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まるで「半沢直樹」の世界?ーフィンテック界の共創 Finatext × あいおい

まるで「半沢直樹」の世界?ーフィンテック界の共創 Finatext × あいおい

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現在、人気放映中のドラマ「半沢直樹」。その4話の最後に語られた「本当の勝ち組※注」のスピーチは、思わず共感したビジネスパーソンも多いのではないだろうか。会社のネームバリューや役職に関わらず、「自分の仕事に誇りを持って奮闘し、達成感を得ている人」を勝ち組とした彼の言葉は、今の時代だからこそ心に刻んでおきたいもの。

そして、半沢直樹の言う「本当の勝ち組」こそ、共創相手に求める姿だと話すのがFintechスタートアップ、Finatextホールディングス代表 林良太氏だ。これまで何社もの大企業と協業を果たしてきた彼だが、企業の規模で協業を決めたことはなく、担当者を見て共創を決めてきたと言う。先日もあいおいニッセイ同和損保(以下、あいおい)と提携し、新会社「スマートプラス少額短期保険」を設立し営業を開始したばかりだ。

今回は林氏の他にFinatextグループの保険事業責任者 兼 スマートプラス少額短期保険の取締役 河端一寛氏、そしてあいおいの小泉泰洋氏、安仲直紀氏の4名に共創の裏側について話を伺った。林氏はいったい何が決め手であいおいとの共創を決めたのだろうか、また今回の提携により保険業界にどのような革新が起きるのだろうか。取材の様子をお届けする。

※注:半沢直樹が出向先から銀行に帰ることが決まった際に、出向先の社員たちに向けていった言葉。

"大企業にいるからいい仕事ができるわけじゃない。どんな会社にいても、どんな仕事をしても自分の仕事にプライドを持って日々奮闘し、達成感を得ている人のことを本当の勝ち組というんじゃないだろうか。”

引用:ドラマ半沢直樹第4話より

協業は担当者を見て決める。Finatext流「信頼できる担当者」の見極め方

――まずは提携に至るまでの経緯について教えてください。

あいおい安仲氏:はじまりは2018年の前期に遡ります。私たちはよりユーザー視点の商品を提供していかなければならないという課題を持っていましたが、自社だけでプロジェクトを進めることに限界を感じていました。そこで他社、特にフィンテックの企業と協業したいと思い、LP出資しているファンドに紹介してもらったのがFinatextさんです。

レポートで初めて知ったのですが、林さんが掲げる経営理念などを見て「スティーブジョブズみたいな人だな」と思ったのを覚えています。一緒に保険領域で事業を作りたいと思っていたところ、記事で「保険も面白い」と書いているのを見てファンドの担当の方に林さんを繋いでもらいました。


▲あいおいニッセイ同和損保 安仲直紀氏

――林さんは保険業界に参入することに前向きだったんですね。

Fina林氏:実は当時は保険かレンディングの領域に参入しようか迷っていて、どちらかというとレンディングに傾いていました。しかし、安仲さんと初めて話したときに、とてつもないやる気を感じて次は保険にしようと思ったのです。

 私はもともと「企業と企業」のコネクションなどではなく、「人と人」のコネクションで仕事をすることを重要視してきました。大小関わらずどんな企業でも、熱意や想いをもった人と一緒に仕事をしていきたいと思っています。これまでも「イノベーションと言いつつも、なかなか事業が押し進まない」という方はたくさん見てきましたが、安仲さんとならしっかりイノベーションを起こせそうだと思い、協業を決意したのです。

――やる気を感じたポイントについて、もう少し詳しく聞かせてください。

Fina林氏:一つは愛社精神があるところですね。普段はあまり口にはしませんが本当に会社のことを愛しているのが伝わってきます。自分の会社のことを好きでもない人、仕事を楽しんでいない人と一緒に仕事をしようとは思いません。

もう一つは業界について深い知識があること。自分の業界なのだから知識があるのは当然だと思うかもしれませんが、実はしっかりと知識を積み重ねている人はそう多くいません。インターネットで調べれば一瞬で出てくるような浅い知識で話をする方だと、なかなかビジネスの根幹を捉えられずイノベーションを起こせないのではないかと思います。その点、安仲さんは初回の会議から、アジェンダもしっかり作って積極的に場をドライブしてくれました。本来ならスタートアップがドライブしなければいけない立場なのに、安仲さんに引っ張られて「今回は負けたな」と思いましたね。悔しかったので「次回の会議は僕らがドライブしよう」と思ったのを覚えています。

ーーよっぽど安仲さんの熱意が伝わったんですね。

Fina林氏:安仲さんに限らず、あいおいには半沢直樹が言っていた「本当の勝ち組」が多いと感じています。役職が高い方でも、スタートアップである私達に対して絶対に偉ぶることがないですし、どうしたらユーザーにいいものを提供できるか真剣に考えています。企業の規模や役職に囚われないで、本気で同じビジョンに向かって追求する姿は、オープンイノベーションをする人なら見習うべきものだと思いました。


▲Finatextホールディングス 代表取締役CEO 林良太氏

「損保業界のベンチャー」あいおいの戦略

――ファーストコンタクトを終えて、すぐに本格的な協業が始まったのですか。

Fina林氏:そうですね。その後、あいおいさんのオフィスに伺った時に、その場で協業することが正式に決まりました。驚いたのは、当時はまだ具体的な話が何も決まっておらず、ふわっとした状態だったことです。通常なら、スタートアップ側が話を具体的に固めて、ようやく大企業が決断してくれるものです。

しかし、あいおいさんは具体的な話が決まっていないにも関わらず協業を決めてくれて、懐の深い会社だと思いましたね。

――あいおいさんでは、普段から具体的な内容が決まっていない中でプロジェクトを始めるのですか?

あいおい小泉氏:弊社では割と具体的な内容が決まっていない状態でもプロジェクトを始めますね。大事なのはどんな課題があって、その課題に対してのどう進めていくか共有できていることです。ですので、スタートアップと組むときは、どんなテクノロジーを持っているかが重要なことではありません。課題と方向性だけ共有できていれば、細かいテクノロジーなどは意見をぶつけながら詰めていけばいいと思っています。

そのような社風は、業界内での私たちの立ち位置も影響しています。私たちは損保業界で4位の会社で、上位の3社に喰らいついて追い越していかないといけません。当社は財閥系ではないなど、他の3社とはバックボーンも異なるため、同じことをしていては衰退していくだけです。ですので、他社とのオープンイノベーションにも積極的ですし、新しいことにもスピード感をもってチャレンジしていかなければなりません。世間からは大企業として見られる私たちですが、そのような社風からスタートアップの会社の方からは「損保業界の中のベンチャー」とよく言われます。

――林さんから見て、あいおいさんの社風はどのように映りましたか。

Fina林氏:いい意味で個人の意見が強いという印象を持っています。「会社がこう言っているので」ではなく、「私はこう思っています」と言ってくれる方が多いので仕事がしやすいですね。売上1兆円を超える大企業ではありますが、その実態はまさにベンチャー企業です。

あいおい小泉氏:当社には、確かに個人の意見が強い人は多いです。自分の意見をしっかり持っていなければオープンイノベーションは起こせないですからね。会社としても中期経営計画で、他社と組んで新しいものを作ることを柱としているので、「自分の主張が会社の意見」との気概を持って働いています。

あえて経営企画部でオープンイノベーションを進めているのにも理由があります。本来、私たちがやっている仕事は事業開発や商品開発を行う部署の仕事なのかもしれません。しかし、既存の事業部は新しいことをやろうとしても、これまで培ってきた歴史やお取引先との関係性など考慮しなければいけないことも多くあります。その点、私達は純粋に未来の会社を作ることを中心に動かせてもらっていますので、自由に動くことができます。オープンイノベーションの専属部署を作るのは重要だと思いますね。


▲あいおいニッセイ同和損保 小泉泰洋氏

 

ビジョンを共有しているからこそできる、激しい意見のぶつけ合い

――具体的な内容が決まっていない中始まったプロジェクトが、加速したきっかけについて教えてください。

Fina林氏:現在、責任者をしている河端が入社してきたことですね。もともと、河端はFinatextホールディングス 取締役である伊藤の学生時代の友人ということもあり、Finatextの別の事業で相談に乗ってもらっていました。入社のタイミングでちょうど保険事業が始まったことと、前職でも新規事業開発関連のプロジェクトに関わっていたことが重なり、事業責任者として河端に事業を進めてもらいました。

Fina河端氏:私はもともとコンサル業界にいて、新規事業系の仕事をしたことがあったため、今回保険という新規プロジェクトにアサインされました。とは言え、私も保険業界の人間ではないので、スムーズにプロジェクトを進められたわけではありません。当初想定していた商品のほとんどは実現せずに終わっています。

――想定していた商品を作り切れなかったとのことですが、何が難しかったのでしょうか。

Fina河端氏:ユーザー視点から商品を考えても、いざ保険業界のルールに当てはめると実現が難しいことですね。例えば、当初考えていたのは「加入しておけばなんでも補償してくれる保険」という、保険業界からすれば素人のようなアイディアでした。実際に作ろうと思っても、レギュレーションが厳しく作れません。今の行政の枠組みで商品を作らなければいけないのは難しいですね。そのころから打ち合わせが週1回に増え、安仲さんとのやりとりもヒートアップしていきました。

例えば私たちが「お客さんが欲しいのは保険証券書類そのものではなく、『確かに保険に入っているということ』を示す情報やそれによる安心感だ」と言えば、安仲さんは「紙の書類が手元に届くから安心するお客様もいる。業界のことが何も分かっていない」と言うわけです。お互いバックグラウンドが全然違うので意見も違いますし、今でもバチバチ意見をぶつけ合っています。


▲Finatext 保険事業責任者 兼 スマートプラス少額短期保険株式会社 取締役 河端一寛氏

――バチバチやりあっているとのことですが、安仲さんはどうでしょう?

あいおい安仲氏:Finatextさんのことはリスペクトしていますし、毎回のミーティングが楽しみでした。バチバチやり始めたのも、実務の段階になってからで、構想段階ではそんなことはありませんでした。つまり、ビジョンや進めべき方向は共有していたけど、それぞれアプローチが違っていたということです。 

正直、インシュアテックは日本ではまだ本流ではないですし、従来の保険ビジネスでも収益を上げているので業界に革新を起こす動きは多くありません。私たちは、そんな業界の枠を超えていきたいと思っています。私自身も業界の慣習やレガシーにどっぷり浸かっているので、河端さんから「保険業界の当たり前は、社会の当たり前じゃない」とも言われたことがあります。最初は言い返したい気持ちもありましたが、新しい時代の流れを受け入れられてないのは私たちじゃないかと思い、真摯に受け止めてきました。彼らを心からリスペクトしているからこそだと思います。

――河端さんと安仲さんがバチバチやりあっているのを、小泉さんはどうマネジメントしていたのですか。

あいおい小泉氏:基本は放置していましたね(笑)。隣でzoomを使って話しているのが聞こえていたのですが、お互いにビジョンは共有していますし、新しいものを作ろうとしている気持ちは一緒です。両社の立ち位置やイデオロギーが違うだけなので、隣で聞いていて「もっとやれ」と思っていました(笑)。

大きな変化を続ける社会に合わせて、損保業界も大きく変わらなければいけませんし、大きく変えるためには、立場の違うものどうしで意見のぶつけ合いも必要です。新しいものを作り上げていくために、必要なプロセスだと思いますね。

協業だから実現できる、これからの時代に求められる保険とは

――新しく立ち上げた「スマートプラス少額短期保険株式会社」について、どのようなビジョンを持っているのか教えてください。

Fina河端氏:新会社にはあいおいさんにも出資していただいているので、一緒に育てていきたいと思います。少額短期保険業界は、レギュレーションで年間の売り上げの上限が50億と決まっているので、まずはそこを目標に頑張ります。ゆくゆくは損保の市場にも参入し、あいおいさんの既存ビジネスにも、いい影響を与えられればと思います。

あいおい安仲氏:私も目指すところは河端さんと一緒です。私たちは新会社に出資している立場なので、会社をグロースさせて、早く会社に還元していきたいです。また、新会社で作っている少額短期保険を作るシステムを社内のシステムとして活用し、パートナーさんたちにも還元していきたいと思います。

――小泉さんと林さんには、5年後、10年後の保険業界の未来についてお聞きしたいと思います。

あいおい小泉氏:私はもともと商品開発部で20年ほど自動車保険を作っていたので、保険の売り方も課題も熟知しているつもりです。今の保険会社は重厚長大な商品を作るのには長けていますが、ユーザーの生活に根付いた商品、時流にのった商品は残念ながら十分作れておらず、もっとユーザー目線の商品・サービスが必要だと思います。

今後はFinatextさんと一緒にもっと時流に沿った商品を、クイックに展開していきたいと思っています。今は新しい商品を作るのに1年以上かかりますが、もちろんお客さま保護は大前提の上で、例えば、1か月で商品を作って1か月で売り切るという短いサイクルを回せるような時代が来てもいいのではないかなと思います。自分たちでは難しいですが、Finatextさんと提携したことで、近い将来そのような未来を作りたいと思っています。

ただし、誤解してほしくないのは新しい形の保険ができたとしても、従来の保険が必要なくなるわけではありません。今後も従来の保険は必要ですし、それをどんどん進化させようともしています。社内で既存ビジネスを守ってくれる人たちがいるから、私たちが自由に動けるのです。従来の保険をこれまで通り提供しながら、それぞれのニーズにあったマイクロ保険も提供していきたいと思います。

Fina林氏:小泉さんの話に付け足すとするなら、これから実績を出して行政も巻き込んで良い保険商品をユーザーにどんどん提供していきたいですね。行政も巻き込んで業界全体で変わっていくことで、もっとフレキシブルに保険商品を展開していけると思います。結果的にそうした地道な変化・改善が、ユーザーにとってもっと優しい保険商品の提供に繋がるのだと思います。

編集後記

取材を通して感じたのは、お互いが相手に持っているリスペクトだ。いずれも自分たちの領域に絶対的な自信と誇りを持ちながら、相手の領域に絶対的な信頼を寄せている。だからこそ、激しく意見をぶつけ合いながらも、協業を進めてこれたのではないだろうか。新しい保険サービスで私達の暮らしがどのように変わっていくのか、両者が起こす革新が楽しみだ。

(取材・文:鈴木光平、撮影:古林洋平)

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