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新時代を創る日本発の「ものづくり」のかたちー三菱電機・未来イノベーションセンターのOI戦略

新時代を創る日本発の「ものづくり」のかたちー三菱電機・未来イノベーションセンターのOI戦略

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日本の高度成長期を支えた、ものづくり。他に類を見ない精密さと品質は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛を集め、国内から世界的な”ものづくり企業”を多数輩出した。

しかし、1990年代におけるバブル崩壊と急速なグローバル化を背景に、その様相も一変。ものづくりにおける価値は、製品自体の機能向上だけではなく、ユーザーのライフスタイルや情報技術との適合に移り変わった。

激しい変化にさらされる、日本のものづくり。そのなかで、三菱電機株式会社(以下、三菱電機)は、オープンイノベーションの実践に活路を見出しているという。

三菱電機は「家庭電器」「重電システム」「電子デバイス」「産業メカトロニクス」「情報通信システム」の5つの事業ドメインを要するのだが、これらの間の領域にある分野の拡大を狙っている。それを実現するためのきっかけの一つになりうるのがオープンイノベーションなのだ。

▲事業ドメインの壁を越えてイノベーションを実践 出典:三菱電機の経営戦略(2019年11月)

私たちの生活やインフラを支える大手電機メーカーとして業界を牽引し、さらなる成長を目指す三菱電機が、いまスタートアップとの連携・共創に臨むのはなぜなのか。その先に描く、日本の「新しいものづくり」のかたちとは。

同社のなかでスタートアップとのオープンイノベーションを牽引する「未来イノベーションセンター」のお二人に話を伺った。

■三菱電機株式会社 デザイン研究所 未来イノベーションセンター エクスプローリンググループ グループマネージャー 山中聡氏

1998年三菱電機株式会社入社。入社後、液晶TVや三菱電機を代表するオーロラビジョンに搭載される画像処理LSIの開発に従事。2015年より現職、スタートアップとのオープンイノベーションを推進。コミュニケーターとして、ベンチャー企業とのマッチングによる既存事業の強化や企業内の知財を活用した事業機会の創出に注力。

■三菱電機株式会社 デザイン研究所 未来イノベーションセンター エクスプローリンググループ マネージャー 峯藤健司氏

2011年三菱電機株式会社入社。情報技術総合研究所にて光通信技術の研究開発に従事。その後、同所の研究開発戦略策定、資源配分と実行支援を担当。現在はスタートアップとのオープンイノベーションを起点とした新規事業開発と既存事業強化の推進を担う。2017年より現職。


スタートアップと三菱電機の”橋渡し”を担う、未来イノベーションセンター

――お二人が所属する未来イノベーションセンターが、設立された背景について教えてください。

山中氏 : 未来イノベーションセンターは、三菱電機が思い描く「あるべき未来社会」の実現に必要な技術を探索し、その研究開発を推進するために、2015年7月に設立されました。

三菱電機には社会システムや自動車機器、半導体・デバイスなど、10部門の事業本部があり、各事業本部に生産工場や開発チームが設けられています。そうした組織力は強みでもありますが、一方で独立性が高いために、各事業部間の連携が困難で、既存の事業を革新するアイデアが生まれにくいという課題を抱えていました。

「目指すべき未来社会」の実現には、新しい技術や事業が必要不可欠です。スタートアップとのオープンイノベーションを加速させるため、三菱電機は2017年4月にベンチャーキャピタルファンドへLP出資を行いました。イノベーションを創発するのが、未来イノベーションセンターの役割となっています。

峯藤氏 : 私たちのミッションは「これまで発想できなかったアイデア」を生み出し、実現へ導くことです。

しかし、三菱電機は重厚長大な社会インフラを支える、大きな責任と使命を担う会社なので、不確実性の高い分野になかなか進出できませんでした。そのように従来は発想しえなかったアイデアを形づくるためのプラットフォームが、未来イノベーションセンターとなります。

――未来イノベーションセンターは、スタートアップ企業との連携に積極的だと伺っています。貴社がオープンイノベーションに取り組むのはなぜでしょうか。

峯藤氏 : 未来志向の研究開発をするうえで、社会の動向や、それに伴う市場の変化には敏感でなくてはいけません。また、激しい時代の変化に対応するためには、サービスを構想する発想力や、既存の技術を市場のニーズに合わせて転換し、適用させる柔軟性が求められます。こうした部分に強みを持つスタートアップとの連携は、これまで発想できなかったアイデアを生み出すきっかけを与えてくれます。 これがオープンイノベーションに取組む理由です。

――具体的にどのような手法で、オープンイノベーションを推進しているのでしょうか。

山中氏 : 例えば「テックソーシング」という手法を採用しています。「テックソーシング」とは、三菱電機に足りない技術を、スタートアップなどのパートナー企業から取り入れるという手法です。ここで未来イノベーションセンターは、主に二つの役割を担っています。

我々は単にスタートアップのリストを事業部に渡すといったことはせず、まずはじめに社内向けの活動からスタートします。各事業本部とディスカッションを通じて課題を抽出し、その課題を独自のフレームワークで評価するなどして、外部から獲得するべき技術や事業を明確化していきます。

次に取り組むのが、社外向けの活動で、スタートアップなどのパートナー企業の探索・調整です。事前に明確化した技術領域を、これまで構築してきた独自のソーシングネットワークから探索し、各事業部につなげていきます。

この「テックソーシング」では、このように「社内の課題」と「社外の技術」を熟知したうえで両者をマッチングするので、確度の高いオープンイノベーションが可能になります。

峯藤氏 : さらに、両者のカルチャーギャップを埋めるなど、コミュニケーションの調整も未来イノベーションセンターの役目です。確実な開発計画や高品質でブランドイメージを高めてきた三菱電機と、アジャイルな開発、ピボットが前提というスタートアップの間には、大きなカルチャーギャップが存在しています。

例えば、スタートアップの側からすると、三菱電機の開発や社内調整のスピードはどうしても遅く感じられてしまうでしょう。それに対して、三菱電機の側の事情を説明しながら、円滑な関係を保つといった役割も担っています。山中と私は研究開発部門出身ということもあり、技術の知見を生かした”橋渡し”をしています。

”磨くべき技術”はなにかを見つめる、令和・日本の「ものづくり」へ

――未来イノベーションセンターの取り組みについて、社内外からの反応はいかがでしょうか。

山中氏 : 社内では「時代の流れに追いつかなければいけない」という機運が醸成されていて、その点では未来イノベーションセンターの活動は非常に求められていると思います。

昨今の市場環境の変化に応じて、三菱電機でも「モノからコトへ」というキーワードへの対応が進んでいます。 これまでハードウェアの開発に力を注いできた三菱電機が、GAFAの台頭に代表されるソフトウェア隆盛の時代のなかで、いかにして存在感を示すかは全社的な課題です。

しかし、「モノ」を強みとする会社が、これまでの財産をすべて投げ出して「コト」に移行するわけにはいきません。なので、スタートアップと連携することで、従来の「モノ」に「コト」の要素をつなぎ合わせたいという声は増えているように感じます。

峯藤氏 : これからは「モノ」の品質や機能だけではなく、付加価値を提供することにも強みを持つべきなのだと考えています。例えば、製品を届けるときに、その「届け方」にも価値を感じてもらえるような開発をする。未来イノベーションセンターとしても、そうした方向に組織を牽引できるよう活動に取り組んでいます。

――しかし、貴社のような歴史の深い大企業では、製品や開発に対する姿勢を転換させるのは難しいように感じます。どのようなアプローチでマインドチェンジを図っているのでしょうか。

山中氏 : 「顧客を意識してもらう」というのが非常に重要です。私たちが各事業本部のメンバーとディスカッションを重ねるなかで、開発の現場は「どんな機能を付けるべきか」といった、「モノ」を起点にして製品を発想していることに気が付きました。それを「どんな製品を顧客は欲しがっているのか」といった、顧客を起点にして製品を発想してもらうことで、新たな開発のアイデアが生まれやすくなっています。

マトリクスで例えるなら、従来は「モノ」という横軸のみだったのが、そこに「顧客」という縦軸を追加することで、製品を位置付けられる領域が広がったといった感じでしょうか。

峯藤氏 : 発想の幅を広げることは、私も肝心だと思っています。三菱電機は社会インフラを担うBtoB事業が多いということもあり、実際の顧客と対峙する機会が少ないために、具体的な利用シーンをイメージする機会が少なかったのだと思います。

しかし、オープンイノベーションに取り組めば、スタートアップから異なる事業分野の情報を取り入れることができますし、新たな切り口の情報が増えることで、 自然と他部署の技術や社会の動向にも興味が向かって、顧客の姿にも想像が及ぶようになるのだと思います。

――なるほど。そうしたマインドチェンジに伴って、なにか社内でポジティブな変化はあったでしょうか。

峯藤氏 : 外部の情報を取り入れ、発想の幅が広がってから、改めて自社の技術を検討してみると、従来とは異なる見方ができるというのはありますね。自社の技術の優れているところや、捨ててはいけない部分が見えるというか。

例えば、ひとつの製品には様々な技術が搭載されているわけですが、そのなかでもコアな技術が明確になって、「この技術に磨きをかければ、さらにいい製品が開発できる」といった気付きが得られるわけです。エモーショナルな表現を使えば、自社の製品の「愛」がどこにあるかを見つけ出せるようになりましたね。

 

スタートアップと共に、社会が直面する課題・困難を解決したい

――未来イノベーションセンターの今後の展望を教えてください。

山中氏 : 私たちの活動のひとつのゴールは、各事業本部が何時いかなる時でも、オープンイノベーションに取り組めるような状況を作ることです。スタートアップとの連携のなかで、自社の技術を見つめ直し、新たな事業を生み出すというというサイクルを定着させていきたいという想いがあります。つまり、「イノベーション」を「オペレーション」のレベルにまで落とし込みたい。

そのためには、まず私たちが持つマインドを、各事業本部のなかに広く浸透させる必要があります。なので、今後も多くの社員とディスカッションを重ね、ときには兼務者として仲間に入ってもらって、オープンイノベーションの種を各事業本部のなかに植え付けていきたいと思っています。

峯藤氏 : スタートアップに参加してもらうアイデアソンも非常に有効な手段です。三菱電機が抱える悩みをスタートアップにぶつけてみると、たくさんのアイデアが出て「どこから着手していいかわからない」という声が挙がるほど成果が得られました。

また、年に一二回、スタートアップやコンサルティングファーム の方をゲストに招いて、未来イノベーションセンターの成果を紹介する社内向けイベントを開催しているのですが、そちらも非常に手応えを感じています。終了後には、社員とゲストが名刺を交換しながら熱くディスカッションする姿も見られて、私たちの活動が着実に前進しているのを感じています。

山中氏 : また、今後はCVCやアクセラレータープログラムの開催など、活動の幅を拡大させていきたいです。現在はPoCによるオープンイノベーションがメインなのですが、それではどうしても連携が短期的になってしまいがちです。オープンイノベーションを継続的に行うためにも、未来イノベーションセンターの活動をより加速させて、組織体制や機能を拡充できればと考えています。

――最後に、今後どういった企業とオープンイノベーションに取り組みたいのかについてお聞かせください。

山中氏 : 三菱電機はこれまで長きにわたって、日本のものづくりや社会インフラを支えてきました。そうした点では、社会課題解決をめざす企業との相性は良いのではないかと思います。

一般的にオープンイノベーションに携わるのは、ビジネスサイドの方が多いような印象がありますが、私たち二人はもともと研究者なので、技術領域に対する知見にも自負があります。ビジネスだけでなく、技術や開発といった観点からも接点を持ちたいと考えているので、ぜひお気軽にお声がけいただきたいです。

峯藤氏 : 私は技術や領域は問わず、パッションのあるスタートアップに出会いたいです。私自身、オープンイノベーションに携わって、様々な方と接点を持つなかで、一周回って三菱電機のものづくりに懸ける思い、ひいては日本のものづくりの重要性に気付かされました。

なので、我々のこうした熱い思いを受け止めて、さらに熱い思いで返してくださるようなスタートアップと連携したいです。そして、その輪をどんどん広げて、社会が直面する課題や困難を解決するような開発をしたいと思っています。

取材後記

イノベーションは、人の想像も及ばない、全く未知の技術が生み出されることとイメージされがちだ。

しかし、その概念を提唱した経済学者・シュンペーターによれば、イノベーションとは「新結合」であり、既存の組織や生産方式を組み替えることにより生まれる変革のことを指す。多くの場合、イノベーションの種は、すでに保有しているもののなかに存在している。

今回の取材で印象的だったのは、未来イノベーションセンターのお二人から「あらためて気付く」というフレーズが何度も用いられたことだ。オープンイノベーションを経験することで、改めて自社の技術の価値に気付き、それがさらに新たなアイデアを生む原動力になったのだという。

かつて社会を牽引し、世界を席巻した日本のものづくり。その再加速のカギは、これまで築き上げてきた技術の価値に「あらためて気付く」こと なのかもしれない。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)

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