宇宙事業で未来を切り拓くOIプロジェクト6選
これまで宇宙事業というと、アメリカではNASA、日本ではJAXAといったように国が担う分野である印象がありました。しかし、現在ではテック企業の台頭によって宇宙事業のイニシアチブは国だけでなく民間にも広がっています。
さらに、宇宙事業は民間の参入拡大に伴って共創事例も増えてきました。尖った技術を持ったベンチャーが資金調達や大手との提携を経て劇的なイノベーションを起こそうとしています。今回の「未来を切り拓くOIプロジェクト」では、宇宙分野での有望な共創事例を6つ紹介します。
【JAXA×INCJ】宇宙領域でOIを起こす『J-SPARC』プログラム
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2019年4月から、オープンイノベーションを促進する投資活動を行うINCJと連携協定を締結しています。この協定はオープンイノベーションの促進を通じた宇宙産業および関連産業の発展を目的としていて、JAXAとINCJは、両者が有する知見・ノウハウやネットワークを有機的に結び付け、協力関係を深めることにより、日本の宇宙産業の発展に寄与することを目指すとのことです。
この取り組みによって、宇宙ビジネスを目指す民間事業者等と共同で事業コンセプト検討や社会実装を見据えた技術開発・実証等を行い、新しい事業を創出するプログラム「J-SPARC」を推進します。
INCJはこれまでのポートフォリオにもスペースデブリ(宇宙ゴミ)除去サービス開発や超小型衛星による地球観測事業などがあり、JAXAとの協力関係も築いてきました。
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【JAXA×トヨタ】月面でのモビリティ『有人与圧ローバ』共同研究
JAXAとトヨタは2019年3月、燃料電池車技術を用いた月面でのモビリティ「有人与圧ローバ」の共同検討について、有人宇宙ローバの開発及び国際協力による月面探査での活用を目指し、試作車の製作・実験・評価を含む3年間(2019年度~2021年度)の共同研究協定を締結したことを発表しています。
共同研究のマイルストーンでは、2019年度に実際の月面走行に向けて開発が必要な技術要素の識別、試作車の仕様定義を2020年度に書く技術要素の部品の試作、試作車の製作を、2021年度に試作車を用いた実験・評価をしていく予定です。
トヨタは最大30名規模の専門組織「月面探査車開発(室格)」を立ち上げ、JAXAは月の資源(水氷等)の利用可能性調査及び重力天体表面探査技術の獲得を目的としてデータ取得や実証を目指します。順調に計画が進めば、2029年の打ち上げを目指した構想となっています。
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【天地人×明神HD】衛星データ活用の『宇宙ビッグデータ米』開発
宇宙ベンチャーの天地人と米卸で国内大手の明神ホールディングスは2019年12月、宇宙技術を活用した農業の確立を目的とした業務提携を発表しました。
天地人は内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテスト 「S-Booster 2018」での受賞をきっかけに、JAXA職員と農業IoT分野に知見のある開発者が設立したJAXA認定の宇宙ベンチャーでもあります。一方、明神ホールディングスは米穀事業だけでなく食に関わる多彩なビジネスを展開している企業です。
両社は将来の米不足の危機感から宇宙の技術を活用した農業を確立する「宇宙ビッグデータ米」開発プロジェクトを立ち上げました。例えば、「衛星データで収穫量が増える圃場や、より美味しく育つ品種などを見つける」「年々増加している耕作放棄地の有効活用」「品種に応じて最適な気象条件の場所や自然災害が少ない場所を見つける」といった衛星技術を基盤にしたデータ解析で農業にアプローチします。
関連記事:JAXAベンチャー 天地人×米卸で最大手の神明ホールディングス|宇宙技術を活用した「宇宙ビッグデータ米」の開発へ |eiiconlab 事業を活性化するメディア
【内閣府×Synspective】100億円超を調達した小型SAR衛星開発
高性能かつ安価な小型SAR衛星を開発するSynspectiveは、内閣府が主催する国家プロジェクト「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」推進してきた小型SAR衛星の開発プロジェクト成果を事業化すべく2018年に設立されています。
Synspectiveの小型SAR衛星技術の活用によって、高頻度観測を可能にする衛星群を構築し、その衛星から得られるデータの販売、およびそれらを利用した政府・企業向けのソリューションを提供することが可能になりました。
特筆すべきは調達金額で、創業からわずか1年5ヶ月で累計調達額が109.1億円に達しています。大手ゼネコンや大学系、金融系ベンチャーキャピタルなど様々な組織が出資しており、グローバル展開を見据えて事業展開を計画しています。
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【丸紅×インターステラテクノロジズ】人工衛星搭載ロケット『ZERO』開発加速
観測ロケット「MOMO」や小型衛星打上ロケット「ZERO」を開発するインターステラテクノロジズは2019年11月、丸紅の新株予約権の行使によって資本提携を行ったことを明らかにしました。調達金額は公表されていないものの、数億円規模と予想されています。丸紅以外にも、これまでJAXA、レオス・キャピタルワークス、日本創生投資などが
この資本提携でインターステラテクノロジズは、ZEROの販売や資金面でのサポートを受けることによって開発を加速させたい狙いがあります。
インターステラテクノロジズは堀江貴文氏が創業者の宇宙ベンチャーとしても知られており、サポート組織「みんなのロケットパートナーズ(略称:みんロケ)」など、多くの企業を巻き込んだ運営が話題にもなっています。
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【リアルテック×JAXA×シグマシス】惑星移住を長期シナリオに盛り込むフードテック『Space Food X』
研究開発型ベンチャー特化型のVCであるリアルテックファンドがJAXAとシグマシスと共同で運営を行う共創プログラムが「Space Food X」です。Space Food Xは日本発の優れた技術や食文化を最大限に活用し、宇宙と地球の共通課題である「食」の課題解決を目指して、多種多様な組織からプロフェッショナルが集い研究開発や事業創出を促進しています。
長期シナリオとして、2040年までに月面に1000人暮らす時代を創るといった目標を持っており、惑星移住も見据える壮大なプロジェクトです。
具体的には、月面での地産地消を目指して例えば収穫効率の高い植物工場を建設し、完全屋内で栽培して安定した供給を実現させること、さらには人工培養肉の供給も目指しています。Space Food X副代表の菊池氏によると、宇宙における衣食住ビジネスに関しては日本がリードして取り組んでいるため、そこには大きなマーケットが眠っていると見込んでいるようです。
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【編集後記】ターゲットは自ずとグローバルに
宇宙事業を推進するためには、優れた技術だけでなく大規模な資金調達も必要になります。今回紹介した企業やプロジェクトの中にも、Synspectiveのように100億円規模の調達を済ませているものもあり、期待が高まります。
しかし、調達金額が大きくなればなるほど、当然回収せねばならない金額も大きくなるため、ターゲットの市場はおのずと国内だけでなくグローバルになっていく可能性も高いです。
上記で紹介したような国内発の事業が軌道に乗って成長を始めれば、未開拓の宇宙分野だけに、一気に日本の経済界の構図が変わるようなプレイヤーが現れるかもしれません。
(eiicon編集部)