【コラム】 国立大学VCや大学発ベンチャーの登場により、活発化する産学連携型のオープンイノベーション
製品・サービスの開発サイクルが早まり、市場からのニーズも多様化している今、企業は自前主義では立ち行かない場面も多くなっている。そうした背景の中で、知識・技術が集積されている大学と企業との連携により、イノベーションを生み出そうという動きが活発化している。――そうした動きの一例としてあげられるのが、国立大学ベンチャーキャピタルの登場だ。
2013年1月に閣議決定された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」において、2012年度の補正予算として4つの国立大学(東京大学/京都大学/大阪大学/東北大学)に対し、計1000億円が出資された。これを原資として、各大学は以下のようなベンチャーキャピタルを設立している。
●東京大学 : 東京大学協創プラットフォーム開発
●京都大学 : 京都大学イノベーションキャピタル
●大阪大学 : 大阪大学ベンチャーキャピタル
●東北大学 : 東北大学ベンチャーパートナーズ
これらのベンチャーキャピタルは、母体となる国立大学や民間金融機関からの出資を受け、第1号ファンド(投資事業有限責任組合)を組成し、投資活動を推進。大阪大学ベンチャーキャピタルのファンドにおいては、投資先であるジェイテックコーポレーション(大阪・茨木市)が、2018年2月東証マザーズに上場を果たした。なお、ジェイテックコーポレーションは、大阪大学と独立行政法人理化学研究所との共同研究を通じて、集光性能を誇る大型の「放射光用ナノ集光ミラー」を開発している。
一方で、世界で飛躍する大学発ベンチャーも登場している。その一つが、ペプチドリームだ。同社は、東京大学の菅裕明教授の研究成果をベースにしたバイオベンチャーで、創薬開発の独実プラットフォームシステムPDPS(Peptide Discovery Platform System)を展開。国内外の大手製薬企業のアライアンスパートナーとなり、創薬の共同研究開発を行っている。2013年6月に東証マザーズに上場し、2015年12月には東証一部に市場変更するなど、企業規模も年々拡大している。
以上のような動きにあわせて、ここ最近の産学連携型オープンイノベーションのトレンドを見ていきたい。
大阪工業大学が大阪商工会議所と組み、共創拠点を設立
2018年4月、大阪工業大学は大阪商工会議所と共に、大企業がベンチャー/スタートアップ企業と連携して革新的な新製品を生むオープンイノベーション拠点「クロスポート」を設立した。同拠点は、大阪工業大学の梅田キャンパス内に新設され、広さは約1千平方メートル。3Dプリンターなどの工作機器も備えている。
また、「クロスポート」では大企業が新規事業のテーマを提示して、協業相手を募集。まずは、大和ハウス工業が参画することが決定している。
東京医科歯科大学と日立が連携、AIを活用して難病の早期発見を目指す
東京医科歯科大学と日立製作所は、2018年4月に「TMDU(※)オープンイノベーション制度」に基づく連携協定を締結。2018年度より、難病診断支援を中心に医療・健康分野における研究開発や事業および人材の教育や育成等に関する取組みを、戦略的かつ柔軟に実施していくこととなった。
東京医科歯科大学が蓄積している難病に関する知見と、日立の持つAIや医療機器に関する技術を掛け合わせて、専門医が不在の診療所などでも難病を早期発見できる仕組みの確立を目指す。それによって、過度な検査・投薬などによる患者負担を減らし、医療費抑制にもつなげていく。
※東京医科歯科大学(Tokyo Medical and Dental University)
産学共同研究講座を設置する東京農工大
東京農工大学は、2016年度からの6カ年の中期目標・中期計画において「日本の産業界を国際社会へ牽引するためオープンイノベーションを指向した産学官連携活動等を推進・発展させる」とし、オープンイノベーションを本格化させている。
その一環として、日清オイリオグループと連携。2018年5月に、大学内に産学共同研究講座(日清オイリオ機能性油脂・腸内環境研究講座)を設置したと発表した。同講座は、腸内環境に基づく中鎖脂肪酸油の摂取によるエネルギー・脂質代謝に関するメカニズムの解明、中鎖脂肪酸と腸管免疫調整機能の関係性の解明などを目的としている。