【イベントレポート】熱意ある地方創生ベンチャー連合・スタートアップ都市推進協議会主催! 地方創生ベンチャーサミット2018
ITを活用してイノベーションを生み出し、地域課題の解決に取り組む「一般社団法人 熱意ある地方創生ベンチャー連合」(https://netsui.or.jp/)と「スタートアップ」の支援に先進的に取り組み、起業や新規事業創出を支援する8自治体で構成される「スタートアップ都市推進協議会」(http://startup-toshi.com/)。両者が連携し各都市のスタートアップの機運を高め、地域経済の活性から地方創生の実現を図ることを目的としたイベント「地方創生ベンチャーサミット2018」が、2月25日にグロービス経営大学院大学 東京校において開催された。
今回は第3回目の開催。「熱意ある」キーパーソンによるトークで会場は熱気に包まれた。
東京一極集中型ではない、日本総活力を上げるための「地方創生」に向けて動き出し、3年が経過。これまでの成果や未だ残る課題、今後目指すべき姿など、国・地方・民間それぞれのキーパーソンたちが登壇して熱い議論を交わした。
①~オープニングトーク~
■熱意ある地方創生ベンチャー連合とスタートアップ都市推進協議会、それぞれの活動目的とは?
▲熱意ある地方創生ベンチャー連合 共同代表理事 アソビュー株式会社 代表取締役社長 山野 智久氏
2011年、現・アソビュー株式会社を創業。日本全国の体験、アクティビティが予約購入できる日本最大の遊びのマーケットプレイス「asoview!」を運営。また。自治体のコンサルティング、メーカー等の商品プロモーションも手掛ける。大学時代には累計30万部のフリーマガジンを主催し、地域の活性化に貢献。
▲浜松市 市長 鈴木 康友氏
1957年浜松市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、松下政経塾に入塾。ステラプランニング代表取締役を経て、2000年に衆議院議員に初当選(2期)。この間、経済産業委員会理事等を歴任。2007年浜松市長に就任(現在3期目)。現在、三遠南信地域連携ビジョン推進会議会長。2011年から指定都市市長会副会長。
(鈴木氏)―「地方創生」というのは、地域の資源・特性を活かして、それぞれの地域を元気にしていく取組みです。そんな中で、産業というのは非常に大きな柱であり、新しい企業を育てていく、あるいはベンチャー企業を誘致する、このような取り組みも非常に大切です。この志を同じくして持つ地域が集まったのが、「スタートアップ都市推進協議会」です。
(山野氏)― スタートアップとは新しいことをチャレンジする代名詞だと思いますが、スタートアップ都市推進協議会は、「創業支援をしていく」という趣旨に加えて、特区や規制緩和を通じて、「新しいチャレンジができるような環境をつくる」という取り組みもしていますよね。
(鈴木氏)― その通りです。国との連携を行いながら取り組んでいます。
(山野氏)― スタートアップ都市推進協議会にいらっしゃる組長さんは、ベンチャー社長っぽい、無茶しがちな方々という特徴もありますよね(笑)。
(鈴木氏)― そうですね。元々ベンチャー企業の経営者出身も多いです。私も以前はベンチャーで経営していたので、ベンチャー魂を持っている一人です。
(山野氏)― 一方で「熱意ある地方創生ベンチャー連合」はビジネスの力でイノベーションを生み出し,地域課題の解決に取り組む団体です。地域では労働生産性の向上が大きな一つのテーマとなっている中で、ベンチャー企業が生み出しているアイデアやソリューションが実は地域の課題を加速化的に低コストで解決するという事例がたくさんあります。ただ一方で地域共生とベンチャー企業と聞くと、どうしても「水と油」のような領域の分けられ方になってしまっています。この二者がよりコラボレーションしていくことによって現状起きている地域の課題を解決できるのではないかという発足趣旨のもと我々は活動しています。
■今年で三回目となる、地方創生ベンチャーサミット。今回のテーマと意気込みを語る。
(鈴木氏)―今回のテーマは「働き方改革」「観光振興」「起業家支援」など、国が取り組んでいる成長戦略の重要な柱について議論してもらいますので、皆様にも関心をもって聞いていただけると思います!
(山野氏)― そうですよね。鈴木市長がいらっしゃる浜松市の「働き方改革」の取組みはどうですか……?今、市役所の職員が期限付きでベンチャー企業へ働くといった取り組みにチャレンジしていると聞きました。
(鈴木氏)― はい。志をもった職員をベンチャー企業に派遣しています。今までは銀行や大手企業などとの人材交流をおこなっていましたが、より成長著しいベンチャー企業のもとで働き、職員にもベンチャー魂を持ってほしいという狙いがあります。「熱意ある地方創生ベンチャー連合」の事務局にも浜松市職員を派遣していますよ。もちろんそのまま、スピンアウトして起業してもいいと宣言しています。
(山野氏)― 素晴らしいですね。生産性を上げて行かなくてはならない中で、民間とのコラボレーションでノウハウをインストールしていきながら、実際の自治体運営にも役立てているんですね。
(鈴木氏)― ありがとうございます。最後に一言ずつ、本日の意気込みを伝えたいと思います。
我々は、いろんな意味のチャンスを提供することが行政の役割だと思います。本日、感じて得たものをそれぞれの立場で活用していただき、参加している皆さん全員で地方創生を盛り上げていきたいと思っています。
(山野氏)―地方創生ベンチャーサミットは3年目を迎え、一番気づいたことは、結局一人ひとりの行動からしか何もアクションが起きない。ということが分かってきました。それぞれ個人がどうかかわって、ひとつでもネクストアクションを創れるかが重要ではないかと思います。本日のイベントはネクストアクションを起こせる良い機会となるはずです。皆さんで前進していきましょう。
②~全体セッション~:現状と課題 これからの地方創生
▲株式会社フジテレビジョン プロデューサー 草々谷 大輔氏
19841年東京都生まれ。立教大学社会学部卒業後、2007年4月株式会社フジテレビジョン入社。入社後、ドラマ制作の助監督・アシスタントプロデューサーを経て、2013年「独身貴族」でプロデューサーデビュー。昨年、市政を扱った月9ドラマ「民衆の敵〜世の中、おかしくないですか?!〜」でギャラクシー月間賞を受賞。
▲面白法人カヤック 代表取締役 CEO柳澤大輔氏
1998年、面白法人カヤック設立。鎌倉に本社を置き、ゲームアプリやWebサイトなどのコンテンツを数多く発信。さまざまなWeb広告賞で審査員を務める。ユニークな人事制度やワークスタイルなどで新しい会社のスタイルに挑戦中。
▲衆議院議員 総務大臣政務官 小倉氏
東京都多摩市出身、町田市在住。2012年、第46回衆議院選挙に自民党の公認を受け出馬、初当選(現在3期目)。2017年8月から総務大臣政務官に就任。主に、地域力の創造、地方行財政、地方税制、消防を担当。シェアリングエコノミーの推進や官民連携による地域活性化に力を入れて取り組む。
▲一般財団法人ジャパンギビング代表理事 株式会社LIFULL Social Funding代表取締役 佐藤大吾氏(モデレーター)
1973年、大阪生まれ。大阪大学法学部在学中に起業、その後中退。10年、英国発世界最大の寄付サイト「JustGiving」の日本版を立ち上げ、国内最大の寄付サイトへ成長(15年、「ジャパンギビング」へ改称)。12年、株式会社JGマーケティング(現 株式会社LIFULL Social Funding)を設立し、17年、株式会社LIFULLグループへ参画。寄付のみならず、事業者と投資家とを結ぶ金融プラットフォームの構築に取り組む。
(佐藤氏)—では早速ですが、まず、草々谷さんにお伺いします。昨年、市政を扱った月9ドラマを作られましたが、地方を取り上げるテレビ番組に国民(視聴者)からの注目を集めていくにあたって、苦労や感じたことを教えてください。
(草々谷氏)— 月9と言えばトレンディドラマやラブストーリー。そんなドラマを作ってきた中で、今回、月9を変えていくという意味も込めて、政治を扱ったドラマを作りました。しかし、やはり一番難しかったのは視聴率でしたね。そもそも投票率が低い世の中で政治のドラマに関心を持てない一般市民が想像以上に多く、「政治」という存在に対しての一般市民が感じる距離感をものすごく感じました。
(佐藤氏)—今のお話を聞いて不思議なのが、「地方政治」や「地方創生」というテーマは、私が身を置いている業界では、非常に活況を呈しています。本日のイベントも「地方創生」がテーマですが、見ての通り会場は満員です。ここに集まっている人たちが特殊なのでしょうか?(笑)
(草々谷氏)—私も、これほど地方創生に関心を持っている人がいるのだと驚いています。テレビドラマの世界では、初回の視聴率がその市場や関心を表すと言います。今回の月9お世辞にも良いとは言えない数字でした。だからこそ、本日のこのテーマに対する関心度の高さに驚きを隠せませんね。
(佐藤氏)—ありがとうございます。それでは、次に面白法人カヤック 代表の柳澤さんにお伺いします。鎌倉でオフィスを構えられていらっしゃいますが、最近、地方創生で取り組んでいることと、感じていることを教えてください。
(柳澤氏)—はい。私は面白法人カヤックというITベンチャーを20年前に立ち上げました。ITというツールがあればどこにいても働ける時代が来ると考えまして、鎌倉を拠点に活動しています。「鎌コン」という地域コミュニティを6年前に作りましたが、現在は20カ所の地域にまで広がってきている中で、今、地方創生に対して興味のある若者は増えてきているという感覚はあります。
(佐藤氏)—なるほど。それは横展開可能なのでしょうか?つまり、鎌倉だからできる、カヤックだからできるということではないですか?
(柳澤氏)—鎌コンのような地域コミュニティはどこでも再現可能だと思います。現に全国20カ所もできていますので。重要なことは、キーマンが揃うタイミングを逃さないことです。私は、行政のトップ・民間のトップ・企業のトップの3つが組まないと、地方は変わらないと思います。大抵は揃えて2つです。そこが地方創生の難しいポイントでもあります。
(佐藤氏)—よく分かりました。ありがとうございます。それでは小倉政務官にお伺いさせてください。政府としてこの地方創生をテーマにした取り組みや感じていることなどあれば教えてください。
(小倉氏)—はい。私たち総務省は政府の中で地方自治体の窓口となって、地域の方の声を政府に伝えていくという役割を担っています。そこで私たちが取り組んでいることの一つに「地域おこし協力隊員」という、地域に住んで何かやりたい人の後押しをする政策を9年間行っています。住民票を地方に移してくだされば、最大3年間で交付金400万円を上限で使え、地域おこし・社会活動・事業活動を行えます。結果としては全国で4000人以上の協力隊員が活躍しました。熱意ある人を送り込むことで、期間が終わった後も地域に根付いているというケースもあり、現に隊員の6割が定住している息の長い政策となっています。
◼行政・民間・企業が一つになることが地方創生を拓く重要な鍵である。
(佐藤氏)—ありがとうございます。それでは、次に皆さんそれぞれの立場から見た、今後の地方創生のあり方や、取り組みについてはあれば教えてください。
(草々谷氏)—小倉さんのお話にあった、地域に人を送り込んで地域を活性化していくストーリーをドラマにするのもいいなと思いました。都会に行って成功する話はたくさんありますが…今、地方を扱ったドラマを作っている局がありません。だからこそ、地方創生を絡めた物語を作ることで、今日いる皆さんと絡んでいきながら、地方創生を盛り上げられるのではないかと思います。
(柳澤氏)—人として豊かになる3つの要素(経済的資本・環境的資本・社会的資本)で分けてみると、経済的資本だけがあっても人は幸せになれないという感覚はみなさんにもあると思います。このことを踏まえて見た時に、地方には残りの環境的・社会的資本が埋まっていると思います。鎌コンを始めてわかったことですが、人とのつながりを増やすと人生が豊かになるということです。これからの地方は、経済的資本も捨てるわけではないですが、環境的資本と社会的資本を増やしていかないと、地方創生で東京に勝つことはありえないと思います。産業集積でみると、東京の方がいいに決まっていますからね。行政・民間・企業が連携して、それぞれの資本を培っていくことが重要だと思います。
(小倉氏)—私から民間の企業の方にお伝えしたいことは、もっと行政を使ってください。ということです。我々行政は、民間と企業の橋渡しの役割をより強化していくことが今後の行政の求められる姿だと思います。ただ、ベンチャー企業の方々との繋がり・接点が十分でないと思うので、今日来ていただいている、地方創生に対して熱い想いのある企業の方とさらに繋がっていきたいと思っています。ぜひ気軽に総務省の門をたたいていただきたいです。
取材後記
10年前に始まった人口減少が、今後加速度的に進むと言われている今、地方創生として折り返し地点であると言える。この数年間で国際的にも注目が集まるイベントがある中、“ 加速度的”に地方創生を進めるうえでは「ラストチャンス」になるかもしれないとも言われている。今回のサミットでは、地方が持つべき本質的なダイバシティを体現していたように感じた。行政・民間・企業のそれぞれが大切にしている価値を、解決すべき課題に関連づけ、3者が一体となることで方向性がぶれることなく、加速度的に地方創生が進むのではないか。地方創生の課題は山積みではあるものの、今回集まった人々の志によって、地方の未来が変わる、期待に胸が高鳴るサミットであった。
(取材・文:保美和子、撮影:加藤武俊)