【超一流店の参加も実現したギフトデリバリー事業を創出!】 三菱地所/Corporate Accelerator Program第1期特別賞受賞企業に聞く、共創の成果とは?
昨今、数多くの大企業がアクセラレータプログラムを開催している。その一方で、参加企業のその後や共創の成果を伺う機会は決して多くない。2017年に「Corporate Accelerator Program」を初開催した三菱地所の場合はどうなのだろうか?
現在9社との協業が検討されているというが、中でも「丸の内エリアの法人企業を対象としたギフトデリバリーサービス」というユニークな新ビジネスを立ち上げようとしているのが、特別賞を受賞したスカイファーム株式会社だ。彼らはどのようにこの新事業を創出したのか?プログラムに参加し、三菱地所をパートナーに迎えたことでどのようなメリットを得たのか?
「この街から変革する。Work & Life Innovation 2018」というテーマを掲げた第2期プログラムも始動している今、同社の代表取締役社長である木村氏に実体験を聞いた。
▲スカイファーム株式会社 代表取締役社長 木村拓也氏
大学卒業後、学生時代の友人とWeb動画コンテンツの制作会社を設立。その後退職し、外資系企業にてメディアコンテンツ事業、楽天株式会社にてWebマーケティングなどに携わった後、2015年7月にスカイファームを創業。現在は、フードデリバリーサービス「ニューポート」をはじめ、次世代の都市型ライフスタイルに貢献する事業を多数展開している。
「都市部での新サービス創出」に親和性を感じて応募。
――まずはスカイファーム創業の経緯と、現在の事業内容について伺えますか?
木村氏 : 2015年7月に創業しまして、まず始めたのが横浜のみなとみらい地区でレストランの食事の出前代行を行う、フードデリバリー事業です。このサービスは2016年1月に「ニューポート」という事業名で正式ローンチしたのですが、それまではテスト期間として自分ひとりでレストラン様に出向き、自転車に料理を積んで、友人の働く企業に運ぶといったこともやっていましたね。
現在はスタッフも20名ほどに増えたほか、事業も「横浜ランドマークタワー」の館内に特化したフードデリバリーサービス「ランドマークシッピング」や、今年4月からは東京の「南砂町ショッピングセンターSUNAMO」で、フードコートにおける飲食物の注文・決済をスマートフォンで簡単に行える「TANOMO(タノモ)」というサービスの提供も開始するなど、少しずつ拡大している段階です。
▲「南砂町ショッピングセンターSUNAMO」で展開している「TANOMO」のアプリ画面。子育て世代を中心に利用ユーザーも右肩上がりに増加しているとのことだ。
――そもそも、なぜフードデリバリー事業を立ち上げようとお考えに?
木村氏 : 理由は2点あります。1点目は前職でWebマーケティングを手掛ける中で、食関連のクライアント様の集客などを担当しており、その経験を活かして「飲食」の領域で何かできないかと考えました。2点目は、以前から都市部の課題を解決するような事業がやりたいなという思いがあり、その掛け合わせでフードデリバリーはどうかと考えたわけです。
――横浜ランドマークタワーとSUNAMOは、どちらも三菱地所さんが運営する施設ですね。以前からお付き合いがあったのでしょうか?
木村氏 : そもそも起業当初、横浜ランドマークタワーの隣接するランドマークプラザ内の「BUKATSUDO」というシェアオフィスに入っていまして。そのご縁もあって、「ニューポート」のローンチから数カ月後に三菱地所の横浜支店の方から「タワーの館内で同じようなサービスができないか」と声をかけていただいたことから、お付き合いがスタートしたのです。
――では、第1期「Corporate Accelerator Program」への参加もそうした繋がりがきっかけで?
木村氏 : いえ、このプログラム自体はたまたま知り、個人的に説明会に参加しました。プログラムの詳細もその説明会で知ったのですが、三菱地所様は多種多彩なアセットをお持ちですし、都市部で展開するビジネスモデルであれば我々との親和性も高いのではないかと考え、チャレンジしてみた次第です。
アイデア段階から打合せを重ねて、ビジネスプランを構築。
――スカイファームさんは同プログラムで特別賞を受賞されていますが、エントリー時にはどのようなテーマで応募されたのでしょうか?
木村氏 : 当社では、フードデリバリーシステムの開発・運営を通してスマートフォンやPCで簡単に利用できるプリオーダーのシステムや、マイクロ物流に関する細かなナレッジなどを蓄積してきました。そうした独自のノウハウと、三菱地所様が持つ課題を掛け合わせ、「これならば解決できるのではないか」というテーマがいくつかあったのです。
そこで、「スマートフォン・PCで、簡単にショッピングができるプラットフォームの開発」や「ユーザーへのデリバリーサービス」を主軸に、複数の企画を提案させていただきました。
――同プログラムがスタートした後は、どのように進行していったのでしょうか?
木村氏 : 三菱地所の新事業創造部の方に加えて、三菱地所プロパティマネジメントさんや三菱地所リテールマネジメントさんといったグループ会社のご担当者の方もご紹介いただき、全員でひとつのプロジェクトチームを組んで進めていきました。
また本プログラムをきっかけに、今年9月より新たに「TANOMOギフト(タノモギフト)」という丸の内エリアに特化した手土産のデリバリーサービスをスタートするのですが、これも100%当社オリジナルではなく、アイデア段階から三菱地所さんとコラボレーションしてできた形です。
――手土産のデリバリーというのは斬新なアイデアですね。どのように誕生したのでしょうか?
木村氏 : 最初は我々から「丸の内版ランドマークシッピング」を提案したのですが、三菱地所プロパティマネジメントの方から、「それも魅力的だけど、まずギフトのデリバリーをやってみませんか?」というお話をいただいたんですね。丸の内の場合、本社機能を置く企業が多く、おもてなしや来客の機会が多い。そしてその都度、企業の秘書室や総務の方々は手土産やギフトを購入しており、かなりの負担がかかっていると。
この課題に対して何かソリューションを提供できないか?という点から、一緒に企画書をつくっていきました。電話・メール・ミーティングなど、さまざまな形でディスカッションを重ねまして、ビジネスプランの完成に至るまではお互いに資料を20回以上もバージョンアップしていきましたね(笑)。
――まさにイチから共創した成果が、「TANAMOギフト」というわけですね。
木村氏 : はい、そうですね。まず参加者である我々が「何ができるのか」を提示し、三菱地所さんの課題と照らし合わせ、そこから一緒に新たなビジネスを創っていく。この流れは、本アクセラレータプログラムのひとつの特徴であり、強みのひとつだなと感じました。
またプロジェクトチームの方々が何と言いますか、「剛腕」な印象の方ばかりで(笑)。かなりパワフルに企画を推進していただき、逆に我々の開発が追い付かないシーンもあったほどで、そのスピード感はいい意味でイメージとギャップがありましたね。
営業・PR・採用活動も、積極的に協業してくれた。
――プラン作成以外に、三菱地所さんとの共創を通して感じたメリットなどはありますか?
木村氏 : 「TANAMOギフト」を始めるにあたって、販売元のテナントさんの開拓が必須だったわけですが、そうした営業活動もすべて同行していただきました。それだけでなく、三菱地所の方が先頭に立ってプレゼンを行っていただくケースも多く、パートナーとしてこれ以上心強い存在はいないと思いましたね。
――丸の内エリアの店舗となると、世界的な一流ブランドも多いイメージです。
木村氏 : おっしゃる通り、ローンチの段階から20店舗以上のテナント様に参加していただいたのですが、「ジョエル・ロブション」様や「ペニンシュラ」様、「TWG Tea」様など名だたるショップがずらりと並びました。これに関しては、当社1社でチャレンジしていたら、果たして何店舗開拓できただろうと…。
――たしかに、営業や集客で苦戦するスタートアップは多い印象です。
木村氏 : 実はSUNAMOのフードコートで展開している「TANOMO」は当初我々のみで営業活動を行っていたのですが、ローンチの段階では11店舗のうち2店舗しか導入していただけず、1日の利用回数が0~3件という状態でした。
しかし、「ユーザー観点で考えればやはり全店導入を目指すべき」と、当社だけでなく三菱地所さんと施設の運営を手掛ける三菱地所リテールマネジメントさんの3社協同で改めてプレゼンを行い、各店舗の方々を巻き込んでもらうことで、この7月には9割の店舗へのサービス導入が実現しました。
――ユーザーの反応もかなり高まったのではないでしょうか?
木村氏 : おかげさまで、キャンペーン展開もあいまって「TANOMO」は平日で約150件、週末や休日では300件ほどご利用いただいています。今回の実証実験は10月末までの予定なのですが、他の施設様にも十分提案できる実績ができたお思いますし、すでに興味をお持ちいただいている施設様も出てきていると聞いています。
――丸の内で運用する「TANOMOギフト」については、最初の目標などはありますか?
木村氏 : まずは月間1000オーダーを目指し、その後は月間5000オーダーへと伸ばしていきたいと思っています。そのため三菱地所さんにはテナント様の開拓だけでなく、ユーザー様となる法人企業に対してのプロモーションや、配達を行うポーターの採用・教育などにもさまざま協力していただいています。力を合わせてサービスを育て、ゆくゆくは施設・対象エリアの拡大はもちろん、扱う商品の多ジャンル化も目指していければ最高ですね。
取材後記
木村氏は、「日に3回も4回も連絡を取り合うこともしばしば。大企業とスタートアップという垣根を越えて、本当にチームで取り組んでいる実感がありますね」と、距離感の近さにいい意味で驚いたという。また、第2期へのエントリーを検討中のスタートアップへのメッセージとして、「『Corporate Accelerator Program』は、間違いなくスタートアップの飛躍の機会になり得ると思います」と熱く語ってくれた。スカイファームに続くスタートアップが現れるのが、今から楽しみだ。
(構成:眞田幸剛、取材・文:太田将吾、撮影:古林洋平)