「大学発ベンチャー表彰2019」発表ーー受賞した6社とは?
近年、大学発ベンチャー数が増え、市場での存在感も増している。――以前のeiicon記事でも紹介したが、経済産業省による「平成30年度大学発ベンチャー実態等調査」によると、2018年に確認された大学発ベンチャーは2,278社となっており、前年に確認された2,093社から185社増加(下図参照)。また、現在上場している大学発ベンチャーは64社。その時価総額は、2.4兆円だ。
このように、注目を集める機会も増えた大学発ベンチャーを表彰する制度も設けられている。それが、科学技術振興機構(JST)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「大学発ベンチャー表彰」という取り組みだ。
大学などの研究開発成果を用いた起業および起業後の挑戦的な取り組みや、大学や企業などから大学発ベンチャーへの支援などをより一層促進することを目的とし、2014年からスタートしている。これまでに、慶應大発で人工合成クモ糸の製造を手がけるスパイバーや、東大発で宇宙ビジネスを展開するアクセルスペース、同じく東大発でIPOも果たしているPKSHA Technologyも表彰を受けた。
2019年7月に発表された「大学発ベンチャー表彰2019~Award for Academic Startups~」では、44件の応募の中から、外部有識者で構成される選考委員会の審査・面接審査を経て、大学発ベンチャー6社とその支援大学・支援企業の受賞が決定。
『文部科学大臣賞』には、東京大学助教だった西村邦裕氏が起業し、AIを用いたがんのゲノム医療に関する技術開発を手がけるテンクーに決まった。また、『経済産業大臣賞』には、九州大発で次世代有機EL発光材料の開発を行うKyuluxが受賞した。――以下に、各賞の受賞ベンチャーと受賞理由を紹介していく。
【文部科学大臣賞】
■受賞企業・事業内容
株式会社テンクー 代表取締役社長 西村 邦裕氏 https://xcoo.co.jp/
がんのゲノム医療のAIソリューション「Chrovis」(クロビス)の開発とサービス提供
■支援大学
東京大学 医学部附属病院女性外科 准教授 織田 克利氏
■大学による支援内容
東京大学助教であった西村邦裕らが中心となり創業。
東京大学医学部附属病院の実施するがんゲノム医療に向けたゲノム医療研究プロジェクトから医師主導治験などを含めて、臨床の現場での意見交換や臨床研究におけるデータ解析などを共同して行っている。
■受賞理由
がんのゲノム医療のAI製品を実際の臨床現場にて展開し、がんゲノム医療の社会実装に貢献している点が高く評価された。ゲノム情報と文章概念をAIにより統合し、がん治療にこれまでに無いソリューションを提供する技術であり、今後大きく成長することが期待される。
【経済産業大臣賞】
■受賞企業・事業内容
株式会社Kyulux 代表取締役社長 安達 淳治氏 https://www.kyulux.com/
次世代有機EL発光材料TADFの開発・製造・販売
■支援大学
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長 安達 千波矢氏
■支援企業
QBキャピタル合同会社 代表パートナー 坂本 剛氏
■大学による支援内容
九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)と共同研究契約を締結。安達千波矢センター長(教授)は共同創立者でもあり、技術アドバイザーとしてTADF材料の実用化を目指し、新規TADF材料開発を全面的にサポートしている。
■受賞理由
レアメタル不要の有機EL発光材料の事業化に向け国内外からの資金調達を進めるとともに、事業会社とのアライアンスを構築する等、外部機関との連携を活かして事業化を進めている点が高く評価された。低価格、省電力で有機ELディスプレイを高い色再現性で高精細化することのできる日本発の素材メーカーとして、大きく成長することが期待される。
【科学技術振興機構理事長賞】
■受賞企業・事業内容
エディットフォース株式会社 代表取締役社長 小野 高氏 https://www.editforce.jp/
創薬、種苗、化学等産業への応用を目的としたDNA及びRNA編集技術の共同研究開発とライセンシング事業
■支援大学・支援企業
九州大学 農学研究院 准教授 中村 崇裕氏
KISCO株式会社 代表取締役社長 岸本 剛一氏
■大学による支援内容
九州大学保有の特許について独占的な実施権の許諾を認可頂いているほか、大学内に約300平方メートルのラボスペース及び事務スペースを貸与頂いている。また同学ベンチャー支援課より、ビジネスマッチング、各種イベント参加、人材紹介等、多岐にわたる支援を頂いている。
■受賞理由
PPRたんぱく質工学を利用した新たなゲノム編集技術で、DNA編集だけでなくRNA編集を統合できる技術としての将来性が高く、日本発のゲノム編集技術の事業化を外部機関との連携を活かして着実に進めている点が高く評価された。創薬、農業、食品など応用範囲は広く、世界初のRNA編集技術の実用化により、今後大きく成長することが期待される。
【新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長】
■受賞企業・事業内容
Icaria株式会社 代表取締役CEO 小野瀬 隆一氏 https://icariacorp.com/
尿中miRNA をバイオマーカーとしたがん10種の早期診断
■支援大学・支援企業
名古屋大学 大学院工学研究科 准教授 安井 隆雄氏
ANRI パートナー 鮫島 昌弘氏
■大学による支援内容
弊社のコアテクノロジーはmiRNAを高効率で抽出できる酸化亜鉛ナノワイヤデバイスにあるが、このデバイスは共同創業者である安井准教授の研究をベースにしたものである。デバイス領域以外でも、弊社技術顧問として日常的に幅広く支援を頂いている。
■受賞理由
非侵襲で簡単に採取できる尿から高効率でエクソソームを捕捉しmiRNAを抽出、網羅的に解析する技術により生体情報を把握できることから将来性が高く、外部機関と連携しながら着実に実用化にむけて進めている点が高く評価された。尿中miRNAの網羅的な解析による診断から新しい治療法の開発まで幅広く本技術が活用できることから、大きく成長することが期待される。
【日本ベンチャー学会会長賞】
■受賞企業・事業内容
株式会社KORTUC 代表取締役 松田 和之氏 https://kortuc.com/
放射線によるがん治療の効果を安全に高める増感剤(KORTUC)の臨床開発および製品開発を行う。
■支援大学・支援企業
高知大学 名誉教授 小川 恭弘氏
The Royal Marsden Hospital Professor John Yarnold
■大学による支援内容
小川恭弘博士が高知大学在籍中に放射線増感剤KORTUCを発明され、その後臨床研究を積み上げ論文発表を続けてこられた。さらに他大学等での臨床研究の広がりも支援されてきた。そして、当社はその成果である特許の独占ライセンス権等を受けている。
■受賞理由
すでに国内複数の施設で多数の治療効果をあげるとともに、英国のがん研究機関との連携により臨床試験を進め、日本発のがん治療法の世界への展開にむけ着実に進展している点が高く評価された。がんに対する放射線治療の効果を安全かつ低コストで高める技術であり、対象市場が大きく、乳がんのみならず、様々ながん種に展開する可能性があることから、今後大きく成長することが期待される。
【アーリーエッジ賞】
■受賞企業・事業内容
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 https://pixiedusttech.com/
大学から生み出される研究を社会に存在する課題の解決のために連続的に社会実装する仕組みを構築する。
■支援大学
筑波大学 国際産学連携本部 本部審議役 内田 史彦氏
■大学による支援内容
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社が目指す大学発の技術の連続的な社会実装を支援するため、同社と特別共同研究事業を実施した。また、そこで生み出された知的財産を新株予約権を梃子に同社に予約承継させ、契約交渉のコストを抑えるスキームを構築した。
■受賞理由
波動制御技術をコア技術に社会課題をコンピュータテクノロジーで解決していく技術者集団として、聴覚、視覚、触覚の領域で顧客の課題解決から実装まで実施する点がユニークである。IoT時代における大学研究成果を社会実装する新たなモデルとして注目され、実用化による大きな社会的インパクトの創出を期待したい。
なお、「大学発ベンチャー表彰2019」の発表に合わせて、表彰式が下記概要で8/29に開催される。受賞者によるピッチも行われる予定となっており、気になった方は足を運んでみてはいかがだろうか。
<大学発ベンチャー表彰2019 表彰式概要>
■日時 : 2019年8月29日(木)午後2時30分~午後4時30分
■会場 : 東京ビッグサイト 青海展示棟Bホール メインセミナー会場(東京都江東区青海1-2-33)
■プログラム :
・開会挨拶
・選考委員長講評
・受賞者ピッチ
・授与式
・来賓挨拶
・閉会挨拶
https://www.jst.go.jp/aas/ceremony.html
※参考リンク:大学発ベンチャー表彰 Webサイト
(eiicon編集部)