【イベントレポート後編】スタートアップと共に創る未来のまちづくりプロジェクト「未来Smart City Challenge」~まちづくりに「境界」なし。垣根を超えたイノベーション共創~
株式会社日本総合研究所が株式会社三井住友銀行と共に設立した 異業種連携による事業開発コンソーシアム「Incubation & Innovation Initiative (III)」では、課題の解決や新しい価値の創出によって、まちをより魅力的にするため、アイデアや技術の事業化を目指す「未来Smart City Challenge」を始動。
前編で紹介したIII主催のプログラム「未来2019」と同時始動の同プログラムでは、「まりづくり」にフォーカス。まちの課題解決・価値創出、未来のまちづくりに挑戦する同志を募ったプログラムである。2018年7月ベルサール神保町アネックスにおいて開催された。
プログラムの説明会に留まらず、官庁・自治体・大企業・スタートアップと、さまざまな立場のゲストのトークセッションが聞けるシンポジウムとなっており、会場はイノベーションに関して、情報感度の高い参加者で会場は熱気に包まれた。
スタートアップと共に創る未来のまち。未来スマートシティ・チャレンジとは?
今年からスタートした同プログラム。再開発ラッシュ、またオリンピックに向けた都市開発が進む中、III(トリプルアイ)でもスタートアップをはじめとする、まちづくりに興味・関心のあるイノベ―ターたちと連携し、新たなまちを創造していく。これまでにあった従来の都市再生プロジェクトではなく、新しいプログラムとするため、まちづくりのステークホルダーを広げている。
まちづくりを計画する際、通常自治体、土木建設、ゼネコン、不動産、建設コンサルなどが従事し、なかなかスタートアップ、ICT事業者、情報通信事業者、大学研究機関などの声を拾い上げる場がなかった。これからのスマートシティでは渋滞やニュータウンの高齢化問題等、まちの抱える課題を解決するために、データ活用が必要になるなど、スタートアップのアイディアが必要不可欠となっている。そのため、まちづくりを計画する段階から入ってもらい、新たなまちづくりのエコシステムを構築することとなった。その体制が整った今、本プログラムが始動した。
多種多様な人が住み、多くのモノが動き、そして膨大なデータが生み出される「まち」には混雑や無駄、危険など多くの課題も存在する。プログラム期間では課題の抽出から、意見交換の場も設け良いアイディアに関しては実証実験を行い、事業化していく。III/未来 統括ディレクタ東氏は、「これまでにない、規模感の取組み。スタートアップもこのプログラムからまちづくりにジョインするきっかけとなってもらいたい」とアピールした。
セッション① ものづくり「豊洲六丁目4-2・3街区プロジェクト」を起点としたまちづくり ~スマートシティの実現に向けて~
▲清水建設株式会社 LCV事業本部 ソリューション営業部 部長 溝口 龍太 氏
清水建設株式会社では2017年10月に竣工後の施設運営管理サービスを提供するBSP(Building Service Provider)機能、インフラ運営機能、エネルギー運営機能を集約した事業本部「LCV事業本部」(※)を新設した。建物のライフサイクルにわたる運営サービス分野、PPP・コンセッションに代表されるインフラ運営分野、再生可能エネルギー発電分野などで大きな潜在需要があると見込み、その価値を最大化させるために同社の技術やサービスを提供するほか、事業参画や投資も実施する。
(※)LCV…Life Cycle Valuation(ライフサイクル・バリュエーション)の略
―豊洲の街をイノベーションが溢れる超スマートシティへ。
ミッションのひとつに「豊洲のまちづくり」がある。同社はおよそ30年以上前から、豊洲5丁目を中心に景観ガイドラインの作成をはじめ行政、町会と共にまちづくりに関わってきた。現在では、「豊洲六丁目4-2・3街区プロジェクト」を契機に豊洲エリアにおけるソサイエティ5.0、データ利活用型スマートシティの実現を目指している。
溝口氏は「このプロジェクトは我々だけでは実現できない。異業種と連携し、様々なテクノロジーの実装を視野に入れながら取組みを推進していきたい。」と話す。また、豊洲はグリーンフィールドと言われており、未開発の大型エリアが多く残っている。様々な新しいアイディアを実装できるチャンスがあるエリアでもあるという。今後、防災、防犯、医療、コミュニティ、建物、フィンテック、モビリティ等の様々な分野から新しいサービス、アイディアを募集していき実装していきたいとアピールした。
セッション② Startup City Fukuokaがチャレンジする超スマートシティ「Fukuoka Smart East」の目指す先は?
▲福岡市 イノベーション課 課長 的野 浩一 氏
日本のイノベーション都市として、代表される「福岡市」。的野氏も、「福岡市さんは本当に元気ですね」とよくいろんな方から言われています、と笑顔で話す。実際数字でいうと、年間約3300社もの新しい会社が福岡の地で生まれており、今後さらに人口増加も期待されることから、税収も上がりチャレンジしようという活気にあふれている。
3年前から福岡のスタートアップをグローバルとつなげる活動も行っており、現在では12か国の地域と条約を結び、現地のスタートアップ支援者とスタートアップを繋げて営業先の紹介や事務所の手続きなどスムーズに行えるような環境も整えている。2012年頃から、スタートアップ政策が開始され現在のようなスタートアップエコシステムが構築させるまでに成長を遂げた福岡市であるが、今後はこのスタートアップの力を「まちづくり」に持っていきたいと話す。
――世界最先端のスマートシティをスタートアップの力で実現する
これからまちづくりプロジェクト」が進められる箱崎エリアは、広大なエリアを持ち、交通利便性もあり、これまで以上に自由な発想で、まちづくりができるポテンシャルを持っている。「まちづくりを推進していく中で想定もしていなかった、既存のルールや法律が壁となる事が大いにあります。そこを我々の力で変えていきます。」と的野氏は言う。
福岡市は日本で唯一の国家戦略特区であり、新しいテクノロジーを使おうという時に、規制緩和の枠組みを持っている。福岡・箱崎には、ここでしかできない条件が揃っている。こういった新たなまちづくりをIII「未来」の力も借りていきたいと話を締めくくった。
パネルディスカッション「スタートアップと連携した新たなまちづくり」
~データを活用して新しいまちを設計するために今後産業データや情報銀行等の新たな枠組みを活用するべきなのか徹底議論~
▲【写真左から】(モデレーター)III/未来 統括ディレクタ 東 博暢
(パネラー)
・株式会社バカン 代表取締役 河野 剛進 氏
・清水建設株式会社 LCV事業本部 ソリューション営業部 部長 溝口 龍太 氏
・株式会社三井住友銀行 データマネジメント部 副部長 宮内 恒 氏
・福岡市 イノベーション課 課長 的野 浩一 氏
▲株式会社バカン 代表取締役 河野 剛進 氏
「いま空いているか、1秒でわかる優しい世界」を実現するため、株式会社バカンでは、センサー・カメラであらゆる状況をリアルタイムでセンシングし、空席情報配信サービスを行う。一目でわかるデジタルサイネージを設置し、本サービスを活用することで、商業施設や店舗は来店客を待たせることが減り、集客効果の拡大や顧客満足度向上が期待できるという。
―構想段階から民間と行政が連携していかなければ、スマートシティは活かされない。
東氏:それでは早速、清水建設の溝口さんにお聞きしたいのですが、行政とのやりとりの中で注意すべきポイントや課題など感じていますでしょうか?
溝口氏:先日、ドイツの4都市に視察へ行ってきたのですが、どの関係者も口を揃えていうのが「都市計画とインフラの交通計画を合わせた形で街を創っていかないとワープしない。」という事です。
1町村だけだと完結せず、他の町村、また県にも調整していかないと上手くいきません。この調整こそ、国の力をかりないとなかなか前に進みません。まちづくりを始める前に行政と民間が連携して取り組み事が非常に大切だと思います。
東氏:溝口さんもかなり苦労されて都庁調整されとききましたが、今まさに的野さんがこれから「Fukuoka Smart East」の取組みを開始されます。行政の立場から民間やスタートアップに期待する事はありますか?
的野氏:そうですね。世界実装されているスマートシティ改革で、上手くいっている例とそうでない例を見てみると、成功するポイントは2つあると思っています。ひとつは、溝口さんもおっしゃっていましたがまちづくりを始める前に、スタートアップやまちづくりに関わる事業者に意見を貰う事です。2つめは実際使う人、利用者が手に取るまでのイメージをしたサービス・プロダクトを創っていくことです。「いいものを作ったのだけど売れません。」という相談を多くいただきます。まちづくりに関しては、特にこのエンドユーザーのニーズを想像できるかが成功するためのポイントになってくると思います。
東氏:なるほど。本気のまちづくりをするのであればかなり前から準備に入らなければならないという事ですね。その点でいうと、バカンさん、三井住友銀行さんの場合、まさに今、行政・提携企業と密な連携をとり、準備していると思います。両者からみて、今後どういう連携をやっていきたいなど、希望はありますか?
河野氏:これまで私たちがやってきていたことは、出来ているものに対していかにライトに入り込めるかというところで挑戦してきました。なので今「未来Smart City Challenge」においてこの段階からは入れていることが非常にやりやすく感じています。電源・ネットワーク一つにしても、事前にサービス導入ありきで街を設計してもらえると、新たな導入のハードルはグッと下がります。このような連携の仕方が理想だと思います。
宮内氏:今回初めて、銀行がまちづくりの初期段階から参加していると思います。これまではファイナンスが中心でしたが、今回の参加の目的としては「都市のデータマネジメント」です。
これを銀行が担う事ができないか、もしくは共創できないかと考えています。街の情報を収集し、決済活動に繋げていきたい。デジタル化された都市のバックヤードを、我々銀行が担っていきたいと思います。
東氏:「お金」を扱っていた銀行が新たにこれまでに扱ってこなかった多様な「情報」を扱っていく。新規事業への挑戦ですね。この取組みを箱崎や豊洲で挑戦していくことになります。事例を作り、ぜひ様々な地域に広がって行けたらと思います。