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売上4,000万円超の『GXマット』、テスト販売3か月で500本を超えるヒット商品『エコ酸素管』を生むアトツギの戦略

売上4,000万円超の『GXマット』、テスト販売3か月で500本を超えるヒット商品『エコ酸素管』を生むアトツギの戦略

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三重県鈴鹿市で造園緑化資材などを製造する南出株式会社。1924年に創業し、4代目のアトツギ社長・南出紘人氏が率いる同社は、独自性の強い商品の開発・販売を通じて、都市緑化の現場に貢献している。しかしながら、気候変動や建築業界のトレンドの移り変わりなど、都市緑化を取り巻く市場は急速に変化。そこで同社は、市場において新たな事業に取り組むため、オープンイノベーションという手法を用いることを検討し、eiiconと出会った。

南出は、オープンイノベーションの手法を用い、異分野のパートナーと共に2つの新製品を開発した。クラウドファンディングで約2,000人が購入した『GXマット』と、試験販売からわずか3カ月で約500本を売り上げた『エコ酸素管』は、共創から生まれた代表的な成果である。

本記事では、こうした共創を仕掛けた南出の代表、南出紘人氏にインタビューを実施。製品開発の背景にあった戦略や実際に売上につなげるまでの取り組みについて、詳しく話を聞いた。

▲南出株式会社 代表取締役 南出紘人 氏

夏の空調電気代を最大38%削減する『GXマット』が、クラファンで異例の2,000人購入のヒット商品に

―― まずは、共創によって誕生したプロダクト『GXマット』について、その特徴や強みについてお聞かせください。

南出氏 : 『GXマット』は雨水を利用して空調室外機を冷却することで、夏場の空調電気代を最大38%削減するという製品です。大きな差別化要素となっているのが、豊富な実証データとそれに裏づけられた信頼性で、ここを強みに戦っている状況です。

アイデア自体は決して突飛なものではなく、水の入ったバケツでも一定の効果は得られます。ただし、給水の手間やカビの発生といった課題があり、それらをバランスよく解決しつつ、手頃な価格(※)で提供できている点が私たちの強みだと考えています。

※GXマット(小):15,000円/枚、GXマット(大)22,500円/枚

▲『GXマット』は、空調室外機の上に簡易に取り付けることで、雨水を活用して効率的に冷却効果を発揮し、電気代を削減できる製品。(画像出典:プレスリリース

―― 『GXマット』の開発は、2022年にスタートしました。三重県内で実施されたイベントに南出さんが登壇したことで、JR西日本の担当者と出会い、その後の共同実証実験につながったそうですね。

南出氏 : はい、三重県庁主催の新規事業の事例を紹介するイベントで登壇したのですが、JR西日本の担当者の方が『GXマット』に大変興味を持ってくださいました。そして、JR西日本さんの保有する空調設備に『GXマット』を設置して、比較対象実験を行えることになったのです。

2023年に京都、2024年には京都と神戸の2ヶ所で実証を実施した結果、このマットをエアコンの室外機の上に置くことで、最大38%の消費電力削減ができることが証明できました。

また、JR西日本さんとの実証結果をプレスリリースで発表したところ、一般の方から「どこで買えるのか」という問い合わせが相次ぎ、我々としても想定外の反響に大変驚きました。

(画像出典:プレスリリース

―― JR西日本さんとの実証を通して大きな成果を得たんですね。その後はどのような展開をされたのでしょうか?

南出氏 : 実証結果の反響を踏まえて、2024年からネット通販を開始。2025年に入ってからは、弊社社員の発案で、クラウドファンディングによる認知拡大を推進しました。もともと、toBに比べてtoC市場は、顧客対応の手間やコストが大きいという懸念がありましたが、プレスリリースの反響を踏まえて、当社としてもやってみようという決断をしました。

―― 購入数や売上はどの程度だったのですか。

南出氏 : 昨年(2024年)は、ネット通販を通じて約600人の一般消費者に購入いただき、売上は数百万円程度でした。今年(2025年)はクラウドファンディングを通じて約2,000人の方に購入していただき、売上は約4,000万円に達しています。

―― 素晴らしいですね。4,000万円という売上は、予想以上だったのでしょうか。

南出氏 : 正直なところ、ここまでの売上は想定していなかったので、予想以上でした。しかし、市場規模のポテンシャルは感じていました。

国内の家庭用室外機は約1.3億台、業務用は0.1億台なんですね。家庭用と業務用を合計すると、市場規模は2兆円に達します。この数字を踏まえれば、今回の反響も不思議なことではありませんが、この段階で売上4,000万円にまで伸びるとは思っていませんでした。

コンビニや外食チェーンとの実証実験が動き出し、法人向け本格展開への布石に

―― 一般消費者向けの『GXマット』が想定以上の成長を遂げているとのことですが、法人向けの展開はどのような状況でしょうか。

南出氏 : toB事業も順調に進んでいます。現在は、当初からターゲットとしていたコンビニや外食・居酒屋チェーンを展開する企業と、多くの実証実験を行っている段階です。

今回は偶然、クラウドファンディングが上手くいったのですが、本来の戦い方は、toBでの実績によって信頼性を高め、それを土台にtoC事業を伸ばしていく、その繰り返しだと考えています。そのため今は、法人企業との実証を通じて試験データを蓄積し、販売やメンテナンスの課題を洗い出すことで、事業全体の完成度を高めていこうとしています。

―― 今後も成長が見込めそうな『GXマット』ですが、強みやアドバンテージは?

南出氏 : 厳密な意味での競合は少ないのが現状です。室外機を冷やすジャンルでは、日よけカバーやミスト噴霧装置が挙げられます。しかし、日よけカバーは電気代削減効果が期待できないものが多く、実証でも0.5%程度の削減にとどまりました。ミストは機械設備なので水道や電源が必要で、設置には少しハードルがありますから、競合には該当しません。遮熱塗料系の製品もありますが、私たちのプロダクトとは少し性質が異なります。

―― 『GXマット』事業の今後の展望についてもお聞かせください。

南出氏 : toBでは、コンビニや外食チェーン向けへの販売を視野に入れています。toCについても、ホームセンターや家電量販店への卸販売を検討していますが、現時点ではまだ製品の完成度を高める余地があると考えており、引き続き改良を進めていく方針です。あわせて、特許の出願も進めています。『GXマット』は、実効性の高い省エネ製品として非常に投資しやすいものであり、この製品が広がることで脱炭素にも貢献できると考えています。

リサイクル困難なプラスチック端材を再活用し、緑化資材『酸素管』の商品化に挑戦

―― もう一つの共創事業『酸素管』についてお伺いします。こちらは廃棄物をアップサイクルし、緑化資材として生まれ変わらせたものだと聞いていますが、開発の経緯を教えていただけますか。

南出氏 : 植物の根は水や養分だけでなく、酸素も吸収しています。植物が育つには水で濡れている状態と乾燥して空気が通る状態が交互に来ることが理想だという技術見解があるんです。これは本当にそうで、土が踏みしめられることで徐々に固く締まってしまうと、土に酸素が行き届かずに植物が枯れやすくなるといった課題がありました。その解決策として、地中に空気の通り道を作る『DOパイプ』という既存商品があり、非常によく売れています。弊社の『酸素管』はこれの競合製品に位置づけられます。

この『DOパイプ』の主原料は、パーライトと呼ばれる多孔質の軽石です。その天然資源を採掘して製造している製品なのですが、そのパーライトが今、高騰しているのです。掘り尽くされてしまい、関東周辺では離島まで行かないと採掘できない状況だからです。以前から『DOパイプ』を用いてきた施工会社などは、価格上昇で非常に苦しい状況にあります。代替品もありますが、いずれも安価ではありません。

こうした市場環境を把握していた中で、共創パートナーを募集していたヨシザワさんと出会いました。プラスチック製物流資材の製造販売を手掛けるヨシザワさんは、リサイクルできないウレタンの端材の活用案を求めるというテーマで共創パートナーを募っており、「この端材を使えば、安くて良い『酸素管』が作れるのではないか」と直感的にひらめいたのです。そこで、プログラムに応募することにしました。

―― プログラムに応募後、提案が採択され、ヨシザワ社との共創がスタートします。どんな風に共同開発を進めていかれたのですか。

南出氏 : まずは試作品を作り、問題点を洗い出して作り直すという、一般的なモノづくりのプロセスで開発を進めました。進めやすい形でいくつかのパターンを作って、「これだとこういう課題が出るよね」といった協議を重ね、次につなげていく流れです。もちろん、お客さまへのヒアリングも並行して行いました。ゼネコン、サブコン、設計会社、造園会社など、30社以上からお話を伺いましたね。

▲低発泡架橋ポリエチレン残材を利用した『エコ酸素管』。樹木類の根に酸素を供給し、周囲の排水も改善する。(※写真は製造中のもの)

―― 従来の軽石の代わりに主材料として使われたのは、ヨシザワ社から出る廃棄物ですよね。どんなものなのでしょうか。

南出氏 : 緩衝材に使われているウレタンマットレスの端材です。色んなものが混ざっているので、熱で溶かして再度ペレット化することもできないそうで、社長も困っておられましたし、同じような悩みは日本中にあるとおっしゃっていました。その廃棄物を用いて、従来の『DOパイプ』に代替する酸素供給材を開発しています。

廃棄物の活用により半額での提供を実現、試験販売3カ月で約500本を出荷

―― 2024年度のプログラム以降、『エコ酸素管』事業の進捗はいかがですか。

南出氏 : 今年(2025年)の6月頃から試験販売を開始しており、3ヶ月で約500本を販売しました。まだ製品としては完成していませんが、新しいもの好きのお客さまから「多少の不具合があってもいいから、使ってみたい」という要望があれば販売しています。

―― 既存商品と比べて、御社の新製品はどのような強みや優位性があるのでしょうか。

南出氏 : 既存商品と比べて半値ほどで提供できることが最大の強みです。コストで勝てているので、買わない理由がない状況です。もちろん、これから実績を積んで商品としての信頼性を高めていく必要はありますが、すでに信頼につながる試験データは取得済みです。三重県の工業試験場にも相談し、「これくらいのデータがあれば十分信頼を得られる」と判断できるレベルのデータを取得しています。

―― 『エコ酸素管』事業の今後のビジョンについてもお聞かせください。

南出氏 : 正式なリリースはこれからですが、年間で数千本以上の販売を見込んでおり、しっかりと市場開拓ができれば数万本以上の販売を見込めると思います。販路は弊社が持っていますし、ヨシザワさんは全国規模の独自物流網を有しているため、自社製品を届けた後のトラックの戻り便を活用すれば、全国各地の廃棄ウレタンマットレスを安価に回収できます。また、ヨシザワさんも弊社も同じ鈴鹿市ですから、連携のしやすさも強みになります。

今後の展望については、ヨシザワさんのビジョンとも重なります。ヨシザワさんはリサイクルの取り組みをさらに拡大し、プラットフォーマーを目指したいとおっしゃっています。私たちもそのビジョンを共にし、アライアンス強化なども検討しながら、一緒に事業を大きく育て、社会的インパクトのある形で広げていきたいと考えています。

―― 最後に、オープンイノベーションに取り組もうとする人たちに向けて、メッセージをお願いします。

南出氏 : 自分たちではオンリーワンだと思っていなかったものが、実は評価される事業になることもあります。また、特定業界でトップ10%レベルの技術やノウハウを持つ者同士が掛け合わさることで、大きな価値のある事業を作れることもあるでしょう。

一社だけでは新しい価値を生み出せない企業でも、さまざまな視点に触れることで、新しい価値を生み出せるのが共創の場だと思います。「難しい」「何を応募すればいいのか分からない」と感じるかもしれませんが、意外と面白い取り組みにつながるので、ぜひ始めてみてはいかがでしょうか。

取材後記

取材を通じて印象的だったのは、南出株式会社の戦略的な市場把握と、ニーズの見込める新製品を的確に投入する判断力である。『GXマット』では夏の空調電気代削減という明確な社会的価値を設定し、クラウドファンディングで2,000人もの支持を得て、4,000万円を超える売上を記録した。『エコ酸素管』でも廃棄物の再利用を通じ、コスト優位性と市場ニーズを両立させた。さらに共創パートナーと緊密に連携し、試作・検証・販売まで迅速に推進する姿勢は、オープンイノベーションを成功に導く鍵であると感じた。こうした挑戦と成果のプロセスの一端を担い、eiiconとして支援できたことを嬉しく思う。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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  • 後藤悟志

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