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【イベントレポート】共創ノウハウ VOL.5『地方創生へ!自治体が機能し企業が活性化する』~自治体と連携する方法~

【イベントレポート】共創ノウハウ VOL.5『地方創生へ!自治体が機能し企業が活性化する』~自治体と連携する方法~

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自治体は今、どのように共創を進めているのか

オープンイノベーションプラットフォーム「eiicon」は2月14日、『地方創生へ!自治体が機能し企業が活性化する 自治体のオープンイノベーション支援とは』と題したイベントを開催した。同イベントでは、自治体の首長やオープンイノベーション担当者、スタートアップ代表のプレゼンテーションのほか、トークセッションが行われた。参加者は熱心に耳を傾け、自治体と協業する方法や心構えやコツについて理解を深めた。その模様についてレポートする。

オープンイノベーション積極的に取り組む自治体

【プレゼンテーション①/福岡市】

▲福岡市総務企画局企画調整部企画係長 国家戦略特区スタートアップ担当 橋本歩氏

国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」を活用し、日本のスタートアップ創出を牽引する福岡市で、起業を促進させるエコシステムの形成などに取り組んでいる。2017年4月に官民共働スタートアップ支援施設「FUKUOKA growth next」を開設し、企業が「新たな価値を生み出すこと」「グローバルマーケットへチャレンジすること」を支援。

私は福岡市でスタートアップ支援をしています。福岡市というと、大きな企業はあるものの、その多くが支社や支店の開設です。こうした状況を受け、2012年に「福岡発」を生み出すことを目的に、スタートアップ都市宣言を実施しました。以来、市と起業家の距離感を縮め、気軽に相談を行えるよう、誰でも利用できるスタートアップカフェを創設したり、マッチングを行ったり、奨学金を設けたりしました。

活動はまだ道半ばですが、少しずつ成果も出始め、カフェからは上場する企業も輩出でき、また、スタートアップの国家戦略特区にも指定されました。現在は海外進出も支援しており、シリコンバレーへの研修などを実施しています。

【プレゼンテーション②/株式会社スカイディスク】

▲株式会社スカイディスク 代表取締役社長 橋本司氏

福岡県北九州市出身。長崎大学を卒業後、自動車メーカーで自動車部品の研究開発を行い、その後システム業界へ進む。 2010年からは九州大学博士課程で人工知能と高速分散処理の研究に従事。2013年にSkydisc, inc.を設立し、現在、福岡市が運営する官民共働型スタートアップ支援施設Fukuoka Growth Nextに入居。

当社はAI、IoTをキーワードに事業を展開しています。会社のミッションとして掲げているのが、“データ化されていないものをデータ化する”ということです。そのデータを活用したいという企業が出てきたら、データを切り売りするのではなく、一緒にサービスを創っていく方針です。特徴としては、データ取得から通信、可視化、分析までを一貫して手がけていることが挙げられます。

また、AIを活用したいというお客様の要望にお応えし、例えば、AIを活用しながら保全に関する学習モデルなども創り上げています。このほか、IoTやAIは電波法の規制を多く受けてしまいますので、福岡市さんと共同で規制緩和の働きかけなどを行っています。

【プレゼンテーション③/埼玉県横瀬町】

▲埼玉県横瀬町 町長 富田能成氏

1965年生まれ。横瀬小、横瀬中、熊谷高、ICU卒後、日本長期信用銀行へ。法人営業、メキシコ留学、L.A支店ヴァイスプレジデント等を経て不良債権投資や企業再生の分野でキャリアを積む。2015年1月より現職。官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を立ち上げるなど、都市圏の人材や民間活力を呼び込む施策を次々展開している。

埼玉県横瀬町は人口8429人、世帯数3338の小さな町です。住んでいる人を互いによく知っている、というのがこの規模感の特徴です。心がけているのは、顔の見える行政サービスです。――そんな横瀬町は、“消滅可能性自治体”です。人口減少に耐え、備えるために、地方創生や新しい住民サービスにつながるような先駆的なアイディアや事業モデルを広く募集して、ヒトやモノやカネ、情報を呼び込む「よこらぼ」を推進しています。町民や町のためになるのであればテーマは自由で、あなたのやりたいことを横瀬町が支援するというスタンスです。スタートして1年超で51件の提案があり、そのうち28件を採択しています。

【プレゼンテーション④/横浜市】

▲横浜市 政策局政策課 担当係長 関口昌幸氏

横浜市の職員として、民間との「共創」をテーマにオープンデータを推進している。企業のオープンデータに関する相談窓口や、2014年にはクラウドファンディングを活用した地域課題解決WEBサイト「LOCAL GOOD YOKOHAMA」を開設。LOCAL GOODの事業モデルは全国から注目され、成果を上げている。

横浜市は市民が街作りを行ってきた歴史があり、シビックプライドのある街と言えます。民間との協働や共創、市民参加型の取り組みは1960年代から行われています。一方、これまで人口は増え続けていましたが、来年から人口が減ると予測されており、急速に高齢化が進むという課題を抱えています。

このような中にあり、私たちは対話と創造ということを重視しています。オープンデータを強くうたい、官民連携で政策課題や生活課題を解決することを目指しています。市には民間向けの専用の窓口を設け、オープンイノベーションも積極的に行っています。

登壇者によるパネルディスカッション

各自治体・企業によるプレゼンテーションに続いて、eiicon founder・中村亜由子がモデレーターとなり、登壇者によるパネルディスカッションが開催された。

【来るべき「人口減」に備える】

eiicon・中村 : まず、「なぜ今、自治体がオープンイノベーションを支援するのか」をテーマに話をお聞きしたいと思います。早速ですが、富田さんいかがでしょうか。

横瀬町・富田氏 : これはもう、放っておけば町がどんどん縮んでいってしまうからです。一方で、地方創生にからめてビジネスを起こそうとする人がいるはずだと考え、このタイミングで官民連携、オープンイノベーションの取り組みを始めました。

eiicon・中村 : 人口減に直面していない横浜市はいかがでしょうか。

横浜市・関口氏 : 確かに横浜市は人口の多い街ですが、近い将来、必ず人口減が訪れます。それも、そう遠くない未来にそうなるだろうと考えられています。大都市で人口減と高齢化が進むと、非常に大きなインパクトがあります。街ぐるみで解決すべき大きな課題であり、同時に、市だけでは対応しきれません。外からの力が必要不可欠です。

福岡市・橋本氏 : 福岡市も事情はまったく同じですね。今は人口が増えていますが、将来必ず人口は減少していきます。

eiicon・中村 : ありがとうございます。では、続いてテーマの2番目「自治体が企業間の連携を支援する上で注意すべきポイントと成功の秘訣とは」について話していただきたいと思います。自治体は企業との連携についてどのように考えていますか。

横浜市・関口氏 : これまで自治体との連携というとCSRが中心でした。これが、企業の売上にも直結するCSVに代わってきていると感じています。

eiicon・中村 : 確かにそうしたことはありますね。

スカイディスク・橋本氏 : 小規模な企業にとっては連携が図りやすくなっていると思います。小規模企業にとって、売上につながるかどうかがやはり大切で、売上を上げながら自治体のメリットにもつながるなら、なおよしというところです。

eiicon・中村 : 自治体と連携で、困ったことや苦労したことはありましたか。

スカイディスク・橋本氏 : 福岡市さんとの連携が多いのですが、基本的には非常によくしてもらっています。強いて上げるなら、時間感覚が異なるということはあると思います。

eiicon・中村 : 自治体が注意していることはありますか。

福岡市・橋本氏 : 事業の差し障りになるようなことはなるべくないようにしています。いい関係を構築することが何より欠かせません。

横瀬町・富田氏 : 官と民の連携は簡単なことではありません。どちらかというと、官が歩み寄るべきだと思います。予測不能な事態が起こることも想定しながら連携を進めることも、官にとっては大事でしょう。

横浜市・関口氏 : 一緒にやろうということになったら、スピード感が生まれます。逆にどうしても成し遂げたいことなら、時間がかかっても形にしようという気持ちになります。横浜市は職員だけでも2万7000人がいる組織です。これまでに2年もかかって実現にこじつけたこともあります。

【どこと連携するかより、誰と連携するか】

eiicon・中村 : 企業の側から見て、自治体と連携するコツのようなものはありますか。

スカイディスク・橋本氏 : 自治体は大企業に似たところがあると感じています。スタートアップは大企業と連携することが多いので、意外と自治体との連携もうまくいくのではないでしょうか。

eiicon・中村 : 自治体側としては、大企業との連携で注意していることはありますか。

横瀬町・富田氏 : 規模の違いや所属する団体で対応を変えることはありません。外資系や大学ともコラボレーションすることはありますが、特に意識して変えていることはないですね。むしろ大事なのは、“誰と一緒にやるか”です。人の目利きはとても重要です。

横浜市・関口氏 : それは横浜市も同じですね。その人が本当に信用できるかどうかが、連携する時の大きなポイントです。

eiicon・中村 : 人の目利きというのは、基本的に信用できるかどうか、ということですね。

横瀬町・富田氏 : そうです。それと、面白い人かどうか、というポイントもあります。いい人を捕まえると、その人が別のいい人を連れてきます。

横浜市・関口氏 : その人なりの生き方や哲学、ビジョンを見せてほしいです。

eiicon・中村 : 自治体がビジョンを見る、というのは面白い視点ですね。

横瀬町・富田氏 : 自治体は、人が来るというだけでうれしいんです。人を呼び込むことが、地方創生の最大の目的の一つですので。その点は、投資という観点を持つ銀行やベンチャーキャピタルとは異なります。

スカイディスク・橋本氏 : パッションは大事ですよね。上からの命令で来ている人は、パッションがないことが多く、事務的なところで話が止まってしまうんです。NDAを締結する、というような事務的なところで・・・。お互いパッションがある状態でないと前に進みません。

eiicon・中村 : では、最後に3番目のテーマ「自治体のメリットと実施後の変化は」についてお話をお伺いしたいと思います。

横瀬町・富田氏 : 横瀬町としては、名前を覚えてもらうだけでありがいたいことです。ある意味、この場に来たことも一つの成果です。

福岡市・橋本氏 : 最初はスタートアップって何だ、と言われるような状況でした。情報を発信し続けて、今はかなり浸透していると感じます。

横瀬町・富田氏 : メッセージは大切ですよね。シンプルで短いものにして覚えてもらうなど、工夫が必要です。

横浜市・関口氏 : 特に、ICTやIoTなど、新しいものの導入には、どうしても抵抗があります。しかし、先端技術を活用しないことには地域課題は解決できません。これをいかに理解してもらうか。上手に伝える必要があるんですね。

スカイディスク・橋本氏 : かつてはIoTとは何かから説明していたこともありますが、今ではそうしたことはほとんどありません。自治体の人が自主的に学んでくれたと思います。互いに熱意を見せることができれば、チームとなり、一体感も生まれてくると感じています。

福岡市・橋本氏 : 自治体としては、自分たちの手を離れて循環する仕組みを生み出すことを目指しています。自治体が動かなくても地方創生ができるなら、これに勝ることはありません。

取材後記

地方創生というと、“地方を盛り上げる”くらいのニュアンスで受け取ることがあるかもしれない。しかし、自治体は「人口減」という深刻な課題に直面し、真剣に地方創生に取り組んでいる。その一つの表れが積極的なオープンイノベーションの推進だろう。自治体のほうで、企業などの法人に歩み寄ろうとしている。プレゼンテーションでは、「若い人材が転入してくるだけでも大きな成果」という発言もあった。起業を考える人にとって、共創パートナーを自治体に見い出すのは、有効な手段と言えるかもしれない。

(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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