【ICTスタートアップリーグ特集 #12:codeless technology】約100社の現場に導入済み。ノーコードよりも簡単で、シンプルを極めたサービス「Photolize」を深堀する
2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。
このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。
そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回紹介するのは、ノーコードよりも簡単な次世代システム開発ツール「Photolize(フォトライズ)」を展開するcodeless technology株式会社だ。代表取締役/CEOの猿谷吉行氏に、開発の経緯や今後のビジョンなどについて聞いた。
▲codeless technology株式会社 代表取締役/CEO 猿谷吉行 氏
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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>
■写真右/白岩大(株式会社eiicon Enterprise事業本部 IncubationSales事業部 Account Executive)
・ここ1、2年で様々なビジネスコンテストで採択されている、今大注目のスタートアップです。
・DX化できていない日本企業が75%、DX普及率が10%の日本社会に対し、「ノーコードよりも更に簡単な技術で日本を元気にする!」を掲げ、撮影するだけで誰でも紙書類をフォーム化できる、シンプルさを極め抜いたサービス「Photolize」を開発。シンプルが故に、地域展開、海外展開といった経営面の将来性だけでなく、画像解析、文章・フォーム生成、データ分析&提案等のAI活用での技術拡張性も非常に高いです。
・今後は現サービスとして研ぎ澄ませてきた、マイナスを減らす「業務効率化」領域から、フォーム最適化やデータ活用で、プラスの価値を創出する『業務改善』領域への価値転換が期待できます。非常に高い拡張性・将来性に目が離せません!
年商2500億円の会社をつくる
――会社を立ち上げた背景をお聞かせください。
猿谷氏 : 私はこれまで、スノーボードスクールや新規事業立ち上げ、そしてスマートフォン修理など色んな事業を手掛けてきました。その時にずっとテーマとしていたのが、「働く人たちの脳のリソースの消費を減らしたい」ということです。
特にそれを強く感じたのが、スマートフォン修理会社を経営している時でした。今の若い人たちは、仕事をする時におぼえなければならないことが多く、その人の良さが活かされていないと感じたんです。そこで、タブレット1つで修理の受付や書類作成など煩雑な業務をサポートできるマニュアルや仕組みを作りました。
そうして何とか黒字化していたのですが、外的要因によってこのままだと事業が立ち行かない状況になりました。実は30代半ばくらいの時に「65歳までに年商2500億円の会社を作ろう」という目標を立てていたんです。
会社を建て直すのか、事業を売却するのか、清算して新しいことをするのか――いくつか選択肢がある中で、年商2500億円に一番近いのはどれかと考えて、事業を売却することを決めました。そうして、現場の煩雑な書類手続きをシンプルにするサービスで第二創業をしていこうとスタートしたんです。
――スマートフォン修理会社を売却して、新しい事業を展開する時に、どのようなことを考えていましたか?
猿谷氏 : 最初は、マニュアルサービスを展開していこうとしていました。自社のスタッフの業務をサポートするために始めたタブレットのマニュアルは、現場からの評判も上々だったからです。しかし他の業界に展開するとなると、業務に精通していなければなりません。そしてシステム導入をした時に現場の負担が大きいと感じていました。実際に事業化するには複雑なシステムになりすぎていたんです。
ベンチャーって、ついつい「すごいものをつくろう」と気張ってしまうのですが、世の中に必要とされているものは「ちょっといいもの」なんですよね。そこで生まれたのが、「Photolize」です。
ノーコードよりさらに簡単な技術で現場に貢献する
――「Photolize」について特徴を聞かせてください。
猿谷氏 : 書類を写真に撮って送るだけで、最短一時間で、元の書類と同じ見た目の入力フォームを作成してデータベースを構築できます。大きな特徴の1つは、仕様書が不要なことです。システム開発の際、最も手間がかかるのが仕様書の作成です。そうすると時間も金額もかさんでしまうため、仕様書をなくすことにしました。
そして、非エンジニアであってもシステムを制作できることです。最初はノーコードツールを開発しようとしていたのですが、結果として「ノーコードツールより、もっと簡単にしよう」と考えました。
これは当社のビジョン、「ノーコードよりも更に簡単な技術で日本を元気にする」に直結しています。「Photolize」はベースとなる書類の画像を送るだけでよく、あとは出来上がった入力画面に修正を加えるだけです。そのため、ICT担当者に依頼しなくても現場ですぐにシステムを作ることができます。
――ノーコードツールよりも簡単なものにしようと考えたきっかけは?
猿谷氏 : はじめにノーコードツールのプロトタイプを色々な人に見てもらったところ、「難しいね」という反応が大半だったのです。そこでハッと気づきました。「ノーコードツールは簡単だ」というのは、提供者側の理論であり、利用者からするとそこまで使い勝手がいいわけではないのです。
まず、色々なツールがあり全部使い方が異なるため、一つひとつ学ぶ手間がかかります。そして、ノーコードツールはプログラミングの必要はないものの、最低限のICTの知識が必要です。そのため、現場の誰もが作れるものではありません。実際に、ノーコードツールの普及率は高くなく、9.5%にとどまっています。これではキャズムを超えられない。この問題点を解決するために、「ノーコードツールをやめる」ことを一番のコンセプトにしようと考えました。
そこで、AIと人の組み合わせによるサポートでシステム開発の作業を極限まで減らし、ICT知識がなくても誰でもすぐに使えるツールとして「Photolize」を開発したのです。
▲Photolizeの紹介動画は、以下より視聴することができる。
ホリゾンタルなシステムで100社以上に導入
――サービスの新規性という面ではいかがでしょうか。
猿谷氏 : 正直なところ、新規性というよりも「私が欲しい」と思って作りました。書類をそのまま入力フォームにできるという機能ですが、投資家の方にお話ししても「たいしたことないね」と言われることもあります。確かに、そうなんですけどね。ただ、そこに入れたエッセンスは、やはり先ほどお話しした仕様書が必要ないというところです。
例えば、導入いただいた企業の工場では、20歳くらいのパソコンを使えない従業員が「Photolize」でシステムを作っているそうです。それこそが「Photolize」が目指している姿ですから、心の中でガッツボーズしました。これ以上簡単にシステムを作る方法はないだろうというところまで落とし込んでいるので、作ったフォームの使い方を説明する必要もないんです。
――先ほどおっしゃっていた「すごいものではなく、ちょっといいもの」ということですね。
猿谷氏 : その通りです。通常、システムを作る時は色んな機能を付け足したくなりがちです。でも、機能が多くても複雑になりすぎてしまって、20%も使えていないと言う人は多いんですよね。
そこで、ホリゾンタルですぐに使えるものを作ろうと思いました。使い方としては、入力フォームのマスターデータは他のツールから引っ張ってくるとか、インターフェースは「Photolize」を使ってその後のデータは他のベンダーさんと組むとか、色んなところと組めるようにしています。
――100社ほどの様々な現場に導入されているそうですが、どういった業種が多いですか?
猿谷氏 : 病院、製造業、店舗での修理、金融など、現場で書類を使うあらゆる業種に導入していただいています。最近では、自治体さんからも引き合いがあります。
代表的な事例は、JT様のPloom Shopで、加熱式たばこの故障受付応対や進捗管理を改善させるシステムとして導入していただきました。カスタマーサポートの基幹システムにデータを流し込み、店舗の状況を分析できるような連携も実現しています。
脳のリソース消費を減らすための事業を追求
――2028年の上場を目指すということですが、今後の事業ビジョンついてお聞かせください。
猿谷氏 : 短期的には、機能として不足している部分を充実させていきたいです。先ほどお話ししたように、すごく薄くホリゾンタルに作ったため、パートナーを見つけていくことを基本戦略としています。特に、業界特化・地域特化のパートナーを作っていきたいですね。そして無料プランを作って集客することも考えています。
長期的なビジョンをお話しすると、書類から入力フォームを作るという現在の事業は、今後2~3年くらいのマーケティングであり、最終的なゴールではありません。もともとやりたいことは、冒頭にお話ししたように「脳のリソース消費を減らす」ということです。現在は日本中の現場の書類を集めて分析して、そこから入力フォームを簡単に作れるサービスですが、今後はもっと発展させていきたいです。
例えば書類のない現場にも合うものを自動生成できるような仕組みだったり、実際に使っているものに対して「この項目を入れるといいですよ」とか、入力している人たちの動きから「次はこの項目ではないですか」とAIが提案してサポートできるようにしていこうと思います。
また、私たちのサービスは非常にシンプルですし、世界各国の⾔語で入力フォームの作成が可能です。アジア圏をはじめとする海外の工場管理にも使えるのではないかと思っています。
――技術的な今後の拡張性についてはいかがでしょうか。
猿谷氏 : AIを活用していきたいですね。当社のミッションは「Make it Easy.」です。新しいものをつくる時、ついつい複雑にしてしまいますが、簡単にすることが一番すごいことだと思います。その、簡単にするためのサポートとしてAIを使って、どんどん効率的にして脳のリソース消費を減らしていきたいです。
取材後記
店舗や工場などの現場で使われている書面をシステム化するには、これまで仕様書の作成からエンジニアによる開発作業が必要だった。そしてせっかく導入したとしても、現場が使い方に慣れるまでに大きな負担を強いることとなってしまう。
その点、現場が使い慣れた書類をWeb上で紙のように利用できる「Photolize」では、システム開発の時間や費用を大幅に削減でき、現場の負担を極限まで削減することができる。「Photolize」が普及すれば、現場で働く人の「脳のリソース消費を減らし」、生産性の向上や人間ならではの良さを活かした仕事を実現できるのではないだろうか。
※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)