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【JIN西口氏×Forbes谷本氏】日本企業はOSをバージョンアップせよ。世界標準のイノベーションの姿とは?

【JIN西口氏×Forbes谷本氏】日本企業はOSをバージョンアップせよ。世界標準のイノベーションの姿とは?

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いまだ見通しのつかないコロナ禍。多くの企業が混乱への対応に迫られるなかで、イノベーションへの期待は最高潮に達している。未曾有の事態を打開する、新たな価値の創出は、いかにして可能になるのだろうか。

その問いを解き明かすセッションが、2月26日、オープンイノベーションカンファレンス「JAPAN OPEN INNOVATION FES 2020→21」において開催された。セッションのタイトルは「世界水準のイノベーション・マネジメントシステム ISO56002 ―マネジメントシステムなき活動で起こる悲劇を避けるには?―」

フォーブスジャパンWEB編集部の編集長である谷本有香氏がモデレーターとなり、一般社団法人Japan Innovation Network(以下、JIN)代表理事の西口尚宏氏にイノベーション・マネジメントシステム(以下、IMS)について伺った。

IMSとは、大企業をはじめとした既存組織がイノベーションを創出するためのマネジメントシステム。西口氏はIMSの国際規格「ISO56002」の原案作成に携わるなど、国内におけるIMSの第一人者であり、これまで大企業のイノベーション活動を数多く支援した経歴を持つ。

セッションでは、西口氏の豊富な経験と最新の知見から「世界標準のイノベーション」の姿が語られた。イノベーション活動に取り組む、全てのビジネスパーソンに必見の内容と言える。その様子をレポートしてお届けする。


【写真左】スピーカー:一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)代表理事 西口尚宏氏

日本長期信用銀行、世界銀行グループ、マーサー社(ワールドワイドパートナー)、産業革新機構(執行役員)等を経て現職。2013年から数多くの大企業の経営者、ミドル、ジュニアと連携して、企業内からイノベーションを興す取り組みを続けており、数多くの成功事例を創出。世界各国のスタートアップとの連携や、イノベーション・マネジメントシステムのISO化においては、日本を代表して原案作成を行うなど、世界各国との連携にも注力している。オープン・イノベーション活動としてSDGs(持続可能な開発目標)をイノベーションの機会として捉える「SHIP(SDGs Holistic Innovation Platform)」をUNDP(国連開発計画)と共同運営。ISO TC279 委員。主な著書に、『イノベーターになる:人と組織を「革新者」にする方法』(日本経済新聞出版社、2018年)

【写真右】モデレーター:フォーブスジャパンWEB編集部 編集長 谷本有香氏

証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBA取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターを務める。これまでに、トニー・ブレア元英首相、アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアック、スターバックス創業者のハワード・シュルツをはじめ、3000人を超える世界のVIPにインタビューを行った経歴を持つ。

今、日本企業が取り組むべきなのは「OSのバージョンアップ」

冒頭、モデレーターの谷本氏は、昨今の社会状況に触れ、新型コロナウイルスの感染拡大やDXの流行は、多くの人や企業にトランスフォーメーション(変革)を迫っていると語る。そうしたなかで「今、日本企業が取り組むべきことは何か?」と、西口氏に質問を投げかけた。



それに対し、西口氏は「OSのバージョンアップです」と回答。続いて、現在の日本企業の課題を「OS」と「アプリ」の関係に例えて説明した。

「日本企業は、『デザイン思考』『スタートアップとの協業』『出島戦略』『CVCの設立』など、イノベーションを起こすための最新のアプリをどんどん導入しています。ところが、最新のアプリは、最新のOSでなければ、ダウンロードも起動もできません。つまり、今、大切なのは、組織のOSをバージョンアップし、最新アプリを使いこなして、イノベーション活動を推進することです」(西口氏)


ここで西口氏がOSと呼ぶのが、本セッションのテーマであるIMSだ。西口氏は、産業史上初のIMSの国際規格「ISO56002」の作成(2019年7月に発行)に日本代表として2015年から携わっており、「大企業からイノベーションを興す」を旗印に、これまで数々の大企業のイノベーション支援に携わってきた。

谷本氏は、そうした西口氏の経歴を踏まえて、「どうすれば日本企業はOSをバージョンアップできるのか」と問う。

そこで、西口氏は会場のモニターに「ISO56002:IMSのフレームワーク」の図(以下参照)を写し、イノベーションの創出過程について解説。


IMSでは、イノベーションの創出過程を赤枠内で示している①「機会の特定」②「コンセプトの創造」③「コンセプトの検証」④「ソリューションの開発」⑤「ソリューションの導入」の5つに分けている。西口氏は、この過程に沿って、自社のイノベーション活動とそれを取り巻くIMSの構成要素を適切にアセスメントするのが、「OSのバージョンアップ」に繋がると語った。

「イノベーション活動は『機会に関する意図』から始まります。例えば、『DXで世の中の価値観を一変させよう!』といった意図があるとすれば、その意図を詳細に見極め(機会の特定)、ビジネスモデルを創出・検証し(コンセプトの創造・コンセプトの検証)、ソリューションを開発・リリースします(ソリューションの開発・ソリューションの導入)。こうした過程に照らし合わせて、IMS全体にわたる自社の弱点を正直に振り返り、ギャップを埋めていくことで、組織全体のイノベーション創出力が高まっていきます」(西口氏)

西口氏は、OSをバージョンアップせずに、アクセラレータープログラムやピッチコンテストといったアプリを導入しても一時的な成果しか出ない「つまみ食い状況」に陥ると指摘する。あくまでも、組織全体をIMS視点で俯瞰し、自社をイノベーションが生まれやすい環境に作り替えていく事が重要だと訴えた。

イノベーションは「掛け声」では興らない。「意志」をいかに具体化するかがカギになる

次に、話題となったのは、海外企業のイノベーション活動について。谷本氏は、イノベーション活動で成果を出している海外企業と、日本企業のどこに違いがあるのかと、西口氏に尋ねた。

それに対して、西口氏は「海外では『invention(発明)はinnovation(価値創造)ではない』という考え方が非常に浸透しています」と答える。発明とは、新たな技術や製品などの創造を指し、価値創造とは、そうした発明などがビジネスモデルに変換されて価値が市場で認められ、利益を生み出すことを指す。

西口氏によれば、多くの日本企業は、研究開発などを通じた発明を得意とする一方で、それを価値創造に転換する戦略や仕組みが脆弱だという。その点が、イノベーション活動で成果を出している海外企業との大きな違いだと語った。

また、イノベーション活動を「脇役」と捉えるのも、日本企業の特徴だと続けた。

「組織の主流にイノベーション活動を位置付けるのか、あくまで、脇役とするのか。今、世界で広がっているのは『イノベーション活動を脇役にしていると、競争力が極端に低下して、生き残れない』という、ある種の恐怖感です。もはや、イノベーション活動を主流にして、価値を創造し続けないと競争力が保てないというのが、優れた海外企業の基本認識になっています。その点が、多くの日本企業との違いです」(西口氏)


西口氏は、繰り返し、イノベーション活動を組織の中枢に据える重要性を強調する。では、そうした環境のもとで活躍する人材を、企業はいかにして探し出し、育成するべきなのだろうか。谷本氏は「企業において、イノベーション人材を増やす方法」について問いかける。

西口氏は「それは非常に深淵なテーマで、そう簡単に解が出せるわけではありませんが…」と前置きしたうえで、イノベーション活動には「構想力と実行力を兼ね備えた人材」が必要だと述べ、経営層がそうした人材を増やす意志を持つべきだと訴える。

「最も大切なのは、イノベーション人材を社内に増やすという意志を、経営者が持ち、社内に明確に示すことです。私が知る、とある大企業の経営者は、そうした人材を役員に据えたり、社外から招いたりして、トップの方針として意志を伝えています。そうしたなかで、イノベーション人材が活躍できる環境を整え、戦略的に人材層を分厚くしていくべきです」(西口氏)

また、イノベーション活動における、あるべきリーダー像にも話題は及んだ。谷本氏は経営層の意志を組織の末端まで浸透させる難しさについて触れ、とりわけ明文化や言語化を苦手とする日本企業にとって、不得意な取り組みではないかと指摘する。そうしたなかで、経営層がいかにして意志を伝えていくべきかと聞いた。

西口氏は、再度、「ISO56002:IMSのフレームワーク」に立ち戻り、そのなかの「リーダーシップ」という項目に注意を促す。そして、そこに併記されている「コミットメント」「ビジョン」「戦略」「方針」の要素をすべて満たしてこそ、真のリーダーシップが実現すると語った。

「多くの企業のコーポレートサイトには、『イノベーション』や『社会的価値の創出』といった高邁なビジョンが記されていますよね。しかし、ほとんどの企業では、それが『掛け声』のような役割しか果たしていません。イノベーション活動を成功させる企業は、そうしたビジョンを戦略化し、方針として社内に示し、目標にコミットする。ここまで実現するのが、ISO56002におけるリーダーシップです。つまり、経営層が持つ意志をいかに具体化するかがポイントです」(西口氏)


「一人で勝とうと思わない」が世界標準のオープン・イノベーション

セッションでは、オープン・イノベーションについても議論が深められた。谷本氏は、不確実性が高まり、様々な業界の再編が進むなかで、外部連携の重要性が高まっているのではないかと語り、オープン・イノベーションを成功させるポイントについて尋ねた。

そこで、西口氏は「オープン・イノベーションが成功しやすい会社の特徴」として3つポイントを挙げた。

「『やりたいことが明確であること』『自社に足りないものを把握していること』『自社に足りないものを、外部との連携で埋め合わせる意志を持っていること』。この3つです。逆に言えば、やりたいことが明確でなく、自らの実力も分析不足で、外部との連携が目的化しているオープン・イノベーションは、ほぼ間違いなく、結果につながらないと思いますね」(西口氏)

さらに、西口氏はグローバル環境におけるオープン・イノベーションの動向について触れ、海外企業とも積極的に連携していくべきだと説く。

「アメリカの主要な企業のCEOが集まる『米国競争力協議会』では、現在、盛んに『competitiveness through collaboration』(連携による競争力)が語られています。つまり、『一人で勝とうとは思わない』という考え方です。そうした意味では、日本企業は日本企業だけで勝とうとするのではなく、世界各国の様々なイノベーションエコシステムと連携をして、競争力を向上させるべきだと考えています」(西口氏)


西口氏から海外企業とのオープン・イノベーションが語られたことを受けて、谷本氏は「日本企業の強みとは、そもそも何か」と問題提起する。海外企業と連携する際には、相手方を惹きつける「日本らしさ」が必要となる。その「日本らしさ」とは何かと問いかけた。

質問に対して、西口氏は、日本が持つ「社会的価値への共感力の高さ」を強みとして挙げる。西口氏によれば、日本はSDGsを始めとした社会的価値創出の取り組みに、世界各国のなかでも強い共感を示しているという。

「世のため人のため」が心理的に内面化されているのが日本の特性であり、それは海外企業との連携においても強みになると話した。そして、「その強みを生かすためにも、『共感』を『プロジェクト』に変えていく力が必要です」と指摘し、「日本らしさ」を生かすためにも、共感を具体化し、行動に繋げていくことが大切だと語った。

セッションの最後に、西口氏は冒頭で提起された「OSのバージョンアップ」の問題に立ち戻る。「とにかく日本の課題は『OSが古い』に尽きます」と訴え、以下のようにセッションを締めくくった。

「これからも、どんどん最新のアプリが生まれていきます。それらを使いこなすためには、OS、つまり、マネジメントシステムのバージョンアップが急務です。JINはISO56000シリーズを開発するTC279の国内審議団体を務め、国際交渉と国内審議委員会の運営を行っています。JINのWEBサイトでは、イノベーション活動に関する情報やプログラムを数多く公開しております。ご興味のある方は、是非ご覧いただければと思います」(西口氏)

取材後記

セッションのなかで、西口氏はIMSによってもたらされる効用について、以下のように述べた。

「IMSでは、『文化』や『力量』といった、人間臭くて、目には見えない要素が、組織内で機能していることが重要とされます。そのため、IMSが実現している組織は、自然と老若男女が生き生きとして、新たなアイデアが次々と生まれてくる環境になります」

「世界標準のイノベーション」と目にすると、多くの人は、一人の天才が革新的な製品を生み出す姿を想像するのではないだろうか。しかし、セッションのなかで西口氏によって語られた実態は、そこから大きくかけ離れていた。老若男女が生き生きと仕事に取り組み、次々と新たな挑戦にいどむ環境が、イノベーションを生み出していく。イノベーション活動が、組織の「主流」であるべき理由が、ここにあると強く実感させられた。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)

▼JIN西口氏のJOIF前特別インタビュー記事はこちら▼


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