1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 事業承継の先に描く成長戦略とは——共創事例と実践知に学ぶ、アトツギ経営者向け『OKINAWA Co-Creation Lab.』イベントレポート
事業承継の先に描く成長戦略とは——共創事例と実践知に学ぶ、アトツギ経営者向け『OKINAWA Co-Creation Lab.』イベントレポート

事業承継の先に描く成長戦略とは——共創事例と実践知に学ぶ、アトツギ経営者向け『OKINAWA Co-Creation Lab.』イベントレポート

  • 16200
1人がチェック!

沖縄県では、県内企業等の高度化に向け、県内企業と全国のデジタル等の技術・サービスを持つ企業との協働・共創による新規事業創出を支援する「沖縄県オープンイノベーション創出支援事業」を推進している。その中核プログラムが『OKINAWA Co-Creation Lab.』だ。県内企業とパートナー企業のオープンイノベーションにより新規事業を生み出す「補助事業」と、県内企業と県内外企業によるオープンイノベーションにおけるゼロからの事業を創出する「協働・共創事業」の二本柱で、事業の高度化を後押ししている。

こうした取り組みの一環として、中小企業の後継者(アトツギ)を対象とするイベント【既存事業をアップデートする、オープンイノベーションへの「はじめの一歩」 〜アトツギ経営者のための、未来を拓くヒントと交流の場〜】が、1月29日にHAVE A GOOD DAY(那覇市)で開催された。

同イベントは、主に三つのコンテンツで構成されている。一つ目は、日本オープンイノベーション研究会(JOIRA)の代表理事・成富氏による、オープンイノベーションを活用した経営課題との向き合い方を学ぶセミナー。二つ目は、おきなわフィナンシャルグループの一社である、おきぎんサクセスパートナーズの新城氏による、事業承継支援の紹介。そして最後に、アトツギ経営者である株式会社福地組 代表取締役社長・福地氏によるトークセッションが行われた。福地組は、昨年度の『OKINAWA Co-Creation Lab.』で“謎解きツアー”を手掛ける・FUN SPIRITSと出会い、街歩き型の謎解きコンテンツ「NAHA Mystery WORLD」という共創事業を実現している。

――本記事では、イベントの模様を詳細レポートする。

【オープニング】 アトツギ経営者のための、未来を拓くヒントに

オープニングでは、沖縄県 商工労働部 ITイノベーション推進課 課長の東盛舞子氏が開会のあいさつをした。今年度は沖縄への入域観光客数が過去最高を記録するなど、沖縄経済に明るい兆しが見え始めている。その一方で、「依然として労働力不足の深刻化や物価高騰など、企業を取り巻く経営環境は厳しい状況にある」と指摘した。

そうした課題に向き合うため、県では県内企業の「稼ぐ力」の強化を目的としたオープンイノベーション創出支援事業を推進してきた。昨年度は建設業、メディア、介護、エンターテインメント業など10社の県内企業を支援し、そのうち半数以上が新たなビジネスを事業化しており、「着実に成果が出始めている」と東盛氏は確かな手応えを語った。

▲沖縄県 商工労働部 ITイノベーション推進課 課長 東盛舞子氏

本イベントは、アトツギ経営者をメインターゲットとして開催されており、「(アトツギは)既存事業を引き継ぎながらも、将来を見据えた革新的な取組を求められる立場にあり、社外の知見や技術、ネットワークを積極的に取り入れることで、新たな価値を創出するオープンイノベーションは非常に親和性の高い手法である」だと、その重要性を強調した。

続いて、イベントの司会をつとめる株式会社eiiconの田井晶子氏が『OKINAWA Co-Creation Lab.』の概要を説明。「経営者やアトツギ、新規事業担当者の多くは孤独を感じやすい。ここで社外の仲間と出会い、次の一歩につなげてほしい」と参加者に呼びかけた。

【セミナー①】 「オープンイノベーションを活用した経営課題との向き合い方」

続いて、一般社団法人日本オープンイノベーション研究会(JOIRA)代表理事の成富一仁氏が、「オープンイノベーションを活用した経営課題との向き合い方」をテーマに講演を行った。

▲一般社団法人日本オープンイノベーション研究会 代表理事 成富一仁氏

成富氏は冒頭、バレーボール漫画『ハイキュー!!』の言葉「良いジャンプは、良い助走から」を引き合いに出し、「企業価値を高めていくために必要な“助走”に重きを置いて話したい」と切り出した。技術進化が連続的に起こる時代において、これまで組み合わせたことのない要素を掛け合わせて新しい価値を生む「イノベーション=新結合」が求められると述べた。

そのうえで強調したのが、「良い助走」をつくる2つの視点だ。一つは「良い売上の理解」。売上から費用を差し引いた利益が事業継続の源泉であり、特に重要なのは、継続的に利益を生む顧客(LTVの高い顧客)を見極めることだという。新規獲得は販促費や人件費がかさみ、利益が出にくいケースも多い。だからこそ、自社データを分解し「誰が利益を生み出しているのか」を把握し、重要顧客が流入し、継続する状態を設計する必要があると説いた。

もう一つが「強みの明確化」だ。重要顧客が自社を選ぶ理由を掘り下げれば、それはそのまま強みの言語化につながる。強みを磨き、実績を積み上げることで「あの会社といえば○○」という“旗”が立ち、顧客のほうから選ばれにいく状態がつくられる。強みは単体ではなく「掛け合わせ」で考えるのが有効で、「100社のうち1位を取れる領域」を複数持つことで、差別化はより強固になるとした。

助走が整った先に、「良いジャンプ」がある。成富氏は、成長の方向性は企業の状況によって異なるが、「既存市場×新規製品」、または「既存製品×新規市場」といった“勝ち筋を描ける打ち手”を選ぶ重要性に触れた。その打ち手のひとつが、オープンイノベーションだ。

好事例として紹介されたのが、神奈川県小田原市の老舗・株式会社鈴廣蒲鉾本店を例に挙げた。箱根観光客が小田原を“素通り”してしまう課題に向き合い、「かまぼこ」を起点に観光事業やプロテイン事業へと領域を広げてきた同社とスタートアップのYADOKARI株式会社と連携した観光コンテンツを紹介し、域外企業がプロジェクトで地域に通い、飲食や宿泊などの支出を生む「ビジネス関係人口」の創出にもつながり、地域経済への波及効果を生んだ。

【セミナー②】 「想いをつなぎ、共に歩む。おきぎんが実行する事業承継・後継者支援とは」

次に、株式会社おきぎんサクセスパートナーズ コンサルティング部の新城安麿氏が、おきなわフィナンシャルグループ(OFG)が取り組む事業承継・後継者支援について説明を行った。

OFGは「お客さま・地域に対して“新しい”を共創する」ことを掲げ、金融をコアとしながらも非金融領域を含めた総合サービスグループへの進化を目指している。なかでも法人事業部は、県内企業の成長や課題解決を専門的に支援する部門だ。2024年には体制を刷新し、法人担当者を約250名規模に拡充。エリアごとに担当者が集まり、地域課題や顧客ニーズを共有しながら、本部施策と連動した支援を行える仕組みを構築した。

▲株式会社おきぎんサクセスパートナーズ コンサルティング部 新城安麿氏

具体的な支援事例として新城氏が紹介したのが、「沖縄大交易会」だ。県内の特産品製造業者を国内外のバイヤーにつなぎ、販路拡大を後押しする国際商談会で、「県外・海外への展開を目指す事業者にとって大きなチャンスになっている」という。また、DXをテーマにした「美ら島商談会」では、人材不足や業務効率化に課題を持つ県内企業とIT・クラウド関連事業者をマッチング。

さらに、地銀5行が共催するピッチコンテスト「X-Tech Innovation」では、琉球大学発ベンチャーが全国大会で最優秀賞を受賞するなど、沖縄発スタートアップの可能性を全国に示してきた。

後継者支援の取り組みとしては、「おきぎん後継者塾」を12回開催し、経営・財務・組織・ブランディングなどを体系的に学ぶ場を提供し、「後継者同士のネットワークが生まれ、新たな取引につながった事例もある」と成果を語る。

▲創業者の想いと雇用を次世代へつなぐ、おきぎんサクセスパートナーズの事業承継・M&A支援

一方で、沖縄県は後継者不在率が約61%と全国平均を上回り、休廃業・解散件数も増加傾向にある。こうした課題を解決すべく、OFGは2025年7月に、日本M&Aセンターホールディングスと合弁で「おきぎんサクセスパートナーズ」を設立した。事業をつなぐだけでなく、“想い”をつなぎ、企業の存続と発展を支えるべく、親族・社員承継に加え、事業承継型M&A、成長戦略型M&A、資本提携など、多様化するニーズに応える体制を整えている。

「M&Aは“会社を手放す手段”ではなく、“成長戦略の一つ”として選ばれる時代になっています。私たちは、地域と全国・海外をつなぐネットワークを生かし、沖縄から県外へ、そして世界へ挑戦する企業を支えていきたい」。新城氏はそう語り、アトツギ経営者に寄り添いながら伴走する姿勢を示した。

【トークセッション】 アトツギ経営者 福地氏に迫る!新規事業という「挑戦」のリアル

トークセッションでは、アトツギ経営者であり昨年度の『OKINAWA Co-Creation Lab.』から生まれた共創事業「NAHA Mystery WORLD」を手がけた株式会社福地組の福地一仁氏が登壇。

福地氏は新卒で総合商社の三菱商事に入社し、機械の営業や半導体・太陽電池関連の案件に携わったほか、タイ駐在では国内メーカーと合弁会社(JV)を設立するなど、建設業とは異なるフィールドで経験を積んできた。2018年に家業の福地組に参画し、2021年に代表に就任している。

福地氏は、福地組への参画直後に営業部へ入り、経営をキャッチアップしながら現場の構造を見直したという。「建設業に染まっていない」自分だからこそ見えた違和感を起点に、2019年頃から組織と事業の両面で改革へ踏み出していった。

▲株式会社福地組 代表取締役社長 福地一仁氏

●新規事業の具体的な取り組み

福地氏は何を目指して改革を進めてきたのか。まず福地氏が紹介したのは、雑居ビルを取得してリノベーションし、コワーキングスペースとして運営する「HAVE A GOOD DAY(HAGD)」だ。本イベントの会場でもあるHAGDは、建設会社がコワーキングスペースを運営する珍しい事例であり、“新規マーケット×新規サービス”という最も難易度の高い領域だ。

福地氏はHAGDを、「会社として何をやりたいのかを社員に浸透させる」ための実装だと位置づける。建設業は、安心安全な暮らしに直結する。さらに「まちづくり」においても当事者になり得る。だからこそ、デベロッパーに任せきりにせず、建設会社側も意思を持ってまちづくりに関わりたい。HAGDは、その意思を社内外に示すための挑戦でもあった。

▲本セッションは、『OKINAWA Co-Creation Lab.』の運営支援を手がける株式会社eiiconの田井晶子氏(写真左)がモデレーターを務めた。

続いて“既存マーケット×新規商品”の代表例として、機能性住宅「ココウチ」とリノベーション事業「リノベース」を挙げた。「ココウチ」は2019年頃にスタートしたが、当時ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は今ほど一般的ではなく、沖縄はRC造が多いことから“ZEHと相性がよくない”とも言われがちだった。しかし福地氏は、エネルギーコスト上昇という世界情勢の流れも踏まえ、高温多湿の沖縄だからこそ断熱性能が価値になると見立てた。

リノベースも同じく2019年に着手したという。新築コストの上昇により、実家を引き継いでリノベーションせざるを得ない人が増える。加えて沖縄にはRCの頑強な建物ストックが多い。壊して新築を建てるほうが収益性は高いのは事実だが、長い目で見ると、使える建物を活かすほうが顧客メリットは大きい。さらに新築顧客を探すより、使われていない建物=ストック側のほうがアプローチしやすい。新築市場が縮むなら、早めにリノベーションへ着手する――福地氏の判断は、建設業の“常識”よりも、将来の市場構造から逆算したものだった。

●オープンイノベーションで切り拓く「生存戦略」

昨年度の『OKINAWA Co-Creation Lab.』から生まれた共創の取り組みとして、那覇の街を舞台にした“謎解き”コンテンツ「NAHA Mystery WORLD」が触れられた。福地氏によれば、HAGDは空港にも近く、県外企業が沖縄でビジネスをする際の利用も多い。だからこそ、外から来た人にHAGDがある東町というエリアを知ってもらう機会をつくりたいと考えた。

最初当初はHAGD独自のツアーを構想していたが、それだけでは面白くならない。そこで「歩きながら楽しめる方法」を探す中で、『OKINAWA Co-Creation Lab.』のマッチングを通じて、“謎解きツアー”を手掛けるスタートアップ・FUN SPIRITSと出会い、共創へと至った。(※関連記事)。

ここで福地氏は、オープンイノベーションの本質を冷静に分析する。「オープンイノベーションは手段であって、魔法の杖ではない」。“謎解きツアー”自体が即座に巨大な収益をうむわけではなく、あくまで認知拡大の手段として捉えているという。福地氏は、「直接的に収益基盤を支える事業になっているかといえば、正直そうではない。しかし、メディア露出の効果が高く、ブランディングや採用面で成果があった」と明し、多角的なリターンの重要性を語った。

▲FUN SPIRITSの代表・日景氏と共創事業のピッチを行った『OKINAWA Co-Creation Lab.2024』 成果発表会の様子。

さらに、『OKINAWA Co-Creation Lab.』に参加したことでスタートアップとの接点も増えた。建設会社だけをやっていたら出会わなかった相手から、HAGDや福地組が所有している建物を「実証の場をとして貸してほしい」と声がかかる。[金城 未咲2.1]福地氏は、耐震性を付加する特殊塗料を開発するスタートアップ・株式会社Asterと劣化建築物の再生検証を進めている事例を挙げ、「これまで見えていなかった世界が広がる」と語る。オープンイノベーションは単なる“即時回収”の手段ではなく、未来の可能性を開く行為でもあるのだ。

一方で福地氏は、“現在地”を見失わない。福地組の軸足は本業の建設業であり、その収益をどう高めるかが最重要だと繰り返し強調した。「派手なことに飛びつくより、現場のしんどさや業務負荷、安全といった課題を改善し、働きやすい会社にしていくことが経営の命題」という。

オープンイノベーションや新規事業は、その命題を前に進めるためのツールに過ぎない。だからこそ、取り組むのであれば「ニーズを持つ人にどうアプローチするか」を含め、情報を整理しながら時間をかけて育てる覚悟が必要だと示唆する。

▲福地組による外部連携。既存マーケットの再定義からスタートアップとの技術検証まで外部の知見を取り込み、事業の持続性を高めている。

終盤の質疑では、参加者から「新規事業を任せる担当者をどう選ぶか」という問いが出た。福地氏は「真面目で素直な人」が良いという。福地氏自身が対話を重ねながら新規事業を立ち上げるスタイルであるため、まずは素直に耳を傾け、信頼関係を築けるかが継続の鍵となるからだ。信頼が構築できたら、権限委譲をしていくスタイルをとっている。その人材を見つける手段としては、人材紹介会社が有効だとも述べた。自社の社風や経営者の人となりも理解してくれるため、ミスマッチの少ない採用が可能になると述べた。

また、他の参加者から既存組織との調整の難しさについて質問が投げかけられると、福地氏は「3~5年後の目標を明確にし、逆算的に取り組むこと」の重要性について回答。目の前の課題だけにフォーカスしすぎず、将来のビジョンから逆算して今やるべきことを明確にする。それが、組織を動かし事業を推進する力になると説明した。

●次世代アトツギへのメッセージ

最後に福地氏は、次世代アトツギへ向けたメッセージとして「事業を通じて、自身が何を実現したいのか」というビジョンを持つことの重要性を語った。新規事業やM&A、オープンイノベーションなど、会社を成長させていくには様々な手段があるが、それはあくまでツールにすぎない。何が一番大事なのか、そこに立ち返る判断軸を持つことが必要だ。

一方で、軸にこだわりすぎると、新しいことができなくなるので、どこかで「えいや!」と大胆に行動することも大事だと強調する。「雑居ビルにコワーキングスペースをつくるなんて、着手するまでは想像もできなかった。しかし、一歩踏み出した者だけ見える世界があり、そこから次の課題が見えてくる。その繰り返しが、次の道を教えてくれるはず」――福地氏はそう締めくくった。

イベントの最後、eiiconの田井氏は「今日のセミナーやトークセッションの中に『明日から何か一つ試してみよう』と思えるヒントがあればうれしい」と参加者に呼びかけ、イベントは幕を閉じた。その後に行われたネットワーキングでは登壇者を囲んで感想や質問を交わし、参加者同士が自社の課題や取り組みについて語り合った。

取材後記

本イベントではオープンイノベーションを活用した事業拡張の考え方から、金融機関による事業承継・後継者支援の取り組み、そしてアトツギ経営者による実例を交えたトークセッションまで、異なる立場の視点が重なり合った。新規事業やオープンイノベーションという言葉が先行しがちな中で、「自社は何を実現したいのか」「いま最優先で向き合うべき課題は何か」といった経営の原点に立ち返るメッセージが随所に散りばめられていた点が印象的だった。

会場では、アトツギ経営者や支援機関、スタートアップ関係者が立場を越えて言葉を交わし、新たなつながりが生まれていく様子も見られた。こうした出会いの積み重ねが、次の挑戦を生む土壌になる。オープンイノベーションという手法を通じ、沖縄からどのような新たな挑戦が生まれていくのか。今後の展開にも引き続き注目したい。

(編集:眞田幸剛・入福愛子、文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント1件

  • 眞田幸剛

    眞田幸剛

    • 株式会社eiicon
    0いいね
    チェックしました