#PEOPLE | グランストーリー・越智氏――磁場を作り出し、事業を成功に導くリーダーのあり方とは?
事業の成功要因には、ビジネスモデルやスキルなど様々あるが、最も重要なのは「人」。リーダーシップのある人間がいるか、強い思いを持った人間が集まっているかが、事業の成長を大きく左右する。
「日本の企業には高い熱量で自らの可能性を懸けて挑戦するリーダー人材が少ない」――そう危惧するのは株式会社グランストーリー 代表 越智敬之氏だ。越智氏は「制約条件に囚われず、⾃らのあるべき姿から思考し、⾼い熱量と⾏動⼒で⼈びとを惹きつけていくリーダー」を「活き人(いきびと)」と定義。2019年にグランストーリーを起業し、「活き人」を増やし、応援し続ける活動を行っている。
サイバーエージェントやIDOM Inc.といった名だたる企業の最前線で活躍してきた越智氏が、人材開発の重要性を強く感じたきっかけとは一体何だったのか?この記事では、越智氏のキャリアをもとに、イノベーティブな事業創造に必要なポイントを解き明かしていく。
■株式会社グランストーリー 代表取締役CEO 越智敬之氏
1999年、早稲田大学在学中にWEB制作会社を起業。2002年、サイバーエージェント入社。以後、博報堂、AOI Pro.(現AOI TYO ホールディング)、IDOM Inc.を経て、2019年、次世代の社会イノベーションを担うリーダー(活き人)の育成・支援を目的に、株式会社グランストーリーを創業。代表取締役CEOに就任。
成果だけを求める仕事の虚しさが、仕事のやりがいを考えるきっかけに
――まずは越智さんのこれまでのキャリアについてお聞きしていきたいと思います。2002年に入社したサイバーエージェントでは、どのような仕事をしていたのか教えてください。
越智氏 : 大企業や急成長するベンチャー企業に、デジタル広告のコンサルティング営業をしていました。当時はまだマス広告が全盛期で、デジタル広告は黎明期でありマイノリティーなポジション。広告主はマス広告に大規模な予算投下をし、リーチと認知を獲得する大規模キャンペーンが主流の時代でした。
つまり圧倒的な規模(資本や事業チャネル)がないと、広告投資のROIが見合わない。それに対して当時のデジタル広告は今ほど主流ではなかったものの、小額投資で効率を高めながらトライでき、さらに顧客(生活者)セグメントやインサイトに合わせたきめ細かい施策が立案できました。ひとりひとりに気の利いた情報リーチで信頼関係を育みながら、購買行動を後押しする長期的な関係性も築いていける。
ソーシャルメディアの台頭でもはや当たり前となったコミュニティ運営をしながらエンゲージメントを育む発想は、あの当時から蓄積されてきたということですね。
またWEB広告を企業にコンサルティングし、普及させていくということは、企業の体質転換、つまり本質的なデジタルシフトが実現せねばなりません。そういった観点で、当時の私の使命はデジタル広告を高度化させていく本質的な意味をクライアント企業に伝えながら、デジタルシフトで顧客とのロイヤリティを築いていく戦略的意義を啓蒙していくことでした。
――どのような取り組みをされていたのでしょう。
越智氏 : シンプルに申し上げると、顧客との一期一会を大切にし、期待値を越える意義と価値を感じてもらうことを全力で取り組み続けました。またクライアントの担当者といかにして、一連託生のパートナー関係を築けるかに、とにかく注力し続け他のです。
「どうしたらクライアントの事業成果に中長期な貢献できるか」「担当者の困りごとや社内評価に貢献できるか」を強く意識し、クオリティとボリュームとスピードに際限を設けず、とにかく前のめりにコミットし続けました。
それを続けていると、大企業と下請け企業のただの取引関係ではなくなり、立場と役割を分けた「人と人」として協調と応援と共創の、良質な人間関係となっていました。商談も向かい合わせには着座せず、担当者の隣に座り、同じ方向をむいて伴走することが多かったですね。
なので、担当者の代わりに先方社内の稟議書を代書したり、自分もエントリーするはずの競合コンペをなぜか仕切らせてもらったり(笑)。そんな感じでしたので、どの担当者の方とも長く太くお付き合いさせてもらいました。今思えば、売上や利益をいただくこと以上に、深い信頼で繋がる人たちのお役に立てることが、何よりも嬉しく楽しかったんですね。
――当時から人材の重要性を感じることはあったのですか?
越智氏 : いえ、残念ながらサイバーエージェント時代は、顧客が大好きすぎる圧倒的一匹狼。いわゆるプレイヤー思考で、組織マネジメントや人材育成にはまったく関心はありませんでした。あまりにも顧客への想いが強すぎて、社内では傍若無人なプレイヤーと見られていたかもしれません(笑)。
今思えば、アイツはトップセールスだから仕方ないと目をつぶってくれていたのか、とにかくかなり自由にやらせてくれていました。あの当時、ご迷惑をかけた皆さまにはこの場をお借りし、謹んでお詫びしたいです(笑)。
――経営視点を身に付けるキッカケについて教えてください。
越智氏 : AOI Pro.で、突然グループ会社のターンアラウンド(事業再生)の責任者を任せてもらった時ですね。当時私が見ていた組織は、100人くらいのWEBインテグレーターです。
優秀なクリエイターやエンジニアばかりの個性的な職人が多い会社で、ひとりひとり能力は高いのですが、何せこだわりもプライドも高く、他者とのコミュニケーション連携が苦手。なので、多くのプロジェクトは、スケジュールもコストも管理が曖昧で、顧客企業との摩擦係数が高まるにつれ、納品予定も怪しくなる一方。納期寸前に我武者羅にやり遂げますが、プロマネ系の人たちはげっそり放心状態でした。そういったプロジェクトが常に20本くらい走っていましたね。
さらに一人あたりの給料は驚くほど高く、会社全体の利益構造はかなり厳しかった。私はどうにかリストラを一切せずに、まずは組織の体質改善として、プロジェクト管理の仕組みを見直し、また社内イベントなどで個人間の信頼関係やコミュニケーション不全を改善することで、生産性をあげようと奔走していました。
――結果はどうだったのでしょう。
越智氏 : 結果だけを見れば事業再生のプロジェクトは成功し、収益の上がる組織に再編できました。しかし、私個人のリーダーとしての評価は大失敗だったと思います。
マネジメントつまり管理職として数字を細かくチェックし、無駄をなくして利益を引き上げることには寄与しても、そのトレードオフとして、メンバーひとりひとりのモチベーションややり甲斐が高まった実感は乏しく、またロジカルなことばかりを言っている私自身も全く楽しくありませんでした。
その極めつけにメンバーから言われた「越智さんには緑の血が流れていますね」と言われ……あの一言はキツかった。私は会社のみんなが幸せになるために、身を粉にして孤軍奮闘で努力してきたと思っていましたが、彼らの目には私には感情などなく、ひたすらドライに、定量的な成果だけを求めている人と見えていた、ということなんです、この一言は。珍しく仕事が手につかなくなるくらいにショックを受けました。
それ以降は、組織心理学を元にしたいわゆるエンゲージメントや共感コミュニケーションについて深く勉強するようになりましたし、人生哲学や人間学、宗教や歴史についても勉強するようになりました。好きな武士の変容に例えると、宮本武蔵から、西郷隆盛や坂本龍馬にシフトするイメージです。
――なるほど。自分では成果主義である自覚がなかったのでしょうか。
越智氏 : それまで私が自己を形成したサイバーエージェントの組織文化は、よく言えば超自律分散型。ひとりひとりの功名心と主体性がとにかく高く、数字を求めるあまり、顧客すらも奪い合うくらいの競争心が漲っていました。
現在の同社ではあり得ない話ですが、睡眠時間と成果は反比例の法則にあると、本気で信じていましたね(笑)。ビジネスパーソンとして成果にコミットすることは、人が息をするのと同レベルの生態活動の一環だと。とんでもないくらいの勘違いをしていました。
対して、私の血が緑色だと揶揄された会社は、とにかくベテラン層も多い組織で、特に私が管掌した部門は12人中5人が50代。仕事の専門性や知識はあるものの、サイバーエージェントの若手のようにガツガツする仕事する雰囲気はまったく感じられません。
だから、私は訳もわからずひとりアクセルを踏み続け、業務管理を徹底し、10人くらいをマイクロマネジメントし続ける過覚醒モードで空回りし、経営リーダーとしてあるまじき状態でした。今思うと、本当に痛々しく苦々しい経験ですが、いろんな意味で貴重な人生修行をさせていただけたと感じます。
上辺だけの新卒採用はやらない。学生が変わる姿に天職を見つける
――組織マネジメントの重要性を痛感した後のチャレンジについても教えてください。
越智氏 : その後は日本の交通事情、特に地方の公共交通問題に課題意識があり、また日本の基幹産業の自動車流通業のことにも興味があり、中古車販売大手のGulliverを運営するIDOM Inc.(イドム)に転職し、新規事業の部門立ち上げに関わりました。
当時のIDOM Inc.は、オンラインを積極活用した新規事業を幾つも立ち上げようと舵を切り始めていたタイミングで、そのプロジェクトの一人目のメンバーとしてジョインした格好です。入社してからすぐに新規事業を考え、数百枚の事業企画書と書き続け、経営陣への事業プレゼンを繰り返していく中で、突如として組織人材の育成に関する課題が浮き彫りになっていきました。
――人材育成に関する課題というと?
越智氏 : Gulliverの店舗で働くプロパー社員は、リテール商売の根性は漲っていますが、オンライン起点で新規事業を考える肌感覚は皆無ですし、鳴り物入りで入ってくる中途採用の社員は中古車の営業会社に流れる独特のカルチャーになかなかフィットできません。
次世代な視点で筋の良さそうな事業を立ち上げられ、またその事業を長く育てていく人材がとにかく枯渇していました。そこで最終的に行き着いたのが、優秀な若手経営人材を採用し、どんどんチャンスをあげながら育て、5年後には強い新規事業体質な組織をつくろうよ、という発想でした。
そこで、新卒採用のターゲットをメガベンチャーや外資系コンサル会社に向かうレベルの人材にシフトする必要性を経営層に熱く説いていたら、突然その役割がブーメランとして私に返ってきて(笑)。そんな経緯から新卒ビジネス職の採用責任者を任されてしまったんです。
――どのような新卒採用を行ったのでしょうか。
越智氏 : 世間一般にありがちな採用活動はあえてほぼやりませんでした。多くの企業が採用説明会で「自社のいい部分だけ」をアピールしますよね。見た目も爽やかでシュッとした人事の人がそれをやると、真贋の見極めができない純粋で真っ直ぐな学生さんたちは、見事にそれを鵜呑みにします。
しかし、どんな会社においても、実際に入社してみると期待とは少し違ったリアルと出会います。会社の文化に慣れてしまえばまだ良いのですが、期待値ギャップに狼狽したままの人は「話が違う」「会社に騙された」と他責的に思いながら働くことになるのです。
その残念な事実は、近年の新卒の早期離職率の高さが見事に物語っています。企業サイドの人たちは「今時の若い者は我慢ができない」と、すぐさま根性論に本件を転嫁しますが、よくよく見たり聞いたりすると、単なるオーバートークとコンセンサス不足によるミスマッチ。人生でも圧倒的に成長が期待できる若い人たちの最初の貴重な数年を、そんな残念な結果、もしくはそんなスタンスで過ごさせてしまうのは、なんと罪深きことなのだと感じてしまいます。
企業にとって採用活動を継続することは重要なことですが、入社後、ひとりひとりが活躍できる状態まで責任を持って考え抜くことがあるべき人事のスタンスであり、経営戦略だと思います。
だから私はIDOM Inc.がどんな会社で、どんな人が働いているのか、ポジネガに関係なく、また私自身の率直な意見も赤裸々に伝えていました。企業と学生という立ち位置ではなくて、あくまで「人と人」という立ち位置に徹し、襟を開き、腹を割って話すことを、とにかく大事にしたのです。
――会社からは反対されそうですが、なぜそのような採用活動ができたのでしょうか?
越智氏 : もともと新規事業をやるために入社したのに、いつの間にか採用を任され、ある種の開き直りもあって、会社には「自分のやりたいようにやれるなら全力でやります」と啖呵を切っていたからですね。
もちろん採用戦略はしっかり練って、ストーリーもビジョンも描き、そこに理解もしてもらえていましたが、かなりの放し飼い状態で自由にやらせてもらいましたね。感覚的にはサイバーエージェントの一匹狼状態とあまり変わらず。
――最初は乗り気ではなかった採用活動は、好きになれたのですか。
越智氏 : 好きになった、いうよりも、もはや私の天職だと思えました(笑)。人が気付いたり、変わろうとするキッカケを作ったり、学生たちが自分の意志を大切にファーストキャリアを選ぶのを手助けするのがとにかく楽しくて、学生に会って1日中面談し続けていても、なぜか全く疲れませんでした。あの当時の経験が、私自身の命の使い方、エネルギーの動かし方を教えてくれ、今の私の活き方のまさに原点でもありました。
現在も取り組んでいる、次世代リーダー「活き人」を増やすためのプログラム「IGNITION」も、学生のインターンシップで勉強してきた「成人発達理論」を、社会人向けに発展させたものです。
世間一般的に学生向けに行うインターンシップ研修といえば、ビジネス思考を根付かせるロジカルシンキングやフレームワーク系が多いですが、私はそういった定石やセオリーを真似するだけの机上体験は、それほど重要ではないと思います。実践の中で身につけることの方が重要だと思いますので。今も昔も大事にしていたのは、ひとりひとりの心に火を点けて、その燈をエネルギーに変換する「場」、つまり原体験の機会を届けたいという想いです。
ちなみに学生に行っていた時は、功名心や承認欲求が内省と気付きの邪魔をするので、選考とは全く関係がないから、就活のことは一切忘れて、目の前の瞬間瞬間にだけ深く意識を向けよ、と伝えていました。
――学生だけでなく、社会人にも必要な内容ですね。
越智氏 : 仰るとおりです。実際にそのプログラムをIDOMの社員向けの研修プログラムとしても活用したこともあり、かなり大きな効果がありました。それまで、言われたことを正しくやることばかり気にしていたメンバーたちが、自分で考えて自律的に動けるようになったのです。
その他にも横のつながりが強固になって、チームでの連携が生まれるようになりました。定期的に飲みに行って、どうしたら会社をよくできるか本気で話し合うようにもなりましたね。IGNITIONで変わったと周りは言っていましたが、私は本来の自分らしさを取り戻した、目を覚ましただけだと常に感じていました。
学生でも、インターンシップ研修を通じて、初対面の関係から、一生ものの親友になることは、珍しくありませんでした。ただ表面的に励まし合うだけの関係ではなく、厳しくも温かい愛のある言葉を投げつけてくれる本気の仲間がいることは、ひとりで生きていく上ではとても重要なことだと思います。切磋琢磨できて、自分を奮い立たせてくれるライバルのような仲間は人生の宝物ですよね。
被災地で見た「活き人」。一人のチャレンジが磁場を作り出し、人を吸い寄せる
――IDOMで「天職」を見つけたにも関わらず、独立して、次世代の社会イノベーションを担うリーダー(活き人)の育成・支援を目的にした株式会社グランストーリーを立ち上げています。それはなぜでしょうか?
越智氏 : これはIDOM Inc.に限りませんが、大企業には様々な制約があり、自分が心から本気でやりたいことに向かうためには、つまりもっと広く「活き人」を増やし応援し続けるには、その環境を自分で創るしかないと感じました。
しかし、実は最初から起業を前提に動いていたわけではありません。株式会社グランストーリーの共同創業メンバーの田島(聡一氏)と、「日本が抱える社会課題のために我々が人生を懸けて取り組めること」と、今考えても熱くて火傷しそうなテーマで、半年間、たびたび会食をしながら、目に涙を浮かべながら語り合っていました。
田島はベンチャーキャピタル業界で獅子奮迅の活躍、つまり命がけでスタートアップの経営の支援をしてきた男なのですが、彼自身はIPOやイグジットなど、エクイティの出口戦略を描ける企業にしか投資活動ができないことに、もどかしさを感じていました。
スタートアップでなくても、素晴らしいチャレンジしている企業はたくさんあります。しかし、社会課題にダイレクトに対峙し続けるNPO(特定非営利活動法人)を営む社会起業家には、投機的なリターンが描けないために、なかなかお金が集まりません。日本は募金や寄付文化も欧米と比べると規模がまだまだ小さいですし。
日本は金余りな国にも関わらず、必要なところに資金が集まらないのは文化や意識の問題と、構造的な問題があると感じています。例えば、私は何度も福島や宮城に足を運んでいるのですが、東北の被災地には素晴らしいチャレンジをされているリーダー、「活き人」がたくさんいますが、皆さん本当にお金の面では苦労されています。
――東北に行くようになったきっかけ何だったのでしょうか。
越智氏 : 実は大学2年生のまだ半人前以下だった頃に阪神淡路大震災を経験しまして、その時は自分が生きるために必死で、誰かのために生きる余裕はありませんでした。そして2011年、東日本大震災が起きた時に当時の感覚がフラッシュバックしたとき、やっと一人前になったつもりの自分は、結局今もなお本当に困っている人たちの力にはなれていないことを痛切に感じて、とても胸が痛みました。
東日本大震災から数年が経ち、ようやく東北に足を運ぶようにご縁ができました。現地でチャレンジしている人たちは、決して震災を悲観的に捉えていませんし、まずは目の前の問題に自分は何をどうするかをシンプルに捉えて、とにかく考えるより先に動きます。
そうやってエネルギーを出して動き続けている人の周りには、いつしか強力な磁場ができて、さらに多くの人や機会が吸い寄せられていくことをたくさん見たり聞いたりしました。
彼らこそ私に「活き人」の在り方を教えてくれた人たちです。私もその磁場に触れることでエネルギーを高め、内面的にも成長させてもらいました。彼らのような「活き人」をあらゆる産業や地域に増やすために、持続的に挑戦していこうと、田島と共に決意を固め、グランストーリーを創業しました。
――グランストーリーでは、次世代のリーダーを志す人たちを対象とした「活き人」への行動変容プログラムとして「IGNITION」を展開されています。その内容についても教えてください。
越智氏 : 1回のプログラムをだいたい2ヶ月かけて行うのですが、最初は必ずセルフマネジメントのプログラムからスタートします。活き人の定義を聞くと、みなさん「すごく頑張っている人でしょ?」というイメージを持つかもしれませんが、むしろ全く逆です。自分をコントロールすることで、自然体でも高いパフォーマンスが出せるようにしているのです。マインドフルネスをしたことがある方は、イメージしやすいかもしれませんね。
他にもシアターワークといって、演劇を使ったワークショップもかなり丁寧に行います。自分と他人の境界線が少しずつなくなっていくような感覚から不思議と内観が高まり、また、心と身体の向かいたい方向に自然と向かっていける状態がもたらされるという、なんとも説明の難しいプログラムです。こればかりは実際に体感しないとわからないと思いますね。
頭のいい人は頭と口だけを使って話す人が多いですが、実はボディランゲージや表情など、視覚的な要素の方が相手には伝わるのです。海外のプレゼンを見ると、みんな身体を動かしているのが分かりますよね。日本ではうまく身体を使ってプレゼンできている方はそれほど多くありません。周りを巻き込むには、言葉だけでなく身体全体で相手に伝えるためのトレーニングが必要不可欠なのです。
▲「IGNITION」は、“心のど真ん中を見出し、人生のテーマを見出す心のOSをアップデートするプログラム”。第1期(2月〜3月)は大好評の元で修了し、第2期は6月〜8月にオンラインセッションで開催される予定だ。
―― 一般的なビジネススクールとは一線を画す内容ですね。どのような方が受講しているのでしょう。
越智氏 : スタートアップの次期経営幹部の方や、フリーランスのエンジニアの方、大企業にいて組織を変革したいリーダーシップのある方が受講されています。
▲第1期IGNITIONのダイジェストムービー( https://youtu.be/mi2ITDDSifE )
▲IGNITIONのラーニングコンセプト図より(詳しくはWEBサイトを参照)
――それでは最後に、活き人が増えることでどんな未来をイメージしているか教えてください。
越智氏 : 一言で言えば、日本の幸福度ランキングを上げたいですね。社会の幸せのために誰かが犠牲になるのではなく、お互いに活かしあえる公益性や共感資本が機軸となる社会になればと本気で思っています。
そのためには今ある常識を批判的に捉え、新しい常識で塗り替えていかなければなりません。大量生産・大量消費・大量廃棄、今だけここだけ自分だけ、競争を煽るような同調圧力に恐れを抱き、その恐怖に打ち勝つ為に頑張る。そんな風潮がなくなれば、きっとそれは新しい幸福な社会なんじゃないかと。
単に全部取って変わる必要はなく、今ある「良いもの」はちゃんと丁寧に残しながら、適切な新陳代謝のある社会や企業が次の当たり前になればと考えています。
そのためには、良くも悪くも大企業の存在がキーになっていくと思います。大企業の中には、今でも過去の成功体験から脱却できずに、苦しい状況が続く企業も多いです。それを変えようにも大企業のシステムの力は強くて、簡単には変われません。トップの考え方が変わらなければ会社全体が変わることはないでしょう。
その一方で、大企業は多くのアセット・ケイパビリティがあり、社会的なインパクトを出せることも重要な事実です。だから、大企業の中に「活き人」が増えて、内も外も関係なく、社会起点、未来起点で、ダイナミックに動き出せば、膠着した文化を消え失せて、結果世の中を大きく変えられると思っています。
編集後記
インターネットビジネスでキャリアを積んできた越智氏が、最後に人材開発に行き着いた意味は大きい。ネットの世界では、とかく形式知的なスキルが重要視されがちだが、ネットとリアルが融合していくこれからの時代に求められるのは、暗黙知的な「活き人」のスキルなのかもしれない。「自分と向き合う」「相手に想いを伝える」といった数値化できない力が、これからの時代に新しい価値を生み出すために必要になってくるはずだ。
(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平、撮影:古林洋平)