新規事業は”総力戦”で行うべきーー各界の先駆者6名が組織・環境・人材を語る。新規事業交流会「Innovation Trigger #01」レポート!
11月9日、WeWork 渋谷スクランブルスクエアにて、「新規事業に携わる人たちの、新規事業に携わる人たちによる、新規事業に携わる人たちのための交流会」をテーマにしたイベント「Innovation Trigger #01」が開催された。(eiicon company・IntraStar・WeWork Japanによる共催)
同イベントは半年以上も前から計画されていたものの、コロナ禍などの影響で先送りとなっていた。いよいよ実施の運びとなった同日、大企業やスタートアップなどの新規事業に関わる担当者たち約50人が参加し、活発な雑談、意見交換を行いながら、笑顔と交流の輪を広げた。
「Innovation Trigger #01」では新規事業の先駆者6人が集い、「新規事業開発に必要な組織・環境・人材」についてパネルディスカッションも行われ、具体的な知見やノウハウが披露された。以下にその様子をレポートする。
新規事業は全社を挙げての「総力戦」で行うべき
パネルディスカッションの登壇者は、自社で新規事業創出、社内起業の支援を行った後、CVCの代表を務めるNTTドコモ・ベンチャーズ 笹原優子氏、一貫して自社内で新規事業開発やイノベーションを創出する人材・組織作りに取り組むライオン 藤村昌平氏、起業・バイアウト、沈没船のトレジャーハントに携わった後、新規事業創出のメンバーとして招聘されたコニカミノルタ 波木井卓氏をはじめ、WeWork Japan 足立佳丈氏、キュレーションズ/IntraStar 主催の荒井宏之氏、eiicon company 中村亜由子の6人。いずれも、新規事業やイノベーションで多くの実績を持つトップランナーたちだ。
早速、ディスカッションの一つのめのテーマ「新規事業開発に必要な組織とは」が出された。
これについて藤村氏は「一言では応えられない」とした上で、”総力戦”で新規事業開発を行うことが求められると伝えた。量と質の両面を担保しなければならないが、現状「部活動や年に1回のガス抜き」程度に行っているケースが見受けられる。これでは新規事業はまず生まれないと指摘。
「トップのコミットメントと、現場のアイデアやモチベーションが合致していることが欠かせません」と藤村氏は言う。そのために鍵となるのが「ミドルマネジメント」で、トップと現場をつなぐ重要な役割を果たすことが強調された。
▲ライオン株式会社 ビジネスインキュベーション部長 藤村 昌平氏
一方、コニカミノルタは波木井氏をはじめ、新規事業開発に携わるスタッフをすべて外部から集めた珍しい形態となっている。波木井氏によれば「社内で新規事業ができる人材を募るよりは、社外に求めたほうが早いと判断」した。
さらに特徴的なのは、日本を含め5カ国で同時に立ち上げたビジネスイノベーションセンター(BIC)に社内の事情に詳しい人材がいないこともあって、新規事業を創出する際に必ずしも社内のリソースを活用しなくても良いとされたことだろう。
「マーケットインの発想で顧客の課題を明らかにすることスタートします。自社の技術ありきで始めるプロダクトアウトの発想とは大きく異なりますね」と波木井氏。このため、開発の手法も必然的にオープンイノベーションになったと話した。
▲コニカミノルタ株式会社 ビジネスイノベーションセンター(BIC)推進部長 兼 ビジネスイノベーションセンタージャパン(BIC Japan)所長 波木井卓氏
さまざまな部署に「味方」を作る
笹原氏は「R&Dの中で新規事業の組織が立ち上がりました」と、NTTドコモでの自身の経験を振り返った。しかし、R&Dのメンバーだけでは思うようにアイデアが生まれず、「グループ全体に取り組みを広げるためにコンテストを始め、その後、質を高めるためにアカデミーを開催しました」と新規事業創出を根付かせたプロセスを紹介した。
また、「どういう組織が良いかで悩み、そこでストップするケースもあります」と指摘し、「まずは2年くらい運営してみることです。すると、自社に合う組織が見えてきます」と伝えた。
▲株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 笹原優子氏
これに対し、藤村氏から「1年目でうまくいかないと打ち切られることもあります。2年目に継続するため、どんなことが必要でしょうか?」との問いが出された。
笹原氏は「成功や失敗の経験を経営企画や人事などさまざまな部署に報告して、関係性を深めながら味方を作りました」と返答。中村も同調し「新規事業はさまざまな部署と連携する必要があり、良好な関係を作っておくのが大事です」と付け加えた。
▲eiicon company 代表/founder 中村亜由子
コンテストやアカデミーの開催は、イノベーションを根付かせる一助ともなる
一方、荒井氏から「藤村さんも社内に味方は多いですよね」と問われると、「今は味方になっている部署も最初はぶつかってばかりでしたね」と裏話を明かす。
「でも、いやいやながらでも新規事業に関わってもらううちに面白みを感じてもらえるようになって、最終的には『お堅い』と言われる部門の人たちとも、良い関係を築いています」と笑顔を見せた。また、改めて笹原氏が開催したアカデミーの意義に触れ、「学びを共有することで、失敗を繰り返さなくなりますよね」とその効果を解説した。
▲キュレーションズ株式会社 Innovation Process Design / Principal、IntraStar 主催 荒井 宏之氏
中村は「学び合える、学びをシェアできることは『新規事業に必要な環境』の一つのヒントになるのではないでしょうか」と言及。波木井氏は「BICはイノベーティブな企業文化に変革することを一つのミッションとして担っており、社内勉強会を定期的に開いています。この結果、新規事業に興味を持つ社員が育ち、BICに異動してきています」と新規事業開発と同時に環境作りも手がけていることを紹介しながら、学びの場を作るメリットを提示した。
このほか、笹原氏からはコンテストを開催することで、社内文化が大きく変化していることが伝えられた。「60代社員からの応募もありました」とのことで、会場から驚きと賞賛の声が上がった。
新規事業に携わることは、自身のキャリアのプラスとなる
ディスカッションは登壇者と参加者がインタラクティブなやり取りが行われる中で進められ、会場から「新規事業に携わったものの、うまくいかず失意のもと以前の職場に戻った場合、どのように対処すればよいでしょうか」との質問が出された。
起業やビジネス創出に失敗しても海外ではキャリアになるが、日本ではマイナスのイメージが強いのも現状だ。このことを踏まえ藤村氏は「私が所属している新規事業部門においては、強制的なジョブローテーションは起こらないようにしています」と回答した上で、「新規事業に携わることになったら、転職サイトに登録することを薦めています」と独自の取り組みを紹介。
転職サイトに登録する目的は「自分の市場価値」を知るためで、新規事業に携わることはたとえ失敗してもいかに自身のキャリアにとってプラスになるか、オファーの量や質で確認してほしいとの思いを込めてのことだ。
藤村氏は「今のライオンでは、新規事業に携わり成長した人材をいらないという部門はありません」と強く断言。「担当者自身は、転職サイトを通じ、自社内の閉じられた評価では得られない気づきを得ることも多いです」と伝えた。社内評価に一喜一憂することなく、全力で新規事業に挑んでもらえる環境を作っていきたいとのこと。
波木井氏も同意し、BICに異動して自社の既存の部署に戻った実績はないと紹介。「新規事業に携わった後のキャリアパスは大きく2つで、事業を拡大するか、ゼロイチを続けるかのいずれかです」と話した。また、笹原氏は失敗を認める文化を醸成するため、うまくいかなかったことを共有する場として「ナイスチャレンジコン(NICE CHALLENGE CONFERENCE)」を開催しているとのことだ。
成功も失敗もすべて自責と言えることが重要
続いて「新規事業開発に必要な人材」についてディスカッションした。人材に求められる能力として、波木井氏は「プロジェクトをマネジメントする力」を取り上げた。
新規事業は何が起こるかわからないからこそマネジメントが重要で、自分で行うか他の人に任せるかも瞬時に判断しなければならない。また、さまざまな意見やアイデア、ものの見方を得るためにバックボーンの異なる多様な人材が集まることもキーになるという。
藤村氏は人材の持つ「エネルギー」の重要性を説いた。「一人で突き進んでいかなければならない状況が多い」ため、エネルギーは必要不可欠だと話す。同時に、組織としてはオーナーシップを発揮できる環境作りが重要で、「成功も失敗も100%自分の責任」と言い切れる状況にするのが望ましいと伝えられた。
笹原氏は「良い意味で空気を読めない人ですね」と答えた。「やって良いのか悪いのか、わからないようなグレーな提案を平気でできるような人」と提示し、「自分の価値観を信じて進める人が向いています」と話した。同時に、「相反するようですが、人の話に耳を傾けることも必要です」と説いた。
他方、そうした人材が活躍する場を「牧場」にたとえ、「これ以上は行ってはいけないという柵だけは用意して、後は安心して自由に動ける場」を提供することが、新規事業の創出につながるとの見解を述べた。
3者の話を受け足立氏は、ビジョンを掲げ長期的視野で目標を達成するには「覚悟のあるリーダーの存在が一つのポイントになると感じられます」とまとめた。
▲WeWork Japan合同会社 Vice President -Regional General Counsel 足立佳丈氏
登壇者6人がそれぞれの「夢」を語り合う
最後に、登壇者6人がそれぞれの夢を語り合った。まず荒井氏は「日本発の世界を変えるイノベーションを創出したいですね。それをするのは大企業です」と断言し、「優秀な人材がたくさんいるのに、チャレンジしていないし、チャレンジの仕方も知らないのはもったいないです。やり方がわからないなら、聞きにいけばいいだけです」と述べた。
中村は「日本がイノベーション後進国と言われる時代を終わらせます。オープンイノベーションを浸透させることで、イノベーション先進国にしたい」と熱意を見せた。
足立氏は「アメリカ発の新ビジネスの基幹技術は、実は日本の技術ということが多いんです」という現状に触れ、「日本は技術を作っているのに、最後のビジネス創出は他の国で行われています。なんとも歯がゆい状況です。ブレークスルーできる環境作りに貢献したいと思っています」と熱弁を振るった。
笹原氏は「NTTドコモグループは自社でイントレプレナーを育てると共に、CVCを通じ社外ともつながれる体制が整いつつあります。内なる力と外部の力と融合させることで、とても面白いことができるのではないでしょうか。直近の夢としては、NTTドコモ・ベンチャーズでオープンイノベーションの事例を作ることです」と話した。
波木井氏は「現在、私は100個ほどの新規事業を同時進行で手がけています。これができるのは、大企業ならではのメリットです。こうした状況を楽しめる人を、どんどん育成したいと考えています」と語った。
そして最後に藤村氏は「ライオンは創業130周年を迎える企業です。これだけ長く続いているということは、きっと価値があると認められているからです。改めてライオンの価値を考えながら、その価値を次世代につないで、創業200年を見てみたいですね。何より、仲間と共に一緒に働くことを楽しみながら、事業創造に取り組んでいければと思っています」と未来への思いを馳せ、ディスカッションを締めくくった。
この後、和やかな雰囲気の中、登壇者を含め参加者たちの交流が行われた。あちこちで雑談が起こり、リアルで対面する良さを改めて体感できる時間となった。
取材後記
久しぶりのリアルイベントとなった「Innovation Trigger」。オンラインの利便性も捨てがたいが、改めてリアルの良さも実感できた。何より登壇者の新規事業やイノベーションへの熱意をダイレクトに感じ取れたのは大きな価値だ。同じ空間にいることが、イベントの名に冠する通り、イノベーションへとつながる一つのトリガーとなるのではないか。本イベントは今後も継続して開催される予定となっている。少しでも興味を持ったら、ぜひ足を運んでいただきたい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)