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【研究応援特集(3)】 情報科学は材料開発の未来を照らす光となるか/株式会社アドバンスト・キー・テクノロジー研究所

【研究応援特集(3)】 情報科学は材料開発の未来を照らす光となるか/株式会社アドバンスト・キー・テクノロジー研究所

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材料開発に飛躍をもたらす単結晶製造技術

▲株式会社アドバンスト・キー・テクノロジー研究所  代表取締役CEO 阿久津 伸 氏

従来よりも高い性能、あるいは全く新しい機能を持つ材料の研究が、常に全世界的に行われている。そのプロセスの多くは、異なる組成や製法を少しずつ変えて膨大な種類の物質を作り、期待する性能や機能を持つものを探すという、試行錯誤のスクリーニングに頼っているのが現状だ。株式会社アドバンスト・キー・テクノロジー研究所の創業者である阿久津氏は、これまでにない単結晶製造技術で、この状況に一石を投じようとしている。

材料開発に飛躍をもたらす単結晶製造技術

独立する前に化学メーカーの研究員だった阿久津氏は、試行錯誤の現場に数多く直面した。「材料開発を科学として考えるならば、ひとつひとつの物質の結晶を作って解析し、次の材料づくりに活かすべきだ」。そう考えていたものの、最終的には結晶で売るわけではないからという理由で、それが許されない現場が多かったという。

「それでは性能を上げるための設計ができない。お金や時間の無駄遣いだと感じていました」。高純度の結晶を製造し、そのデータを解析できれば、材料開発は飛躍的に進歩する。そう考えた阿久津氏は、独自の単結晶製造技術を生み出した。この独自技術の特徴は、るつぼを使わないことだ。原材料の多結晶体ペレットを下部に置き、四方に設置したハロゲンランプの光をペレット上端に集光させて加熱・溶融する。そこに上部から種結晶を下ろし、単結晶を成長させるのだ。

「るつぼからの不純物の溶け込みを回避し、高純度な結晶を作ることができます。さらに成長の過程を横からカメラで撮影できるため、世界で初めて単結晶の成長過程の3次元の動的データの蓄積が可能になりました」。阿久津氏はこの技術により製造した単結晶を研究開発用途で販売、また解析データを共有していくことで、材料開発を効率化し、実験技術者の負担を減らせると考えている。

純度の高さは価値になる

高純度の結晶製造技術は、研究開発の推進以外にどのような価値があるだろうか。例えば自動車や産業機械への利用で需要が拡大しているパワー半導体では、次世代材料として酸化ガリウムが着目されている。アドバンスト・キー・テクノロジー研究所では、すでに2インチ径程度の単結晶製造に成功しており、そのままスライスしてウェハーにすれば、既存の半導体製造プロセスに組み込めるという。従来のるつぼを使う製造法だと、不純物の混入から免れない。酸素が溶け込みすぎると抵抗値が下がりパワー半導体素子として使えなくなってしまうため、歩留まりに対して直接的に影響することになる。それに対して阿久津氏の技術であれば、制御できない混入が原理上起こらないため、設計通りの組成の材料を作ることができるという。

また、自動運転やドローンで着目されるLIDAR (Light Detection and Ranging)においても、半導体レーザーと比較すると結晶を媒質としたレーザーの方が単一の発振スペクトルを作りやすい。一方で、結晶製造時に不純物が混ざるとそれが電子的・熱的なノイズとなることで、割れや歪みの原因になる。この課題に対しても、高純度なものを製造することが、精度向上に直結するのだ。

動的データから新材料のレシピを生み出す

阿久津氏はさらに、自身が開発した装置により得られる動的データを蓄積することで、“結晶設計学”と表現できるような新しい考え方を育んでいきたいと考えている。形状の変化と比熱の挙動を観測することで、どのような原料の場合に、どのように単結晶が成長するのかを分析する。“材料開発の知識化”と呼ぶこのプロセスを通じて得られた知見を結晶製造工程にフィードバックすることで、新しい製造方法の設計が可能となるはずだ。「私たちにできるのは、成長過程のダイナミックなデータを集めるところまで。この世界唯一のデータベースを、研究者の方々には好奇心が赴くまま触れてもらって、新材料のレシピを作ってもらいたいですね」。

将来的には、人工知能を活用していくべきだ、と阿久津氏は続ける。高純度の単結晶から得られるデータが多数蓄積されれば、計算によって新材料を予測できるようになるだろう。「人間だからこそ、飛んだ発想をぱっと思いつく場合もある。でも多くのケースで、新しい発想って知識の組み合わせなんですよね。人工知能は物理学としてありえないような無駄な着想はしないし、変な先入観もない分、案外いい組み合わせのアイデアを出してくれるんじゃないでしょうか」。

結晶成長のダイナミズムという新しい情報を食材に、研究者と人工知能が競うように新材料の調理法を作り上げていく。その流れが動き出せば、試行錯誤による時間とコストの浪費する時代は終わり、材料開発の新たな歴史に幕が開けるだろう。

▲阿久津氏が独自に開発した、るつぼを使わない単結晶製造装置。


以上 株式会社リバネス発刊 雑誌『研究応援』より転載

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