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【大和製罐×アプデエナジー】蓄電池劣化診断技術を核とした「BaaS」で新市場を切り拓く――その技術的優位性を深掘りする
神奈川県相模原市に拠点を置く企業4社が、全国のパートナー企業とオープンイノベーションによる新規事業開発に挑むビジネス創出プログラム『Sagamihara Innovation Gate』。相模原市が主催するこのプログラムは2023年度に初開催し、今年度で2期目を迎えている。
昨年度の『Sagamihara Innovation Gate 2023』からは計4つの共創プロジェクトが立ち上がり、その一部はプログラム終了後も事業化に向け、相模原市の支援を受けながら研究開発や実証実験を続けている。TOMORUBAでは、その中の1つである大和製罐(相模原市内企業)とアプデエナジー(パートナー企業)による共創チームの動きを探るべく、アプデエナジーの入居する「立命館大学BKCインキュベータ(立命館大学びわこ・くさつキャンパス内)」を訪問し、2社にインタビューを実施した。
両社がプログラムの成果発表会で披露した「リユースバッテリーによるエネルギー供給のサブスクリプションサービスBaaS」プロジェクトは、進化を続けている。大和製罐が有する蓄電池劣化診断技術を核とした「BaaS(Battery as a Service)」を開発し、企業向けにサブスクリプションモデルで提供することで、再生可能エネルギーの効率的な利用を目指しているという。大和製罐の持つ技術力と資本力、さらにアプデエナジーのIoT技術とエネルギーにおける知見を融合し、新たなエネルギー管理の形を創出すべく、着実に前進している。
同プロジェクトにおける「BaaS」が持つ技術的優位性とは。そして、両社でどのような未来と市場を形成しようとしているのか。――このプログラムで出会い、事業創出に向けて歩み出した2社に詳しく話を聞いた。
足りないピースを求めてオープンイノベーションに挑戦
――2023年度のオープンイノベーションプログラム『Sagamihara Innovation Gate』の成果発表会では、「リユースバッテリーによるエネルギー供給のサブスクリプションサービスBaaS」というタイトルで発表されました。まず、両社で進める共創事業の概要についてお聞かせください。
大和製罐・有馬氏: 私たち大和製罐は、再生可能エネルギーの最終的な使用量を増やすためのソリューション開発を進めています。特に太陽光発電に着目しており、蓄電池を用いて昼夜問わず効率的に電気を蓄積・活用する技術基盤を構築し、それをサブスクリプションサービス(BaaS)として社会に出すことを目指しています。
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▲共創事業の全体像。「電気を効率的に管理する」ための技術として、大和製罐が独自開発した蓄電池劣化診断技術が用いられる。
――総合容器メーカーである大和製罐から見て、今回のエネルギー事業は既存事業と少し異なる分野だと感じられます。この取り組みに至った背景は?
大和製罐・有馬氏: 弊社は主に国内向けに金属製の飲料・食品容器を製造・提供するメーカーで、日本市場において約3分の1のシェアを占めています。しかし、少子高齢化により国内の飲料・食品容器の需要は縮小が予測されており、新規事業に取り組む必要がありました。そうした中、エネルギー事業に踏み出したのですが、実は容器事業とエネルギー事業には共通点があります。
容器に関して言えば、異なる場所と時間にいる生産者と消費者を、容器というものでつないでいます。一方で、太陽光発電に関しても、今後発電と消費が時間も場所も異なってくるのです。
私たちは「時空を超えるサービス」という言い方をしているのですが、いかに時間と空間を超えて効率的に電気を使えるようにするかという観点では、容器事業と類似しており、既存事業が社会に提供する価値と同様のものを、エネルギー分野でも提供していきたいと考えています。
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▲大和製罐株式会社 エネルギーソリューション開発室 室長 有馬理仁氏(工学博士)
――いわゆる「飛び地」の新規事業というのではなく、既存事業との共通点もあるのですね。『Sagamihara Innovation Gate』には、なぜ参加を決意されたのですか。また、アプデエナジーと共創しようと考えた理由は?
大和製罐・有馬氏: このプログラムに参加する前から、弊社では新規事業として相模原市に蓄電池の評価試験所を設立し、蓄電池評価サービスを提供していました。そしてさらに一歩進んだ新規事業として、分散電源としての蓄電池の劣化診断という新たなビジネスを構築する構想を持っていました。
その実現には、これら蓄電池を統合的に管理する必要があり、IoTが不可欠でしたが、弊社にはそのノウハウが不足しており、また自社開発では時間がかかりすぎます。パートナーシップが不可欠だと感じていたところ、相模原市から本プログラムをご紹介いただき、応募をすることにしたのです。
アプデエナジーさんと共創に至った理由は、求めていたIoTに加えて、リチウムイオン電池のこともよくご存知で、リユースバッテリーを車に搭載する実装の部分も事業として展開されていました。これらの強みが私たちに深く刺さり、ぜひ一緒に取り組みたいと考えるに至りました。
また、私は社会人ドクターとして立命館大学の福井正博先生(現 理工学研究科 特任教授)のもとで学んだのですが、実は王本さんも立命館大学を卒業されており、同じ校友ということで親近感を抱いたことも一因です。現在は、福井先生にもチームに加わっていただき、共に研究開発を進めています。
――アプデエナジーの王本さんにもお伺いしたいのですが、御社の事業概要と『Sagamihara Innovation Gate』に応募された理由を教えていただけますか。
アプデエナジー・王本氏: まず、私の経歴からお話しすると、私はもともとIT屋さんなんです。大学在学中に金の鍵という会社を立ち上げ、今年で20年になります。ITからスタートし、DXに取り組み、その流れでIoTの分野にも進出しました。アプデエナジーは、金の鍵を分社化して設立した会社で、これまでのバックボーンを活用しながら、エネルギー関連製品を一気通貫で開発する事業を展開しています。
当社の主要事業は、廃車になったEVのバッテリーを上手く活用することで、コンバートEVの製造やオフグリッド可能な蓄電システムの開発を行うことです。「カスケードリユース」を掲げており、使用を終えたリチウムイオンバッテリーを何度も再利用することで、環境負荷の軽減と脱炭素社会への貢献を目指しています。また、蓄電池は高額であることが課題ですが、リユースすることでコスト削減が可能になるのではないかと考えています。
大和製罐さんのパートナー募集に応募した理由ですが、一通りのエネルギー製品、蓄電システムを開発することはできましたが、それをさらにスケールさせるには、夢を共にできる大手企業との連携が必要だと考えていました。連携先を検討していた時に、この相模原市のプログラムを通じて、金属缶の大手メーカーで蓄電池の評価試験も手がけている会社があることを知りました。根幹にあるニーズが一致していましたし、同じ方向を向いて夢を追えるのではないかと感じ、応募することにしたのです。
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▲リチウムイオンバッテリー(写真手前)のカスケードリユース技術が、アプテエネジーのコア技術となっている。
――太陽光発電と蓄電池を活用した今回の共創事業の将来性については、どのようにお考えですか。
アプデエナジー・王本氏: 太陽光発電は日本で10年以上前から積極的に導入されてきましたが、その位置づけが少し変化しています。当初は、太陽光パネルを設置してFIT(固定価格買取制度)で売電することが注目されていました。
しかし、近年では脱炭素の観点から、再生可能エネルギーを自家消費する動きが広がっています。ただ、残念ながら太陽光は夜間に発電できないため、蓄電池の重要性が高まっています。そうした背景から、私たちがこの事業に取り組む意義も一段と大きくなっていると感じます。
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▲株式会社アプデエナジー ファウンダー・代表取締役社長 王本智久 氏
大和製罐が独自開発した蓄電池劣化診断技術を核に、再エネ使用量を最大化する「BaaS」――3つの優位性とは?
――両社で研究開発に取り組んでおられる「BaaS(Battery as a Service)」事業は、誰のどのような課題を解決するものですか。
大和製罐・有馬氏: 蓄電池というものは、電気工学的なデバイスではなく、実は“生き物”のような化学的なデバイスなのです。その特性から、劣化度合いを測ることは困難で、実際にマイクログリッドを運用する事業者の中には、「蓄電池を効率的に運用できない」と感じている方が多いと聞きます。
こうした課題に対して、弊社で研究開発してきた、蓄電池の効率劣化診断技術が役立つと考えています。私たちの技術のシーズと、そうした世の中のニーズとを結びつけ、新たな価値を提供していきたいと思っています。
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――この「BaaS」事業の優位性や、技術的な特長についてもお伺いしたいです。
大和製罐・有馬氏: まず、弊社の効率劣化診断技術が、このサービスの優位性になると考えています。マイクログリッドシステムを組む際に、最終的に重要になるのは初期投資だけでなく運用コストを含めた全体の運用経済性です。
蓄電池を上手く運用しなければ充電と放電を繰り返すだけで電力のロスを生み、経済的なロスが発生してしまいます。このロスを防ぐために、弊社の効率劣化診断技術が活用できるのですが、他社にない技術的な長所が3点あります。
1点目に関して、蓄電池は学術領域では電気化学に分類されます。電気化学は電池内で化学反応がどれだけ起きているかを軸に研究する領域ですから、クーロン(C)という単位を使用します。同じ次元の電池容量を示す単位が、アンペアアワー(Ah)で、劣化診断研究の約99%はこの単位で行われています。
しかし、実際にマイクログリッドを運用する際に考えるべき単位は、ワットアワー(Wh)というエネルギーの単位ですから、ワットアワーで劣化診断ができなければなりません。単純に電圧(V)をかけるだけなのですが、蓄電池は電圧が常に変動するものなので、正確に診断・推定・把握するのは難しいのです。ここを可能にしたのが、私たちの劣化診断の1つ目の長所になります。
――続いて、2点目、3点目の長所についてもお聞かせください。
大和製罐・有馬氏: 2点目については、蓄電池は直流で使用するのが一般的なのですが、実際に電気を使う際には交流で消費します。そのため、直流を交流に変換するのですが、変換する際の効率は、診断という意味ではノーチェックになっていることが多いです。
弊社の技術だと、この変換部分の診断もできますし、蓄電池部分の診断もできます。これらを合わせて蓄電システム全体の効率をリアルタイムに診断・推定することができるのです。この両方を同時に診断できる技術は他になく、唯一無二だと思います。
3点目ですが、さまざまなメーカーが異なる仕様の蓄電池を製造しており、リユース電池も含めると多様な劣化状態の電池が使用されることになります。電池メーカー各社は自社の電池については十分に理解しており診断が可能ですが、他社製の電池は診断が難しいでしょう。
しかし、ユーザー側からすると、リユース電池も含めた様々な電池を購入して混ざった状態で運用することもあるわけで、すべてを一括で診断できる方が利便性は高いはずです。私たちは、機械学習の手法を駆使して、どのメーカーのどんな状態の電池でも診断できる手法を開発しました。理論上はすべての電池に対して、私たちの診断手法が適用できることになります。
――他社には容易に真似できない、現場目線に立った技術を開発されたということですね。現在、何らかの実証実験などは進めておられるのでしょうか。実験結果についてはいかがですか。
大和製罐・有馬氏: 小規模ではありますが、実証実験をすでに始めており、今後さらに規模を拡大していく予定です。小スケールでの実験のシミュレーション結果では、蓄電池を上手く活用することで、再生可能エネルギーをより多く電力需要に取り入れて使えるようになるというデータも得られています。
この結果は、昨年7月に開催された国際学会(ITC-CSCC2024)のマイクログリッド特別セッションで発表し、『Sagamihara Innovation Gate』の取り組みで得られた成果としてクレジットも付けました。
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新しいマイクログリッドシステムを起点に、周囲の人々がその恩恵を感じ取れる仕組みを創る
――今回、このプログラムに参加してみての感想もお伺いしたいのですが、オープンイノベーションは有効な新規事業の手段だとお感じになりましたか。
大和製罐・有馬氏: 有効な手段だと感じましたね。私の仕事に関していえば、スピードが飛躍的に向上しました。同じことを自前で取り組んでいたら相当な時間がかかり、今、この段階には達していないでしょう。そうした点では非常に素晴らしい手段だと感じています。
また、副次的な効果にはなりますが、プログラムを通じて他の市内ホスト企業や相模原市役所、サポーター企業の皆さまと関係性を構築できました。このつながりを活かして、弊社内の他の新規事業開発チームが、JR東海さまが運営するイノベーション創出促進拠点「FUN+TECH LABO」でイベントを開催する計画も生まれています。
こうした動きはこれまで社内にはまったくありませんでしたから、「まずは、やってみよう。やってみたら、見える世界が変わるだろう」というオープンイノベーション的な活動が、社内に広がっていると感じます。
――今後の事業の展望についてお聞かせください。
大和製罐・有馬氏: 業務外で日本GLPさまが運営する「ALFALINK 相模原」という物流拠点を見学する機会がありました(注:さがみ風っ子展)。この施設は商業施設が少ない場所にありながら、非常に近未来的な物流システムを備え、敷地内には開放感のある食堂やコンビニ、フットサルコート、シャワールームなども完備されています。緑も豊富で太陽光パネルも多数設置されており、再生可能エネルギーの導入率も高そうな場所です。
そこを見学しながら感じたのですが、私たちが取り組もうとしているのは、太陽光パネルと蓄電池、それを制御するコンテナシステムを置くということで、これだけ見ると、どうしても殺風景になります。もちろん、システムが稼働して再生可能エネルギーが大量に導入されていること自体は素晴らしいことですが、数字を表示するだけでは、その良さが人になかなか伝わらないのではないかと思うのです。
ですから、新しいマイクログリッドシステムを導入するからには、このシステムをきっかけに、その場にいる人たちがその場にいる価値を高められるような、そういう仕組みを作れないだろうかと思っています。具体的な方向性は今後検討しますが、マイクログリッドの域内にいる人たちにそういう価値も併せて届けられるようなサービス開発を目指したいと考えています。
――王本さんは今後、どのようなパートナーシップを組んで、どのように事業を発展させていきたいとお考えですか。
アプデエナジー・王本氏: 将来的には、総合的なエネルギー屋さんになっていくのではないかと思っています。例えば島や人里離れた場所では、エネルギーを地産地消できるようにオフグリッドやマイクログリッドにしたい、というニーズが実際にあります。その話を詳しく聞いていくと、そうした場所に住む人のニーズは電気だけではないんですよね。
熱も水道も食物も、あらゆるものが地産地消、自給自足できないと、本当の意味でのマイクログリッドにはなりません。送電網だけをマイクロにするのではなく、ゆくゆくは小規模ながらも、インフラすべてを過不足なく完結させていく必要があると感じています。
電気は発電と蓄電をして使うことで解決できると思いますが、水は雨水を貯めて使用するのかだとか、食べ物はどう届けるのかだとかも考えていく必要があり、そうしたことを一緒に考えられるパートナーとも組んでいきたいです。電気については、発電能力を2倍にするよりも使用エネルギーを半分にする方がコストを抑えられるため、省エネに詳しい建築屋さんとの連携も検討したいですし、電気は熱を作るのが苦手なのでバイオマスが得意な企業にも興味があります。
このように、電気に限らず人々の生活利便性を高めるために必要不可欠なものを、さまざまなパートナーと手を組みながら模索していきたいですね。
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取材後記
『Sagamihara Innovation Gate 2023』から生まれた大和製罐とアプデエナジーの共創チームに話を聞いた。昼間にしか発電できない太陽光発電の課題を解決する蓄電池と、蓄電池の劣化状況を測定・診断しながら、再生可能エネルギーの利用効率を最大化するこの新サービスは、時代のニーズに応える将来性のある事業だと感じた。このユニークな技術が、社会にどう広がっていくのか、一歩先を見据えた取り組みの進展に注目したい。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)