導入されていないため、パーソナライズされた診療が難しい。富士通と協業することで、クリニックの現場にテクノロジーを導入し、集積されたデータを活用して顧客満足度の高いサービスに磨き上げていきたいと語った。
取材後記
2019年に富士通 代表取締役社長に就任した時田氏は「IT企業からDX(デジタルトランスフォーメーション)企業への転換」を表明した。それに呼応するように、FUJITSU ACCELERATOR第8期で個別面談フェーズに進む各社は、社会のデジタルトランスフォーメーションを促進させる革新的な技術やプロダクトを保有している。富士通グループとの協業によって、世の中のデジタル化の波を加速させることができるのか。今後の展開に注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平、撮影:加藤武俊)