【税理士解説/研究開発と税制①】 新しくなった「研究開発税制」の中身とは?
研究開発税制(R&D税制)という税制上の優遇措置をご存知でしょうか?
研究開発税制とは、「モノ作り」や「サービス開発」など企業が行う研究・開発活動にかかった試験研究費の一部を法人税額から控除する制度【総額型】や国の研究機関、大学など、他の者との共同研究にかかった特別試験研究費の一部を法人税額から控除する制度【オープンイノベーション型】のことをいいます。また、中小企業者等(※)の場合は、総額型に代えて、より大きな税額控除を受けることができる制度【中小企業技術基盤強化税制】があります。
※前3事業年度における平均所得金額が15憶円を超える法人は除かれます。
この研究開発税制は、青色申告法人が対象となっており、総額型の場合は、試験研究費の増減割合に応じて試験研究費の額の6~14%、中小企業技術基盤強化税制の場合には、試験研究費の増減割合に応じて試験研究費の額の12%~17%が法人税額から控除できます。オープンイノベーション型は、共同研究の相手先に応じて、上記の控除額とは別に、特別試験研究費の額の20%、25%または30%を法人税額から控除できます。ただし、いずれの制度においても、控除上限があります。
また、中小企業者等以外の法人(いわゆる大企業)が研究開発税制の適用を受けるためには、賃上げや設備投資などの要件のいずれかを満たす必要がある点に留意が必要です。
上記の通り、研究開発税制とは、研究開発活動にかかった金額の一部を税金から控除することにより、研究開発に係る負担を軽減し、更なる研究開発を後押ししてくれる税制です。例えば、研究開発を行っているが、研究開発税制を適用していない企業は、検討の余地があります。
では、どのような費用が「研究・開発活動にかかった試験研究費」として、本税制の適用を受けることができるのでしょうか?
研究開発税制の対象となる試験研究費
企業側が「この支出は我が社にとって、研究開発にかかる費用だ!」と言っても、必ずしも税額控除の対象とはなりません。税制上は、研究開発税制の対象となる費用が定められています。実務上は、税制の対象となるか否か判断に迷う場面も多く、慎重に判断する必要があります。
研究開発税制の対象となる試験研究費とは、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する一定の費用や対価を得て提供する新たな役務の開発(サービス開発)で、所定のプロセスを経て行われるものに係る試験研究のために要する費用を言います。
具体的には、次のような費用が試験研究費に含まれます。
●試験研究を行うために要する原材料費、人件費及び経費
●試験研究のために外部に支払う委託研究費
●技術研究組合に支払う賦課金
●試験研究のために使用する減価償却資産の減価償却費 など
一方で、事務能率、経営組織の改善に係る費用や単なる製品のデザイン考案に係る費用などは「製品の製造」「技術の改良」等に該当しないため、試験研究費の対象には含まれません。
また、税額控除の対象となるのは、その事業年度において損金の額に算入される試験研究費に限られるため、会計上費用として処理した金額であっても、申告調整された結果、所得金額の計算上、損金の額に算入されなかった金額は、その事業年度において試験研究費の集計の対象から除かれます。
その他、人件費に関しても、一定の要件を満たす者に対する支給額が、試験研究費の対象となること等に留意が必要です。
近年における研究開発税制の改正
少子高齢化が進む中、日本経済が持続的な成長を実現していくためには、研究開発を推進し、生産性を向上させることが必要になるとの考え方のもと、研究開発投資を増加するインセンティブを強化し、かつ、質の高い研究を後押しするため、近年、立て続けに本税制の改正が行われています。
平成29年度税制改正では、主に以下2つの改正がありました。
<オープンイノベーション型の対象範囲が拡大・手続の簡素化>
改正前は、特別試験研究費の対象として、共同研究等に係る費用で相手方が支出し自己が負担するもののうち「原材料費、人件費、旅費、経費及び外注費」に限定されていました。 改正により費目の限定列挙が廃止され、光熱費や修繕費等も対象となりました。
また、共同研究に係る契約変更があった場合、契約変更前に生じた費用であっても、その契約に係るものであり、かつ、その支出日と契約変更日が同一事業年度内であれば特別試験研究費の対象となることが明確化されました。
さらに対象費用であることの確認方法について、領収書等との突合が不要となり、手続きが簡素化されました。
<試験研究費の範囲に特定の「サービス開発」が追加>
試験研究費の定義の見直しが行われ、IoT・ビッグデータ・人工知能(AI)等を活用した第4次産業革命型の高付加価値サービスの開発に要する費用が新たに試験研究費の範囲として加わりました。
平成31年度税制改正では、主に以下2つの改正がありました。
<オープンイノベーション型の対象範囲の拡大および控除上限の見直し>
オープンイノベーション型の対象範囲に、新たに 「研究開発型ベンチャー企業との共同研究にかかった費用」 や 「受託者の知的財産権を利用するなどの要件を満たす民間企業への委託研究費」 が追加されました。
また、控除上限が法人税額の5%から10%に引き上げられました。
<税額控除率・控除上限の見直し>
研究開発投資の増加インセンティブの強化などの観点から、総額型および中小企業技術基盤強化税制において、税額控除率の計算方法などの見直しが行われました。
今回、紹介したように、税制面から企業の研究開発投資をバックアップすべく、研究開発税制の改正が行われています。
このコラムをご覧の方で「我が社も研究開発税制を適用できるのでは?」 「オープンイノベーション型を検討していなかった。もっと税額控除が適用できるかも?」 と、お思いの方は、ぜひ一度ご検討ください。
次回以降も、研究開発税制や他の税制上の優遇措置など、企業様にとって有意義なコラムを紹介していきますので、是非、ご覧ください。
(コラム執筆:税理士法人山田&パートナーズ)
税理士法人山田&パートナーズは、総合型税理士法人として会計・税務・財務に関わる全ての業務に取り組んでおります。法人対応では、企業経営・財務戦略の提案に限らず、M&Aや企業再編アドバイザリー業務を強みとして提供しており、資産税対応では、相続税申告、事業承継対応を主軸業務としつつ、その関連業務を含めワンストップ対応を行っております。我々は、創業以来、様々なお客様のニーズにお応えするとともに、最新の情報・ノウハウを駆使し、付加価値の高いアドバイザリーサービスを提供しております。