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"自律"と"遠隔操作"の融合が社会実装への鍵!?人手不足解消を実現する最先端ロボットとは?

"自律"と"遠隔操作"の融合が社会実装への鍵!?人手不足解消を実現する最先端ロボットとは?

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2017年度にイノベーション推進PTを立ち上げた沖電気工業(OKI)。2018年度からは、『Yume Pro」(ユメプロ)』と命名したイノベーション・マネジメントシステムを導入し、国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)に掲げられた課題を起点としたイノベーション創出への挑戦を続けている。10月4日に経済産業省が公表した行動指針においても、イノベーション・マネジメントシステムの国際規格ISO 56002を先取り的に実施している企業としてOKIの事例が紹介されており、標準化されたYume Proプロセスに基づくオープンイノベーションと社内支援体制強化を両輪として取り組んでいる。

同社は、社内のイノベーション文化醸成に向け、役員から率先してグループを挙げてイノベーション研修を実施するなど、全社的にイノベーションが生まれる仕組みづくりを推進している企業だ。昨年度から始まった社内アイデアコンテスト『Yume Proチャレンジ』からは、新しい事業の芽も生まれているという。

今回eiiconでは、『Yume Proチャレンジ』で初となる大賞を受賞し、サービスロボットとして”人手不足の解消”という日本社会の大きな課題に挑む「AIエッジロボット」を取材した。「AIエッジロボット」は、どのようなプロセスを経て生まれたのか。ロボットの特徴はどこにあるのか。プロジェクトをリードする加藤氏と前野氏に、その開発秘話も含めて話を聞いた。

※プレスリリース:人手不足の解消を実現するサービスロボット「AIエッジロボット」を開発(2019年10月10日)

なお、今回紹介する「AIエッジロボット」は、IT・エレクトロニクス分野における最先端技術が集結する国際展示会『CEATEC 2019』(10/15〜10/18)にて展示されている。

※関連記事:OKI | 伝説の技術者が挑む社内文化改革―『イノベーション塾』の中身とは?

【写真左】 沖電気工業株式会社 経営基盤本部 イノベーション推進部 担当部長 加藤圭氏

1992年、沖電気工業株式会社に入社。次世代マルチメディア通信システムの研究開発を担当。1996年、米国ペンシルバニア大学に留学し、次世代ネットワーク技術(アクティブネットワーク)の研究開発に従事。1998年帰国後は、通信分野での最先端領域を担当。IoTの商品企画・事業企画を経て、2019年より現職。現在は、SDGsに掲げられている社会課題の解決に向けて、共創による新たなイノベーションを創出するイノベーション・マネジメントシステム(Yume Pro)を推進中。

【写真右】 沖電気工業株式会社 経営基盤本部 研究開発センター イノベーション推進室 室長 前野蔵人氏

1995年、沖電気工業株式会社に入社。入社当初より、画像処理・統計解析・機械学習などの研究開発を担当。2000年、米国コロンビア大学に留学し、画像処理・セキュリティに関する共同研究を行う。2008年からは、中央大学とセンサーを用いたAIに関する共同研究を約10年間継続し、2017年より現職。現在は、同社の研究開発拠点である研究開発センターにて、イノベーション推進室の室長を務める。

「人手不足」という社会課題が起点

――なぜ「人手不足の解消を目指すサービスロボット」というコンセプトになったのか、その背景からお伺いしたいです。

前野氏 : 私は1995年に入社して以来、画像処理、統計解析、機械学習といった、今でいうAIに近い研究開発に従事してきました。現在は、研究開発センターのイノベーション推進室で室長を務めています。私の所属する部門のミッションは、“研究開発の羅針盤機能”という言い方をしていますが、世の中の技術動向のサーベイと、OKIの保有技術の把握、そしてそのギャップから技術戦略を描くことです。その中で、ロボティクスはひとつの検討テーマとして、かねてから注目してきました。

私たちは、技術と社会の変化に関心を持っていますが、ロボットブームの高まりがリアリティを持ち始めた契機に、人手不足の深刻化があります。日本社会のあちらこちらで生々しく「人手が足りない」と言われ始めたのが2014年頃。ただ、労働力人口(※1)は増加しています。詳しく調べてみると、女性や高齢者の労働力人口が増える一方で20代~40代の男性は減少しており、事務系の業務では人余り、現場系の業務では人手不足が深刻だということが明らかになりました。

このような現状をふまえ、事務系人材の現場業務シフト、現場系人材の業務支援の両面で人手不足を解消するために、ロボット技術の導入を目指すというのが、今回のプロジェクトのポイントです。具体的には、自律したロボットと、人による遠隔支援のコラボレーションにより、ロボットを自動で動かしながら、支援が必要になった際には、遠隔から人がロボットをサポートする。そういったコンセプトでアプローチできる業界は多数ありますが、まずは警備業界向けにビジネスモデルキャンバス(※2)を描きました。

※注1:労働力人口…15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者の合計。働く意志と能力を持つ人口の総数を示す。

※注2:ビジネスモデルキャンバス(BMC)…ビジネスモデルを考える際に有効なフレームワーク。『Yume Pro』で活用されている。

――なぜ、警備業界をターゲットにされたのでしょう。

前野氏 : 最初に警備業界にフォーカスした理由は、有効求人倍率が8倍くらいある超人手不足市場だからです。現場の警備員は屈強で働き盛りの人が担っていますから、20代~40代男性の生産年齢人口が減少している現状を鑑みると、何らかの対策が必要です。現場の警備員をロボットで代替し、高齢者や女性の方たちにセンター内から遠隔でロボットの監視にあたっていただくことができれば、新しい雇用創出につなげられると考えました。

この内容でOKI社内のアイデアコンテスト、『Yume Proチャレンジ2018』に応募したところ、今年の4月に大賞をいただき、仮説検証に対する支援を行ってもらえることになりました。プロジェクトリーダーとしてイノベーション推進部の加藤さんに立っていただき、CEATEC 2019への出展に向けて、急ピッチで試作機を完成させる準備を進めたという流れです。受賞が4月、計画を立て始めたのが5月、CEATEC 2019の開催が10月です。着手した5月の時点では白紙状態でしたから、そこから約5カ月で共創パートナーのニーズを掘り下げながら、試作機の完成まで進めたことになります。

CEATEC 2019出展まで、開発期間はわずか5カ月

――次に加藤さんにお伺いします。白紙状態からスタートし、約5カ月でCEATEC 2019に出せるプロダクトを完成させることは、プロジェクトリーダーとして非常にハードだったと推測します。どのように進められたのですか。

加藤氏 : まず、プロジェクトを立ちあげるにあたって、製品・ロボットありきではなく、「人手不足の解消」という課題を起点として考えました。「人手不足を解決するために、ふさわしいソリューションは何か?」「そのためには何が必要で、どの様なパートナーの協力が必要か?」という流れです。

私たちはATMや、情報通信機器を開発・製造している会社ですから、メカトロニクスの技術はあります。ロボットに応用できる技術を持つ人材もいます。ロボットの開発に必要な実装部隊、ソフトウエア開発部隊もいます。そういった人たちを集め、プロジェクトを開始しました。とはいえ、ロボットそのものをスクラッチから作ることは、この期間では非常に難しい。そこで、ロボットメーカーとアライアンスを組んで、外部とも連携しながら完成させました。

――オープンイノベーションを取り入れながらプロジェクトを推進されたのですね。

加藤氏 : はい。当社は、以前はどちらかというと自前主義でした。自前のテクノロジーをもって信頼を勝ち得ていた部分があるのですが、これは現在の世の中の風潮にあいません。自前にこだわることはもう過去の話であって、これからはオープンイノベーションで、他のベンダーとも共創しながらコンセプトの創造や検証を進めていくべきだと考えています。

「お客様の困りごとを解決するためにどうすべきか?」を第一に考えると、自然とそういう考えになっていきますよね。この考え方のもと、社内にあるものは使うし、なければ他社のリソースを活用するといった方法で進めました。これは、「Yume Proプロセス」に基づく標準的な進め方です。

――これほどの短期間だと、プロジェクト参画メンバーから否定的な反応もあったと思いますが、そこをうまくリードしていくために工夫されたことはありますか。

加藤氏 : 最初に、明確に定義づけを行いました。CEATEC 2019では、完成した「製品」として出すのではなく、あくまで困りごとを解決する「コンセプト」として出すという定義づけです。

まずは、コンセプトとしてお見せして、そこからお客様と共創し、PoCなども行いながら製品化、事業化へと進めていく。このプロセスを、参画メンバーに対してしっかり説明したところ、「そこまでであれば、この期間でできるよ」となり、皆が同じゴールに向かって集中することができました。

――なるほど。製品としてではなく、コンセプトとして完成させることを目指した、と。

前野氏 : 加えて言うなら、こういった新しいチャレンジに対してトップのコミットメントがあったことも後押しになりました。当社は、もともと品質の高いものを低コストで時間をかけて開発・製造していくDNAを持つ会社です。意思決定や調達、製造のプロセスは、それらに最適化されています。今回のプロジェクトでは、従来のものづくりのプロセスとはかけ離れた、例外的なプロセスで皆さんに動いていただく必要がありました。ですから、既存プロセスに対する大きなチャレンジ、イノベーションの限界への挑戦だったと思います。

ただ、『Yume Proチャレンジ』には、トップのコミットメントが明確にあり、協力いただいた製造や調達部門の方たちも、この意義をよく理解されていました。そのため、普段とは違う動き方をしていただけました。おそらく、トップのコミットメントがない中で同じことをやろうとしたら、皆さんにものすごく怒られて終わっていたと思いますね(笑)。

――今回、開発されたAIエッジロボットは、『Yume Proチャレンジ』から生まれる初めてのコンセプトなので、プロセスも含めて会社としては大きなチャレンジだったわけですね。

前野氏 : そうです。『Yume Proチャレンジ』 第1号となるので、私たちはこのプロジェクトを通じて、「OKIが本気でやれば、これだけの短期間で、新しいものをここまで完成させられる」ということを、社内外に示していきたいと考えています。

従来とは異なるプロセスで、当社としては新発想のコンセプトを短期間で生み出す、いわば“象徴”のようなものをつくりたいのです。そういう意味では、プレッシャーがもの凄くあります。これに失敗し、新しいことができないと思われてしまっては困ります(笑)。 何が何でも成功させねばならないという思いで取り組んでいます。

自律と遠隔操作のコラボレーションによる『AIエッジロボット』

――『Yume Proチャレンジ』 第1号として誕生した試作機「AIエッジロボット」ですが、その主な特徴について教えてください。

前野氏 : 「AIエッジロボット」の大きな特徴は、AIエッジコンピューターによる自律動作と、5G/ローカル5Gなどを想定したネットワークを経由した運用センターからの遠隔管理・運用を組み合わせたことです。

なぜ2つを組み合わせたかというと、AIやロボットの技術動向を見続けている中で、完全に自律して実用的に動き続けられるロボットは、まだあまりないと理解したからです。ところどころ、少しだけ人の手助けを必要としていました。例えば、国内で行われている実証事例でも、限定的なシナリオであるほか、どこかで動けなくなりバッテリー切れで止まってしまうというケースが散見されました。人手不足の解消どころか、逆にロボットがあるがゆえに手がかかっている現状が見えてきたのです。

一方で、世界も含めてロボットの成功事例を見てみると、ロボットが障害にぶつかった際のサポート体制が整っているものが実用レベルで活躍していることも分かりました。

このように、人手不足を今の技術力でどうやって解消できるかを考えた結果、私たちは自動化したロボットを扱いつつ、必要に応じて人が遠隔からロボットに少し手を差し伸べ、一人の人が複数のロボットを動かすことが重要だと考えたわけです。

また、当社はATMの開発・製造実績から、遠隔で機械を運用する技術とノウハウを保有しています。そして、運用を丁寧に行うというコンセプトは、当社のDNAとも合致します。ですから、基本はロボットが自律して動くものの、その場の状況判断や対話確認などロボット単独では解決できない支障が生じた場合には、遠隔から人が支えるという方向性で開発を進めました。

▲ロボット本体と運用センター(コックピット)

――なるほど。昨今のサービスロボットは、自動・自律が主流だと思いますが、人による遠隔操作を加えた点が大きな差別化ポイントですね。

加藤氏 : 別の技術的な特徴で言うと、OKI独自の映像モニタリングシステムである、「フライングビュー(R)」という技術をロボットに搭載しています。これは、ロボット自身を俯瞰し、上から見下ろすような視点で周囲360度の映像を見ることができる技術です。ロボットの周囲4カ所にカメラを設置し、画像を合成することで実現しています。遠隔で操作を行う場合、ロボットの周囲を上から監視しながら動かせるほうが、操作性が向上すると考え、この技術を採用しました。

前野氏 : この技術の特徴は、複数のカメラ映像を自然な形の1枚の映像に合成して確認できる点です。遠隔からロボットの周囲を視認する場合に、いろいろカメラの映像を個別に確認するのは大変で異変にも気づきにくくなります。1枚の俯瞰映像は、ロボット周囲全体を自然に視認できます。

また、記録した映像データは、あとから視点を自由に動かすこともできます。たとえば、監視用途で用いる場合、ロボットの視点の脇に不審者がいて、しっかりと視認できないことがあります。しかし、「フライングビュー(R)」は、巻き戻して視点の向きを変えると、しっかり不審者を視認できる。そういった使い方も可能となります。

――ロボットに多様なセンサーを接続、搭載できる点も特徴のようですね。

前野氏 : はい、AIエッジコンピューターを搭載していて、様々なインターフェイスを備えています。これは、多種多様なセンサーを取り付けられるハブのようなものなのですが、用途に応じて音や振動、画像、空間、においなどのセンサーを付け替えられる仕組みになっています。たとえば、製造現場に必要なセンサーと見守りに必要なセンサーは違いますよね。現場に合った形に機能をカスタマイズできることで、多様な用途への活用を目指しています。

また、省人化という観点から、1人1台ではなく、1人10台程度のロボットを操作するイメージで作りました。1対1で完全に遠隔操作にすると、人手不足の解消にはなりませんから、基本的には自動で動かし、ロボットが対処できないところに、人の判断を加えていきます。人が遠隔から指示したことは、すべてデータとして蓄積します。そのデータをモデルの中にフィードバックすることで、自動でできることを増やしていくことも可能と考えています。データが蓄積すれば、いつかは完全に自動で動くロボットが誕生することも夢ではないと思いますね。

現時点では試作機、共創により完成させることが目標

――ディープラーニングにより、ロボットがどんどん成長していくイメージですね。非常に汎用性の高いロボットだと感じるのですが、ユースケースとして具体的にどのような領域での活用を目指していらっしゃいますか?今後、どのようなパートナーと組みたいかについて、お伺いしたいです。

加藤氏 : 冒頭でお話したように、ひとつは警備業界です。また、施設の点検・管理を行っているようなお客様とも議論を開始しています。物流業界は、ロボットの活躍が期待されている領域だと思うので注目しています。そういった事業を展開していらっしゃる方たちと組んで、PoCなどを実施しながら、事業化につなげていきたいと考えています。

前野氏 : 現段階では、試作機。いわば、“象徴”ができたという状態です。ここから、仮説検証を高速回転で行った上で、いかに事業シナリオを作り、ビジネスモデルを確定させるかが重要で、今後はそこに集中しなければならないと思っています。

現状は、Yume Proプロセスにおける「コンセプトの創造と検証」の段階にすぎません。パートナー企業との共創により、現場で活躍できるサービスロボットを完成させ、様々な現場における人手不足の解消という社会課題の解決につなげていきたいですね。

取材後記

1881年から続く沖電気工業は、日本で初めて電話機の開発に挑戦し、成功した会社だ。高い技術力を強みに、日本初・世界初とも言える高品質な製品を世に出し続けてきた。そんな同社が、プロダクトアウト型から社会課題を起点とするマーケットイン型へと転換を図る「Yume Pro」で、新たに生まれたコンセプトが今回の「AIエッジロボット」だと言える。

OKIは、昨年1月にトムソンロイターが選出したグローバル・テクノロジー・リーダー100にも選出されているように、その技術力の高さは疑うべくもなく、搭載されているのは独自に開発された最先端の技術。OKIの技術力から、どんなサービスロボットが誕生したのか――試作機は、『CEATEC 2019』(開催期間:10/15(火)~10/18(金))にて展示されている。興味のある方は、ぜひ幕張メッセへと足を運び、実際に目で見て確かめてほしい。

(取材・編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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