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日本の中小企業を救う「ベンチャー型事業承継」。後継ぎのいない企業の打開策に

日本の中小企業を救う「ベンチャー型事業承継」。後継ぎのいない企業の打開策に

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日本のスタートアップは新しい技術やサービスなどに注目する傾向がありますが、実は世界では、日本でありふれている「枯れた技術」に注目が集まっています。しかしその一方で、後継者不足から廃業を免れない企業も多く、日本に眠る技術をいかに次の世代に残すかが大きな課題になっています。

帝国データバンクの調査によると、廃業する企業の経営者は「70代」が最多で37%を占め、今後さらなる経営者の高齢化が懸念されています。

▲出典:全国「休廃業・解散」動向調査(2020年1月/帝国データバンク)

そんな現状の打開策として期待されているのが「ベンチャー型事業承継」事業をそのまま引き継ぐ従来の事業承継とは違い、経営資源をベースに新たな領域に挑戦する手法は、若者にとっても魅力的で徐々に普及し始めています。2017年に中小企業庁が発表した「事業承継5カ年計画」にも盛り込まれています。

この記事では日本の後継者問題とベンチャー型事業承継について紹介していきます。家業を継ぐ立場の方はもちろん、日本の「枯れた技術」に興味のある方は参考にしてください。

日本が抱える事業承継の問題

まずは日本の事業承継に関する課題について見ていきましょう。中小企業庁が発表した「事業承継5カ年計画」によりますと、1995年から2015年までの20年の間に、中小企業の経営者の平均年齢は47歳から66歳に推移しています。さらに2015年から2020年までの5年で約30.6万人の経営者が70歳に達し、約6.3万人が75歳になると推計されています。

▲出典:中小企業の事業承継に関する集中実施期間について(事業承継5ヶ年計画) P17(2017年7月/中小企業庁)

問題なのは、そんな企業のうち6割は後継者が未定で、70代の経営者でも承継準備を行っているのは半数であること。そして、60歳以上の経営者のうち、半数以上が廃業を予定していることです。

廃業を予定している企業のうち、3割は同業他社よりも良い業績をあげているというデータもあり、そのまま廃業すれば企業が保有している技術やノウハウが失われてしまいます。

そんな課題を解決するため、中小企業庁が「地域の事業を次世代にしっかり引き継ぎ、後継者が積極的にチャレンジしやすい環境を整備」するために打ち立てたのが「事業承継5カ年計画」です。

その内容は5年かけて「事業承継を支援する地域のプラットフォーム」や「小規模M&Aマーケット」を確立するというもの。その中で、事業承継の目指すべきモデルとして紹介されているのが「ベンチャー型事業承継」です。

ベンチャー型事業承継のメリットとは?

 「一般社団法人ベンチャー型事業承継」によると、ベンチャー型事業承継は「若手後継者が、先代から受け継ぐ有形・無形の経営資源を活用し、リスクや障壁に果敢に立ち向かいながら、新規事業、業態転換、新市場参入など、新たな領域に挑戦することで、永続的な経営をめざし、社会に新たな価値を生み出すこと」と定義されています。

新しい市場を作り出すことはベンチャー企業と同じですが、ベンチャー企業にはないメリットがあります。

●業界への知見がある

家業を継ぐ気はなくても、小さなころから親の背中を見て育っているため、業界への深い知見があります。既に技術を習得している場合もありますし、仮に技術は習わなくても技術を目利きできるケースもあります。一般的なベンチャーがゼロから業界を学ぶのに比べて大きなメリットになります。

●商流と信用がある

家業と同じビジネスモデルでなくても、仕入先や取引先が予めあるのは大きなメリットになります。ベンチャー企業の祖業期は信頼を勝ち取るのが大変ですが、事業承継なら比較的ハードルは低いでしょう。

●ストーリーが作りやすい

ベンチャー型事業承継は、商品やサービスに関して、家業の伝統に基づくストーリーが作りやすい。事業に直接関係ないように見えるかもしれませんが、深いストーリーは多くの人に共感され、取引さやお客さんからの信頼を勝ち取りやすくなります。

ベンチャー型事業承継を支える制度

国はベンチャー型事業承継を後押しするために、補助金や優遇税制を実施しています。その内容についても見ていきましょう。

●事業承継補助金

事業承継補助金は2017年度から5カ年計画で公募しており、毎年度複数回に渡って実施しています。2019年度の補正予算の上限額は20億円で、約450事業者の承継後の取り組みを後押しする予定です。補助の対象となる経費は陣経費や設備費、外注費、広報費と幅広く、経営資源を譲渡した事業者の廃業費用も含まれます。

補助金は、親族内承継や外部人材招聘などにより経営陣を交代する「経営者交代タイプ」と、事業再編・統合等の後に新しい取り組みを補助する「M&Aタイプ」の2種類があります。いずれにしても「取引関係や雇用によって地域に貢献する中小企業など」「経営革新や事業転換などの新たな取り組みを行う」といった条件を満たさなければいけません。

●事業承継税制

事業承継税制とは、事業承継で株式を引き継いだ際に、相続税や納税が猶予され、将来的に免除される制度です。実は平成21年度に最初に創られた税制ですが、条件が厳しいため利用者はなかなか増えませんでした。そこで2018年、新たに条件を緩和した新たな税制が発表されたのです。

新たに発表された制度では、相続税の支払いなしに承継が可能になり、承継後の猶予の条件も大きく緩和されました。これまでは事業承継をするために利益を一時的に少なくして、株価を圧縮した上で一気に贈与するやり方が横行していました。しかし、制度が改正されたことで、利益をコントロールすることなく事業承継できるようになったのです。

実際に税制が改正されたことで旧事業承継に比べて利用実績が年間400件程度から、6,000件程度まで伸びています。まだ、新しい制度に慣れた税理士が少ないという課題はあるものの、今後さらに普及していくことが期待できます。

参考サイト:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zeisei.htm

ベンチャー型事業承継の事例

実際にベンチャー型事業承継に成功した事例を紹介していきます。

●株式会社カスタムジャパン

(同社Webサイトより)

カスタムジャパンは全国に数十万店舗あるバイクや自動車の販売店、整備点に向けてモーターパーツのカタログ販売を行う会社。元々は代表の祖父が1954年に創業した「鶴橋部品」が礎となり、1994年に「日本モーターパーツ」に社名変更、そして2005年にベンチャー型事業承継として創業した歴史があります。

代表の村井氏は20代のころはITベンチャーの役員として、様々な新規事業の立ち上げに携わってきました。家業を継ぐ気はなかったものの、祖父、父が堅実に守ってきた会社を潰すわけにはいかないと、感謝の気持ちから働くことに。仕事で実績を出し、信頼を勝ち得たタイミングで現在の通販事業を新規事業として提案しました。

当時はカスタムジャパンを別会社として昼は家業、夜はカスタムジャパンで働きます。それは社外から「社長の息子」として見られないためと、業界の慣習を打ち破る事業で家業に迷惑をかけないため。それでも社外にばれないように、家業の経営資産を使い業界トップシェアにまで上り詰めます。

代表の村井氏は全国でセミナーを実施したり、大学でも家業をもつ学生に対してベンチャー型事業承継を教えており、斜陽産業にこそ勝機があると語っています。 (「斜陽産業の事業承継こそ商機?!」より一部引用)

●株式会社DG TAKANO

(同社Webサイトより)

DG TAKANOは社会課題から製品開発をデザインするベンチャー企業。水道水圧だけで「脈動流」を起こし、洗浄力を落とさず最大で95%の節水を可能にする節水ノズル「Bubble90」を開発しました。代表の高野氏は、ガス器具の部品を製造する高野精工社の3代目。「Bubble90」には家業の技術力が活かされているのです。

しかし、高野氏にはもともと家業を継ぐ気はありませんでした。技術力が高くても低利益の事業に将来性も魅力も感じず、自ら社会問題を解決するためにDG TAKANOを創業します。節水市場に参入しようとした際に、既存の節水ノズルを見て家業の精密加工の技術力があれば、それ以上の製品が作れると判断し、実際に1週間ほどで開発に成功しました。

今では父親の工場を買収し、Bubble90の生産をしていたものの、生産が追いつかずセブ島に生産拠点を設けるほどに。家業は継がなかったものの、技術は承継した見事なベンチャー型事業承継の一例として注目を集めています。デザイン思考を使った経営手法も人気があり、2015年には「大企業で働く3000人が選ぶ『働きたいベンチャー企業ランキング』」(トーマツ ベンチャーサミットMorning Pitch Expo)で1位に輝いています。

編集後記

日本は「ものづくり」で世界のトップに立っていたものの、「Webサービス」の競争でアメリカや中国に大きな遅れをとりました。しかし、「Webサービス」の時代も終わりを迎えており、ビジネスは次の局面を迎えようとしています。

次の時代はまだ明確に見えてこないものの「ものづくり+IT」は有力候補の一つ。日本がもつ技術力を活かして、再度ビジネス強国に返り咲くチャンスが大いにあります。そして、そのカギは「ベンチャー型事業承継」と「枯れた技術」にあるのかもしれません。もちろん最新技術も大事ですが、一度日本の老舗中小企業にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

(eiicon編集部 鈴木光平)

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