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日本を「イノベーション国家」に変革するための切り札” イノベーション・マネジメントシステム”とは。

日本を「イノベーション国家」に変革するための切り札” イノベーション・マネジメントシステム”とは。

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イノベーションの創出を目指しているのは、いまや先進的な一部の企業に限らない。――2019年 8月に発表された「全国イノベーション調査 2018年調査統計報告」は、調査対象の38%に及ぶ約20万社の企業がイノベーション活動に取り組んでいると報告している (※)。最早、業界や組織の規模に関係なく、多くの企業がイノベーション活動に取り組む時代が到来していると言っていいだろう。

しかし一方で、「イノベーション」というフレーズには、いまだに「技術革新」、「野心的なスタートアップ」、「天才的な起業家」といったイメージがついて回っているのも事実だ。多くの企業がイノベーション活動に取り組む時代にも関わらず、その実現には、鋭い感性や血気盛んな衝動、最先端のテクノロジーが必須であるかのような印象すらある。

そうした風潮に対して、「イノベーションは『変わり者』によって創られるといった認識は、完璧な時代遅れです」と警鐘を鳴らすのが、一般社団法人Japan Innovation Network(以下、JIN)の西口尚宏氏だ。西口氏はこれまで、日本の産業構造の課題解決を図る官民ファンド「産業革新機構」(現・産業革新投資機構)の執行役員を務めるなど、日本国内のイノベーション活動を牽引してきた人物。数々の活動を通じて、「大企業からイノベーションは興らない」という定説を覆すことに力を注いできた。

今回、TOMORUBAでは西口氏にインタビュー取材を実施。日本企業のイノベーション活動における現状や課題、さらに、西口氏自身が原案作成に携わったイノベーション・マネジメントシステム(以下、IMS)の国際規格「ISO56002」について伺った。

西口氏は「大企業をはじめとした既存組織がイノベーションを創出するためのマネジメントシステム。それがIMSです」と語る。「変わり者」に依存せず、持続可能なイノベーション活動を行い、成果追求するIMSとは、一体どのようなマネジメントシステムなのか。旧態依然としたイノベーションへのイメージが覆される取材となった。

※出典:2019年8月23日 科学技術・学術政策研究所「全国イノベーション調査 2018年調査統計報告[NISTEP REPORT No.182]の公表について」


■一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)代表理事 西口尚宏氏

日本長期信用銀行、世界銀行グループ、マーサー社(ワールドワイドパートナー)、産業革新機構(執行役員)等を経て現職。2013年から数多くの大企業の経営者、ミドル、ジュニアと連携して、企業内からイノベーションを興す取り組みを続けており、数多くの成功事例を創出。世界各国のスタートアップとの連携や、イノベーション・マネジメントシステムのISO化においては、日本を代表して原案作成を行うなど、世界各国との連携にも注力している。オープン・イノベーション活動としてSDGs(持続可能な開発目標)をイノベーションの機会として捉える「SHIP(SDGs Holistic Innovation Platform)」をUNDP(国連開発計画)と共同運営。ISO TC279 委員。主な著書に、『イノベーターになる:人と組織を「革新者」にする方法』(日本経済新聞出版社、2018年)

日本を「イノベーション国家」に変革するのが、JINの使命

――西口さんは、産業革新機構や、経済産業省が主催するイノベーション人材の育成を目的とした「フロンティア人材研究会」などの活動を経て、2013年7月にJINを設立されています。まずは、JINの設立に至る経緯や目的について教えてください。

西口氏 : JIN設立の経緯は、2009年まで遡ります。私は2009年に産業革新機構の立ち上げメンバーとして参加し、投資戦略の策定を主導していました。その仕事のなかで、「技術は優れているけれども事業モデルが不十分」、「事業モデルはあるけれども顧客がいない」といった、同じ類型の欠点を抱える投資案件に数多く出会いました。

また、一方で、産業革新機構は、大企業からスタートアップまでの様々な企業の人材が意見交換する機会を積極的に設けており、そのなかで数多くの大企業の方が「新しいことを始めようとすると、必ず会社に止められる」といった苦悩を抱えていることを知りました。あえて、社名は申し上げませんが、各業界でイノベーションを牽引してきた有名企業が、組織内でイノベーションの種を叩き潰しているのが実情でした。


私は当時から、こうした「症状」が、なぜ多くの企業で共通して現れるのかが疑問で、経産省の方々やソニーの元社長である安藤さん(安藤国威氏)たちと頻繁に議論をしていました。そこで、「症状」の原因を突き止めるために立ち上げられたのが、「フロンティア人材研究会」です。

ただし、「フロンティア人材研究会」という名前からも分かるように、当初は「人材」が根本原因だと考えていました。イノベーターである技術者に、事業モデルの作り方を教育すれば、自ずと問題は解決するだろうと。しかし、研究会で議論を深めていくうちに、問題は人材のみではなく、経営自体にあるとの結論に至りました。そして、欧米企業の調査など約3年間の活動の末にまとめた報告書のなかで、「二階建て経営」「マネジメントシステムの5要素」という二つのコンセプトを提出しました。日本企業がイノベーションを創出するためには、この二つのコンセプトを実践することが必要だと結論付けたわけです。


▲JINのWebサイト「イノベーションの考え方」より抜粋

フロンティア人材研究会は政府の委員会ですから、本来であれば、報告書を発表すれば役目は終わります。しかし、委員には熱い想いを持った方々が多く、研究会の終了後に「このコンセプトを実践する団体を作ろう!」と、有志のメンバーで再結集することとなりました。そうして出来上がった組織がJINです。

つまり、フロンティア人材研究会での徹底した研究結果を経て生み出された二つのコンセプトを日本中に浸透させ、日本を「イノベーション国家」に変革するのがJINの目的です。我が事ながら、実に、青臭い野望を持った組織だと思います(笑)。

イノベーションは「傍流」ではなく、経営の中心に据えるべきもの。

――その後、西口さんは、JINにおいて数々の大企業へのイノベーション支援を手掛けてこられました。率直に言って、日本企業のイノベーションにおける課題は何でしょうか。

西口氏 : まずは、インベンション(invention)とイノベーション(innovation)の違いが、正しく理解されていないことでしょうね。インベンションは「発明」。イノベーションは「価値創造」です。発明が価値創造に直結するとは限らない。発明を価値に変換していく事業モデルが必要です。技術があれば価値である、というのは間違いである。技術があっても価値にならないことがある、という冷静な視点が必要だと思います。

何回か、ゼネラル・エレクトリック社のCEOを務めていたジェフリー・イメルト氏にお会いしたことがあるのですが、彼は「売れないインベンションは、イノベーションではない」とハッキリとおっしゃっていました。その一言に尽きると思います。「『売れるインベンション』こそ、イノベーションである」という認識を、日本企業は共有するべきです。

また、イノベーション活動を、組織の「傍流」だと捉える価値観も、イノベーションの創出を阻害しています。例えば、欧米の先進的な企業は、企業活動全体をイノベーション活動だと捉えています。なぜならば、彼らは「イノベーションがない限り、組織は競争力を維持できない」という前提のもとでビジネスをしているので、イノベーションを経営の中心に据えるんですね。それに対して、日本企業はまだまだ本業が保守本流であり、イノベーション活動は組織内の変わり者や異分子による傍流の仕事だと捉えがちです。若者のボトムアップ活動を奨励すれば、イノベーション活動をしていると考えているのは、その典型です。

そうした認識が顕著に現れているのが、「出島戦略」(※)ですね。出島の例えにならえば、イノベーション活動は長崎の離れ小島ではなく、国土のど真ん中で展開すべきものです。つまり、本業もイノベーション活動も、同じく本流であり、どちらも同等に重要だと考えなければいけません。

※企業がオープンイノベーションを推進するため、会社本体と切り離された別組織を構築する戦略。江戸幕府が対外政策のために、長崎に設けた「出島」に由来。

イノベーションを創出していくには、このような経営者の理解や本気度・コミットが前提不可欠であり、「マネジメントシステムの5要素」のうち「社内プロセス」や「社内インフラ」という経営の仕方に関する部分が整っているだけでは上手くいきません。「経営者」、「イノベーター(事業創造人材・チーム)」、「加速支援者」という人にまつわる要素も含めた「エコシステム」あるいは「マネジメントシステム」として、経営陣が5要素をしっかりと整備・機能させることが重要です。

大企業へ「システム」として導入をし、イノベーションを生み出す組織へと数々の変革を支援してきたJIN

――そうした課題を抱える企業に、JINではどのようなイノベーション支援を行ってきたのでしょうか。

西口氏 : 世界的にも有名な、某大手メーカーA社への支援活動を例に取ります。2013年10月、JINの設立直後に、A社の当時のCEOから強い要請を受けて、イノベーション支援を手がけることになりました。A社は当時、存亡の危機に瀕しており非常に沈滞したムードを漂わせていました。その打開策の一つとして、イノベーションの創出に取り組んだわけです。

私はまず、先方のミドルも含めたプロジェクトチームを組成し、3ヶ月間で現状分析を実施しました。A社の現場にインタビューを重ねると、やはり先ほど述べたような「インベンションをイノベーションに転換できてない」「新しいアイデアは潰される」などの課題があることが分かりました。「10万円の経費予算を通すのに50枚の稟議書を書く」などの実例にも出会いました。

そこで今度は、そうした課題を解決するためのアクセラレーションプログラムを、ミドル、ジュニア、社長と共同でデザインしていきました。プログラムにはデザイン思考やリーンスタートアップの手法、事業開発のテクニックや詳細な教育プログラムなど、当時の世界でも最先端の様々なノウハウを注ぎ込み、さらに社長とも毎月膝を突き合わせてブラッシュアップを続けました。

そして、プロジェクト開始から約6ヶ月後の2014年4月、プログラムはローンチに至りました。結果は、ハッキリと「成功」だと言えます。現在もプログラムは継続されており、具体的な製品も数多く世に出ています。その後A社の株価は急上昇。プロジェクトの数年後には、過去最高の営業利益を記録するなど、驚異的な復活を遂げました。もちろん、その成果のすべてがJINの支援活動によるものだとは言いませんが、経営陣がJINの支援活動を通して「システム」としてイノベーションを興すアプローチを導入し、組織全体で常識を変え、イノベーションを生み出す組織へ変革できた点では大きな役割を果たしましたし、それがA社の復活にも一定以上、寄与したと自負しています。


既存の組織が、組織的にイノベーションを創出することを目的として開発されたのが、ISO 56002

――一方で、西口さんは、2019年7月に発行されたIMSの国際規格ISO 56002の発行にも、日本代表として携わっていらっしゃいます。ISO 56002の成り立ちについて教えてください。

西口氏 : ISO 56002の起源はヨーロッパにあります。ヨーロッパは、もともとアメリカへの対抗意識の強い土地柄で、ビジネスにおいてもシリコンバレー的なイノベーションには違和感が強いです。彼らはよく「ヨーロッパ人には、アメリカ人のように失敗を奨励するマインドは持てない」と言います (笑) 。そこで、2008年からヨーロッパの風土に適したイノベーションの手法を模索し始め、2013年に組織的にイノベーションを創出するIMS の欧州規格を発行することとなります。

それと時をほぼ同じくして、ISO56000シリーズの規格開発が始まりました。この規格開発には、欧州だけでなく、アメリカや日本、その他の国々からもIMSに関する知見が持ち寄られました。ここで重要なのは、世界各国で既に、組織的にイノベーションを創出する手法が様々に試されていたことです。

国や地域に関係なく、人間がある一定規模の組織を作ると、自然とイノベーションは生まれにくくなるものであり、そこからブレイクスルーを果たすためには、何かしらの組織的な活動が必要になるわけです。つまり、ISO 56002はスタートアップではなく、大企業をはじめとした既存の組織がイノベーションを創出することを目的として開発されました。この点が一番の特徴でもあります。


▲ISO56002:イノベーション・マネジメントシステム(IMS)のフレームワーク

組織変革チームの養成~経営陣への説得、個別伴走型の支援までを行うJINのソリューション

――JINでは、ISO56002を企業に導入するソリューションを複数展開されていますが、具体的にどのようなソリューションなのでしょうか。

西口氏 : 入り口として、「IMSAPスタジオ」というソリューションがあります。スタジオは、ISO 56002を正確に理解したうえで、実践できるチームの養成を目的としています。いわば、「組織変革チームの養成講座」ですね。ソリューションとしてのポイントは、私自身がISO 56002の開発に携わり、現在も頻繁に海外の有識者たちと議論を重ねていることです。つまり、JINにはISO 56002に関する最新の情報や事例が集まるため、文言の背景や行間のニュアンスなども、精緻に解説することができ、スタジオ参加者はより理解を深めて頂けます。

次のステップとして、「IMSAPキャンプ」があります。キャンプでは、企業別にISO 56002に準拠したアセスメントを行い課題を特定します。そして、その課題を解決できるIMSの概要を設計します。キャンプでは、詳細なアセスメントや組織内の課題抽出だけでなく、「経営陣への説得」も行います。ISO 56002のフレームワークを参照すれば明らかですが、IMSの実践には経営陣によるリーダーシップが必須条件です。そのため、経営陣にIMS導入の了承を得て、コミットメントを得るまでをソリューションとして展開しています。これまで数々の大企業での導入に成功していることから、経営陣への説得方法についても豊富な経験とナレッジが蓄積しています。

次のステップは、IMSAP キャンプで概要設計したIMSの詳細設計や運用をサポートする「伴走型イノベーション加速支援」というソリューションも展開しています。アクセラレーション・プログラムの運用や教育プログラムの提供、具体的なプロジェクトへのメンタリングなど、縦横無尽なサポートを提供しています。

――そうしたソリューションを受ける際に、企業側に求められるスキルや要件はあるのでしょうか。

西口氏 : 熱い想いを持ったミドル・ジュニア層の存在が最重要です。彼らのコミットメントがエンジンとなってIMSの構築と運用に魂が込められると言えます。

今までの成功プロジェクトでは、常にミドル層が強い問題意識を持っていました。ですから、部門などに関わらず、「会社を変革したい」という意欲を持ったミドル層の方にはぜひご連絡頂きたいです。経営層のコミットを得られず困っている方は、一緒に経営層を説得していきますよ。今まで何度もそのような場面を通して経営者の皆様に仲間になって頂いています。

近い将来、IMSは「世界の常識」になる。

――最後に、日本企業のイノベーションについて、どのような展望を持っていられるのかお聞かせください。

西口氏 : 2020年12月に、IMSの認証規格であるISO 56001の開発が正式決定されました。これから数年かけて開発が進められ、おそらく4、5年後には「ISO 56001認証企業」が数多く誕生するはずです。そして、ゆくゆくは品質管理やプロジェクトマネジメントなどと同様に、IMSも常識化していくことでしょう。現在は、そのゲームチェンジの過渡期にあります。

そうした変化なかで、IMSで組織的なイノベーション活動を通して競争力を高めていく企業と、個人技に依存したイノベーション活動をする企業との間には、大きな差が生まれるのは間違いないでしょう。

IMSを実践したからといって、必ずイノベーションが創出されるわけではありませんが、イノベーション創出の確率を確実にあげていきます。日本企業のイノベーション活動は、そのエネルギーの多くを社内説得に充てているのが実情です。IMSの最大の利点は、そうした内向きに費やしていたエネルギーを、市場や顧客などの外向けに向けられることです。「システム」として共通言語ができるため、内向きに費やす時間は不要になります。そこに個人の思いや創意工夫が加われば、イノベーション活動の成功確率も自ずと上昇しますし、企業としての競争力も高めることができるでしょう。そうした観点からも、IMSは今後ますます欠かせないものとなっていくと予想しています。



※eiicon companyがオンラインで開催する日本最大級の経営層向けオンラインカンファレンス「Japan Open Innovation Fes 2020→21」にて、スペシャルセッション「世界水準のイノベーション・マネジメントシステム ISO56002 ーマネジメントシステムなき活動で起こる悲劇を避けるには?ー」を開催[2/26(金)11:30-12:15]。ぜひ、そちらも視聴し、イノベーションの新たな常識に触れてみることをお勧めしたい。

視聴方法やスケジュールなど詳細はこちらをご覧ください。 https://eiicon.net/about/joif2020-21/



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取材後記

取材中、西口氏はIMSを普及させることを「常識を変える活動です」と言い切った。たしかに、「イノベーション」と「マネジメントシステム」は、一見相反する概念に思える。非連続的な成長や新たな価値創造が「標準規格」から生み出されるというのは、にわかには信じがたい。

しかし、西口氏の口から、JINが手掛けたイノベーション支援の事例が次々と語られるにつれ、次第に自らの固定観念が覆されていくのを感じた。紙幅の都合上、割愛せざるを得ないエピソードも多く、その全てをお届けできないのが残念でならない。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)

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