共同開発製品ローンチから新会社設立まで。進化が止まらない三重県発共創プロジェクトの“その後”を取材!
県内経済の持続的な発展につなげることを目的に、継続してオープンイノベーション推進事業に取り組んでいる三重県。県内企業と先進的な技術・ノウハウを持つスタートアップを意図的につなげ、両社による事業共創を支援することで、イノベーション創出の流れを定着・加速させようとしている。
本事業の核となるのが、2022年度に開始した”三重県内のホスト企業×全国のパートナー企業”によるビジネス創出プログラム、『TOKOWAKA-MIEオープンイノベーション事業』だ。同プログラムは、セミナーやワークショップを経てマッチングしたホスト企業・パートナー企業の2社が、支援を得ながら短期間で共創事業の立ち上げに挑むという内容になっている。2022年度と2023年度のプログラムから、合計8つの共創プロジェクトが誕生し、実証実験やテスト販売の開始など着実に成果を上げてきた。そして現在、3期目となるプログラムがスタートしている。
TOMORUBAでは、プログラム終了後の共創プロジェクトの成長の軌跡を追うべく、三重県内のホスト企業5社(2022年度のホスト企業2社/2023年度のホスト企業3社)にインタビューを実施。共創プロジェクトの現在地や今後の展望、オープンイノベーションに取り組んでみての所感などを詳しく取材した。三重県の中小企業が共創プログラムで何を得たのか、注目してほしい。
<2022年度プログラム>
【01】IXホールディングス(ホスト) × フューチャースタンダード(パートナー)
【02】南出(ホスト) × 環境エネルギー総合研究所(パートナー)
<2023年度プログラム>
【03】エムケイ・コーポレーション(ホスト) × エナジーフロント(パートナー)
【04】万協製薬(ホスト) × EQUES(パートナー)
【05】リバ技研(ホスト) × 川上産業(パートナー)
【01】映像解析AIを用いて工場内作業を効率化し、今年10月に新規事業専門の新会社を設立(IXホールディングス × フューチャースタンダード)
<2022年度プログラムに参加>
●IXホールディングス株式会社(ホスト)/『おにぎりせんべい』など米菓製造販売のマスヤを中核とする企業
●株式会社フューチャースタンダード(パートナー)/映像解析AIに特化した企業
――最初に、今回の共創に至った背景と共創プロジェクトの現在地について教えてください。
神山氏: 2022年度のプログラムでは、フューチャースタンダードさんの映像解析AI技術を、当グループの様々なフィールドに導入して課題解決につなげることで合意し、共創プロジェクトを開始しました。この2年間、映像解析AIを現場にどう役立てるかを模索し、数々の挑戦と失敗を重ねてきましたが、ようやく『マスヤメソッド』としてサービス化できる段階に来ています。2024年10月1日にはデジタルを軸にした新会社”IXデジタル”を設立しました。これまではグループ内での導入に限っていましたが、いよいよグループ外への販売を始めようとする段階です。
▲IXホールディングス株式会社 執行役員グループCIO デジタル事業本部長 神山大輔 氏
――『マスヤメソッド』は、誰のどのような課題を解決するものなのでしょうか。概要をお聞かせください。
神山氏: 『マスヤメソッド』は、人の目で見て手で記録していた作業を、安価なカメラと映像解析AIで自動化するソリューションです。例えば、当社の『おにぎりせんべい』工場のような製造現場に導入すると、これまで人の手で行っていた業務を、安価なカメラに置き換えることができます。ただし、私たちは『マスヤメソッド』だけを取り扱うわけではなく、地元企業のデジタル化やDXを指揮する会社へと成長することを目指しています。
▲画像解析AIプラットフォームを活用した『マスヤメソッド』。『おにぎりせんべい』などの製造プロセスに導入することで効率を図る。(画像出典:プレスリリース)
――共創プロジェクトを事業化するプロセスの中で、特に難しいと感じた点は何ですか。
神山氏: 最も難しいと感じたのは、製品を市場にローンチするタイミングの見極めでした。というのも、映像解析AIを使ったソリューションは進化がとても早いため、差別化が難しい状況です。当初から100点の仕上がりではなくてもリリースしようと思っていましたが、それでも遅いと感じます。実は、新会社を立ち上げる狙いの一つには、別会社を作ってサービスを提供せざるを得ない状況に、自分たちを追い込む意図もあるのです。
――本プログラムで得られたメリットについてもお聞かせください。
神山氏: このプログラムに参加したことで多くのメリットがありました。一つは、フューチャースタンダード社との人材交流です。これまで当社内のメンバー2名が同社に出向し、新しい文化を持ち帰っています。また、伊勢市に閉じこもっていては得られない、多様な出会いや繋がりが生まれたことも大きな収穫です。三重県内の化学メーカーさんとも親交を深めており、プログラム卒業生間での仲間意識も強まったように感じます。
さらに、露出の機会も大幅に増えました。先日、伊勢市のケーブルテレビに出演しましたし、日本商工会議所からの取材も受けました。そして、経済産業省による「DXセレクション2024」の優良事例に選定されています。「新しいことに取り組んでいる会社」という企業イメージが醸成され、全国的に注目されるようになったのは、オープンイノベーションの効果だと感じています。マーケティング予算が限られている中、様々なメディアに社名を出していただき、とても助かっています。
――今後の展望についてもお伺いしたいです。
神山氏: 長期的な目標は、伊勢志摩エリアのデジタル化とDXの推進です。まずは一歩を踏み出す支援を行い、DXと表現できる大きな変革を目指します。また、今回の活動を通じて、オープンイノベーションが今後の事業成長の鍵になると確信したため、伊勢志摩エリアでオープンイノベーションを普及させていくお手伝いもしていきたいと思います。
【02】エアコンの室外機に載せるだけで電気代を削減、『GXマット』を共同開発し販売スタート(南出 × 環境エネルギー総合研究所)
<2022年度プログラムに参加>
●南出株式会社(ホスト)/創業100年の造園緑化資材メーカー
●株式会社環境エネルギー総合研究所(パートナー)/エネルギー関連調査・分析等を専門とするシンクタンク
――2022年のプログラムを契機に、パートナー企業と共同で雨水を利用して空調室外機を冷却して電気代を削減する『GXマット』を開発されました。プログラム後の進捗やビジネスの現状についてお聞かせください。
南出氏: プログラム終了後、三重県主催のイベントに登壇したのですが、その際にJR西日本の担当者の方から「一緒に実証実験をしよう」とお声がけをいただき、2023年はその実験に注力しました。そこで電気代削減の効果を確認できたため、今年(2024年)の7月に結果をプレスリリースで配信。それが話題となり一般消費者から購入依頼が入り始めました。また、新しい製品に敏感な大企業からも問い合わせがあり、現在、それらの企業とともに来年度に向けた準備を進めています。
▲南出株式会社 代表取締役 南出紘人 氏
――JR西日本社と実証実験に取り組まれたそうですが、他社と共創するうえで苦労した点などはありましたか。
南出氏: 手がけたことのない実験で誰も正解が分からない中、「どこを試験場にして、どう進めるのか」を探りながら進める難しさはありました。JR西日本さんとの実証実験では、奇跡的に2部屋連続で同じ室外機があり、電力測定ができる環境がありましたが、こうした条件の揃うことは稀です。ですから「どこでどんな実験をするのか」を交通整理していく過程には苦労します。
――一般消費者以外の法人向けでは、『GXマット』はどの業界と相性が良さそうですか。
南出氏: 大規模ビルの屋上にある大型室外機には形状が合わず導入は難しいです。相性が良いのは、小さな室外機を個別で管理している飲食店など。コンビニにも可能性を感じており、街でコンビニを見かける度に「ここに置けるな」と思っています。コンビニは全国に6万店舗ほどあるので狙っていきたい市場です。
▲JR西日本との共同実証実験で、夏場の空調電気代30~60%削減効果を確認した『GXマット』。空調室外機の上に簡易に取り付けることで、雨水を活用して効率的に冷却効果を発揮し、電気代を削減する新素材製品。
――新規事業の立ち上げが順調に進んでいるようですが、これまでの経緯を振り返り、成否を分けた分岐点はどこにあったと感じておられますか。
南出氏: 良いプロダクトを開発できたことは大きな要因ですが、成否を分けたのはJR西日本さんが実証実験に取り組んでくれて、その結果をオープンにすることを許可してくれた点にあると思います。当社単独で「GXマットで夏場の空調電気代を30~60%削減できた」と主張しても、「怪しいね」で終わっていたと思うんです。
しかし今回は、ネームバリューのあるJR西日本さんと実証実験に漕ぎつけ、その名前を出してデータを公表できたことが、うまくいったポイントだったと思います。信憑性を担保することができました。
――最後に、本プログラムで得られたメリットと、これからオープンイノベーションに取り組もうとする企業に向けたアドバイスをお願いします。
南出氏: プログラムの最大のメリットは、一言で言えば「スピーディに新規事業を生み出せたこと」です。当社は15年前に都市緑化分野へ新規参入しました。そこから15年間で、売上を20倍に成長させましたが、ゼロから事業を立ち上げたため、非常に長い時間がかかってしまいました。しかし、オープンイノベーションを活用することで、その期間を3~4年に短縮できる可能性があると実感しています。このスピーディさこそが、プログラムを通じて得た大きなメリットだと思います。
プログラム参加を検討中の企業に向けたアドバイスは、どこにチャンスが転がっているか分からないので、できるだけ多くの企業と面談して見逃さないようにすること。それと、新規事業はすべてがうまくいくとも限りません。「せっかく作ったんだから大事にしよう」と言われがちですが、ある程度の見極めも必要だと思います。
【03】介護現場で活用できる製品の共同販売を開始、将来的には地域住民との共創を目指す(エムケイ・コーポレーション × エナジーフロント)
<2023年度プログラムに参加>
●株式会社エムケイ・コーポレーション(ホスト)/IXグループの介護事業者
●株式会社エナジーフロント(パートナー)/産学官連携で地域課題の解決を目指すベンチャー
――IXグループの一員として介護事業を展開されているエムケイ・コーポレーションですが、このプログラムへの参加を決めた理由からお聞かせください。
平林氏: 理由は主に3つあります。1つ目が新しいことに挑戦する組織風土の醸成です。介護業界は国の枠組み内で運営される事業のため、社内の組織文化は、決められたことを行っていくという、言葉を選ばず言うと受動的な仕事の進め方や考え方になっているところが多分にあり、新しいことに挑戦するという気概や意識が少ない状況でした。しかし、時代の変化に対応するため、会社が新規事業に取り組もうとする姿勢やその面白さを、社員に感じてもらいたい意図がありました。
2つ目が、新たな収益事業の開発です。高齢者人口はある一定の時点を境に減少に転じますが、伊勢エリアではすでに2023年頃をピークに減少し始めています。介護事業だけでは先細りすることが見込まれるため、新規事業の開発が急務です。そして3つ目が、前年度にIXホールディングスが本プログラムに参加していたことから、私たち事業会社もその火をつないでいきたいという使命感がありました。
▲株式会社エムケイ・コーポレーション 代表取締役 平林勇二 氏
――2023年度のプログラム成果発表会(デモデイ)では、エナジーフロント社の介護用リフト『リフティピーヴォ』を、介護現場に導入していくというお話でした。その後の進捗はいかがでしょうか。
平林氏: 将来的な展望からお話しすると、エナジーフロントさんの既存製品の導入・販売だけでなく、地域の事業者や元気な高齢者を巻き込みながら介護業界の課題解決に取り組みたいと考えています。そのためには、製品の共同開発が最終ゴールですが、まずは介護職員の腰痛問題に対応する製品として、同社の『リフティピーヴォ』を介護事業所に販売していく予定です。そして、現場からの改善提案をヒアリングしながら、より良い製品にすることが足元のプロジェクトです。
具体的には、来年3月に向けて相当な額のマーケティング費用を投入し、プロモーションを行いながら、製品販売や実証実験、ユーザーヒアリングを繰り返します。大規模なイベントにも参加予定で、9月と11月には介護事業者向けのイベントで私たちの取り組みを実演とともにプレゼンします。12月には、福祉用品の展示会に出展し、普及活動を行っていきます。9月のイベントでは、2社から「導入を検討したいので説明に来てほしい」「商品をレンタルさせてほしい」という声をいただき、手応えを感じています。
▲コンパクトなクッションリフト『リフティピーヴォ』(介助ベルト)。体重80キロの平林氏を、小柄な女性が軽々と持ち上げることができる。(2024年3月開催「TOKOWAKA-MIE 事業共創推進事業 DEMODAY」より)
――本プログラムを通じて得られたメリットや気づきはありましたか。
平林氏: もともと私自身、「こうしたい」「こうすべきだ」といった強い想いを持っていましたが、最初のワークショップでその枠組みを取り払って考えられるようになったことが、自分にとって非常に良い経験となりました。枠組みが外れたことで新たな視点が得られたと感じます。また、実証実験を通じて当社の現場力の強さも実感しました。「この取り組みをやるよ」と現場に伝えると、メンバーが迅速に動いてくれて、忙しい中でも実証実験に参加してくれました。
――最後に、オープンイノベーションに取り組もうか悩んでいる企業に向けて、メッセージをお願いします。
平林氏: オープンイノベーションの取り組み方には2つの方法があると思います。ひとつは、ゼロから話し合いながら新しい価値を生み出す方法で、これは難易度が高いケースです。もうひとつは、既存のものから始めて、将来的にはゼロから新たな価値を創造するという2段階のステップを踏む方法です。私たちは後者を選んだため、始めやすかったと思います。これがオープンイノベーションなのかは別の議論が必要かもしれませんが、アプローチ次第でハードルは低くなります。本プログラムは事務局のサポートもあるので、ぜひ活用してみてください。
【04】医薬品メーカーの品質保証部門が生成AIの活用で業務効率化、開発システムの外販にも着手(万協製薬 × EQUES)
<2023年度プログラムに参加>
●万協製薬株式会社(ホスト)/外用薬専門の医薬品メーカー
●株式会社EQUES(パートナー)/数理を軸としたAIスタートアップ
――本プログラムに参加することを決めた理由からお伺いしたいです。
松浦氏: 2022年度のプログラムのデモデイを見学した際、異なる企業が一つのテーマに取り組み、別の企業が仲介して共創を進める様子に興味を持ちました。それを受けて、当社も取り組みたいと思い応募しました。参加するまでは、医薬品以外で新規事業を探す活動は行ってこなかったため、今回のような新規事業を立ち上げるのは初めての経験です。
▲万協製薬株式会社 代表取締役社長 松浦信男 氏
――プログラムを通じてEQUES社と出会い、共創プロジェクトを開始されました。当初の課題感や共創の概要を教えていただけますか。
岩田氏: 当社の医薬品製造所のDX化を共創テーマに掲げてパートナーを募集したところ、日本のAI研究をリードする東京大学松尾・岩澤研究室発のスタートアップであるEQUESさんからご応募いただきました。提案いただいた内容は、生成AIを活用した品質保証(QA)の文書作成業務の効率化です。それは当社の想定を超える新たな切り口でしたし、ますます厳格化されて時間を要するようになっているQA業務を改善できると確信し、共創プロジェクトを開始することにしました。
具体的には、QA部門の文書作成と管理業務を支援する生成AIシステムを開発中です。まず、変更申請書の草案をAIで自動作成するシステムから構築をしています。製薬メーカーでは、原薬メーカーの変更や個箱のデザインの変更など、すべての変更を管理する必要があります。担当する製造部門などが変えたい箇所を「変更申請書」という書類に記載して、QA部門に提出をします。それをQA部門がチェックを行うという流れです。
EQUESと開発したシステムを当社の現場で使用した結果、申請作成時間が32分から15分に、QA部門のレビュー時間も35分から11分へと大幅に短縮することができました。
▲【右】万協製薬株式会社 品質管理部品質保証課 岩田大輔 氏、【左】万協製薬株式会社 品質管理部品質保証課 西野良 氏
――プログラム期間終了後の共創プロジェクトの進捗はいかがですか。今後の展望についても教えてください。
岩田氏: 進捗としては、デモデイで発表したスケジュール通り順調に進んでいます。2024年3月の時点でプロトタイプが完成し、1カ月ほど自社で使用しながら機能の整理を行いました。その後、トライアル利用を製薬メーカーに呼びかけ、現在は5社で使ってもらいながらシステムの汎用化を進めています。そのトライアル5社には様々な規模の製薬メーカーが含まれており、EQUESさんのほうに多くの要望が寄せられていると聞いています。積極的に使われているのではないかと思います。
今後の展望についてですが、2025年を目途にα版のプロダクトをローンチ予定です。加えて、今回のプログラムでは「変更管理」のシステムを開発しましたが、これ以外にも業務効率化を行いたい部分はたくさんあります。それらのシステム開発も、EQUESさんとともに進めていく考えで、すでにいくつかの文書作成サポートAIの開発に着手しています。
また、既存の文書管理・イベント管理システムを導入している製薬メーカーも多いため、既存システムとの間でデータのやり取りをできるよう、システムベンダーとの業務連携も目指していきたいと考えています。現在、開発を進めているすべてのシステムがフルで使えるようになれば、製薬におけるQA部門の業務効率は圧倒的に高まると思います。
――オープンイノベーションによる新規事業創出に取り組んでみて感じたこともお聞かせください。
西野氏: 私たちQA部門は営業や販売部門から独立し、品質保証に専念してきました。しかし、今回のオープンイノベーションでは自社の品質保証に留まらず、開発や販売、他社との意見交換など、通常のQAの枠を超えた仕事を手がけることができました。
多くの製薬会社でQA人材が不足している現状を考えると、この取り組みは他社のQA業務の改善にも貢献できる可能性があります。日本の製薬業界全体を視野に入れたこのプロジェクトを通じて、大きな挑戦ができていると感じますね。
【05】気候変動に対応する“断熱材”を共同開発し、量産体制を構築(リバ技研 × 川上産業)
<2023年度プログラムに参加>
●株式会社リバ技研(ホスト)/グラスウール素材を軸とした吸音製品メーカー
●川上産業株式会社(パートナー)/気泡緩衝材「プチプチ®」・軽量剛性板「プラパール®」などの包装材メーカー
――まず、このプログラム参画の背景からお聞かせください。
山本氏: 先代の頃から新商品やサービスの開発に挑戦してきましたが、第三者の視点や商品開発のノウハウは十分ではありませんでした。「これは売れるんじゃないか」という考えから何かを作り、ネットで売ってみたりもしましたが、簡単に売れるわけもなく、売れたとしても継続性がない状態で…。そんなときに、県庁の方からこのプログラムを紹介いただき、新たな事業の柱を築きたいと思って参加を決めました。
▲株式会社リバ技研 代表取締役 山本博之 氏
――今回のプログラムでは、川上産業社と共創を開始されましたが、パートナーに選ばれた理由をお聞かせください。
山本氏: 担当者の人柄が最も大きな決め手でした。その人柄は個人のものだけではなく、川上産業さん全体の社風でもあったと思います。「一緒に何か新しいものを作っていこう」「良いものを仕上げていこう」という姿勢が、何よりもありがたいことでしたし、それこそが私たちの求めているものでもありました。この社風の合致が今でも共創が継続している理由だと感じます。
――プログラムの成果発表会(デモデイ)では、両社の強みを融合した「断熱材」を発表されましたが、その後の進捗はいかがでしょうか。
山本氏: デモデイ後、データの取り直しや用語・単位の定義のすり合わせを行い、両社間の認識のズレを解消する作業を行いました。その上で、商品構成をブラッシュアップして、量産化に向けた準備を行ってきました。当社が材料を提供して、今回の加工を得意とする川上産業さんでアッセンブリし、量産化を行う方針です。川上産業さんとの共創には、難しさを感じることはほとんどなく、淀みなく順調に進んでいます。
▲実証実験では、コタツの天板と毛布の間に開発した断熱材を仕込んだ。消費電力を抑えつつ、コタツ内部の温度上昇が確認できたという。(2024年3月開催「TOKOWAKA-MIE 事業共創推進事業 DEMODAY」より)
――オープンイノベーションによる新規事業創出に取り組んでみて感じたこともお聞かせください。
山本氏: プログラム事務局と「どういうテーマで取り組むのか」を考えていくプロセスがあるのですが、私はこの時が一番きついと感じました。というのも、当社は町工場ですから、目の前にある素材を使って何かを作ることは得意です。しかし、事務局の方からは「もっと高い視点を持ってほしい」と指摘されたんです。「リバ技研は将来、どういう会社になるべきなのか」「それは社会的にどういう意義があるのか」を考えるべきだと言われ、それで、会社のルーツから見直していきました。
創業者の想い、この地で商売をしている理由、この商品を製造している理由など、会社の背景にある事実を積み上げていき、「会社存続のためには、こういうものを作る必要がある」「今は実現困難かもしれないが、将来はこれを作っていないといけない」「そのうえで、足りないピースは何か」と考えを深めていきました。
大変でしたが、この積み上げがあったからこそ、募集テーマ決定後はブレずに進めることができたと思います。川上産業さんとのコミュニケーションでも、最初の積み重ねが土台になったと感じますね。
――自社のアイデンティティから見つめ直していかれたということですね。
山本氏: そうです。正直に言うと、これまで振り返ることはありませんでした。創業者は祖父、二代目が父、三代目が私で、知っているはずだと思い込んでいたんですよ。私たちが知らなければ誰が知っているのか、という気持ちもありました。しかし、改めて確認してみると、実はきちんと理解できていないことが多かったんです。ですから、このプログラムが会社の成り立ちや存在意義を見つめ直す良いきっかけになったと思います。
取材後記
今回の取材を通じ、三重県内企業と全国のスタートアップが連携することで、地方企業の可能性が大きく広がっていることを実感した。各企業が持つ強みや技術を組み合わせ、新たな価値が次々と生み出されている様子は、まさにオープンイノベーションの真髄だ。短期間での成果にも目を見張るものがあったが、それ以上に関係者の情熱と挑戦への姿勢が強く印象に残った。地方から大きな野望を持つ挑戦者が立ち上がり、社会を変えていく様を、引き続き追っていきたい。
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詳細はこちら
https://sites.google.com/eiicon.net/tokowaka-mie-2024
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子)