三菱ケミカル×QunaSys|有機材料の光学特性の精密制御を目指し、量子コンピュータ活用研究を共同で実施
量子コンピュータのアルゴリズムとアプリケーション開発を行う株式会社QunaSys(以下、QunaSys)と三菱ケミカル株式会社(以下、三菱ケミカル)は、量子コンピュータ活用研究に向け、共同研究に関する契約を締結したと発表した。
共同研究について
三菱ケミカルとQunaSysによる共同研究では、有機材料の光学特性の精密制御を目指し、量子コンピュータを用いた量子化学計算手法の実証研究を行う。
既存の計算機(古典コンピュータ)で行われていた光化学反応解析手法では、計算量が膨大になりすぎて研究対象の分子の光学特性を高精度で計算することが難しいことが課題だった。その点、量子コンピュータは、現在のコンピュータとは全く異なる原理で動き、数年以内に実現するであろう200量子ビット程度の中規模なデバイスでも、今まで不可能であった計算を可能にする。特に量子的な効果が強い光化学反応の解析は、最も有望なアプリケーションの一つだと考えられている。
こういった背景から、共同研究では、QunaSysが開発したアルゴリズム、分子のエネルギー微分計算手法や世界で公開されている論文をベースに、光吸収スペクトルなどの材料設計に必須である物理量を計算する実証研究を行い、古典コンピュータによる計算手法との比較も行う。
開発にあたっては、QunaSysが管理する高速な量子コンピュータのシミュレータであるオープンソースソフトウェアQulacsや、開発を行っている量子化学計算ライブラリQulacs Plusのほか、クラウドで公開されている小規模な量子コンピュータの実機を用いるという。
量子コンピュータとは?
量子コンピュータは、現在のコンピュータとは全く異なる原理で動き、スーパーコンピュータを用いても現実的な時間で解けない複雑ないくつかの問題を高速に解くことができる技術だ。1980年代に提案されて以降、量子コンピュータは長らく”夢の技術”とされてきたが、近年、その実現が急速に現実味を帯びてきており、世界各国で熾烈な開発競争が繰り広げられている。
この数年で実現されると考えられている量子コンピュータは、NISQデバイスと呼ばれ、誤り訂正機能がないこと・サイズが中程度(数百量子ビット程度)であることが特徴だ。NISQデバイスは、現在の古典コンピュータよりも高速であること(量子加速)が厳密には証明されていないものの、量子化学計算などの分野での応用が期待されている。特に、量子効果が強い光化学に関する反応の解析が有望視されており、有機発光材料の発光特性や有機太陽光電池の吸光特性の設計、光安定性の高い分子の設計などが期待されているという。
今回の共同研究は、こうした量子コンピュータの特性を、光化学分野へと活用していく道筋を模索するものだ。
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(eiicon編集部)