#PEOPLE | ONE JAPAN・山本氏 ―成果を生み出すコミュニティ作りの秘訣とは―
約50社1000名以上の若手有志が結集したプラットフォーム「ONE JAPAN」。――以前、eiiconでも取材を行った濱松誠氏と共に、共同発起人の一人を務めるのが、山本将裕氏だ。
山本氏はNTTグループにおいて、人と人とを繋ぎ、組織に横串を通すことで組織変革を目指す有志団体「O-Den」(オデン)設立の中心人物。さらに、「NTT東日本アクセラレータープログラム」立ち上げの仕掛人にもなっている。
組織を横断する有志コミュニティを形成し、アクセラレータープログラムを立ち上げ、新規事業が生まれる土壌も作り上げた山本氏。新しい取り組みにコミットできる「実現力」は、どこから生まれてくるのか話を伺った。
■ONE JAPAN 共同発起人 山本将裕氏
2010年にNTT東日本へ新卒入社。宮城県石巻や仙台で法人営業を経験後、2014年にビジネス開発本部へ異動。NTTグループの有志団体「O-Den」や「NTT東日本アクセラレータープログラム」の立ち上げ、大企業若手有志プラットフォーム「ONE JAPAN」の共同発起人を務めるなど、社内外でその力を発揮している。
■本当に必要とされているものを、届けていく。
――まずはじめに、山本さんのご経歴を教えください。新卒でNTT東日本にご入社されていますが、何か「実現したいこと」が明確にあったのでしょうか。
山本氏 : ホント、普通の大学生で(笑)、就職活動でもそこまで明確な意思はありませんでした。ただ、通信系の企業なら色々なことに関わることができ、巨大なインフラという確かなバックボーンもある。社会にインパクトを与える新しいサービスが作れるのではと考えて、NTT東日本に入社しました。
――新卒で地方勤務を希望し、配属後は震災も経験をされたと聞いています。
山本氏 : NTT東日本は地域に密着している企業ですので、「自社が展開する事業を知るためにも、まずは地方の事業所で経験を積んだほうが良いだろう」と考えました。それで、新入社員では25年ぶりに宮城県の石巻に配属となり、翌年の3月に東日本大震災を経験しました。
――東日本大震災後、山本さんは通信の復旧や高齢者向けIoT事業に関わっていたと伺いました。それは、地元の被災された方々を見て「やらなければならない」と感じたからでしょうか。
山本氏 : そうですね。私は東京出身ですが、復興活動をしてきたことで、愛着がある場所なので「なんとかしたい」という気持ちが強かったんです。被災された方々の声を聞き、インフラ企業として必要だと思ったことに取り組んでいました。
高齢者向けIoT事業は、宮城県名取市で行いました。仮設住宅にお住いのどの高齢者に介護が必要なのか、自治体も社会福祉協議会も把握できず、支援が難しいという大きな課題があったんです。――そこで、タブレットや冷蔵庫などに設置したセンサーで高齢者の生活状況を可視化し、誰が介護を必要としているか把握できるようにしました。
導入して驚いたのが、高齢者が仮設住宅の集会場で、タブレットを使ってカラオケをしていたことです。こういった新しいデバイスを、高齢者は苦手にしていると考えがちですよね。しかし、地域の介護士の方が「このタブレット便利だから使ってね」と言うと、不思議と使ってくれたんです。そのように地域と連携しながら、取り組みを進めていきました。
――この取り組みは、社内外で高く評価されたと聞きました。
山本氏 : 大きな注目が集まり、海外の議員が来日した際にこの取り組み内容を説明したことがあります。さらに、NTT東日本のホームページでも代表的な事例として掲載されていた時期もありますね。
■大企業病にぶつかり、「O-Den」が生まれる。
――その後、宮城から東京本社に異動されたのはいつ頃でしょうか?
山本氏 : 新サービスの立ち上げに関わるため希望を出し、2014年7月に東京のビジネス開発本部に異動しました。
――そこで、大企業病にぶつかったと。
山本氏 : そうですね(笑)。外に目を向けている社員も多くいましたが、私自身、社内の内向きの姿勢に耐えられなくなってしまったんです。自分で何もできないのがとても悔しくて……。
――なるほど。そうした際に、山本さんはどのようなアクションを取ったのでしょうか。
山本氏 : 会社の外に出て、人脈と知見を広めようと行動を起こしました。――そんなときに出会ったのが、当時パナソニックで「One Panasonic」という組織を立ち上げた濱松さんです(※)。パナソニックの若手有志が集う「One Panasonic」の話を聞き、これはうちでも必要だと強く感じ、組織に横串を通したいという思いを込めて「O-Den」(オデン)という社内活動をスタートさせました。
※濱松氏の詳細は右記のeiicon記事をご覧ください。#PEOPLE | ONE JAPAN・濱松氏に聞く「大企業の空気を変える術」とは
――「O-Den」がスタートさせるまでは、社内に若手が繋がる仕組みはなかったのですか。
山本氏 : 同期同士で繋がっているくらいでした。時間が経つと家庭ができたり、生活に変化が訪れ、段々と繋がりが薄れてきますよね。そんなときに出会った濱松さんには、大きな刺激にもらいました。濱松さんは大企業であるパナソニックの中で横の繋がりを生み出し、組織を活性化させようとしていたんです。
2015年5月に濱松さんと出会ってから「O-Den」の企画書を作成し、「この人なら賛同を得られろうだ」と思う同期や先輩に企画書を送って2015年6月に「O-Den」をスタート。「面白そう」と集まってくれた9名の社員から「O-Den」は動き出しました。
――その後、「O-Den」はどのように発展していったのでしょうか?
山本氏 : 社内外に関わらず、知り合いの知り合いも集まりながら活動していったのですが、段々と「これは何のためにやるのだ」と、みんなが自問自答し始め、半年間くらい停滞しました。
――そうなんですね。順調に「O-Den」というコミュニティの輪が広がったわけではなかったと。
山本氏 : 「O-Den」という場を作り、集まって、繋がって……。しかし、これって意味あるのかなと(笑)。そんな中でも「継続して集まるだけで価値があるのでは」と粘り強く続けていたら、NTTグループ内に知り合いがみるみる増えていきました。そして、参加人数が50名を超えた頃にようやく「O-Den」に盛り上がりが出てきたんです。これは意味のある集まりだと、自信が持てました。
――大企業の中で若手が新しいことを始めようとしても、反対意見や同調圧力で諦めてしまうケースも少なくないと思います。「O-Den」が軌道に乗ることができた要因とは何でしょうか?
山本氏 : やはり、継続したことです。先ほどもお話ししたように最初の停滞期も含めて、1年半くらいは上手くいってなかったんです(笑)。あとは、どれだけ人を巻き込み、社内インフルエンサーとなる人も引き入れられるかです。さらに、色んな人に飛び込みで会いに行って、名刺交換してSNSで繋がるとこまでできているかも実は大切です。内輪で5人、10人と集まっても、そこまで意味がないのです。
――上司や上の世代の方から、「O-Den」の活動に対して冷ややかに見られたことも多々あったかと思います。それを乗り越えるために、行動したことはありますか。
山本氏 : 大事なのは「仲間づくり」ですね。一人では絶対にやり切れませんから。私は仲間がいたので、自分の行動は間違ってないと思えたんです。「O-Den」で繋がっている人に本業で協力してもらう場面が段々と増え、それがまた「O-Den」の活動に繋がっていく。相乗効果で「O-Den」の輪が広がることで、周りからの批判も耐えることができました。
▲濱松誠氏、大川陽介氏と共に「共同発起人」を務めるONE JAPANの活動は書籍化もされている。
■愚直にやり切ることで、新しいことが生まれる。
――「O-Den」以外に、「NTT東日本アクセラレータープログラム」というオープンイノベーションの取り組みも山本さんが立ち上げています。新たな取り組みには上司の決裁が必要になると思いますが、その辺りはどのように進めていますか。
山本氏 : まず、「NTT東日本アクセレータープログラム」を立ち上げた背景からお話しします。「O-Den」やONE JAPANを経験し、さらに他社のアクセラレーターなどを見て、「外部の力を得てイノベーションを起こすことは必要だ、NTT東日本もやるべきだ」と強く感じました。しかし、企画書を上司に提出しても、良い感触を得られない。――そんなモヤモヤとした日々が続いていました。
そうしたときにタイミング良く、部門トップから「若手に元気がないから、何か新しいことをやらせなさい」と話が出てきたんです。これはチャンスと部門トップから了承を得て、アクセラレータープログラムを形作っていきました。
チーム結成のために社内で募集を呼びかけるとまずは「O-Den」のメンバーが来てくれて一緒に企画していく中で、仲間が徐々に増えていき、現在では、プログラムから当社の事業計画に乗るような共創も生まれてきています(※)。経営層も注目していますので、今年は結果を出す勝負の年ですね。
※共創事例参考記事:
NTT東日本流の共創|商流もゼロから創る。全国規模でビジネスを加速させた共創事業とは。
採択スタートアップ4社に迫るーースケールアクセラレーター、NTT東日本の実力
――山本さんは社外活動として、ONE JAPANにも共同発起人として取り組んでいます。そちらに関しては、今後何か計画はありますか?
山本氏 : 今がターニングポイントだと思っています。メンバーの力で進んでいった取り組みでしたので、今度は仕組み化していくフェーズになります。2018年には光栄にも日本オープンイノベーション大賞、日本経済団体連合会会長賞を頂いたので、これからは優れたアウトプットが求められていきます。
ONE JAPANに参加している企業同士でコラボしながら、組織内もボトムアップしていく。まさに、共創と組織改革の実現を目指します。さらに、継続してONE JAPANのメンバーも増やしていきます。そこまでやっていかないと、日本の文化を変えることはできませんから。
――最後にお聞きします。社内外において、多くの大企業の文化に触れている山本さんですが、日本の旧態依然とした文化は変わってきていると感じますか。
山本氏 : 徐々にですが変わってきています。――ただし、大企業は大きな組織なのでいきなりは変わりません。まずは働く若手・中堅社員が変わらないとダメだと思います。今あるルールや空気を疑い、意見を言って、ちゃんと知識も力もつける。人事部とディスカッションする機会があったのですが、若手社員ともっと関わらせてほしいと、私の考えをぶつけてきたばかりです。もっともっと、社内を巻き込んでいきたいですね。若手でも新しいことを生み出せるのを証明したいですし、みんなに勇気を与えたいと思います。その積み重ねで文化が変わっていくと思います。
頑張っている若手社員がいても、有志の集まりだけに時間を割いて、本業で結果を出さなければ「彼は何をやっているんだ」となってしまいます。大変ですけど、どちらも愚直にやり切ることが大切なんです。
■編集後記
新しい取り組みには、反対意見がつきまとう。そして、それがカタチになると、批判がつきまとう。志半ばで、新規事業や組織変革を諦めてしまった若手社員が、いったいどれほどいるだろう。いまだ、新しい取り組みに躊躇する大企業が存在する中、山本氏はNTTグループ内に新風を吹き込み続けている。その裏には、彼を支える多くの仲間が存在する。志を共にした仲間がいるからこそ、反対意見や批判を乗り越え、チャレンジしていくことができる。一人ではなく、仲間と共に進むからこそ、明るい未来が見えてくるはずだ。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:齊木恵太)