【インタビュー】「0→1が生まれる場を創りたい!」~友達0人から全国5000人の若者とつながりを作った学生企業家が語る、“他者とのつながり”とは?~
組織の枠を超え、新たなものを生み出すオープンイノベーション。しかし日本の伝統的な企業で働いていると、まず「組織の枠を超える」ということが難しい。社内でさえ、異なる事業部とのつながり方が分からない。社外のつながりも、同業他社や既存取引先に偏ってしまう――。
そんな組織の枠を、ひょいと飛び越えてしまうのが、今の若手起業家たちだ。今回紹介するのは、NEWRON株式会社 代表の西井香織氏。関西の大学在学中に上京・起業し、若者5000人ものネットワークを持ち、企業をつなぐマーケティングアイデアソンなどの事業を展開している。「人と人とが新しくつながり、0→1が生まれるのが面白い」という西井氏。現在は日本全国の中学生から大学生まで多様な学生とつながりがあるが、実は“友達ゼロ”からのスタートだったという。彼女はどのようにして、他者とのつながりを作ってきたのか。NEWRON創業の経緯や、大企業に対する印象も含めて話を伺った。
▲NEWRON株式会社 代表取締役CEO 西井香織(近畿大学 薬学部6年休学中)
友達0人から、1000人を動員するイベントを成功させる
――西井さんは、起業する前にも学生団体を立ち上げていますね。もともと友達が多かったのですか?
いいえ。小学生から友達がいなくて……。大学ではようやく友達ができたんですが、ある出来事から孤立するようになって。それでも仲間は欲しいし、ぼっちは嫌なので、一人で色んな学生団体やサークルに顔を出してみました。でも、どこも内輪ノリがすごくて、新しく来た人が入りにくい空気があったんですよね。私自身も、輪ができているところに入っていくのが苦手だった。それなら、自分で新しく立ち上げて、ゼロから作っていけばいい。内輪ノリじゃなくて、みんなで楽しめるようなイベントを作ろうと思って、学生団体を立ち上げました。
――それはいつ頃?
大学2年生の時です。音楽イベントで、学生1000人集めて。人生で初めて達成感を感じて、周りにもたくさん人が集まってきました。といっても学部内では相変わらず友達0でしたけど(笑)。学内ではぼっち、学外ではたくさんの仲間に囲まれる。そんな不思議な状態でした。
――イベントを成功させたことで、自信を持てたんですね。
確かに、大成功でした。でも、なんだかモヤモヤ。本当にやり切ったのかな?と不完全燃焼でした。そこで次に新しく、ファッション団体を立ち上げました。大学4年生の時です。でも、うまくいかなかった。赤字を出して、離れていく人もいた。その後も、メディアやサービスを立ち上げてみたのですが、どれもパッとしない。新しいことをやりたい気持ちはあるのですが、自分の中にリソースがないんですよね。だから1年間大学を休学して、東京の色んな会社でインターンして、ビジネスを学ぼうと決めました。
人生を変える出来事で見えてきた「0→1が生まれる場を創りたい」という想い
――1年間修業に出ることを決めたんですね。でも、休学というのはご家族に反対されませんでしたか?
そうですね。まずは親を説得することが第一関門でした。そこで、休学の理由や、メリット、約束などをまとめた「休学物語」という資料を作って、親にプレゼンをしたんです。これで納得してもらい、1年間休学できることに。
ちなみにこの「休学物語」は、他に休学を考えている学生の間にも出回っています。今私は2年目の休学中なのですが、「休学のレジェンド」と呼ばれています(笑)。
――休学のレジェンド(笑)。休学して東京に出てきて、どんな活動をしていましたか?
東京では10社くらいのインターンを掛け持ちしました。あとは、著名な方や起業家など、会いたい人にFacebookなどでメッセージを送って会いにいっていました。色んな人と会って色んな話を聞いて、とにかく吸収しようともがいていました。でもなかなか自分でビジネスを生み出す軸が見つけられず、あっという間に1年経ってしまって。
――もう1年、休学を延長することにしたんですね。
はい。休学申請をするために関西に帰省することになりました。実は私、ヒッチハイクが好きで、その帰省の時もヒッチハイクで大阪に向かっていました。そんな時に、とても危険な目に遭ったんです。命からがら、なんとか逃げ出しました。死をすぐ近くに感じた恐ろしい経験から、生きていることって奇跡なんだなと思って。「生きているうちに、好きなこと、本当にやりたいことをやろう」と思ったんです。それが、NEWRON立ち上げのきっかけとなりました。
――大変な事件を経験して見えてきた、「本当にやりたいこと」とは?
私、自分は人が好きだと思っていたんですよ。でも、東京で色々な人と会って話をして、それはちょっと違うなと気付きました。本当に好きでワクワクするのは、新しい人との出会いの中で、「0→1が生まれる瞬間」だったんです。そんなワクワクする場の創造を仕事にしようと思いました。
事業を創る人を増やしたい
――NEWRON株式会社を創業したのは2017年の7月ですね。そこからどのように実績を作っていきましたか?
第一号は、インターン先だった株式会社ペライチというベンチャー企業です。採用イベントの設計やコンテンツ作りを行いました。採用も成功して満足度も高かったのですが、やりたいことは採用とはちょっと違う。単純に学生と企業をつなぐだけではなくて、他者をつないで新しい何かが生まれる場を創ること。そんな時に、知り合いから紹介をしてもらい、百貨店のアイデアソンを企画しました。これが楽しくて。自分がやりたいことを再確認できる場になりました。
――どんな企画だったのですか?
ご存知のように、若者の百貨店離れは深刻で、各社苦労されています。私は学生を中心に若者とのネットワークを持っているので、それを活かしてアイデアソンを開催することとなりました。ショッピングが好きで、マーケティングを学んでいて、SNSでフォロワーが500名以上いる若者を30名集めて実施。
先方からは「私たちには考えもつかないような斬新なアイデアが沢山出た」と、大変喜んでいただけました。自分たちのアイデアが実現することで、参加者にも楽しんでもらえました。
――西井さんご自身の手応えはどうでしたか?
学生や若者のアイデアがもっと採用される場を増やしたいと感じました。でも、単に思い付きでアイデアを出すだけでは実現しませんよね。だから、良いアイデアを出すためのステップを提供して社会で活躍できる学生を増やしていきたいと考え、"議論を科学する"がコンセプトの「ディスカッションラボ」という団体を立ち上げました。北海道から九州まで、全国の学生をつないで活動しています。
社会は、議論の上で成り立っていますよね。イノベーションも、議論から生まれていく。だけど議論のやり方は学校では教えてくれないんです。だから、ここでディスカッションなど色んな経験をすることで、将来アントレプレナーやイントレプレナーとして羽ばたけるようなスキルを身に付けてもらえたら。そして最終的には「事業を創る人を増やす」ことが目標です。
――先日(2017年12月)に開催された学生団体総選挙で好成績だったんですよね?
ありがたいことに、ビジネス部門でグランプリをいただきました。でもね、自信なかったんですよ。最終プレゼンテーション当日の朝まで、辞退するかどうか悩んでいました。でも、覚悟を決めて登壇したら、想いが伝わった。審査員として様々な大企業も参加されていたので、今後ビジネスにつなげていけたらいいなと思っています。
他者とのつながりなんて、簡単に作れる
――率直に、西井さんから見て日本の大企業に足りないものって何だと思いますか?
私が言うのもおこがましいですが……。組織が大きければ大きいほど、フットワークが重くなりますよね。あとは、リスクマネジメントを徹底するがゆえに、新しいことに挑戦できなくなっているんじゃないかと思います。社員としても、「失敗して評価が下がったらどうしよう」と考えて、新しいことができない。成功した人ほど、失敗した時に失う物が大きいから、ますますチャレンジできない。そんな悪循環が生まれているような気がします。
だからこそ、オープンイノベーションで他者の新しい価値観やアイデアと出会い、0→1を生み出していくことが重要なのではないでしょうか。
――どうしたら、その悪循環から脱せると思いますか?
一度、ご自身とまったく違うバックグラウンドの方と会って話してみては、と思います。私は「悩んだ時は、知らない人に会いに行く」姿勢で、色んな人と会って話をしてきました。人との出会いなんて、すぐに作れるんです。例えば、カフェや電車で隣の席になった人、街を歩いていて気になった人。テレビやネットメディアなどで「この人面白いな」と思ったら、Facebookでも何でも使って接点を持つことは簡単です。
――「出会いがない」「接点がない」は、何の言い訳にもなりませんね。
「弱い繋がりの強さ」という諸説があるじゃないですか。同じ部署などつながりの強い人々だけと固まっても、新しいことは生まれません。それに対して、組織外の人や自分とは異質な人など弱いつながりを多く持つと、そこからイノベーションが生まれる。
――なるほど。
新しい人との交流は得意ではないのは、実は学生もそうだったりします。日本は学部や学科の狭い世界で固まりがちですから。だから私は、大学の中で、まず学部の壁を取り払っていきたいと思っています。MITのメディアラボみたいに。
当社には既に全国の若者――大学生だけではなく中学生から20代の5000人とのつながりがあります。熱い想いや良いアイデアを持っている若者はたくさんいるんです。でも、私もそうでしたが若者にはリソースがありません。そこで、若者のアイデア×大企業のリソースで、0→1が生まれる場を創れたら最高だと思います。若者とつながりを持ちたいという大企業のご担当者の方は、ぜひご連絡ください!
取材後記
取材終了後、「記念に写真撮りましょう!」とスマホを手に取った西井氏。取材する側とされる側、その壁なんてないようなフレンドリーさ。取材陣は面食らいながらも、ぎこちない笑顔で一緒に画面に収まった。
知らない人に声を掛ける――言葉にすると簡単だが、実行するにはあまりに難しいことを、西井氏は簡単にやってのける。きっと先の先まで考えず、単に「興味を持ったから」というシンプルな理由で声を掛け、つながりを作り、広げているのだろう。
もしかしたら私たちは、出会いの一つひとつに意味を持たせすぎなのかもしれない。社会人になると「この人とのつながりがこう発展して、将来こんな実を結べばいいな」と将来を見据えて出会いを演出することもある。確かに目的を持って出会うことも大切だが、「何だか分からないけど面白そうだから」と無計画な出会いやつながりを持つことも、たまにはいいのではないだろうか。あとでその出会いが大化けしても、しなくても。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)