スポーツで未来を切り拓くOIプロジェクト5選
東京オリンピック2020の開催や、昨年のラグビーワールドカップでの日本代表の快進撃など、スポーツの持つチカラに再び注目が集まっています。スポーツは多くの人の心を動かす魅力がありますから、当然ビジネスとしても大きなポテンシャルがある分野です。現にサッカーや野球といったメジャーなプロスポーツは興行面でもマーケティング面でも大きな影響があります。
また、新たにeスポーツという文脈でも国内で市場ができつつあります。eスポーツが市民権を得ている国では大会視聴者や選手の年俸もメジャースポーツに引けを取らない規模にまで成長していることから、国内市場の盛り上がりが期待される分野です。
一方で、スポーツをマネタイズするにはインフラ整備や集客といった高いハードルがあるのも事実です。また、新型コロナウィルスの影響は、これまで顕在化していなかったスポーツビジネスの課題を浮き彫りにしています。
今回の「未来を切り拓くOIプロジェクト」では、そんなスポーツビジネスを「再開発」するべくオープンイノベーションプロジェクトを5つ紹介します。大企業の参入や、大規模なプログラムがいくつも立ち上がっており、いまスポーツビジネスが再び熱くなっているのがわかるはずです。
スポーツビジネスでの共創事例
スポーツビジネスでの共創事例を4つ紹介します。スポーツビジネスはスケールが大きいこともあり、ピックアップした事例はいずれも大企業の取り組みや、大掛かりな共創プロジェクトとなっています。
【東急スポーツシステム】スポーツで人生を幸せにするブレイクスルー拠点
スポーツに限らずオープンイノベーションに注力している東急グループ。その象徴的な取り組みとして2015年から実施されている「東急アクセラレートプログラム(TAP)」があります。そのTAPに参加する東急グループで、スポーツビジネスを専門としているのが「東急スポーツシステム」です。“スポーツを通して人々の人生を幸せにします”という理念を掲げる同社は、来る超高齢化社会に向けた課題をスポーツという切り口から解決しようとしています。
同社は既存事業としフィットネス、ゴルフ、スイミングスクール、サッカースクール、テニススクール、法人向け事業、の6つを展開していますが、TAPを通じて共創パートナーの募集を行っています。
パートナーに求めるスキルとして、代表の南口氏は「バックヤード・事務系の業務の効率改善」「顧客の定量・定性データの取得」を喫緊の課題として挙げています。それだけにとどまらず、「全く新しい発想を持ったアイデアやテクノロジーの提案」についても検討を進めたいとのことです。
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【スポーツ庁×ハンドボール協会】中央競技団体のポテンシャルに注目したプログラム「SPORTS BUSINESS BUILD」
「スポーツの成長産業化」を目指し、スポーツ庁が2018年からスタートさせたプロジェクト「Sports Open Innovation Platform(SOIP)」。スポーツ庁長官・鈴木大地氏は「2025年までにスポーツ市場規模を現在の約3倍である15兆円まで成長させることを目指す」と明言しており、その目標を達成する仲間の輪を広げるためにSOIPを立ち上げています。
そしてSOIPの一環としてスポーツ庁と日本ハンドボール協会がタッグを組んで、2019年11月に開催した共創プログラムが「SPORTS BUSINESS BUILD」です。
スポーツ庁の参事官付参事官補佐を務める忰田康征氏によると、プロスポーツではなく中央競技団体のひとつであるハンドボール協会と組む理由は「登録人口の多さ」だと言います。日本ハンドボール協会の登録人口は約10万人、日本水泳連盟は12万人、バレーボール協会やソフトテニス連盟だと約44万人。これだけ多くの登録者を抱えていることは、データビジネスが勃興している現在、非常に大きな価値があるというのです。
「エンターテインメント」「エデュケーション」「エンゲージメント」をテーマに募集しSPORTS BUSINESS BUILDを開催した結果、50件を超える応募の中から4チームが採択となりました。そのうち最優秀賞に輝いたのは【パナソニック×東商アソシエート×大日本印刷】による協同プロジェクトチームで、プロジェクションマッピングを使ったシュートゲームでハンドボールの競技人口を増加させるというプランでした。詳しくはデモデイのレポート記事で確認できます。
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【仙台市×楽天イーグルス】スマートスタジアムを実現する4つのアイデア
「X-TECHイノベーション都市」を標榜する仙台市が、「楽天イーグルス」と「藤崎百貨店」という2社とコラボレーションして進めるアクセラレータープログラム『SENDAI X-TECH Accelerator』。このアクセラは2020年1月から開始され「スマートスタジアム」をテーマに、多数の応募の中からインキュベーションのステップに進んだ4つのアイデアが生まれました。
1つ目は東北大学で発明された特許技術を社会実装するベンチャーのゼロワのアイデア「お客様の個人情報と空席チケット活用による、超満員で一体感ある応援体験」です。ブロックチェーン技術を用いたエッジコンピューティングで、「リアルタイムでの位置情報」や「信用スコア」「ファン活動履歴・交流履歴」などのデータをもとに、来訪可能性の高い人に限定して、招待チケットを配るというです。
2つ目はモGREEN UTILITYによる「モバイルバッテリーシェアリングで、もっと観戦を楽しく」のアイデア。同社のプロダクトであるモバイルバッテリーシェアリングサービス「mocha(モチャ)」の貸し出しステーションをスタジアム内に設置し、観戦をさらに快適にする、というものです。
3つ目のアイデアはakippaによる「予約制駐車場を活用した、スムーズなスタジアムアクセスの実現」。akippaの展開する駐車場シェアリングサービスを活用して、スタジアム周辺の遊休地を駐車場として貸し出し、駐車場を探す観客の混雑を緩和します。同時に土地のオーナーは遊休地を収益化できるメリットがあります。
4つ目はバカンが掲げる「にぎやかで刺激的、だけど居心地の良いボールパーク」というコンセプト。同社は飲食店やトイレ、会議室などの空き情報をスマートフォンやデジタルサイネージで表示するサービスを展開しています。このサービスを利用して、スタジアム内の施設の空き情報を可視化し、来場者の利便性向上を図ります。
インキュベーション期間を経て、既にakippaやGREEN UTILITYのモチャなどは実装の準備が進められています。
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【ventus×電通】世界から厳選されたアクセラで唯一日本から選出されたデジタルトレーディングカード「whooop!」
電通車が主体となり、スクラムベンチャーズが仕掛けたワールド・アクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」が2019年4月にスタートを切りました。その成果発表会「World Demo Day」が8月に実施され、世界33カ国から厳選された12社が米サンフランシスコのオラクルパークに集まりました。ファイナリスト12社のうち、唯一日本からの選出となったのが、デジタルトレーディングカードソリューション「whooop!」を展開するventusです。
whooop!は、独自に発行されたスポーツチームやアスリートのデジタルトレーディングカードを買うことでチーム運営に参加ができるファンエンゲージメントプラットフォーム。オークションによって他のファンに譲ることもでき、すでに日本と韓国で展開しています。SPORTS TECH TOKYOのファイナリストとなったことで、電通との長期パートナーシップに関して議論を進めているとのことです。
関連記事:世界33カ国から厳選された12社が米国に集結――「SPORTS TECH TOKYO」成果発表会をレポート
【NTT東日本】共同出資のeスポーツ事業新会社「NTTe-Sports」を設立
NTT東日本、エヌ・ティ・ティ・アド、NTT西日本、NTTアーバンソリューションズ、スカパーJSAT、タイトーは共同出資を行い、eスポーツ分野における新会社「株式会社NTTe-Sports」を2020年1月に設立しました。
eスポーツの市場規模は年々成長しており。海外市場は約1,000億円を突破し、国内市場も2022年には約100億円に達する見込みとなっています。NTT東日本は、こうした背景を踏まえてICT技術を軸にNTTアドと連携し、eスポーツ施設やイベントにおけるICTソリューションの提供、イベントの企画運営支援等を2019年3月に開始しています。
今回設立された新会社ではeスポーツ分野に注力した新会社を設立し、ICTの力と連携各社の力を掛け合わせることで、次世代eスポーツのトータルソリューションの提供やコミュニティの推進、地域社会と経済活性への貢献を実現していくとのことです。
関連記事:NTT東日本等が共同出資、eスポーツ分野における新会社「NTTe-Sports」を設立
【編集後記】コロナ禍で変化のスピードが上がるか
近年、スポーツはオープンイノベーションを取り入れて変化が起こりつつある領域でした。5GやIoTといった新技術との相性も良いことから、「数年後にはスポーツはガラリと変わりそう」という雰囲気は漂っていました(CMなどでもそれらを想起させるものが多くなっています)。
しかし、コロナ禍によって状況は一変し、観戦スポーツは延期や中止が続出しました。スポーツビジネスは興行や広告が収入の大部分を占めるため、どのスポーツも大ダメージを受けているのが現状です。そんな中、Jリーグは無観客試合をネガティブなものではなくポジティブなものと捉えて「リモートマッチ」と呼称を変えるなどして、イノベーションのスピードを早めるような動きがあります。
まさに予測不能なVUCA時代を乗り越える試練が訪れるスポーツ業界に、どんなイノベーションが起こるのか、全てのスポーツファンが期待しているはずです。