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東急と日本クラウドキャピタルが資本業務提携―オープンイノベーションで両社が描く「地域活性の未来像」に迫る

東急と日本クラウドキャピタルが資本業務提携―オープンイノベーションで両社が描く「地域活性の未来像」に迫る

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コロナ禍における新規事業に挑戦する手法の一つとして、オープンイノベーションに注目する大企業も増えている。ただその反面、「スタートアップが大企業を選ぶ時代」に入り、オープンイノベーションの取り組み方を進化・変化させている大企業も少なくない。

その一例としてTOMORUBAでは、2015年より主にスタートアップとの連携を目的とするアクセラレータープログラム(東急アクセラレートプログラム)を実施するなど、近年は国内オープンイノベーション分野の牽引役として豊富な実績を築いてきた東急株式会社を取り上げた。(※掲載記事:「スタートアップが大企業を選ぶ時代」に国内アクセラ老舗企業が新たな打ち手ーOI手法の進化・変化とは?

2020年11月、同社はCVC活動の開始を発表。あわせて同CVCの1号案件として、株式投資型クラウドファンディング「FUNDINNO(ファンディーノ)」を運営する株式会社日本クラウドキャピタル(以下JCC)と資本業務提携し、東急線沿線に関わる「誰もがフェアに挑戦できて、誰かの挑戦を応援できる世界」の実現を目指すと発表した。

大企業・東急と、スタートアップ・JCCはどのように関係性を構築しながら、資本業務提携に至ったのか?さらに、両者によるオープンイノベーションでどのような未来を描こうとしているのか?

――そこで今回は東急の福井氏、JCCの柴原CEO、向井CMOの御三方に、両社の出会いから資本業務提携に至るまでの経緯、今後の具体的な取り組み内容などについて詳しく伺った。


【写真中央】東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 課長補佐 福井崇博氏

【写真左】株式会社日本クラウドキャピタル 代表取締役 CEO 柴原祐喜氏

【写真右】株式会社日本クラウドキャピタル CMO 向井純太郎氏

東急の描く未来に必要だった「株式投資型クラウドファンディング」

――前回のインタビューでは、福井さんからJCCさんにお声がけされたということでしたが、両社の出会いについて詳しく教えてください。

東急・福井氏 : 今から3、4年前の話になりますが、前職時代にクラウドファンディングの調査をしていたことがあり、JCCさんの本社に伺ってお話を聞かせていただいたのが最初の出会いになります。

JCC・柴原氏 : 確か「FUNDINNO」をローンチした直後ぐらいだったと記憶しています。「すごく優秀で何でも気さくに話してくれる。信頼できそうだ」というのが福井さんの第一印象です。

――そこからコミュニケーションを取り続けて今に至るというイメージでしょうか。

東急・福井氏 : 実はそれからしばらくお会いしていなかったんですよ。再びお付き合いが始まったのは昨年の秋、JCCさんが記者発表イベントを当社が運営しているSOILで開催されたタイミングがあって、そのときにCMOの向井さんとお話をさせていただいたことが、今回の資本業務提携に至るやりとりの直接的なきっかけにつながっています。

――前回のインタビューでは、東急のCVC活動における投資テーマの一つである「ソーシャルファイナンス」にJCCさんが合致していたからお声がけをしたと話されていました。実際に「ソーシャルファイナンス」を手掛けている企業やスタートアップは他にもあると思います。様々な企業の中からJCCさんを選んだ理由について教えていただけますか?

東急・福井氏 : ソーシャルファイナンスの中でも、私たちはとくにクラウドファンディングに注目していました。そのクラウドファンディングにも様々な種類があるのですが、私たちの目指している世界観には株式投資型のクラウドファンディングを最初に優先すべきだと考えていたのです。

その当時、株式投資型クラウドファンディングの市場をリードしているJCCさんにご相談させていただいたのは必然の流れだったと思いますし、他の様々な企業やスタートアップを検討した中でも「JCCさんと最もマッチするのではないか」という話になりました。本格的にご相談に上がったのは2020年の夏ぐらいだったと思います。

――柴原さんは、最初に福井さんから話を聞いた段階で「一緒にやっていける」と思われましたか?

JCC・柴原氏 : 私たちも常々、「ベンチャー企業のサステナブル」ということをキーワードとして考えていたので、東急さんの特色である地域のカラー、地域の特色を加えた上でのサステナブルなサービスを提供できれば、夢のある世界を実現できるのではないかと考えました。


▲株式会社日本クラウドキャピタル 代表取締役 CEO 柴原祐喜氏

大学院修了後、2012年にシステム開発・経営コンサルティング会社を設立。2015年、日本のスタートアップ環境を盛り上げていきたいとの思いで共同代表の大浦学氏と株式会社日本クラウドキャピタルを設立。日本初の第一種少額電子募集取扱業として、株式投資型クラウドファンディングサービス「FUNDINNO」を開始。


「FUNDINNO」で地域の企業・店舗を応援するファン投資家を生み出す

――今回、JCCさんは東急のCVCから出資を受け、資本業務提携という形で連携を進められることになりました。今後、両社が組んで世の中にどのような価値を提供していこうと考えられているのか、具体的な取り組み内容についてお聞かせください。

JCC・柴原氏 : 東急さんとの間では、フェーズを区切って事業を展開していこうという話がまとまっています。まず、フェーズ1はベンチャー企業の相互紹介になります。

その後の展開ですが、株式投資型クラウドファンディングはWeb上で個人の投資家を募る機能を持っているので、東急線沿線の中小企業やベンチャー企業の資金調達などを通して地域活性につなげていく予定です。

――地域活性については具体的にどのようなことを考えているのでしょうか。

JCC・柴原氏 : 東急線沿線の街には様々な特徴があります。渋谷であれば大手のIT企業やITベンチャーが集積していますし、自由が丘辺りまで行けば街のケーキ屋さんなど、地域に根を張っている個人の飲食店さんがたくさんあります。そうした地域の中小企業、個人商店的なお店を、地域に住んでいる人たちの力で盛り上げていくことを「FUNDINNO」を通して実現できればと思っています。

たとえば「FUNDINNO」は、IPOやM&Aによるリターンを求めるという軸だけではなく、純粋に地域の会社やお店を応援しようとするファン投資家を生み出すサービスとしても活用できると考えています。

たとえば株主優待などを設定して、自分の家に帰る途中にあるケーキ屋さんに寄ると優待でケーキを買える権利を得られるようにすれば、店舗にとっては集客も見込めますし、株主側としては、株主であると同時にお店のファンとして、顧客として、「長期にわたってお店を応援していこう」という関係性が構築できるのではないかと考えています。

――東急の目指す長期経営構想や「世界が憧れる街づくり」というコンセプトに密接にリンクしている印象を受けますね。

東急・福井氏 : 東急のCVC活動における3テーマのうちの「ソーシャルファイナンス」では、「住民参加型でつくるエンゲージメントの高い街づくり」を目指しています。その点に関して株式投資型クラウドファンディングというのは、住民の方々が街づくりに参加するための非常に有益なツールであると考えています。

今後のJCCさんとの取り組みを通して「誰もがフェアに挑戦できて、誰かの挑戦を応援できる世界」を沿線の中に広げていくことができれば、住民の方々の街に対するエンゲージメントも高くなっていくはずですし、人々の豊かな生活の実現にもつながると思っています。


▲東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 課長補佐 福井崇博氏

2010年、新卒で日本郵便株式会社へ入社。2017年には日本郵便初のオープンイノベーションプログラムの立ち上げに関わるなど、同社とスタートアップの連携を推進。2018年に東急株式会社へ入社。以降は東急アクセラレートプログラムやSOILの運営など、新規事業開発や組織変革を担うフューチャー・デザイン・ラボにおいて、今回のCVC活動を含めたスタートアップ連携の促進を担っている。

――お互いが共通のビジョンを描けている印象を受けますが、両社で乗り越えなければならなかった障壁などはあったのでしょうか?

東急・福井氏 : これから詰めていかなければならない部分も多いのですが、将来のビジョンや具体的な連携策に関しては最初のすり合わせの段階で合意できた印象がありますけど、柴原さんどうですか?

JCC・柴原氏 : そうですね。東急さんのビジョンと私たちのビジョンに違和感がなく、ビジョンパートナー的な連携ができていると感じています。

「FUNDINNO」を介したスタートアップと東急グループの事業連携も視野に

――JCCさんは、これまでにも様々な大企業から出資を受け、連携して事業を進めてこられた経験があると思いますが、東急グループと組むメリットなどはどこにあると考えていますか?

JCC・柴原氏 : 先ほど福井さんから「住民と地域のエンゲージメント」の話がありましたが、東急さんはそれを最も実現されている会社の一つだと思います。渋谷の開発などを見ていると本当によくわかりますよね。

また、株式投資型クラウドファンディングという手段を街づくりに活用いただけるということで、私たちにとっては非常にありがたいことですし、株式投資型クラウドファンディングの次なる世界観として、「地域」「エンゲージメント」「サステナブル」というキーワードは、東急さんと組む以前から社内でも盛んに議論していましたからね。私たちとしても東急さんはパートナーとして最適だったと考えています。

――向井さんはいかがですか?

JCC・向井氏 : 私は今回の連携の入り口の部分を担当し、東急グループの多くの方とお会いさせていただきましたが、私たちがこれまでに組ませていただいた企業の方々と比べても非常にクレバーで誠実な方が多いという印象を受けました。

東急さんと組むことで、私たちの事業・サービスに無限の可能性が広がっていることがわかりましたし、必ず貢献させていただきたいと思っています。これからのフェーズも楽しみで仕方ないんですよ。


▲株式会社日本クラウドキャピタル CMO 向井純太郎氏

日本ヒューレットパッカードにて、金融業界領域のエンジニア、ITコンサルタント、プロジェクトマネージャーを経験後、ライフネット生命へ入社。システム企画部、マーケティング部WEBチームのウェブマスターなどを経て、サポート部門のCX強化に従事。インバウンドセールスチームの立ち上げや国内生保初のLINEサービスの立ち上げ等を担当。2019年、CMOとして株式会社日本クラウドキャピタルに入社。

――福井さんも様々なスタートアップと連携・共創されてきたと思いますが、JCCさんにどのような印象を持たれていますか? パートナーとして連携しやすいと感じられているポイントなどがあったら教えてください。

東急・福井氏 : スタートアップだけでも年間数百社のピッチや資料を拝見し、多くの方とお会いしていますが、柴原さんや共同代表の大浦さんなど、何年間もずっと愚直に事業に取り組まれてきたからこそ、「FUNDINNO」のサービスイン以降、順調に拡大・成長されているのだと感じます。

2019年、イベントをされていたときも、向井さんを始め、広報チームの方々が皆さん非常に誠実に仕事をされていたので「信頼できる方々だな」と感じられ、最初から将来像や連携策についての深い話をさせていただくことができました。

――柴原さんからフェーズについてのお話もありましたが、今後、「いつまでにどこまでやる」といったような目標を設定されているのでしょうか?

東急・福井氏 : 東急も様々なスタートアップと連携をしているので、まずは柴原さんがお話しされていた通り、相互で案件を紹介し合うというところからスタートし、東急のアセットを活かした「FUNDINNO」の告知支援などを展開していきます。また、ゆくゆくは「FUNDINNO」と東急の協調出資なども考えています。

東急が出資を考えている会社に対して「FUNDINNO」でも資金調達をしてもらう。そうすることによって、先ほど柴原さんが話されていたファンを獲得した上で、東急という幅広いアセットを持った事業会社が株主になることの相乗効果が生まれると思っていますし、このような取り組みが成功すれば日本のCVCの新しい出資の形をつくることができるのでは、とも考えています。

JCC・柴原氏 : 「FUNDINNO」で資金調達をした企業が、東急グループの後押しで実証実験を行うなど、スタートアップと東急グループの事業連携にもつなげていきたいと考えています。

私たちもそうでしたが、ベンチャーやスタートアップがエリア密着で何かを仕掛けていこうとすると相当な労力がかかるんですよ。ベンチャー、スタートアップの方々にとっては、「FUNDINNO」をきっかけとして東急さんとつながることによって、その後のエリア戦略なども立てやすくなるはずです。

――最後になりますが、今後の意気込みなどをお聞かせください。

JCC・柴原氏 : 東急のCVCチームの皆さんは本当に素晴らしい方が多いので、共に仕事ができることが楽しみです。今後も両社で継続的に新しい価値を生み出す取り組みができればと思っています。

東急・福井氏 : 現在、株式投資型クラウドファンディングは市場拡大期の重要な局面にありますが、日本の事業会社やVCの中での認知度はまだまだ足りていませんし、正しく理解されていないことも多いと感じています。

今回の資本業務提携を機に、両社で正しい情報を発信していくことで「FUNDINNO」のような株式投資型クラウドファンディングをもっと世の中に広めていきたいですし、そうすることでスタートアップや地域企業の資金調達の選択肢を増やすことや、個人にとってはスタートアップや地域企業への投資を通した街づくりへの参画機会を創出していくことによって、より良い世の中の実現につながっていけばいいなと考えています。


取材後記

沿線地域に多様なアセット・リソースを持った東急グループと株式投資型クラウドファンディング「FUNDINNO」を運営するJCCが組むことで、地域活性を目指す今回の取り組みは、オープンイノベーション領域にとどまらず、地域活性に取り組む企業や行政、大学などの研究機関からも注目される一大プロジェクトになり得るポテンシャルを秘めている。

また、柴原氏が語ったように、地域密着やエリアを活用したビジネスを仕掛けようとしているベンチャー、スタートアップにとっても「FUNDINNO」への参画は大きなチャンスになりそうだ。今後も両社の取り組みに注目していきたい。

※撮影場所:Shibuya Open Innovation Lab(SOIL)

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)

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