ものづくりの未来を切り拓くOIプロジェクト
共創によって未来を切り拓くプロジェクトを紹介する連載「未来を切り拓くOIプロジェクト」今回は日本の御家芸とも言える「ものづくり」に注目していきます。
ただ、「ものづくり」と言ってもかなり範囲が広いです。この分野において、企業同士の強みを生かして誕生した共創事例は枚挙にいとまがありません。
そこで今回は、ものづくり領域で企業が企業と手を組む事例だけにフォーカスするのではなく、インキュベーション施設の構築やサブスクモデルの導入、大学との拠点設置などものづくりの仕組みや枠組み自体をアップデートするようなプロジェクトや取り組みをメインに紹介していきます。
「モデル契約書」など、追い風の吹く製造業の共創
冒頭でも触れたように、製造業の共創事例は数多くあります。そもそも製造業自体が巨大な産業ですので当たり前といえば当たり前ですが、巨大な産業だけに大企業とスタートアップの間に軋轢も生じやすいという課題があります。
下請け文化で主導的に知財を握ってきた大企業と、知財・法務リテラシーに乏しいスタートアップが共創をしようとすることで、スタートアップの知財が大企業に一方的に搾取されてしまう事例などが出てきています。
この課題に対処すべく、特許庁は2020年6月に製造業の共創に適した契約書の雛形として「モデル契約書ver1.0」を公開しました。これによって、共創に関わる両者がフェアに共創を推進できる土壌が、製造業分野では整いつつあります。
関連記事:【OIモデル契約書 VOL.1】仕掛け人に聞く 特許庁インタビュー
ものづくり分野での共創事例
ここからは事例を紹介していきます。ものづくりの枠組みをアップデートしたり、加速させるような事例をピックアップしました。
【浜野製作所】中小・町工場をアップデートするインキュベーション施設「ガレージスミダ」
東京・墨田区で金属加工業を手がける浜野製作所は、1978年に創立し金属加工技術に高い評価を得ています。下町の工場でありながらオープンイノベーションにも熱心な同社は2013年、深海用小型フリーフォール型無人探査機「江戸っ子1号」の開発プロジェクトにも参画しています。
さらに、自社の工場内にインキュベーション施設兼コワーキングスペースとして「ガレージスミダ」を開設して、自ら共創拠点を運営するなど、ユニークな取り組みが特徴です。
ガレージスミダを起点とした共創事例は数多く生まれており、ロボット事業を展開するアスラテックと開発した「三軸トング」を筆頭に、遠隔操作型分身ロボットOriHimeのオリィ研究所、次世代型電動車椅子・パーソナルモビリティのWHILL、風力発電のチャレナジー、ドローン開発のエアロネクストなど、気鋭のスタートアップと繋がりを持っています。
TOMORUBAのインタビューで浜野社長は「中小企業や町工場は得意な技術に磨きをかけながら、他の資源は持ち寄って、新しいもの作り上げる。そうした姿勢が必要だと思います。」と語っているように、これからの中小企業や町工場の次の打ち手を体現する企業として注目が集まります。
関連記事:令和のモノづくり ~浜野製作所 浜野社長と語らう~ VOL.1
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【双葉電子工業×カブク】デジタル製造プラットフォームで目指す「ものづくりの民主化」
デジタル製造プラットフォームを手がけるカブクは2017年8月、蛍光表示管の最大手であり、金型用部品、ラジコン機器などでも大手メーカーである双葉電子工業の連結子会社となりました。
カブクは2013年の創業から「ものづくりの民主化」を掲げて3Dプリンティングによるデジタル製造プラットフォームを立ち上げています。その後、トヨタ自動車、Hondaのパーソナルモビリティへのカスタマイズパーツの提供を行うほか、グローバルでのデジタル工場向け基幹業務クラウド提供など、デジタルものづくり分野でさまざまな企業と協業し、高い注目を集めていました。
スタートアップとして順調に成長していたカブクが双葉電子工業の連結子会社になった理由について、カブク代表の稲田氏はTOMORUBAのインタビューで「製造業は工場とのリレーション構築や検査検品体制など、良いものをつくるための体制づくりは一朝一夕にはいきません。(中略)そこで、IPOとM&Aをフラットに検討した上で、双葉電子工業とより密なパートナー関係になるという意味でのM&Aを決断しました。」と語っています。
カブクのプロダクトのパワーに双葉電子工業のものづくり体制を掛け合わせ、今後はビジョンの達成に向けて次のソニーや松下電器が生まれるようなエコシステムを支えていくとのことです。
関連記事:【インタビュー】デジタル製造プラットフォームを提供するカブクが、M&Aという意思決定をし、次に目指すステージとは。
【SAP×イノービア】実践型アクセラで製造業特化人材スキル管理システム「SKILL NOTE」をグローバル展開へ
製造業特化人材スキル管理システム「SKILL NOTE」を運営するスノービアは2019年に開催された、企業向けビジネスソフトウェアにおけるグローバルブランド・SAPが主催するアクセラレータープログラム「SAP.iO Foundry Tokyo」で採択されました。
「SAP.iO Foundry Tokyo」はインキュベーションやスタートアップ支援とは異なり、「どうすれば、B2B/大企業の顧客へビジネス実装できるか」にシンプルにフォーカスした“実践型”プログラムです。
プログラムの参加理由についてスノービアの代表を務める山川氏は、「SKILL NOTE」のグローバル展開のためのパートナーシップとして知名度が抜群のSAPを選んだと言います。
SAPの魅力について山川氏は「エンタープライズ系の製造業現場に強いグローバル企業となると、比類する企業がない強力な基盤」を持っていると語っており、実際にサンフランシスコでの商談をSAPにセッティングしてもらうなど、グローバル展開を着実に進めています。
関連記事:B2Bスタートアップへ。 SAPの超実践型アクセラレーター、日本上陸!
【ISID×ビープラッツ】製造業など大手のサブスクリプション事業支援で提携
電通国際情報サービス(ISID)とビープラッツは2019年12月、ビープラッツが提供するサブスクリプション統合プラットフォーム「Bplats」の販売パートナーシップ契約を締結しました。同契約に基づきISIDは、製造業をはじめとする大手企業を対象に、Bplatsの販売を開始するとともに、新たな顧客体験創出に向けた事業開発の企画・検討から立ち上げまで、一連のプロセスをトータルで支援していくとのことです。
Bplatsは、月額・年額・売り切り・従量課金などの複雑な料金体系、多様な契約期間やルールのもとで運用されるサブスクリプションサービスを顧客とつなげるためのWebフロントを、スマートフォンやPCに対応したマイページ機能やマーケットプレイス機能として標準で提供しているサービスです。
両社は同提携を通じて、新事業開発の企画・検討からサブスクリプションによる事業化計画の立案、Bplatsの導入、周辺システムとの連携までを、企業の検討フェーズに応じて幅広くサポートし、製造業をはじめとする企業の事業創出を支援していく予定です。
関連記事:ISID×ビープラッツ|製造業など大手のサブスクリプション事業支援で提携
【東工大×コマツ】産学連携プログラム「協働研究拠点」の第1号として「コマツ革新技術共創研究所」設置
東京工業大学とコマツは2019年4月、東工大における新しい産学連携プログラム「協働研究拠点」の第1号として「コマツ革新技術共創研究所」を設置しました。東工大すずかけ台キャンパスに325㎡の専用スペースを確保し、組織対組織の幅広い分野での連携を進めていきます。
今回設置する共創研究所では、これまでのトライボロジー研究をさらに深化させ、また機械要素全体に研究分野を拡げることで、機械部品の高機能化と長寿命化を図ります。さらに産業の現場で現出する未解明事象を基盤研究の源泉として、新たな研究分野を生み出していく構想です。
今後も東工大とコマツは、このような取り組みを通じて、先端科学技術と製造業のノウハウを結合して日本の産業競争力の底上げを図っていくとのことです。
関連記事:東京工業大学とコマツ、「コマツ革新技術共創研究所」を設置
【編集後記】ものづくり体制をオーダーメイドする時代に
ものづくりは「大量生産・大量消費」の時代を終えて、より細分化したニーズに応えることが求められるようになりました。今回紹介した共創事例は、そこからさらに進化して、ものづくりの体制そのものをオーダーメイドするような取り組みのように見えます。
こうしたフレキシブルな体制づくりが可能になるのもオープンイノベーションの長所です。巨大産業である製造業が「組織のオーダーメイド」の成功事例を数多く創出すれば、同様の流れは他の産業にも波及していくのではないでしょうか。