【イベントレポート】 『QUM Conference 2018』~不確実性の高い新規事業を乗り越えるための“意思決定”とは?~
5月29日、フィラメント主催の『QUM Conference 2018』が東京ミッドタウン日比谷BASEQにて開催された。QUMには“組む”―Quest(探求)、Unite(連携)、Move(行動)の意味が込められている。困難な新規事業開発を、外部パートナーとの連携や支援など、「組む」ことで乗り越えるというテーマが掲げられている。
会場は6~7名ごとに1テーブルで、参加者も一体となり議論が深まる設計になっており、開催前から参加者が積極的にコミュニケーションをとる様子が見られた。
本イベントの主催であるフィラメント代表取締役CEOの角勝氏(下写真・中央)は、オープニングセッションで「企業というものは、成功したビジネスを繰り返し実施するための仕組みが組織に落とし込まれており、負けない仕組みになっている。一方、新規事業開発には、点をとっていく意識や、サッカーでたとえるストライカーの存在が大事。横並びのこの国の風土に、もっとストライカーを育む仕組みをインストールしていきたい。」と語った。
続けて角氏は、「ストライカー=アントレプレナーシップを持つ人。アントレプレナーシップを持つ人材をどのように見つけ・磨き・鼓舞し・任せていくのか、全4本のセッションで議論していきたい」と話した。
当日実施されたセッションは以下4つ。
①人材発掘 〜新規事業をやり抜くオーナーマインドとは〜
②意思決定 〜不確実性の高い新規事業をどのように判断していくのか〜
③事業評価 〜新規事業を評価する指標とは〜
④権限譲渡 〜マネジメントせずに社員が自立して働く組織とは〜
上記4つのセッションから、今回はセッション2「意思決定」を紹介する。登壇者は下記4名。
■LinkedIn日本代表 村上 臣氏:大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。その後統合したピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。一度退職した後、2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月にLinkedinの日本代表に就任。複数のスタートアップの戦略・技術顧問を務めている。
■ファインディ株式会社 代表取締役CEO 山田 裕一朗氏:同志社大学経済学部卒業後、三菱重工業、ボストン コンサルティング グループを経て2010年、創業期のレアジョブ入社。レアジョブでは執行役員として人事、マーケティング、ブラジル事業、三井物産との資本業務提携等を担当。その後、ファインディ株式会社を創業。
■プロトスター株式会社 代表取締役COO/株式会社54 代表取締役社長 山口 豪志氏:茨城大学 理学部卒。2006年からクックパッド株式会社にて、広告事業・マーケティング事業の創成期より参加。2012年より3人目の社員としてランサーズ株式会社に参画し、ビジネス開発部部長、その後、社長室広報チームリーダーにて、クラウドソーシング業界の普及啓蒙活動に尽力。2015年5月に株式会社54を創業。常時約30社のスタートアップ企業のアドバイザーとして事業戦略策定、BtoBアライアンス支援、広報部門立ち上げ等のコンサルティングを行う。2017年7月よりプロトスター社へ参画、代表取締役COO。
■handy japan株式会社 CEO 勝瀬 博則氏:1992年から米国大手事業会社にて通信、サーチエンジン、ヘルスケア事業を手掛け、2015年世界最大のOTA, Booking.comの日本統括マネジャーに就任。現在は現職のほか、神奈川県観光政策統括アドバイザー、パソナ地方創生特命アドバイザー、フォートレスキャピタルマネジメント顧問などを兼任している。
過去の失敗事例は?
まさにアントレプレナーシップを持ち、さまざまな経験をしている4名。初めの質問は「過去の失敗事例」。スクリーンに4人の回答がうつし出される。村上臣氏(上写真)のモデレートのもと、各人の経験談が繰り広げられた。
村上氏:まずは、山田さん。「NOリスク NOリターン」とありますね。どういうことでしょうか?
山田氏:そうですね。まず、会場の皆さん、この中で大企業の新規事業担当の人はどれくらいいますか?
(会場:半数程の方が挙手)
なるほど。では、それが成功しなかったら会社を辞める人は?
(会場:ほとんどの方の手が下がる)
そういうことなんですよね。そういう話をします。(笑)
レアジョブでの経験の話なのですが。KDDIさんと提携してSkypeを使ったスマホでのオンライン英会話サービスをはじめたんですね。2011年に「レアジョブ for Android」を共同開発し、スマホを使ってオフィスや街中などどこからでも英会話レッスンを受講できるようにするものです。
順調に進んでいたのですが、重要な問題が起こります。まず当時の端末では、Skypeで英会話すると電池が30分もたないんですよ。皆さんも経験ありますよね?あの端末がすごく熱くなるのを。
村上氏:熱くて英会話どころじゃないやつですね(笑)
山田氏:そうなんです(笑)。これは、なんとかしないとユーザーが熱くて使えない。
でもKDDIさんはもっと広告をうってユーザーにサービスを周知したいと。大企業は年度予算勝負なところがあるので、当時確保していたお金があったんですね。それを使わないといけない。
結果、まだUXができていない中で、どんどんブーストしていけという風になってしまったんです。
村上氏:それではうまくいかないですね。
山田氏:そうですね。
その時に思ったことなんですが、大企業の方って、1つだけのプロダクトにしぼってやっている人は少ない場合もあります。当時担当の方も他業務を兼務していたり。そういう人も多いと思うんです。
つまり、「これが失敗しても次がある」という感覚はどうしてもあると思うんですよね。NOリスクで、会社が倒れないくらいの実験という感じで。
村上氏:なるほど。
山田氏:やはり、その程度で会社の新たな柱を創ろうとしても難しいですよね。スタートアップは日々生きるか死ぬかで事業をやっていますので。
ですから、例えば大企業でいくと億単位の予算をとり勝負するとか、スタートアップも大企業の資金に頼るのではなく、自分たちで持ち出してでも実現する、くらいの気概がお互いに必要なのではないかと思います。
成功するかは、「本気になっているか」「覚悟ができているか」が重要です。本当にリスクをとり、お金を稼いでいこうという意識が重要。NOリスクではNOリターンということですね。
村上氏:ありがとうございます。山口さんはどうですか?「仕事の成否は相手との相性であり、結果は全て自己責任」と回答されていますね。
山口氏:はい。正直失敗ってあまりないんですよね(笑)。周囲にはよく「あきらめが悪い」と言われます。
私は失敗しそうな時は、すぐに次のPLAN-Bを用意し、しつこくしつこくリカバーし、できるように続けていきます。あきらめないので失敗しない。次々にPLANを変えて成功する方法をスピーディーに進めて行く感じですね。だめだったときに次にどうするか?を、常に考えています。
村上氏:PLAN-Bを迅速に実行していることは素晴らしいですね。
山口氏:あとは、会社って人と仕組みの2つでできていて、本質的には「相性」だと思っています。うまくいくかいかないかも相性が大事です。うまくいかなかった時は次に相性の良い相手を見つけるのも大事だと思います。
村上氏:ありがとうございます。では、続いて勝瀬さん。「決裁者のいない企業との交渉」――なんだかハードそうですね(笑)
勝瀬氏:Booking.com時代の話です。Booking.comはオランダの会社で合議制なんですね。全員がOKと言わない限りGOしないんですよ。ただ、データを出して納得すればすぐに決まるんです。
当時組もうとしていた日本の会社は、「決める人」がいない状況でした。意思決定の決め手になるものがわからないんです。よく日本の会社にありがちだと思うんですが、「充分に審議をつくしたかどうか」が重要なんですよね。
村上氏:わかります。時間と雰囲気ですよね。
山口氏:そうなんです。テクニック的なものになってしまうのですが、世論形成すると大企業は通ることが多いですよね。なので、ベンチャーは広報戦略1つでも工夫すれば大企業をマネージできると思いますよ。
村上氏:まわりが良いと言っているものへの信頼度が高いですよね。良いという雰囲気に持って行くと話が早いかもしれませんね。
今の知識と経験をもって、あの時に戻れるなら何をするか?
村上氏:それでは、最後に「今の知識と経験をもって、あの時に戻れるなら何をしますか?」会場の皆さんにアドバイスもお願いします。
勝瀬氏:そうですね、ちょっとずれるかもしれませんが、意思決定は決めるのが好きな人がやるべきですよね。意思決定者って自分で決めることが楽しいと思うんですよ。
私も新規事業を仕込んでいる時は、静かにすると決めていました(笑)。誰にも何も言わず、サービスを作っていました。実績ができるまでは静かにして、種をたくさんまいておくんです。
育ってきたら、たくさん宣伝をして、本社からもお金をもらって一気に育てていきます。実績ができれば誰も何も言わないし、実績をあげるためには1つ1つ決めていくことが重要なんです。
村上氏:山田さんはどうですか?
山田氏:そうですね、先ほどの話にもひもづきますが、「その事業、本当にやりたいことなの?」ということですかね。ベンチャーでよくあるのが、大企業のアイデアを形にするというやり方で進めてしまうことです。やりたい、というよりも市場で当たりそうなところ、求められているところから進めていってしまう。それだと上手くいかなくなるんですよね。
事業の立ち上げって本当にやりたい人がいるから続けられると思うんです。よくあるのが、その人が異動したりするとその事業が撤退してしまったり。本当にやりたいことを見つけ、少しでも可能性があったときに深堀し続けられるかが大事ですね。当初予想していなかったところにニーズが出てきて、一気にブレイクスルーすることもあると思います。
村上氏:では最後、山口さん。
山口氏:「なるはやで偉くなれ」ということですかね。最後責任をとるという立場にいないと、人間腹が決まらないと思うんですよ。だから早く責任のあるポジションになって腹をくくる立場になった方がいい。
あとは、事業をドライブしようと思ったときには、言語化することが大事だと思います。事業としての野心や個人としての野心をもっとどんどん外に発信していっていったほうがいいと思いますよ。
編集後記
今回紹介したセッションもそうだが、全セッションを通じて事業開発に必要なマインドは共通していたように思う。人は自分の意志で動いている時が最もパフォーマンスを発揮できる。だからこそ、「どれだけ熱量を持って取り組めているか」、「決める立場で自分ゴト化できるか」が必要だ。事業開発という困難なものは、尚更、組織にも人にも「やりたいかどうか」が問われていくのだろう。
大盛況だったQUMは、次回開催も予定しているとのこと。今回参加できなかった方も是非次回に向けて注目してほしい。