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横浜にGXを実装するには?スタートアップエコシステム構築のヒントとは?――『Y-SHIP 2023』注目のセッションレポート

横浜にGXを実装するには?スタートアップエコシステム構築のヒントとは?――『Y-SHIP 2023』注目のセッションレポート

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160年前の開港以来、常に新しい技術や製品を海外から輸入してきた「横浜」。そんな“イノベーションの港町”横浜で、『Y-SHIP 2023』と題した国際コンベンションが開催された。主催者は、横浜市。「世界から集いつながる国際都市 横浜」の実現に向けた活動の一環で、地球規模の課題の解決に向けて、世界のパイオニアと新たなイノベーションを生み出すことを目指す。

11月13日~15日の3日間にわたって開催された本コンベンションでは、「Green Transformation」「Asia Smart City Conference」「Open Port City」「Y-SHIP Youth」の4分野で、30以上のセッションが英語で繰り広げられた。会場となったのは、パシフィコ横浜ノース。一部セッションの様子は、リアルタイムで世界にもオンライン配信されたという。国内外企業、海外スタートアップ支援機関、国際機関、大使館、アジア諸都市のリーダーなど約50か国から多様なメンバーが参加し、国境を越えて横浜と世界がつながる、熱気あふれるイベントとなった。

本記事では、世界各国の有識者やオープンイノベーションの実践者を招いたセッションのうちから、2つの代表的なセッションをダイジェストで紹介する。

【編集部が注目したセッション①】 「GXを実装するまちづくりの事例と課題」

TOMORUBA編集部が注目したセッションの1つ目は、「GXを実装するまちづくりの事例と課題」と題したセッションだ。GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料の使用を減らし、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のことをいう。本セッションでは、横浜でGXに取り組む3名のパネリストと、モデレーターのトーバ・キノオカ氏が壇上にあがり、GX活動の内容や課題感を共有した。

<登壇者・モデレーター>

【写真左→右】 

・加藤 佑氏 ハーチ株式会社 CEO

・エリック・カワバタ氏 テラサイクルジャパン 代表

・藥師寺 えり子氏 みなとみらい21熱供給株式会社 代表取締役社長

【モデレーター】 

トーバ・キノオカ氏 Enteleco 取締役

まず、3名のパネリストが、それぞれのGX活動を紹介。最初にマイクを渡されたのは、みなとみらい二十一熱供給株式会社で代表を務める藥師寺えり子氏だ。同社はみなとみらい21地区内にあるビルに対して、冷暖房用の冷水や蒸気を供給している。熱を供給するために大量の電気やガスを使用しており、年間86,000トンものCO2を排出している。これは、みなとみらい21地区の排出量全体の30%にもなる。また、冷水のエネルギー源は、85%が電気、15%がガスであり、蒸気のエネルギー源は100%をガスに頼っている状況だという。

こうした現状を踏まえ、同社はゼロカーボンに向けたロードマップを策定。プラントの刷新などにより、2030年までには電力の脱炭素化、2050年までにはガスの脱炭素化を実現したいと話す。また藥師寺氏は同社のCO2削減状況についても言及。CO2排出係数(tCO2/GJ)は、ここ数年で劇的に減少していると自信を見せた。

続いて、テラサイクルジャパン代表のエリック・カワバタ氏が自社の活動を紹介。テラサイクルは『使い捨てプラスチック』の概念をなくすための活動を、日本を含む世界21カ国で展開している。2014年にアジア太平洋エリアの統括本部を横浜に置き、それ以来10年近く横浜を拠点に活動をしてきたという。テラサイクルでは、リサイクルとリユースの2つのプラットフォームを組み合わせて提供している。

リサイクルソリューションでは、日本全国にある回収拠点でプラスチックを回収し、新しい製品に生まれ変わらせている。たとえば、歯ブラシをプランターに変えるなどだ。一方、リユースソリューション(Loop)では、使い捨てられていたプラスチック容器などを再利用できる素材に変える活動を展開。たとえば、プラスチックを繰り返し使用できるステンレスなどに変更するなどだ。物流や食品、製薬、小売など多様な業界の大手企業が運営パートナーとなり、エコシステムを構築しているという。

次に、ハーチ株式会社 CEOの加藤 佑氏にバトンタッチ。同社はデジタルメディア運営事業を展開している企業で、サスティナビリティとサーキュラーエコノミーに焦点をあてている。拠点は東京と横浜のほかロンドンにもある。主力メディアのひとつが『IDEAS FOR GOOD』で、社会問題や環境問題に取り組むための数々のヒントを紹介している。また、『Circular Economy Hub』という別のメディアでは、サーキュラーエコノミーに関わるニュースやストーリーを公開。横浜におけるプロジェクト事例もデータベース化しているそうだ。

最後にモデレーター役のトーバ・キノオカ氏が自己紹介。トーバ氏がディレクター兼 共同創業者を務めるEnteleco(エンテレコ)は、持続可能な社会を実現するためのコンサルティングサービスなどを展開しているという。

4名の活動紹介を終えたところで、モデレーターのトーバ氏が、さらに踏み込んだ質問をパネリストらに投げかける。横浜市は2022年4月、環境省による「脱炭素先行地域(DLAs)※」に選定されたが、「どうすれば、DLAsは機能するか」と藥師寺氏に問いかけた。それに対して藥師寺氏は、次のように説明。まず、注力ポイントとして(1)徹底した省エネ、(2)電力の脱炭素、(3)みなとみらい21地区の熱供給における低炭素・脱炭素化、(4)資源リサイクル、(5)市民の行動変容を促すイベントを提示する。

さらに、同社の取り組むべき課題として、(1)安価な再生可能エネルギーの安定的な確保、(2)ガスの脱炭素化に向けた技術開発と追加投資、(3)顧客理解の獲得を挙げた。(3)に関連して顧客にアンケート調査を実施したところ、「脱炭素に興味がある」と回答した顧客は95%と高い値を示す一方で、「脱炭素に向けたロードマップを持っている」と回答した顧客は20%にとどまり、「脱炭素化された熱を、高くても購入する意思がある」と回答した顧客は10%にすぎなかったという。

この結果に対して藥師寺氏は、昨今の日本のエネルギー価格上昇により「顧客はエネルギーコストに非常に敏感になっている」と指摘。しかし同時に顧客は「世論に非常に敏感でもあるため、世論を変えることが重要だ」と語った。

※脱炭素先行地域(Decarbonization Leadership Areas/DLAs)とは、環境省が実施する政策パッケージ。特定の地域を選定し、その地域の脱炭素化を集中的に支援するもの。みなとみらい21地区も2022年4月に選定されている。(参考ページ

エリック氏に投げかけられたトピックは、「多様な団体やステークホルダーを巻き込んだ事例」だ。エリック氏は、2025年に開催される大阪・関西万博で、街中で回収した使用済みのプラスチックをもとに会場内のゴミ箱へとリサイクルする取り組みを紹介。また、森永製菓や行政とともに、学校で燃やされるプラスチック容器を回収し、子どもたちにリサイクルやゴミ分別の必要性などを学んでもらうプログラムも実施したと共有した。そのほか、日本チェーンドラッグストア協会との大規模なリサイクルプロジェクトや、製薬会社と取り組んでいるおくすりシートの回収プロジェクトなど、多彩な取り組みを紹介した。

続いて、ハーチで取り組んでいる具体的な事例を問われた加藤氏は、大学などと連携してワークショップや展示会を行っていると話す。サーキュラーエコノミーは非常に真面目なテーマではあるが、同社は「遊び心」を大切にしているそうで、たとえば、ペットボトルのキャップを持参し、そのキャップを投入するとガチャガチャができるなど、楽しめる展示を行っているという。また、神奈川大学とともに、サーキュラーデザインのプロトタイプをつくるプログラムも開催。ポジティブなアプローチで、個人の行動やマインドセットを変えられるよう工夫していると語った。

【編集部が注目したセッション②】 「スタートアップエコシステム実装における産学官連携」

2つ目に紹介するのは、「スタートアップエコシステム実装における産学官連携」と題したセッションだ。スタートアップが注目されている日本では今、全国各地でエコシステムの構築が模索されている。横浜においても同様だ。本セッションでは、国内外のスタートアップアクセラレーターやテックベンチャー、オーストリア大使館など、多様なバックグラウンドを持つ4名のパネリストとモデレーターが登壇し、スタートアップエコシステムをテーマに語り合った、その内容を紹介する。

<登壇者・モデレーター>

【写真左→右】

・アーノルド・アカラー氏 Deputy Head of ADVANTAGE AUSTRIA Tokyo

Co-Founder of TechBIZKON

・加々美 綾乃氏 CIC Institute Assistant Director

・並木 由美子氏 The DMZ Global Programs Specialist

・アーロン・サンジャヤ・ベネデック氏 Nekotronic株式会社 代表取締役

・ヴィクター・ムラス氏  Quantum Visioning創業者 ※モデレーター

まず、簡単にパネリストを紹介しよう。1人目のアーロン・サンジャヤ・ベネデック氏は、横浜に拠点を置くNekotronic Inc.のCEOだ。同社はエアモビリティの航空管制システム『SkyCar(スカイカー)』を開発している企業で、横浜と人気の観光地である箱根や千葉を『Sky Highways(スカイハイウェイ)』でつなぐ構想を持っている。

2人目の並木由美子氏は、カナダのトロントメトロポリタン大学を拠点に活動する世界有数のインキュベーター『DMZ』で、日本関連のプロジェクトを担当している人物。『DMZ』はJETROとパートナーシップを組み、日本のスタートアップのカナダ進出も支援しているという。並木氏自身、横浜の大学に通っていたこともあるそうだ。

3人目の加々美綾乃氏は、 CIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)でアシスタントディレクターを務める。CICはアメリカのケンブリッジに拠点を置く世界最大級のイノベーションハブで、東アジア唯一の拠点が東京にある。そのCIC東京では、多様な形でスタートアップの成長支援を実施しているという。

パネリスト4人目は、オーストリア大使館 商務部に所属しているアーノルド・アカラー氏だ。日本とオーストリア間の貿易振興に取り組むほか、『TechBIZKON』というヨーロッパと日本をつなぐスタートアップイベントも開催。2023年12月には渋谷で、半導体技術に焦点をあてたイベントも催す予定だという。

すべてのパネリストが自己紹介を終えたところで、モデレーターを務める、政府および複数の多国籍企業のイノベーション・スタートアップのストラテジーアドバイザーを務めるヴィクター・ムラス氏がそれぞれに対し、より深い質問を投げかけた。

「外国人起業家が日本でどのように起業をしたのか」を聞かれたアーロン氏は、妻の協力も得られているため、アーロン氏は技術面に集中できていると話す。技術面においては技術を確立して特許を取得。鉄道関連をはじめ様々なコンソーシアムへの参加やパートナーシップの締結、展示会への出展などを通じて、事業を前進させているそうだ。また、横浜市からは技術の採用や特許の取得といった面で支援を得ていると語った。

続いて「横浜に来た目的」や「横浜に何をもたらしたいのか」を聞かれた並木氏は、「横浜には競争力のある大学がたくさんあるので、横浜の教育機関でもアントレプレナーシップ教育をもっと提供すべきだ」と強調する。同時に、トロントで実施している高校生・大学生向けプログラムの事例を共有した。その1つが、約8週間のサマータイムプログラムだ。学生らはプログラム期間中、経済的・社会的格差を是正するための解決策の創出を目指すという。そのほかにも、学生らがスタートアップでインターンとして働くための機会も提供。インターンを雇ったスタートアップに対しては、カナダ政府から資金面での支援もあるという。

次に「東京のエコシステム全体を理解したうえで、横浜のエコシステムをどう見ているか」と聞かれた加々美氏は、東京を含む日本のエコシステム全体が抱える課題を、グローバリゼーションだと指摘する。成長を望むスタートアップは多いが、思うように成長しない。その理由はメンバーの大半が日本人で英語が話せず、多様性も欠如しているからだという。一方で横浜は、歴史的に国際都市であることから、横浜がグローバルなスタートアップエコシステムを構築できる可能性は、他の都市よりも遥かに大きいとした。

アーノルド・アカラー氏も、東京と横浜の関係性について言及。横浜は、存在感のある東京の隣にあるということから「自分たちの強みを活かして目立つ必要がある」と強調する。あらゆる分野に手を広げると八方美人になるので、特定の領域で主導的な立場を獲得しにいくべきだとし、「横浜といえば〇〇」という分野を決めて、その分野で際立つべきだとアドバイスした。

ホールの一角では企業や団体、大使館などによるブース展示が行われ、関係者らが意見を交わすなど盛り上がりをみせた。

取材後記

プレカンファレンスも含めると、3日間にわたって開催された『Y-SHIP 2023』。2つのセッション以外にも、GXをテーマとした多様な講演や海外スタートアップ企業によるピッチ、学生による研究発表、横浜に拠点を置くスタートアップなどのブース展示も行われ、イノベーション創出に向けて勢いづく横浜の様子がうかがえた。また、この国際的なコンベンションでは、共通語として英語が用いられ、セッションも英語で展開された。こうした側面からも「国際都市 横浜」の心意気が伝わってくるイベントだった。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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  • 眞田 幸剛

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