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スポーツ庁・忰田氏が考える、「スポーツ×オープンイノベーション」の可能性

スポーツ庁・忰田氏が考える、「スポーツ×オープンイノベーション」の可能性

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オープンイノベーションは、企業に新たなビジネスをもたらすだけでなく、産業そのものの新たな可能性を見出す術でもある。そして今、オープンイノベーションの手法を取り込むことで、産業の活性化を目指しているのが、「スポーツビジネス」だ。

2016年度に政府が策定した「日本再興戦略2016」では、「新たな有望成長市場の創出」という項目に“スポーツの成長産業化”が盛り込まれ、この実現に向けた施策として、スポーツ庁は2018年度より「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)」をスタートした。

そこで今回はスポーツ庁でSOIPを担う忰田康征氏に、「スポーツ×オープンイノベーション」の可能性についてお話を伺った。

▲スポーツ庁 参事官(民間スポーツ担当)付 参事官補佐 忰田康征氏

2009年、経済産業省に入省し、地域経済政策や貿易政策等を担当。2015年から2年間、オーストラリアのグリフィス大学でスポーツマネジメント修士号を取得。2017年6月からスポーツ庁に出向し現在に至る。スポーツ庁では、スポーツの成長産業化実現に向けて、スタジアム・アリーナ改革やスポーツ経営人材の育成・活用、スポーツスキルとスペースのシェアリングエコノミー、SOIP(スポーツオープンイノベーションプラットフォーム)の推進等を担当。

スポーツに打ち込んだ学生が、その後もスポーツビジネスに携われる社会を。

――忰田さんは現在スポーツ庁で活躍されていますが、もともとスポーツやスポーツビジネスに携わってきた経験がおありなのでしょうか? 

スポーツ庁・忰田氏 : 私は小学校から大学までずっと野球をやっていました。小・中時代のポジションはピッチャー兼ショートで、高校以降は内野全般を任されていて、高校は神奈川の強豪、桐蔭学園の硬式野球部です。レギュラー入りは叶いませんでしたが、3年生までひたすら野球に打ち込み、夏の大会後には一般受験で早稲田大学へ進みました。

そこでも当然、夢を持って硬式野球部に入部したのですが、同世代のライバルには現在プロ野球で活躍しているメンバーがそろっていまして……。あまりのハイレベルさに大学3年で野球の道を断念し、国家公務員試験を受けて経済産業省に入省しました。

――学生時代から「スポーツビジネスに関わっていきたい」という考えはあったのでしょうか?

スポーツ庁・忰田氏 : そうですね。もしスポーツに関わる様々な仕事があれば、そうした企業・団体への就職も検討したかもしれません。しかし、当時はまだスポーツビジネスというものの裾野が狭く、私以上に野球を頑張っていた同級生の多くがまったく無関係の企業に就職していきました。

私はそうした状況を見ていて、「将来は国内のスポーツビジネスの発展に貢献したい。10年20年とスポーツに打ち込んできた子が、その先もスポーツに関わりながら食べていけるような社会をつくりたい」という漠然とした想いを持ち、経産省で働く道を選んだんです。

――経産省からスポーツ庁に出向された経緯は?

スポーツ庁・忰田氏 : 経産省で地域経済政策や貿易管理政策を担当した後、ちょうどオリンピック・パラリンピックの東京開催が決まったんですね。そこで、この機会にスポーツビジネスの専門的な知見を磨きたいと考え、人事院の長期留学制度に応募したところ、私の経歴と前例のない分野という点が認められまして。

2015年から17年まで、オーストラリアの大学で「Master of Business and Marketing (Sport Management)」を勉強する機会を得ました。そして帰国後に自ら希望してスポーツ庁に出向し、現在は「産業としてスポーツを発展させていこう」という領域を担当していまして、私がオーストラリアで学んだ理論も活用して2018年度に立ち上げたのが『スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)』なのです。

スポーツと企業の関係性は、「スポンサー」から「パートナー」へ。

――日本では2015年頃から徐々にオープンイノベーションの時流が生まれてきましたが、スポーツとオープンイノベーションを結びつけるというのは国内では先進的な取り組みだと思います。この2つを掛け合わせようと考えた背景を伺えますか?

スポーツ庁・忰田氏 : オーストラリア留学を通して、現在の日本のスポーツビジネスに足りていないと実感したのが、「スポンサーシップのアクティベーション」という発想です。

――スポンサーシップのアクティベーション。詳しく伺えますか?

スポーツ庁・忰田氏 : 以前から企業が広告やCSR活動の一環としてスポーツイベントのスポンサーとなり、スポーツを活用するビジネスモデルは盛んですよね。しかしそれだけにとどまらず、スポンサーが「パートナー」となって、スポーツ団体だけでもスポンサーだけでも解決できない課題を一緒に解決する。例えば、スポーツイベントを新製品やサービスのマーケティングの場にしたり、人々の社会課題意識を高める場にしたり、新製品・新サービス創出の場と捉えることで、観戦に来るお客さんの体験価値を高めることができれば、スポーツ側にとっても、スポンサー側にとってもよりよいイベントにすることができます。

実際、海外では従来のマスメディアへの広告価値が下がる中で、Webマーケティングへの投資が増えた後、次にリアルなフェスティバルやスポーツイベントにお金が流れてきています。また、“アクティベーション”の事例で言えば、2018年の平昌オリンピックで、クレジット大手のVISAさんがNFCチップ搭載の手袋を使った次世代決済システムを導入したことが話題になりました。

――スポンサーとして支援する以外にも、企業がスポーツを活用する方法は様々あると。

スポーツ庁・忰田氏 : 2016年に政府が打ち立てた「日本再興戦略2016」というプロジェクトには、「スポーツの成長産業化」という項目も含まれており、スポーツ産業の市場規模を2015年度の5.5兆円から2025年度には15兆円、つまり約3倍にしようというKPIが発表されています。

この目標の実現は、スポーツ団体側だけが頑張っても難しいかもしれません。けれど、異業界の企業の意識を変えていき、スポーツに投資する人が増やせれば決して不可能ではないと思っています。

▲「SOIP」の目的について(スポーツ庁作成資料より)

スポーツの魅力は「情報発信力」「ハブ機能」「エンタテイメント性」

――「スポーツ」をオープンイノベーションという文脈で捉えた場合、どのような魅力を有しているのでしょうか?

スポーツ庁・忰田氏 : SOIPの始動に先立ち、2017年度に市場調査を行ったところ、3つのコア機能が見えてきました。1つ目は、スポーツチームには強い「情報発信力」があること。2つ目として、スポーツイベントは総合産業ですから、スポーツの場は色々な業界が交わることができる「ハブ機能」を有しています。そして最後に、人を感情的に揺さぶる「エンタテイメント性」も大きな特徴です。

これらを他の産業がうまく活用することができれば、双方にとって新たなメリットが生み出せるのではないかと考えています。特に、スポーツとテクノロジーの相性は非常にいいと感じています。

――「スポーツにおけるテクノロジーの活用」と言いますと、具体的にはどのような事例があるのでしょう?

スポーツ庁・忰田氏 : スポーツコンテンツを「する・みる・ささえる」という観点で考えると、実はすでに各分野でテクノロジーが使われています。「する」で言うと、『HADO』というAR技術を活用した新型スポーツ。「みる」という観点ですと、フェンシングがテクノロジーの活用で剣先の動きを見える化しています。「ささえる」という面では、選手のパフォーマンスデータをリアルタイムに常時取得して瞬時に分析するサービスもありますね。

他にも、私が個人的に興味深く感じているのは、株式会社MTGさんが開発・販売しているEMSマシン「SIXPAD」ですね。スポーツが持っている「健康に生きる」「ブランド力がある」というところを上手く活用して製品価値の高度化に成功されているなと。

――ITや先端テクノロジーの分野以外では、どのような共創の可能性があるとお考えですか?

スポーツ庁・忰田氏 : スポーツ側にノウハウが足りていない部分はたくさんありますから、あらゆる産業に可能性があると思っています。たとえば食事の部分であれば飲食店や食品メーカーとの連携の可能性がありますし、イベント運営の観点で言うと、観客の送迎手段や駐車スペースに課題があれば、シェアリングエコノミーのサービスが有効かもしれない。あらゆるところで可能性があるとは思っています。

逆にスポーツ側が持っているノウハウでいうと、ヘルスケア関連との相性はいいでしょうね。これは社会課題の解決にもすごく活きると思っていまして。例えば、アスリートや指導チームが持っているコンディショニングノウハウを一般転用して地域住民の健康促進に活用している企業や自治体も出始めています。

ひとつずつ事例を積み重ね、機運を醸成していきたい。

――2018年に始動したSOIPですが、2期目となる2019年度はどのようなビジョンを持って進んでいくのでしょうか? 

スポーツ庁・忰田氏 : テーマは大きく分けて3つあります。まずは「機運の醸成」です。最近ようやく「スポンサーからパートナーへ」という発想が浸透してきた印象がありますが、まだ具体的な成功事例が世に大きく広まっているわけではありません。ですから、積極的に情報発信を行うことで、機運醸成を図るのは重要課題だと思っています。

それにオープンイノベーションの場合、現場レベルで人と人とがつながることが大事だと思っています。そこで昨年度は「スポーツオープンイノベーションネットワーキング(SOIN)」というタイトルで2回ほどイベントを実施しましたが、今後もこうしたネットワーキングの場をスポーツ庁主導で設け、各スポーツの中央競技団体さんと有望なスタートアップや大企業との座組を積極的につくっていく予定です。

最後に3つ目としては、「市場を広げるお手伝い」ですね。すでに仙台市さんの「エンターテックアイデアソン」や埼玉県さんが実施した「イノベーションリーダーズ育成プログラム」など、各地でスポーツ×オープンイノベーションの施策が始まっています。こうした事例を受けて、他の地域からもご相談の声をいただいていますので、そこの横の連携をしっかりつくっていきたいなと。また、今年1月にフランス政府と双方のスポーツスタートアップ支援を含むMOUを結びました。こういった国だから出来ることに注力していきたいです。

▲「SOIP」の2019年度の取組案(スポーツ庁作成資料より)

――機運醸成に注力されるということですが、忰田さんはスポーツ×オープンイノベーションのポテンシャルをどのように感じていますか?

スポーツ庁・忰田氏 : 非常に強く感じています。やはりスポーツが持っている情報発信力は強いです。色々な民間企業の方から「今までそういう発想を持っていなかった」というお話をいただくことも増えましたね。仙台市さんや埼玉県さんの事例を見ても、「スポーツ団体と一緒ならばやりたい」というスタートアップの方たちがかなり多い印象を受けました。

また、国内は新製品やサービスの実証実験ができるフィールドが限られていますが、スポーツのスタジアム・アリーナという公共空間であり、少し閉鎖された空間でもあるという特殊な環境は、実証に活かしやすいかもしれません。こうした面でも可能性は大きいと思います。

――スポーツにも様々な競技がありますが、忰田さんがビジネス面で注目している競技はありますか?

スポーツ庁・忰田氏 : バドミントンなどは面白いですよね。欧米ではまだ大きくビジネス化されていませんが、日本は競技としての優位性があり、東南アジアではすでに市場が広がっています。それに水泳は、日本では学校教育で学び、スイミングスクールも普及していますが、海外では一般的でないケースもあります。また、雪資源の豊富さを活かせるスキーなど、日本が特殊性や強みを持っているスポーツはたくさんありますので、それをどのように活用していくかはすごく興味がありますね。

――「スポーツ×オープンイノベーション」に興味・関心を持つ企業は、どのようにコンタクトすればよいのでしょうか?

スポーツ庁・忰田氏 : SOIPはスタートアップ、大企業どちらの参加も歓迎しています。「取り組みを紹介してほしい」という場合には、まずは気軽にご連絡いただければと思いますし、今年度にはスポーツ庁でピッチイベントやコンテストも計画していますので、ぜひそうした場に参加していただければ嬉しいですね。

取材後記

SOIPの取り組みは、スタートを切ったばかりだ。しかし、忰田氏によると、ヨーロッパやアメリカではすでにスポーツ版アクセラレータプログラムが実施されているという。また今年1月には日本のスポーツ庁とフランス政府がスポーツビジネスにおけるスタートアップ支援連携に関するMOU(覚書)を組み、情報交換を積極的に行うなど、その期待値は国内外で高まっている。あらゆる可能性を秘めた「スポーツ×オープンイノベーション」という挑戦から、今後も目が離せない。

(構成:眞田 幸剛、取材・文:太田将吾、撮影:齊木恵太)

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  • 小林直広

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