経産省 | CVC活動にフォーカスした「ベンチャー連携の手引き(第三版)」発表ーー7つの重要課題とは?
経済産業省は、イノベーションの創出のために重要な「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携」を促進するため、連携の一つとして近年注目が集まっているコーポレート・ベンチャーキャピタル(以下、CVC)に焦点をあて、CVC活動における課題の整理とその解決策について、「手引き」として第三版を取りまとめ、2019年4月に発表した。
本記事では、全87ページにわたる「手引き(第三版)」について、作成された背景・目的と共に、内容のポイントについて紹介していく。
■近年注目が高まっているCVCについて有識者と共に作成された「手引き(第三版)」
昨今、IoT、ビッグデータ、ロボット、AI等の技術革新による第4次産業革命が進展し、製品のライフサイクルが短期化している。このスピード感に対応していくためには、モノと情報、社会と技術、生産者と消費者など様々な繋がりにより新たな付加価値を創出する“Connected Industries”を生み出すことが重要であり、これを実現する手法として、社内外の技術、人材、ノウハウ等を活用し、迅速かつ効率的にイノベーションを実現する、いわゆる「オープンイノベーション」が有効となる。
特に、大企業などの事業会社にとっては、従来の自前主義から脱却し、新規事業開発等において研究開発型ベンチャー企業(※)の技術と成長力を取り込んでいくこと、そして研究開発型ベンチャー企業にとっては、自社のコア技術を大企業が持つ販路やマーケティング等のノウハウの助力を得て、より大きなビジネスへとつなげていくことが必要となっている。(※新規性、革新性の高い自社技術を活用して事業を行うベンチャー企業)
しかしながら、日本国内では未だにオープンイノベーションの取組、特に事業会社と研究開発型ベンチャー企業による連携が上手く進んでいない現状にある。――このような問題意識から、経済産業省は、2017年度には、事業会社・ベンチャー双方に役立つ『連携のための手引き(初版)』(★)を発表。さらに、2018年度は、事業会社側のベンチャー企業との連携事例に焦点をあてた『連携のための手引き(第二版)』を取りまとめた。
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今年度は、さらに連携を進める方法の一つとして近年注目が集まっているコーポレート・ベンチャーキャピタル(以下、「CVC」という)に焦点をあて、国内外の事例調査等を実施するとともに事業会社の社外連携責任者、ベンチャー企業の役員、大学関係者、法務・知財の専門家と共に検討を行い、「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(第三版)」として取りまとめた。
今後、初版、第二版の2冊の手引きを連携の基礎とし、さらに連携を進めるため連携の手引きとして第三版が活用されることによって、事業会社と研究開発型ベンチャー企業両者の相互理解が深まり、連携が活性化し、次々とイノベーションが生まれ、日本の産業競争力の強化に繋がっていくことが手引き作成の目的となっている。
<ベンチャー連携の手引き「初版」「第二版」「第三版の位置付け」>
■手引きの内容とポイント
「手引き(第三版)」は、大きく4つの章で構成されている。前半の章では、CVC活動を行う場合の基本として、CVC活動の重要性やベンチャー連携における位置づけについて集約。さらに、後半の章では、CVCの設計、運用などCVCを推進する上での問題とその対応策について事例を踏まえ、まとめられている。――それぞれの章について、以下にポイントを紹介していきたい。
【第1章】事業会社におけるCVC活動の重要性
海外の事例として、大手米国企業の動向を紹介。CVCを活用しイノベーションをベンチャー企業から積極的に取り込み、成長の原動力としている事例を示している。その一方で、近年、日本企業のCVC投資額も急増。しかしながら、設立後、年数が経過するに従って問題を抱えるCVCが増加しており、CVCが日本に根付いていくか否か、これからが正念場と言えることがデータで提示されている。
<近年の日本企業のCVC投資動向>
【第2章】コーポレート・ベンチャリングにおけるCVCの位置付け
CVCは、コーポレートベンチャリングの手法の一つであり、目的から必要性についても検討することが必要であることに言及。さらにコーポレートベンチャリングには5つの目的が存在することを以下図のように表している。また、CVCによる投資は、「本体投資」、「CVCファンドによる投資」、「VCへのLP出資」という3つに分類することができ、使い分けが求められる。さらに、それぞれのメリット・デメリットも紹介している。
<コーポレートベンチャリングの目的の類型>
<ベンチャー投資の類型>
【第3章】CVC推進上の課題と対応策
最もページ数が費やされている本章では、CVC活動を実施している企業に見られる課題を類型化。下記の7つの重要課題を設定している。
●経営との握り
●目的に応じた投資方針の設定
●迅速な意思決定構造の設計
●事業部門の巻き込み
●人材・スキル強化
●ソーシング強化
●協業の推進
<CVC推進における7つの問題>
また本章では、先行企業における各課題への対応策を事例として記載されている。(事例として紹介されているのは、富士フイルム、リクルート、東京エレクトロン、ニコン、三井不動産、旭化成、オムロン、リアルテックファンド、東京土地建物、ユーザベース、KDDIなど)
【第4章】先行企業におけるCVC活動事例
第3章で掲げられている7つの重要課題について、下記3企業がそれぞれどのような対応を取りながらCVC活動を発展させていったかがストーリー形式で記載されている。
●KDDI株式会社の事例
主に、「KDDI Open Innovation Fund」を通じ、これまでに50社のベンチャー企業への投資実績を有する。Greeへの投資による成功体験から、ベンチャー連携の重要性を認識。2012年のファンド設立から、CVC投資を通じてこれまで27件の事業提携、5件の子会社化を実施。
●株式会社ニコンの事例
2014年に300億円の予算を獲得し、CVC活動を開始。2016年にSBIインベストメントと二人組合形式のプライベートファンド「Nikon-SBI Innovation Fund」を設立。同年に構造改革着手後も、経営とオープンイノベーションを目的として握り直すことにより、活動を継続。実績を積み上げている。
●旭化成株式会社によるCVC「旭化成ベンチャーズ」の事例
2008年にCVC活動を始め、2011年には拠点をシリコンバレーに移転。同年、「旭化成ベンチャーズ」を設立。米国にて、エネルギー・環境領域、ヘルスケア領域でのVB投資を実施。実績を積み重ねる中で経営の信頼を獲得し、予算増額、現地への権限委譲などを実現してきた。
■CVC活動はイノベーションを推進するために必要不可欠なエンジン
本手引きの作成に関わった有識者から、以下のようなコメントが発せられている。
●早稲田大学ビジネススクール教授 長谷川 博和氏
「CVCは単に事業会社のR&D部門の外部委託ではありません。技術シーズの探索や意思決定スピードの迅速化、起業家精神を社内に浸透させる起爆剤にもなります。またベンチャー企業にとっても単にリスクマネーの獲得だけでなく、連携による企業成長の加速化も期待できます。CVC活動はイノベーションを推進するために必要不可欠なエンジンです。」
●森・濱田松本法律事務所パートナー 増島 雅和氏
「多くの企業がOIの実現策としてCVCを設定していますが、CVCに「one fits all」の戦略があるわけではないことが十分に理解されていない結果、所期の成果を上げられず苦労されている企業が多いように見受けます。
本報告書を通じて、CVCの形態は各社の戦略にフィットしたものである必要があることを理解頂き、見直しの契機として頂くことを大いに期待したいと思います。」
※本記事で紹介した「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(第三版)」は、コチラからご覧ください。