【共創学(4)】<コロコロチキチキペッパーズ×eiicon founder中村亜由子> 正反対のキャラだからこそ、コンビとして跳躍できる力を持つ
【シリーズ「共創学」 …… その道のプロでも、一人では成し得なかった仕事がある。彼らの成功メソッドとは】
今回、eiiconのファウンダー中村亜由子が話を聞いたのは、若手の人気芸人であるコロコロチキチキペッパーズ。2015年、結成4年目にして『キングオブコント2015』で優勝を果たし、注目を集めた。一見、順風満帆に見える軌跡だが、年齢差もあり、ネタ作りなどの「共創」においても彼らなりの苦労があったと語る。いつもは却下していたナダルの意見を大事なタイミングで取り入れた西野、その判断は吉と出たのか、凶と出たのか!?
▲お笑い芸人 コロコロチキチキペッパーズ
ナダル(1984年12月23日生まれ、京都府出身)と西野創人(1991年9月21日生まれ、大阪府出身)により、2014年4月に「コロコロチキチキペッパーズ」結成。ともにNSC大阪校33期生。『キングオブコント2015』にて優勝、テレビや舞台を中心に活躍を見せている。最近は、ナダルの芸人にもかかわらず、イジられることを本気で嫌うキャラにも注目が集まっている。
案をいくら出しても、99%却下されるナダルの意見
中村: お二人のネタはどんなふうに作り上げていくんですか?
西野: 二人で話し合いながら作るんですけど、基本的な土台は僕が考えることが多いです。
ナダル: 出す案は僕の方が多いんですけど採用されず、最終的には西野が言ったことになるんです。西野が一人では作らないんですよね。
西野: 頭の中でこんなセリフを言って欲しいなと想像したとき、本人がすぐ横におって言ってもらった方がイメージがつくので。ナダルさんのいる意味はそこです。
ナダル: 僕からしたら一人でやってほしい。一生懸命考えて、却下されるだけもキツイ。心折れますよ。また、西野の反応がムカつくんです。一度、「これどう?」と提案したら、それ聞いた西野が「……はぁ~またわけわからんこと言ってるわ…」と。さすがに「その反応はアカンやろ!」と言いましたけど(笑)。
西野: でも、そっからちゃんとそういう反応はせず、どんな面白くない案でも聞くようになりましたよ。
ナダル: たまに「それはオモロなさすぎるわ!」とか言われますけど(笑)。今のとこ、確率でいうたら99%却下されてます。
中村: もともとお二人はどんな経緯でコンビを組むことになったんですか?
西野: 僕もナダルさんも別々のコンビを組んでて。僕が前のコンビを解散したとき、次の相方を探したんですけどしっくり来る人がいなくて。「誰でもええわ」と思い始めたときに、ふとナダルさんの顔が浮かんで。もともとのクラスが一緒だったので仲良かったんですよ。ナダルさんは当時、今よりもうちょっとだけイキってましたけど(笑)。
ナダル: 僕がいちばん年上だったのでめちゃめちゃ仕切ってましたね。ただ、最初の半年は同じクラスで仲良かったんですけど、半年すぎたあたりで、クラス分けがあって。西野は面白い=いちばん上のAクラス、ぼくはいちばん下のCクラス…。そっから僕と西野に明確な差ができてました。
西野: 僕、コンビで気を遣うのがイヤなんですよ。ナダルさんは7歳年上だけど気を遣わんでよかった。でも実際にコンビ組んでみると「こんなにセリフ覚えられへんのかい!」とかイライラしました。
結成した当初はナダルさんに対して、僕のあたりがもっとキツくて。コンビ組み立てでお互いのこともよくわからないから、ピリピリしていた。僕はそのとき20歳で、ナダルさんはもう27歳ぐらいだったんですけど、「なんでわかってくれへんねん?」とよく怒ってました。
ナダル: 舞台でネタ終わると何かしらセリフが飛んでいて。ネタ終わりに西野が「ヒデさん(ナダルの名前)さ、……なんでなん? なんで?」と言って頭をかきむしっていましたね(笑)。
西野: 二十歳のガキにそんなん言われたら腹立つと思います。結局それが1か月くらい続いたら、ナダルさんから「解散したい」と言われましたから(笑)。でもコンビ組んでまだ1か月やったんでめっちゃ引き止めて。「まだ何も始まってもないし」と5時間ぐらい説得して。そこで思ったのが「ナダルさんは結果を出さないと、この人はついてこないな」と。それで『キング・オブ・コント』の1回戦突破しようという目標を立てて。分かりやすく目標を設定して、それがダメなら解散しようと話したんです。
中村: なるほど、明確な目標を立てたわけですね。
ナダル: 僕も西野も前のコンビで一回戦を受かったことがなかった。だから、西野とのコンビで初めて一回戦を突破できたときは手ごたえを感じられました。
メディアに露出してから感じたどん底と、そこから這い上がる努力
中村: 一回戦突破後、結果的には結成4年目で『キングオブコント』優勝を手にされます。それってすごいスピードで成し遂げたように思うのですが。
西野: 結成した年は1回戦突破して、次の年は二回戦と進めたんですけど、その後の準決勝になかなか残れなくて。2012年に結成してから数年間は苦労しました。結局、2015年で初めて準決勝に進めました。それが僕ら的には大きな意味があった。その直前がいちばんどん底でした。全国区のテレビにちょっと出て手ごたえをつかんで「ここから売れる!」と思ったのに続かないんです。「あんな感じでテレビとかに露出しても、こんな感じしかならないなら売れるのなんて無理なんちゃうか?」と。
ナダル: うん、それはめっちゃ思いましたね。テレビに出始めてもずっとバイトもしていて。一生懸命はやってましたけど、不安定な感じもすごくあって。どこに光があるのか、出口がどこにあるのかわからない状況だったのでしんどかったですね。
中村: そのときに準決勝でやったネタは?
西野: 優勝した妖精のネタと卓球のネタはじつは前の年にできていたんです。2014年の準決勝で披露しようと温存していたらまさかの二回戦で落ちてしまって、披露するチャンスがなかった。それで2015年は二回戦から妖精のネタをやったら準決勝に行けたんです。
2015年当時、劇場に月に20回以上出ていたんですけど、いつも同じ妖精のネタをやり続けて毎回、微調整して改良していきました。いつも来てくれるお客さんからしたら「またこのネタやってるやん…」と思われたはずなんですけど、でも、そんな声もシャットアウトして、準決勝のためだけのネタ磨きをずっと続けていました。
準決勝でやったネタと決勝でやったネタでも後半の1分が全然違う。準決勝で受かったその形をそのままやることもできたけど、「もう一段ギア上げて変えよう」と。1本のネタを磨きに磨いた感じです。
ナダル: でも、決勝って妖精のネタともう1本をやらなくてはいけなくて。それをどうするかで悩みました。それで僕が「昔やった卓球のネタはどうや?」と提案して。
西野: 僕、めっちゃイヤやったんですよ。一度やったとき、めちゃスベった記憶があったので、僕はやりたくなかった。でも、ナダルさんが異常なほど推すので、初めてナダルさんの意見を取り入れて「…ならやってみる?」と。でも、結局、卓球のネタじゃないのやったら優勝できてないと思う。だから、そのときナダルさんが強く言ってくれたのが結局、功を奏したのかなと思います。
ナダル: (自慢顔で)いつも99%は却下されているんですけど、残り1%がすごい重要な局面で発揮された感じです。
西野: ……ナダルさんって、こんな感じで取材のとき、めっちゃカッコつけるんですよ。意味わかんないですよね(笑)。
違う個性を受け入れ、お互いがお互いを信頼することの大事さ
中村: 今の話にも出ましたが、ナダルさんのカッコつけたり、イジられるのを嫌うキャラが今、テレビなどでも注目されていますが、西野さんはこのキャラはここまでハネると思っていましたか?
西野: 正直、それは思ってなかったです。ずっとナダルさんのこと「変な人やな」とは思って興味はあった。たぶん、僕は変わってる人が好きで、変なところを見つけて笑いたいという気持ちはどっかにあったんだと。でも、ここまで変な人の部分がフィーチャーされるとは思ってなかった。ただ、ナダルさんには「ネタよりもナダルさんの人間性をもっと前に出したい」とはずっと言うてたんですけど。
ナダル: そうやね。コンビ結成して途中からはそう言うてた。コントでウケたキャラをつけてしゃべるより、素でやってるときのほうがウケるようになってきて。
西野: 最初は僕が「今、いけ」と合図を出したり完全にコントロールして指示を出してた。でも、それよりも野放しにしたときのほうが面白かったので。それで「あ、僕が操縦するのはちゃうんやな」と、ナダルさんをある意味で信用しようと思って。変な発言をしたら、腕のあるMCの方がイジってもっと面白くしてくれる。変な行動は想定外で起きるのでコントロールはできないですから。
中村: お話しを聞いていると、ナダルさんは天然で自然に出た行動が面白いタイプで、西野さんはいろいろと裏を読みながら客観性を持ちつつ緻密に考えるタイプ。正反対なんだけど、大事なところでお互いを信頼しているのが伝わってきました。
ナダル: 確かに西野はブレないですね。僕、先輩に「こうしたほうがええで」と言われるとそうかと思ってしまうんですけど、西野は若いのに、自分を持ってしっかり行動できる。そういうとこ似てます、僕と。
西野: ぜんぜんちがうわ(笑)。
中村: オープンイノベーションは社外と連携をしてまだないものを生み出すという手法で。お二人の正反対だけど、コンビとして連携を強めるというお話はヒントがあったように思います。では、最後に読者の方にメッセージを。
西野: キングオブコントの決勝でなんのネタをするか悩んでいたとき、何千本とネタを書いてきた作家さんが「卓球のネタはよくない」と大反対したんです。でも、それでも僕らは「卓球のネタがやりたい」と押し切った。結局、それで優勝できたので。つまり、世の中は正解なんてないんです。自分が何を信じるかってことですから。
ナダル: では、最後に僕からの金言を……。とりあえずやってみろ! これだけです。
西野: そんな大した金言でもなく、1行で終わりましたね(笑)。