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田所氏×守屋氏が伝える「オープンイノベーションの有効性」――スタートアップ支援を推進する愛知県主催イベントを詳細レポート!

田所氏×守屋氏が伝える「オープンイノベーションの有効性」――スタートアップ支援を推進する愛知県主催イベントを詳細レポート!

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産業競争力を維持・強化していくためにイノベーション創出の好循環(エコシステム)の形成が喫緊の課題と捉える愛知県は、2024年にソフトバンク株式会社と共に国内最大規模のインキュベーション施設「STATION Ai」の開設を目指している。これに先立ち、2021年4月には「PRE-STATION Ai」を開設。活発にスタートアップのビジネス支援などを行っており、STATION Aiではスタートアップ×地元企業などでオープンイノベーションを起こすことも狙いの一つとなっている。

これを受け今回、「オープンイノベーションの有効性とは?」をテーマに、オープンイノベーションや新規事業開発支援を行う株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長 田所雅之氏と株式会社守屋実事務所 代表取締役社長 守屋実氏をゲストに迎えたオンラインイベントを開催。両者によるトークセッションでは、オープンイノベーションに関する知見やノウハウが披露された。

また、同イベントの冒頭には、愛知県庁 スタートアップ推進課 榊原和貴氏とソフトバンク株式会社/STATION Ai株式会社の尾﨑裕樹氏が登場。STATION Aiの目指す世界観や構想、今後の展開などを語った。以下にイベントの模様をレポートする。

愛知県が目指すスタートアップ支援「STATION Aiが目指す世界とは」

●地域の特性を活かしたイノベーションの創出を目指す

(愛知県庁 スタートアップ推進課 主任 榊原和貴氏)

まず愛知県庁の榊原氏から愛知県が行うスタートアップ支援が紹介された。愛知県は産業が強く、日本の「成長エンジン」になっている。一方、グローバルを見れば、アメリカをはじめG20のGDPの成長率が直近30年で2倍超となっている中で、日本は約1.5倍にとどまっているのが現状だ。同県では強い危機意識を持ち、イノベーションを起こし生産性を上げることを目指して、2018年からスタートアップ支援に乗り出した。地域の特性を活かし、「製造業に軸足を置いている」ことが大きな特徴の一つとなっている。同県に多くある売上1000億円以上の企業とのオープンイノベーションを実現することで、産業の高度化や新規事業の創出を促すのがスタートアップ支援の狙いだという。同時にスタートアップの海外進出や海外スタートアップの呼び込みを積極的に行う方針を掲げている。

具体的な施策の目玉として、2024年開設の国内最大規模のインキュベーション施設「STATION Ai」がある。現在は「PRE-STATION Ai」を開設し、インキュベーションに特化した専門家を集めて、シリーズAまでのスタートアップを中心に支援を活発に行っている。


さらには週末型のブートキャンプやビジネスプランコンテスト、ビジネスマッチングを実施しているほか、著名ベンチャーキャピタル500 Globalと連携し、「Accelerate Aichi by 500 Global」を進めるなどしている。県として多彩な補助金を実施するなど、資金の面でも手厚くサポートしているのも特徴と言えるだろう。

「STATION Ai」プロジェクトのパートナーであるソフトバンクグループについて、榊原氏は、「愛知県はモノづくりに強みはあるものの、最先端のAI、IoT技術や通信技術は得意とは言えません。また、スタートアップにリスクマネーを供給するVCの数も少ない状況となっています。そうした中、ソフトバンクグループ様は県の要求やニーズを満たす存在で、期待するところがとても大きいです。互いに強みをと弱みを補完し合いながら相乗効果を起こしていきます」と熱意を見せた。

●最先端テクノロジーを活用したスマートビルディングでイノベーションの喚起を狙う

(ソフトバンク株式会社 インキュベーション事業推進室 企画推進課 課長代行 兼 CEO室/STATION Ai株式会社 事業推進部 部長 尾﨑裕樹氏)

ソフトバンク株式会社の尾﨑氏からはSTATION Aiの詳しい紹介がされた。ソフトバンク株式会社では今年9月に特別目的会社STATION Ai株式会社を設立。今後3年の設計建設期間を経て、愛知県に建物を引き渡す。建物はオフィス、カフェ、レストランなどの複合施設となる予定だ。その後、運営する権利(運営権)を買い取り、インキュベーション事業をはじめ、複合施設の運営などを行う。運営はコンソーシアムで進められ、さらなる体制強化のため現在もパートナー企業を募っている。


尾﨑氏は「建物は最先端のテクノロジーを活用したスマートビルディングがコンセプトで、イノベーションを喚起する仕組みとなっています」と説明した。建物全体が実証実験の場となっており、プロダクトが未完の段階でも活用が可能。また、「人々が集う場」という設計がされており、起業家と非起業家が交わるような空間作りがなされている。建設はスタートアップや支援者たちのニーズをヒアリングしながら進められており、「スタートアップ・ファーストな施設となることを追求しています」と強調された。


入居対象は国内外の起業家、大学発ベンチャー、プログラム参加者たちのほか、パートナー企業として大企業の新規事業部門、企業内起業家、中小企業も想定している。支援については入居・非入居に関わらず行っていくという。

●起業家のすそ野を広げ、かつ海外への挑戦を当たり前にする

「STATION Ai」の支援プログラムには、2つの柱がある。「起業家のすそ野を広げること」と「海外への挑戦を当たり前にすること」だ。日本を経て海外という流れが一般的だが、最初から海外で挑戦する起業家の活動を積極的に支援するという。具体的なプログラムはオールステージ型となっており、プレシードからアーリー、エクスパンション、Exit手前までを対象に幅広く用意されている。

オープンイノベーションやファンドレイジングについても独自のプログラムを準備しており、ファンドレイジングについては地域特化型のファンドの設立も検討しているとのことだ。ダイバーシティを重視したプログラムも実施の予定で、子ども向けのエデュケーション、女性起業家支援などが計画されている。プログラムは愛知県とSTATION Ai株式会社が連携し、スタートアップ・ファーストを重視して柔軟な姿勢で運営される。

ソフトバンクグループは国内外合わせて約330社ある。その中でもSTATION Ai株式会社は、スタートアップに特化した精鋭を集めて支援体制を構築している。そうした意味で「グループ企業の英知を終結した事業にできるはず」と尾﨑氏は話す。

最後に「愛知県は産業の集積地として大きな魅力があり、かつ5GやIoT、AIなど最先端技術を活用した新たな事業創出を視野に入れています。ソフトバンクグループがパートナーとしてできることは多くあると確信しています。地場の企業、大学・研究機関、金融機関、地域の方々、自治体と一体となり事業を実行したいと考えています」と語り、締めくくった。

トークセッション「オープンイノベーションの有効性」

続いて、オープンイノベーションや新規事業開発支援に造詣の深い田所雅之氏と守屋実氏によるトークセッションが「オープンイノベーションを活用するスタートアップのメリットとは」をテーマに行われた。モデレーターをeiicon company 代表/founderの中村亜由子が務めた。


【画像下】 株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長 田所雅之氏

日本と米国シリコンバレーで合計5社を起業してきたシリアルアントレプレナー。米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。国内外のスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを歴任する。世界で累計7万シェアされたスライド 「Startup Science」、発売後Amazonランキング経営管理部門で115週連続1位になったベストセラー書籍「起業の科学(日経BP)」の著者。


【画像右上】 株式会社守屋実事務所 代表取締役社長 守屋実氏

明治学院大学卒業後、1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社、新市場開発室で新規事業の開発に従事する。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らはメディカル事業の立ち上げに従事。2002年に新規事業の専門会社である株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業。自社で案件を立ち上げ、その後イグジットさせるというビジネスモデルで、複数の事業をイグジット。その後、2010年に守屋実事務所を設立。設立前および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。ラクスル株式会社、ケアプロ株式会社の立ち上げに参画、副社長を歴任後、ブティックス株式会社、株式会社博報堂、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のほか、多数の企業の経営に参画、現在に至る。

【画像左上/モデレーター】 eiicon company 代表/founder 中村亜由子

●何をしたいか明確にした上で、パートナーとの出会いを求めるのが理想

最初に「オープンイノベーションを上手に取り入れているスタートアップの特徴は」について議論された。田所氏は「自社単体でPMF(Product Market Fit)されていることが成否を分けるポイントです。どうすれば顧客のニーズが満たせるかがある程度見えたタイミングでないと、連携の仕方もわからず相手側への依存も生じます」と説いた。

守屋氏は「お互いの『解像度』がはっきりさせること」がオープンイノベーションをうまく進めるコツだとし、「何がしたくてどんなことを行っているかについて相互の理解があると、良い出会いに発展します」と解説。さらに「開発上の機密中の機密以外は、自身の情報は早い段階からできる限り開示したほうが良いでしょう。オープンイノベーションを目指すなら、オープンな姿勢で臨むのが適切です」との見解を示した。

田所氏は「3~4年先の顧客が見えていること、その『解像度』を高めることも必要不可欠です。これをしないと、特に事業会社側は、マーケットを見ずに自社のアセットありきで新規事業を考えてしまうことになりがちです」と付け加えた。さらに中村は「何がしたいかの解像度が上がっている状態で出会い、PMFが見えた段階でオープンイノベーションを行うのが理想となりますね」とまとめた。田所氏・守屋氏からは、スタートアップ×大企業で成功したオープンイノベーションの事例として、JR東日本スタートアップとサインポストから生まれたTOUCH TO GOによる無人決済店舗、マネーフォワードとVCのジャフコとの連携が紹介された。

なお、新しいテクノロジーや新規事業の導入について、田所氏は「リバランス」という表現・考え方を提示。「テクノロジーでリプレースするというと警戒されることも多いのではないでしょうか。実際問題として全部を一度に置き換えることはないはずです。徐々に新しいものに移行することがほとんどだと考えられますので、『リバランス戦略』のスタンスを取ることを推奨します」とアドバイスを送った。


●2度目のPMFでオープンイノベーションを視野に入れることも有効

次に「オープンイノベーションはどのようなステージのスタートアップに有効な手段か」について議論した。連携の際のキーワードの一つとしてPMFが既に挙げられたが、さらに議論を深めた。

田所氏は「PMFは2度起きます。1回目は初期のいわゆるSOM(Serviceable Obtainable Market)。2回目はより大きな市場のいわゆるSAM(Serviceable Available Market)の段階。ここでユーザーの質が変わります。プロダクトに対する質やセキュリティの要件が高くなりますので、自社だけでの対応が困難になることもあるでしょう。このタイミングで、自社の弱みを補完する意味でもオープンイノベーションでパートナー企業と連携するのは有効です」と解説した。


2度目のPFMは、シリーズでいうと概ねBに当たると想定される。また、「さらに大きな市場のTAM(Total Addressable Market)に到達したら、今度は自らが事業会社側としてスタートアップと組むという発想が大事です」と田所氏は指摘した。そうすることで、新規事業やイノベーションに関する好循環が生まれるからだ。

守屋氏はシリーズとは別の視点を提示した。「パートナー企業との出会いによって、営業、広報、採用、調達、開発などの面で効果がもたらされます。フェーズに関わらず、そうした効果が必要になった時に最適な連携先を探す、という動き方をしても良いのではないでしょうか。大切なのは何を必要としているかです」と語った。

●秘密保持契約(NDA)の取り扱いは要注意

最後に「オープンイノベーションを行う上での注意点」について議論された。守屋氏は「オープンイノベーションはあくまで手段」と強調。定義を考え理解を深めることはあまり意味がなく、「実現したいことのためにオープンイノベーションが最適と判断したなら実行すれば良いだけです。手段と目的を取り違えることについては、スタートアップよりも事業会社や大企業が起こしやすい傾向にありますが」と言及した。

田所氏は秘密保持契約(NDA)についての注意を促した。大企業側のNDAはスタートアップにとっては不利な内容になっていることも少なくないという。「特に法務部に丸投げして契約書を作ると、非常に厳しい内容となっているケースが少なくありません。スタートアップ側は身を守る意味でもしっかりと確認し、必要に応じて専門家に見てもらうことを推奨します。大企業側も一方的に不利な契約を結ぶと、場合によっては問題としてメディアに取り上げられ、レピュテーションが下がります。どのような契約が適正か、確認することが欠かせません」と伝えた。

守屋氏も同意し「大企業側も意図して利益誘導をしているのではありません。法務部はあくまで通常の業務を行っただけです。だからこそ、契約書類をしっかりと見る必要があるのです」と話した。中村によれば、eiicon companyが運営するオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」にも契約に関する問い合わせが多く寄せられているという。「NDAだと思っていても、特許に関することが記載されていることもあります。大手企業側の担当者もしっかりと確認するようにしましょう」と呼び掛けた。

●資金調達の前には資金用途を熟考すべき

視聴者からは、「資金調達はVCまたは事業会社(CVC)、いずれからすべきか」との問いが出された。田所氏は「あくまで一般論として」と前置きした上で、「VCは金融会社でファイナンスのリターンを求めています。従って、資金があれば前に進めることが見えており、年間成長率の要求に応えられるならVC。一方、CVCは資金を回収するというより事業に関するリターンを目指しており、ロングタームで見る傾向にあります。一定の時間のかかるプロダクトや検証を行いたいと考えているならCVCでしょう」と解説した。

守屋氏は「なぜ調達したいのか」を考えることが大切と指摘し、「仮に日々の運用の資金なら、調達ではなく融資のほうが適切という判断もできるでしょう。資金調達について仮にコンサルタントに相談する場合は、なぜ資金を必要としているかを伝えると確度の高い回答が得られます」と伝えた。資金調達の前に資金用途を整理する必要がありそうだ。

3人は「オープンイノベーションは簡単ではありませんが、激しく変化する外部環境に適応する手段として非常に有効です」と熱く語り、ディスカッションを締めくくった。


――この後、イベントに登場した榊原氏、尾崎氏、田所氏、守屋氏を交えたネットワーキングがコミュニケーションツール「oVice」上で実施され、活発に意見交換などが行われた。なお、愛知県では“愛知県企業”と“全国のスタートアップ”を意図的に結びつけ、共創によってイノベーションの創出するビジネスマッチングプログラム「AICHI MATCHING」が開催されている。興味をお持ちの企業は、ぜひプログラムの詳細を確認いただきたい。

取材後記

愛知県とソフトバンク株式会社の「STATION Ai」にかける思いが強く伝わってきた。実施しようとしていることは最先端で独自性があり、非常にワクワクとさせられた。「STATION Ai」という空間には新規事業を起こす仕掛けがいくつも用意されており、オープンイノベーションにも取り組みやすくなっている。特にPMFが実現しているスタートアップには、オープンイノベーションが有効だと田所氏と守屋氏から指摘された。重要なのは連携により何を得たいかだろう。それが明確であればあるほど、オープンイノベーションの成功の確率がアップするはずだ。「STATION Ai」は広く入居者やパートナー企業を募っている。愛知県企業とオープンイノベーションを起こしたい、イノベーション創出の一助となりたという思いを持っているのなら、事業への参加を検討してみてはいかがだろうか。

(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士)

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