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拡大する「ノンターゲティング分析」のフロントランナーへ——センシング×AIで複雑なものを複雑なまま評価する、コニカミノルタの新技術『FLAIRS』。

拡大する「ノンターゲティング分析」のフロントランナーへ——センシング×AIで複雑なものを複雑なまま評価する、コニカミノルタの新技術『FLAIRS』。

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1873年に写真材料の販売を祖業として誕生したコニカミノルタは、長年培ってきた光、色、イメージング技術を核とし、オフィスをはじめ医療、産業分野で多様なソリューションを展開している。同社は現在、強みとする材料技術と光学技術にAIを掛け合わせ、新たな事業領域の開拓に挑んでいる。

その象徴的な取り組みの一つが、相互作用蛍光検出システム『FLAIRS(フレアーズ)』(※1)だ。複数の特殊な蛍光プローブ(蛍光物質)を用いて、物質の状態や相互作用に関する性質を、蛍光強度・色の情報として取得する。それを、機械学習によって知りたい情報と紐づけることで、 状態の判別・機能の予測を可能とするセンシング技術だという。『FLAIRS』の本格的なローンチを目前に、食品分野、工業製品製造分野、医療・化粧品分野等でテストマーケティングと共創が進んでいる。今後コニカミノルタは『FLAIRS』の事業化とそれを活用した共創を、より積極的に展開していくという。

TOMORUBAでは、『FLAIRS』の技術開発と事業開発を牽引する岡田氏にインタビューを実施。開発の起点となった自身の原体験から、多様な業界で進む試験導入の現状、そしてこの技術が切り拓く「ノンターゲティング分析」の未来像について話を聞いた。成分分析の常識を覆し、未知の領域に挑む同プロジェクトが見据える新時代のパラダイムとは。

※1)FLAIRS (フレアーズ):FLuorescent Analysis with Inductive Recognition Systemの略。

既存の分析手法では解決不能だった、「同一成分なのに性能が変動する」という課題

――まずは、岡田さんのこれまでのご経歴からお伺いできますか。

岡田氏 : 私のバックボーンは材料技術です。入社以来、一貫して蛍光物質などの研究開発に携わってきました。今の事業を担当する前は、蛍光粒子を活用したシステムの開発に取り組み、材料を基盤にソフトウェアを融合した仕組みづくりも経験しました。その際、東北大学の先生方と共同研究を進め、事業化へとつなげたのですが、実はその経験が、私にとっての共創の原点になっています。

▲コニカミノルタ株式会社 技術開発本部 アドバンストセンシング推進室 

センシング事業部 中長期戦略・事業領域拡張 連携推進

シニアディレクター 岡田尚大 氏

――『FLAIRS』には、いつ頃から関わっているのですか。

岡田氏 : 4〜5年前、現在の技術開発本部へ異動したタイミングからです。当時、別の研究者2名が、すでに『FLAIRS』の原型となるプロトタイプを開発していました。その話を聞いた際、私が前の部署で取り組んでいたプロジェクトで解決できなかった課題が、この『FLAIRS』を使えば解決できるのではないかと思ったのです。そこから、このプロジェクトに関わり始めました。

――その解決できなかった課題とは、具体的にどのようなことだったのでしょうか。

岡田氏 : 蛍光粒子を作成する過程で、表面をポリエチレングリコールという物質でコーティングする工程がありました。いつも同じメーカーのポリエチレングリコールを使用していたのですが、ロットが変わった途端に性能が大きく低下することがあったのです。あらゆる分析を行ったのですが、成分上の違いは見つけることができませんでした。

実は、この事例のように、人間が分かる部分の成分差ではないところに、何らかの原因がある例は、世の中にたくさんあります。この問題に対して、『FLAIRS』なら、中身の深い部分までは分からないにしても、このロットの材料が使えるのか使えないのかは、AIで判別できるようになる。最初、この話を聞いた際、「既存の測定方法の枠を超えた、まったく新しい概念の測定手法だ」という印象を持ちました。

――そもそも『FLAIRS』は、どういった背景から生まれた技術なのですか。

岡田氏 : 当社が保有するコア技術は、「材料・光学・微細加工・画像」の4つに大別されます。『FLAIRS』は、蛍光物質を多数生成し、そこにサンプルを反応させることで生じる微妙な色の変化をデータとして取得する仕組みです。そのため、まず材料をつくる技術が基盤にあります。さらに、色の変化をどのように計測するかという点では、当社が得意な蛍光領域の技術が活かされています。

こうしたコア技術に対してAIを掛け合わせ、新たな事業を創出していくというコンセプトから生まれたのが『FLAIRS』で、まさにそのコンセプトを体現した取り組みなのです。

天然由来原料の判別からワインの香り評価まで―共創を通じて見えてきた活用フィールド

――中身の細かい成分までは分からなくても、現場で必要な「使える・使えない」の判断はできる。身近な例でいうと、どういったイメージでしょうか。

岡田氏 : 官能評価(人間の五感の評価)という観点でお話しすると、例えばラーメンのスープでも、塩分濃度やタンパク質の量など、さまざまな成分を分析することは可能です。ただ、それだけデータが集まっても、「美味しいかどうか」は別問題です。一般的な味覚センサーでは、甘味や酸味、塩味といった測定値は出すことはできますが、それが美味しさに直結するわけではありません。

『FLAIRS』は、「人が美味しいと感じるかどうか」を学習させて、例えば日本人であればどの領域に入ると美味しいと感じるのか、逆にどこから外れると違和感があるのか、といったところが捉えられる技術になっています。

▲『FLAIRS』(画像右)は、センシング×AIで複雑なものを複雑なまま評価するソリューションだ。(画像出典:コニカミノルタHP

――なるほど。競合するプロダクトは存在するのでしょうか。あるとしたら、差別化ポイントは?

岡田氏 : 例えば、LC-MSやGC-MSといった分析機器を用いて、成分を詳細に解析するケースがあります。ただ、これらは測定には時間がかかるうえ、専門的なノウハウも求められるため、苦労されているという声を多く聞いています。

また、類似コンセプトの競合製品もありますが、差別化ポイントは二つあると考えています。

一つ目として、数多くの蛍光プローブを用いることにより、非常に多岐にわたる有用な情報を得られること。これは他のモダリティを使って同様なことを試みている競合と比較して大きなアドバンテージになります。分類力、予測力などが競合に比べて非常に高い感触を得ています。

二つ目として当社の強みは「ハイパースペクトルカメラ」(※2)を保有していることです。私たちはこの営業チームとコラボしているのですが、固体解析にはハイパースペクトルカメラ、液体や気体の解析には『FLAIRS』という棲み分けで提案ができる。この点が優位性になると考えています。

※2)ハイパースペクトルカメラ:光を波長ごとに細かく分光し、従来のRGBカメラよりも多くの波長情報を同時に取得できる特殊なカメラ。

――『FLAIRS』は現状、どういった事業フェーズなのでしょうか。

岡田氏 : 昨年よりテストマーケティングの第1弾として、お客様がお困りになっている対象物を、当社のラボにお送りいただき、測定する検証を進めてきました。今年の夏頃からは第2弾として、測定器そのものをお客様の現場に設置し、現場で測定していただくテストを予定しています。すでにさまざまな形でお試しいただける状態になっています。

――どのような企業が、どういった用途で『FLAIRS』に興味をお持ちなのですか。

岡田氏 : 例えば、食品メーカー、化粧品・医薬品メーカーです。これらの分野では天然由来の原料を使うケースが多く、その違いや品質の判別が難しいという課題があるため、原料の判別に『FLAIRS』をご利用いただいています。また工業製品の領域でも、原料や処理剤の劣化度合いを判定したいという要望をいただいています。

他にもユニークな事例では、冷凍ご飯に添加剤を加えてふっくらさせる実験に取り組まれているお客様で、添加剤を入れた場合とそうでない場合の状態の違いを分類してほしいというお話をいただきました。実際、炊いたご飯を液体に抽出し、『FLAIRS』で分析したところ、明確に分類ができたのです。これには我々も正直、驚きましたね。

――液体だけではなく、固体でも分析ができるのですね。

岡田氏 : そうです。例えば、かまぼこなどの固体食品でも、液体に抽出することで分析ができることが分かってきています。さらに、最近ではワインの香りの評価も実施しました。通常、ワインの香り成分は揮発した状態だと非常に薄く、捉えるのが困難なのですが、あえて液体の状態のまま『FLAIRS』にかけてみたところ、非常に高精度に評価ができました。このように、お客様との共創を通じて、『FLAIRS』の活用範囲は当初の想定以上に広がっていると感じています。

▲相互作用蛍光検出システム『FLAIRS』の展示。材料・光学・AIを組み合わせ、従来の分析では捉えきれなかった差異の可視化を可能にする。

▲複数の蛍光プローブを用いて試料の状態を可視化する『FLAIRS』の測定イメージ。Sample AとSample Bの違いを、色や強度のパターンとして捉える。

――実際に試験導入されたお客様から、どのようなフィードバックが寄せられていますか。

岡田氏 : お客様からは、「これまで分からなかった違いを、より精緻にチェックできるようになった」と言っていただくことが多いです。冒頭にお話しした私の原体験のように、既存の分析手法では同一という結果しか出ないのに、なぜか違うものができて困っているというお客様はやはり多いです。その方たちに「分類の仕方がわかった」と言っていただけるのが、非常に嬉しいですね。

――『FLAIRS』を導入したい場合、どのような利用方法が可能なのでしょうか。

岡田氏 : 『FLAIRS』には、基本構成が決まったスタンダードキットがあり、まずはそれをご利用いただきます。そのうえで、より高感度な測定を行いたいといったご要望に対しては、カスタマイズした特別な蛍光プローブ(蛍光物質)を作成し、中身を入れ替えたキットをご用意することも検討中です。また、昨年のテストでは「工場の中ですぐに測定したい」「機密性の観点から社外に出したくない」という要望が多かったため、お客様の現場に測定器を設置できる形へと仕様を見直しています。

なぜオープンイノベーションなのか―コニカミノルタが共創を選ぶ理由と向き合い方

――『FLAIRS』はニーズのある企業の声を聞きながら、サービスを磨き込んでいる段階だと思いますが、なぜ、事業開発にオープンイノベーション(共創)という手法を採り入れているのですか。

岡田氏 : 『FLAIRS』は用途が多岐にわたるため、それぞれのお客様に対して深い意味で貢献できる形を作り込むためには、共創という方法が最適だと考えました。昨今は、早い段階から市場の声を取り入れ、開発していくことが一つのセオリーになっています。ですから、私たちも早期に顧客の声を聞きに行くようにしていますね。

――これまでの日本のものづくりでは、自社内で完結するクローズドイノベーションが主流でした。一方で、今回のようにオープンイノベーションで事業を進めることについて、どのように感じていらっしゃいますか。

岡田氏 : オープンイノベーションは、あくまで手段の一つだと捉えています。あまり大仰に考えず、手段と割り切って使いこなすべきだと思います。自社だけのクローズドで完結させることは厳しい時代ですから、オープンイノベーションは必須ですし、積極的に活用していくべきものだと思います。

――オープンイノベーションで事業を進めていく際のマインドセットとして、何か意識されていることはありますか。

岡田氏 : 重要なのは、「目的の共有」です。目的がずれてしまうと、プロジェクト自体が前に進みにくくなってしまいます。また、先ほどオープンイノベーションは手段だとお話ししましたが、手段が目的化してしまうことは少なくありません。そうならないように、一緒に取り組む場合は、「そもそもの目的は何か」を忘れないよう意識するようにしています。

――共創プロセスについてもお伺いしたいのですが、『FLAIRS』の場合、どのように共創が始まり、進行していくケースが多いのでしょうか。

岡田氏 : 展示会のほか、最近は自社の技術サイトの掲載情報から、お問い合わせをいただくことが増えています。「こういうことができるのではないか」と可能性を感じてお声がけいただく方もいれば、「他の方法ではどうしても解決できず困っている」という具体的な課題をお持ちの方もいらっしゃいます。そうしたお客様に対して、まずは技術の概要をご説明しながら課題を共有いただき、『FLAIRS』で何かできるかを探り、実際の検証や分析へと進めていくという流れです。

――どのような体制で共創を推進されているのでしょうか。

岡田氏 : 事業開発メンバーと技術開発メンバーが意見交換できるような体制を構築しています。技術面では、蛍光プローブや光学測定に関する技術者を中心に、AI解析を担当するエンジニアも在籍しています。加えて特徴的なのは、コンセプト検証や事業開発を担うメンバーを厚く配置している点です。もともとは技術者だったメンバーが多く、市場との接点を持ちながら取り組みたいという志向を持つメンバーが、共創パートナーと対話を通じてニーズを明確化します。それを技術者に伝達し、プロジェクトが進んでいく構造です。

――他にも、御社と一緒に取り組むメリットがあれば、ぜひお伺いしたいです。

岡田氏 : 『FLAIRS』は現状ではまだ完成したプロダクトではないため、いただいたご意見を開発に反映しやすい点は、一つのメリットになるのではないでしょうか。将来的に『FLAIRS』のプラットフォームを作る構想もあり、今後の事業の広がりが期待できると思います。

「ノンターゲティング分析」のフロントランナーとして、見過ごされてきた現象の解明に寄与

――今後の展望についてもお聞かせいただけますか。

岡田氏 : 『FLAIRS』は、さまざまな分野に展開できるユニークな技術ですが、一つの測定手法を普及させるだけで終わらせたくないと思っています。これまでの計測技術は、特定のターゲットを定めて測定する方法が主流でしたが、今後はそうではない「ノンターゲティング分析」のような領域が徐々に拡大してくると見ています。『FLAIRS』を活用することで、当社がその領域のフロントランナーになることが目標です。

――「ノンターゲティング分析」が普及した後の世界は、どう変わっていくのでしょうか。

岡田氏 : 世の中には、ごく微量で正体不明の何かが影響しているケースが多くありますが、そうした領域が徐々に解明されていくはずです。これまで見過ごされてきた現象にもアプローチできるようになると思います。官能評価や経験・勘に頼ってきた領域も、データとして可視化されていくことで、より客観的な判断が可能になります。そうして蓄積されたデータはAIと組み合わせることで活用の幅が広がり、新たなソリューションの創出にもつながっていくでしょう。

言語領域ではすでにAIの活用が進んでいますが、こうしたノンターゲティング分析のデータが加わることで、化学現象の理解にもAIが踏み込めるようになります。その結果、これまでにないアプローチで課題解決が進み、ソリューションの可能性はさらに広がっていくと考えています。

――岡田さんが、特に『FLAIRS』を活かしていきたい領域はありますか。

岡田氏 : 私は「環境への取り組み」の一助になりたいと考えています。例えば、原料の判別が上手くいかないまま製造を進めてしまい、最終段階でロス(廃棄)が発生してしまうケースは少なくありません。早い段階で原料の状態を見極められれば、無駄な廃棄を減らすことができます。こうした観点で環境にも寄与できると思うので、用途をしっかり広げていきたいです。

――国内市場を出発点に、海外市場への展開も視野に入れていかれるのでしょうか。

岡田氏 : はい。日本での展開を踏まえたうえで、次にどの市場へ進出していくかは、今年中に戦略を練る予定です。展開先を考えるうえで重視するのが、国際標準の活用。ISOなどの規格が有効に機能する地域が有力な候補になると考えています。ISOの影響力が強いヨーロッパ、アジア圏、それに最近ではアメリカでも関心が高まっていると聞いているので、こうした地域を中心に展開を検討していきたいです。

――最後に、『FLAIRS』に興味をお持ちの企業に向けて一言メッセージをお願いします。

岡田氏 : 今後、「ノンターゲティング分析」が計測や分析の世界で、大きな役割を担うようになるはずです。そこに対して、私たちがトップランナーになれるように『FLAIRS』を成長させていきたいと考えています。先ほどプラットフォームという話をしましたが、この技術を活用したいという企業がいらっしゃれば、ぜひご参画いただきたいです。

▲『FLAIRS』を担当するチームメンバー。AIに強みを持つエンジニアも所属している点も特徴だ。

※『FLAIRS』の詳細については【コニカミノルタ テクノロジーサイト FLAIRS紹介】ページをご覧ください。

取材後記

同一成分なのに性能が変わる、解明のできない品質差がある――そんな現場の悩みに対し、有効な打ち手になり得る技術『FLAIRS』。すでに医薬や食品分野で試験導入が進み、活用の範囲も着実に広がっているようだ。終盤では、「ノンターゲティング分析のトップランナーを目指す」という決意も語られ、イノベーション創出を自ら牽引していく強い意思がにじむインタビューであった。品質のばらつきや原因不明の差異に課題を感じている現場であれば、検討してみる価値は大いにあるだろう。

(編集:入福愛子・眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:佐々木智雅)

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