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小田急×東急×JR東日本―交通インフラのイノベーターたちが語る「新規事業開発に必要な思考法」とは?『YOKOGUSHI returns #01』レポート!

小田急×東急×JR東日本―交通インフラのイノベーターたちが語る「新規事業開発に必要な思考法」とは?『YOKOGUSHI returns #01』レポート!

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12月9日、虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階「CIC Tokyo」にて、「業界横断型イベント YOKOGUSHI returns #01」が開催された。同イベントは、大きな変化のなか「同業界」で活躍するイノベーターたちに着目し、各社の仕掛けや狙いをディスカッション形式で紹介する企画。「YOKOGUSHI」は2019年に開催し、人気を博したイベントで、今回は以前(※)にもテーマアップにした”交通インフラ業界”にフォーカスをあてた。

コロナ禍により市場環境が大きく変化した交通インフラ業界において、各社は現状をどう分析し、どんな未来を見据え、新規事業開発を仕掛けるのか――。白熱したパネルディスカッションの模様をレポートする。なお、モデレーターはeiicon company の中村亜由子が務めた。 


※【イベントレポート/YOKOGUSHI VOL.1】 <東京メトロ×JR東日本×京急×東急>交通インフラ各社が仕掛けるオープンイノベーションを徹底討論! https://tomoruba.eiicon.net/articles/3127 

鉄道会社に求められる「経営のスリム化」と「新しいキャッシュポイント」

パネルディスカッションの登壇者は、複数の新規事業立ち上げを推進してきた小田急電鉄の久富雅史氏と、TAP(東急アライアンスプラットフォーム)やShibuya Open Innovation Labの運営、CVC立ち上げを通してオープンイノベーション推進に取り組む東急の福井崇博氏、JR東日本100%出資のCVC・JR東日本スタートアップの設立を担当し、サインポストとの合弁会社・TOUCH TO GOの代表も務める阿久津智紀氏の3名。いずれもお堅いイメージの強い鉄道業界において活躍してきたイノベーターたちだ。

ディスカッションの1つ目のテーマとして提示されたのが、「今後、鉄道業界はどう動くのか」

阿久津氏は2年前の同イベントで、駅の混雑解消やインバウンド対応が今後の命題だと語ったが、新型コロナウイルスの影響により状況は一変したと語る。緊急事態宣言下に比べれば電車の乗車数は増えたものの、コロナ以前のように戻ったわけではない。「鉄道ビジネスはコロナ前の80%まで戻らなければ黒字化しません」と語り、今最も必要なのはコストカットによる「経営のスリム化」と「新たなマネタイズ方法の発掘」と指摘した。


▲株式会社TOUCH TO GO 代表取締役社長/JR東日本スタートアップ株式会社 マネージャー 阿久津 智紀氏

久富氏と福井氏も阿久津氏と同意見だ。「通勤時などは一見すると人が戻ってきているように見えるが、ピークの前後の時間帯や飲みに行く人が減った深夜帯は空いている状態。まだコロナ前の状況とは比べ物にならない」と語るのは久富氏。駅という巨大なアセットを有する鉄道会社は、そう簡単にビジネスのベクトルを変えられない。小田急は既存のアセットを有効活用することで、新たな価値を生み出そうとしている。

小田急では、駅構内の一部をワークブースとして活用したり、駅係員の発案で地元の野菜を販売してもらうなどの取り組みを始めているようだ。街の課題を、駅というアセットを使って解決していく。そうすることで働く人たちにも「この地域の課題はなんだろう」という意識を持たせることができると言う。


▲小田急電鉄株式会社 執行役員 経営戦略部長 久富 雅史氏

一方で、まちづくり企業である東急は、移動以外のサービスで新たな価値を付与しようと試みている。例えば東急電鉄が定期券を持っている人にサブスクモデルで様々なサービスを提供する実証実験に取り組んでいるという。自社サービスだけでなく、傘のシェアリングサービスを展開するアイカサなどのスタートアップと組んで多種多様なサービスを用意。移動に関しても鉄道だけでなく、電動キックボードを展開するLUUPなどと連携しながら新しい移動体験を提供できるよう急ピッチで取り組み始めている。

「鉄道の乗車券だけで売上を生み出すのではなく、沿線の生活の中で価値を提供していく。スタートアップと組むことで、私たちが提供できる価値も増えますし、スタートアップも顧客とのタッチポイントを作れます」と福井氏は語った。


▲東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 課長補佐 福井 崇博氏

「自らをタグ付けし、外部の人材と組んでゴールを意識して取り組む」3人が語る新規事業の思考法

2つ目のテーマは、「これから新規事業を立ち上げる際に必要となる考え方」。まず口を開いたのは久富氏。早稲田大学教授であり経済学者である入山章栄氏が以前語った、次のような話を引用した。

「イノベーションが起きない会社の条件が分かりますか?それは社是や社訓に”安全”というワードが入っている会社。”安全第一”ではイノベーションは起こせません。」

最も安全を大事にし、イノベーションとは対極にあった鉄道会社。そのため久富氏も時間をかけて、まず社内のマインドセットを変革してきたと話す。2017年から取り組んできた結果、やっと全社にチャレンジする風土が醸成されてきたと語った。

すかさず中村は、マインドセットを変革するための具体的な取り組みを深堀りした。久富氏の答えは、自分に対する「タグづけ」だ。社内でイノベーションをリードする組織の一員として、名刺に自由に自分の肩書を付けさせることで、自分の強みをアピールし主体性を持って動く姿勢を後押ししたようだ。

阿久津氏の答えは「外界の人とつきあう」だ。阿久津氏の言葉を借りるなら「狩猟民族」に出会うこと。安全第一を行動原則にしている鉄道業界の人々はいわば農耕民族。新規事業を立ち上げようとしても「前例主義」が強く、立ち上げのスピードが遅くなってしまう。「社内だけではらちがあかないのでオープンイノベーションをスタートさせた」と言うものの、最初は「どこの馬の骨かわからないスタートアップを連れてくるな」と叱責されたと続けた。

それでも実績が積み重なれば周囲も無視はできない。徐々に社内でオープンイノベーションの取り組みが市民権を獲得していき、最近では狩猟民族らしさがでてきたようだ。「最近は私が主導しなくてもオープンイノベーションが進むようになりました」と変革の様子を語った。



新規事業成功へのカギとして「エクイティや時間軸的な観点を持つこと」と答えたのは福井氏だ。鉄道会社はリアルなアセットを持っているだけに、とりあえずPoCが始まることも少なくない。しかし、ゴールを決めずにPoCを繰り返しても、結局成果に繋がらないことも多いと言う。

「どういうゴールを設定してPoCをするかで、得られる結果は大きく違います」と話す福井氏は、最終的に投資するのか事業提携をしたいのか、ストーリーを描いてからPoCする姿勢が重要だと続けた。

PoCの話が出たことで、中村は阿久津氏にもPoCをする際の重要なポイントを聞いた。数千万という人が利用する駅を使うようなPoCは、一度始めるとそう簡単に方向転換することができない。そのため、実用化を前提にロードマップをしっかり描いた上で実証実験を始めると言う。

特に重要なことはオープンイノベーション部門が、しっかりスタートアップのサポートに入ること。スタートアップは大企業が求めるようなエビデンスを出すのは難しいため、しっかり「お作法」を教えなければいけない。一方で過剰なエビデンスを求める大企業側には期待値調整も必要だ。

続いて話を振られたのは、久富氏。質問はPoCの撤退基準についてだ。大きなアセットを活用する鉄道会社のPoCはコストもばかにならない。成果も出ない事業を続けては赤字を垂れ流すばかり。どのように撤退基準を設けるかは重要な選択だ。

久富氏が言うには、小田急では新規事業を開発する際に、アイデア創発からインキュベーションの各フェーズで厳しいチェックゲートを敷いているという。KPIを設定し、期間内に目標値を超えれば次の追加投資が決まり、また新たなKPIが設定される。もちろん、KPIに達しなければ次フェーズに進めない。


リアルアセットを持つ大企業ならではの、事業立ち上げの苦しみ

最後のトークテーマとして中村が提示したのは「事業開発における苦悩」。鉄道会社ならではの産みの苦しみを、各社どのように感じているのだろうか。


福井氏は先程と同様、PoCについて語った。約3年前に福井氏が東急に入社した当時は、社内文化的に仮説を持って取り組んだり、デジタルをどのように取り込んでいくのか計画を立てるのが苦手なようだと感じたとのこと。スタートアップと東急、両者の間に立ちながら、いかにオープンイノベーションを成功させるかが難しさであり醍醐味だと語った。

続いて久富氏は、アセットに恵まれている鉄道会社ならではの苦しみについて紹介した。「どうしてもアセットがフォーカスされるため、事業の着眼点がアセットから離れられない」と言う。鉄道会社ならではの信用を活用しながらも、いかにして既存アセットに頼りすぎないサービスを考えるかが課題のようだ。

「今は鉄道会社の信頼感を活かし、自治体のDX支援をしている」と山林の鳥獣被害対策の事例を紹介した。最近は猟師も高齢化しており、なかなか害獣の捕獲が進まない。そこで都会の若い狩猟経験のないペーパーハンターと地方の狩猟機会をマッチングするサービスをつくり、地方の関係人口増加にも貢献すると解説した。

阿久津氏は大企業ならではの「前例主義」に苦しんだと言う。事業を提案するたびに「他に同じようにやっている会社はあるのか?」と言及される。CVCを作る時も同じだったという。

「大企業、それも私たちのような堅めの企業の事例を持ち出しながら説得してきました」と続ける阿久津氏。自分たちが始めて踏み込む領域ではないから危険ではないと強調しながら話したと言う。

中村から出た質問は新規事業に対する社内の風あたりについても深堀りする。コロナ禍による影響で大ダメージを受けた鉄道業界で、新規事業を立ち上げるのは容易ではない。会社からどのような反響があったのだろうか。

福井氏は「コロナ禍で会社に潤沢なお金があるわけではありませんが、それが逆にチャンスにもなりました」と語る。お金がないからこそ自社だけで事業を生み出すのが難しくなり、オープンイノベーションへの意識が変わった。「お金がない代わりにビジネスチャンスもたくさん生まれた」とフードデリバリーの事例をもとに紹介した。お金はないけどできることはある。グループのTAP参画メンバーなどを中心にそんな機運が生まれてきたのが大きな変化だと語る。


久富氏が感じた苦悩は売上へのプレッシャー。本業の鉄道事業がダメージを受けた分、新規事業が成果を求められるようになった。久富氏はできるだけ頻繁にリリースを出して、成果をアピールしてきたと言う。

最後に阿久津氏が語ったのは鉄道会社の予算文化。自由に使えるお金がシビアになったことで、短期的に収益を出して予算を出してもらわなければならなくなったという。「お金がなくてもできることは何か、今が知恵の絞りどころだ」と話した。

取材後記

緊急事態宣言が解除され街に人が増えたが、鉄道会社の売上がコロナ以前に戻るまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。しかし、その危機感からオープンイノベーションに意識が向くようになったのは怪我の巧妙と言えるかもしれない。

しばらくは各社厳しい戦いを強いられることになるだろうが、10年後に振り返ってみれば必要な痛みだったと言えるようになることを願いたい。これまで私たちの「移動」を支えてきた鉄道会社が、今後どのような新たな価値を生み出してくれるのか、ビジネス視点でもいちユーザーとしても楽しみだ。

(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平)

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