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【業務提携の舞台裏】JR東日本の共創プログラムから生まれた「TOUCH TO GO」は、なぜファミリーマートと組んだのか

【業務提携の舞台裏】JR東日本の共創プログラムから生まれた「TOUCH TO GO」は、なぜファミリーマートと組んだのか

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2020年11月、株式会社 TOUCH TO GO(タッチトゥゴー/以下、TTG)が、コンビニ大手ファミリーマートとの業務提携を発表した。

TTGといえば、JR東日本グループのCVCであるJR東日本スタートアップ株式会社と、サインポスト株式会社の合弁で設立されたジョイントベンチャーだ。JR東日本スタートアップが毎年度開催する共創プログラムを通じて出会い、2度にわたる駅での実証実験を経て、2019年7月、事業化に向け合弁会社を設立した(※1)。

代表的なプロダクトは、「TTG-SENSE」という無人決済店舗システム。商品を手に取りレジに進むと、手に取った商品が自動的にタッチパネルに表示される。バーコードスキャンすら不要な次世代型システムだ。

▼TTGが開発した無人決済店舗システム「TTG-SENSE」


同社は2020年3月、JR高輪ゲートウェイ駅にモデル店舗を開業(※2)。その後、着実に事業を前進させ、同年11月に株式会社ファミリーマートと業務提携を発表した。TOMORUBA編集部はその舞台裏に迫るべく、株式会社 TOUCH TO GO 代表取締役社長 阿久津智紀氏に直撃インタビュー。

ファミリーマートと資本業務提携に至った背景、JR高輪ゲートウェイ駅にあるモデル店舗の「今」、そして今後の展望について詳しく聞いた。

※1)関連記事:オープンイノベーションの1つの答え。JR東日本×サインポスト、合弁会社設立の裏側/2019年7月掲載

※2)関連記事:JR東日本グループの「ビジネス実装力」―共創で生まれた無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」 高輪GW駅に開業/2020年5月掲載


■株式会社 TOUCH TO GO 代表取締役社長 阿久津智紀氏

2004年、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)に入社。駅ナカコンビニ「NewDays」の店舗運営や、青森でのシードル工房事業、JRE POINTの企画・運営などを担当。その後、JR東日本グループのCVCであるJR東日本スタートアップ株式会社へと出向し、スタートアップとの共創プログラムを推進。2019年7月より、JR東日本スタートアップに籍を置いたまま、株式会社TOUCH TO GO 代表取締役社長に就任。両社の業務を兼務。

澤田社長みずから、高輪ゲートウェイ店を訪問

――まず、ファミリーマートさんと業務提携に至った背景からお聞きしたいです。

TTG・阿久津氏 : 半年ほど前、ファミリーマートの澤田副会長(当時社長の澤田貴司氏)が、高輪ゲートウェイ駅の「TOUCH TO GO」を見に来られたんです。その時に、僕がプレゼンをして「よし、一緒にやろう」という話になりました。TTGとしても、今後、スケールさせていくことを考えると、コンビニと組む必要があるだろうと感じていたので、「ぜひ一緒にやらせてください」と澤田さんにお伝えしたんです。

――サラッとおっしゃいますが、いきなりコンビニ大手のトップと意気投合するなんてこと、あるのでしょうか。

TTG・阿久津氏 : 実は裏話をひとつすると、僕がJR東日本に入社して2年目の頃、澤田さんを講師にお呼びして、若手の勉強会を開催したことがあったんです。当時の澤田さんといえば、KIACON(キアコン)というご自身の会社で、クリスピー・クリーム・ドーナツやコールドストーンなどを手がけていらっしゃいました。

せっかく来ていただくので、「何か驚かせたいね」という話になって、僕が「KIACON」という文字入りのTシャツをつくったんです。それを勉強会の参加者全員に着てもらって、「澤田さんが入ってきたら、ジャケットを脱いで」と。

――ジャケット脱いだら、みんな「KIACON」のTシャツだったと(笑)

TTG・阿久津氏 : そうです(笑)。澤田さん、それに感動してくれて。その時のことを覚えてくださっていました。「当時、あれやったの俺です」と話したら、その話ですごい盛り上がったんですよ。

※澤田貴司氏の略歴:1981年に伊藤忠商事へ入社。1997年ファーストリテイリングに入社し、翌年より取締役副社長。フリースの事業戦略などを担当。2003年にKIACON、2005年にリヴァンプ設立。複数社の社外取締役などを経て、2016年よりファミリーマート代表取締役社長。2021年3月より同副会長。

――なるほど。

TTG・阿久津氏 : それに、ファミリーマートさんは、外部やスタートアップとの連携実績をお持ちです。最初から完璧を求めることはされませんでした。僕らも、まだサービスとして完成しているわけではなく、これからという部分がたくさんあります。澤田さんには、そのことをご理解いただき、「うちも一緒に汗をかくから、一緒にやろう」と。オープンイノベーションの精神でお付き合いしていただけることも、ポイントになりました。

――澤田副会長とお会いになった後、昨年11月に「業務提携」を発表され、その後、今年2月に、「資本業務提携」を発表されました。後から「資本」が加わった理由は?

TTG・阿久津氏 : 業務提携の際は、「まずは1店舗つくりましょう」という話をしていました。その後、店舗を構築するためには、やはり開発資金が必要ですし、ファミリーマートさんから出向で来ていただくことにもなりました。そこで、資本を入れていただくことになったんです。ファミリーマートさん内部の知恵や仕組みを教えてもらいながら、一緒に開発を進めていこうと。なので、「関係性を厚くする」という意味での資本業務提携ですね。


▲TOUCH TO GO高輪GW店にて 画像右:TTG・阿久津氏、 画像中:ファミリーマート・澤田貴司氏、 画像左: TTG 代表取締役副社長 波川敏也氏(2020年11月配信プレスリリースより)

東京駅直結のビルに「ファミマ!! サピアタワー/S店」をオープン

――業務提携の発表から約6ヶ月を経て、今年3月末に「ファミマ!! サピアタワー/S店」をオープンされました。オープンまでの共創プロセスについてお聞きしたいです。

TTG・阿久津氏 : 業務提携発表後は、実働部隊の方たちと打ち合わせを重ねてきました。具体的には、「システム」「運営」「設備」の3つの分科会に出席し、課題を抽出しては解決策を検討するといったことに取り組んできました。

――特に、どのような点が大変でしたか。

TTG・阿久津氏 : ひとつは、システムの接続です。先ほど、ファミリーマートさんから出向という話をしましたが、システム開発のご経験者に来てもらっています。コンビニ業界のPOSシステムは、非常にロジカルに構築されているので、システム接続の整合性をとることが、今でも一番苦労している点です。

もうひとつは、オペレーション。TTGには画像を登録するなどの特殊なオペレーションがあります。それをどう実際の店舗の人たちが円滑にできるところまで落とし込むのか。このシステムとオペレーションの2点については、ファミリーマートさんと、かなり議論をしながら進めてきましたね。

――東京駅直結のオフィスビル内に1号店を出店されましたが、立地の狙いは?

TTG・阿久津氏 : 実はこのビル、1FにTTGのシステムを導入した「ファミマ!! 」があって、3Fにも一般的な「ファミマ!! 」があるんです。TTGの「ファミマ!! 」は、売上がそこまで大きくないため、1店舗分の人件費をかけられないのが実情です。

でもここなら、スタッフさんに1Fと3Fを行き来してもらうことができる。そういったオペレーション面でのメリットがあって、この場所に出店することになりました。かつ1F、3Fともに「直営店」なので、進めやすかったという側面もあります。最初から「FC店」への導入は、少しハードルが高いですから。

――なるほど。ファミリーマートさんとは、今後、どのように事業を展開していく予定ですか。

TTG・阿久津氏 : 「マイクロマーケットを狙いにいこう」という話をしています。マイクロマーケットというのは、駅やオフィス、病院内の売店、それに地方の小規模な店舗などです。将来的には、直営店だけではなく、FC店も含めて導入できるような形に、サービスを仕上げていきたいと思っています。

――阿久津さんはJR東日本グループのCVCで、スタートアップとの共創にも取り組まれています。今回は「スタートアップ側」の立場で、ファミリーマートさんと共創されていますが、JR東日本での経験が活きていると感じることはありますか。

TTG・阿久津氏 : 大企業の求めていることがなんとなく分かるので、進めやすさはあると思います。日々の分科会の進行やアジェンダの作成、社内向け説明資料を作成する際も、相手の求めていることを意識して取り組んでいます。大企業とスタートアップだと、お互いの文化も意見も、取り組もうとしている内容も違います。両方を分かった上で進められるのは、CVCでスタートアップ連携に取り組んだ経験があってこそです。

――澤田副会長というトップの意思決定から始まった共創ですが、やはりトップの「やろう」という号令が、現場の推進力になっているのでしょうか。

TTG・阿久津氏 : 推進力になっていると思いますね。それに、ファミリーマートさんと今回お付き合いしてみて、中間層の腰の軽さや、物事を推進していく馬力に驚かされています。進み方が速いので、素晴らしい企業文化をお持ちだなと。僕らJRも負けてられないですね。


▲TTGが開発した無人決済システムを活用した実用化店舗「ファミマ!!サピアタワー/S店」(3月31日オープン)。

オープンから約1年、高輪ゲートウェイ店の「今」

――少し話が変わりますが、モデル店舗としてオープンされた高輪ゲートウェイ店が、開店1周年を迎えました。現状や反響についてお伺いしたいです。

TTG・阿久津氏 : 今、1日の売上が20万円強で推移しています。「自販機以上、コンビニ未満」のゾーンを狙っているので、想定通りで順調と言えますね。また、人手不足に悩む小売店への省人化ソリューションになれるよう開発を進めてきたシステムですが、現状、高輪ゲートウェイ店では、アルバイトさん1人で運営ができています。あの規模(約60平方メートル)だと3名程度で運営することが一般的ですが、1人でも余裕のある状況なので、省人化できている手ごたえがあります。

――実際に店舗で買い物をされるユーザーからは、どのような声が届いていますか。

TTG・阿久津氏 : 実は、開業時から継続してアンケートを取得しています。これまで約7000人からご回答いただき、9割程度の人からは「この買い物で十分だね」といった好意的な意見をいただいています。ですから、やり方として間違っていなかったのかなと。


――9割!高い満足度ですね。開店当時は、連日、裏側のシステムを改修しているというお話もありましたが、現状どうなのでしょうか。

TTG・阿久津氏 : システムの仕様をガラリと変えることは、もうありません。ですが、「音声が聞こえにくい」や「出口のゲートの閉まるタイミングが少し早い」「商品登録の仕方がやりにくい」など、細かい部分は改修を続けていますね。

――以前からある無人決済システム「TTG-SENSE」に加え、無人オーダー決済端末「TTG-MONSTAR」を、スキー場(GALA湯沢)や飲食店(Becker's)に導入されました。この背景も少しお聞きしたいです。

TTG・阿久津氏 : 僕らの実現したいことは、「省人化」と「人の価値の最大化」なんです。その中で、TTGの得意分野は、決済や非対面化、デジタルとアナログの融合、クラウドとPOSの連携などです。「TTG-MONSTAR」は、「TTG-SENSE」と同じ技術を使って、それを水平展開していく取り組みです。

GALA湯沢もBecker'sもJR東日本グループなので、課題感はもともと聞いていました。コロナ禍で売上が激減しているので人件費を削減したい、密を避けたいといったものです。それらの課題に応えるものとして、新しくつくったプロダクトが「TTG-MONSTAR」なんです。


▲非対面かつ現金を触る必要がないため、新型コロナウイルス感染予防対策にも効果を発揮する「TTG-MONSTAR」。飲食・物販だけではなく、様々なロケーションでの展開が見込まれる。

「2023年までに100店舗」、そして「上場」へ

――TTGとしての今後のビジョンについては、どうお考えですか。

TTG・阿久津氏 : 「2023年までに100店舗」が当面の目標です。そのためには、「簡単に設置できる仕組みにすること」と「コストを下げること」が必要なので、今、集中して取り組んでいます。TTGのシステムを適用できる業界や場所は数多くありますし、導入したいというお問い合わせもたくさん頂戴しています。これらのニーズに応じられるよう、できるだけ早く、先ほどの2点を改善していきたいです。

――以前、将来的には「上場」も視野に入れているとおっしゃっていました。

TTG・阿久津氏 : 上場は変わらず目指しています。上場すると世の中から認められていることになりますし、資金の集め方も柔軟になるので。しかし上場するためには、まだまだ解決すべき課題が多い。まずは売れるサービスにすることが第一です。

――サインポストさんと合弁でTTGを設立されてから2年弱ですが、経営としては順調ですか。

TTG・阿久津氏 : 今のところは当初の事業計画通り。事業計画上では今年度、大きくスケールさせる予定にしているので、この1年が勝負です。もう一段階、しっかりとスケールさせるためには、外部の力も借りる必要があると思っています。JR東日本のCVCで、外部連携に取り組んできた経験があるので、その経験を活かし、自分たちですべて進めるというよりは、各領域で実績や知見のある人たちと組みながら、事業を拡大させていきたいですね。


▲TTGが掲げている成長施策。イグジットに向けて着実に歩みを進めている。

取材後記

「2023年までに100店舗」、そして「上場」を目指すTTG。今後、どのようにアライアンス戦略を駆使しながら、事業を拡大していくのか――。去る4月27日、同社は西武鉄道株式会社と株式会社ファミリーマートが共同で展開する西武線 駅ナカ・コンビニ「トモニー」に、TTGの無人決済システムを導入すると発表した。矢継ぎ早に新たな一手を打ってくるTTG 「勝負の1年」を、TOMORUBA編集部では引き続き追っていきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:古林洋平)

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