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医療業界特有の「壁」を乗り越えるアセットを用意――リニューアルされたアクセラレータープログラム「在宅医療QOLコラボレーション」の魅力に迫る

医療業界特有の「壁」を乗り越えるアセットを用意――リニューアルされたアクセラレータープログラム「在宅医療QOLコラボレーション」の魅力に迫る

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9月27日、オープンイノベーションの祭典「Japan Open Innovation Fes 2022」(JOIF2022)が開催された。メタバースカンファレンス形式の会場には、スタートアップや中小企業、大企業、それらの支援者など、イノベーションを志すプレイヤーが集結し、様々なピッチやセッションが行われた。

本記事では、盛況のうちに幕を閉じたJOIF2022のプログラムの中から、「大企業によるReverse PITCH」に登壇した帝人ファーマ株式会社(以下、帝人ファーマ)のプレゼンテーションの模様をご紹介する。

医薬品事業や在宅医療事業で知られる帝人ファーマは、2019年より在宅医療・慢性疾患の新たな価値創造を目指すアクセラレータープログラム「在宅医療QOLコラボレーション」を実施しており、スタートアップとの共創を続けてきた。

今回のReverse PITCHでは、同プログラムの事務局運営を担当する田島氏より、帝人ファーマがオープンイノベーションを通して実現させたい価値創造のイメージ、2022年9月よりリニューアルされたプログラムの募集テーマ、共創企業に提供できるアセット、具体的な連携パターンなどが詳細に語られた。


帝人ファーマ株式会社 在宅医療企画技術部門 在宅医療事業創造部 田島拓也氏

2020年より、アクセラレータープログラム「在宅医療QOLコラボレーション」の運営事務局業務を担当。スタートアップとの新規ヘルスケアビジネスの企画・立案・共同開発にも参画している。

帝人ファーマがオープンイノベーションに挑戦する理由

帝人ファーマは、医薬品・医療機器の研究開発および製造販売を行う企業だ。呼吸器領域、代謝循環器領域、骨・関節領域、リハビリ・脳神経領域、デジタルヘルスケア領域を中心に、幅広い製品・サービスを展開している。

同社はQuality of Life(生活の質)の向上を実現すべく、新しい治療薬や治療法の開発にも取り組んでいる。アンメットメディカルニーズ(有効な治療法が確立していない疾患に対する医療ニーズ)に対応するために、他社とのオープンイノベーションや共同開発によって新規医薬品の開発や、リスクの高い未踏分野への挑戦を続けてきたという。在宅医療における在宅酸素療法の普及や睡眠時無呼吸症候群の啓発、近年では多職種連携情報共有システムの提供など、デジタルヘルスケア市場においても活動の場を広げている。


「慢性疾患の予防から予後管理において沢山の課題が存在することから、多様なソリューションが必要であると考えています。例えば、予防段階では疾患リスクの認知、診断段階では医療機関の受診、治療段階では治療の最適化と継続が課題として挙げられます。さらに、予後管理段階ではいかに症状の悪化を防ぎ、病気の再発を防ぐかが求められます。これらを帝人ファーマ単独で挑むには、相当なハードルとなります。そこで、オープンイノベーションを通じてスタートアップの皆さんと力を合わせることで、こうした課題の解決を目指していきたいと考えています」と田島氏は同社がオープンイノベーションに挑戦する理由について、力強く語った。


ただ医療業界において、イノベーションは決して平坦な道ではない。田島氏曰く、主に「企画立案段階」、「法規制・行政への対応段階」、「社会実装の段階」においてにハードルがあるという。

「企画立案段階では、医療従事者や学会、行政との継続的な関係性から得られる的確なニーズの把握や社会実装に要求されるエビデンスの理解、法規制・行政への対応段階では、保険/非保険の製品・サービスに係る規制への対応や薬事申請・保険戦略の立案、業許可等の行政対応ノウハウがハードルとなりやすくなります。社会実装の段階では、仮説検証(PoC)を実施する適切なフィールド、医療機関の探索、さらには販路構築のための医療機関との継続的な関係性構築などが該当します」


慢性疾患×予防から予後管理、地域包括ケアまでカバー

そこで、帝人ファーマが2019年から開催・運営しているアクセラレータープログラム「在宅医療QOLコラボレーション」では、こうしたハードルを乗り越えるためのアセットやノウハウを提供している。企画立案段階では、臨床現場に携わる医療関係者へのヒアリング機会の提供や製品・サービスおよびPoCの企画立案支援、法規制・行政への対応段階では、薬事・保険戦略の立案、医療領域の各種規制対応を支援。社会実装の段階では、PoC実施フィールドの探索や実施費用も補填(最大200万円)している。全国の販売拠点網へのヒアリング機会の提供なども行うことで、パートナー企業の製品・サービスのスピーディーな社会実装もサポートといったように手厚い体制を整えている。


こうした活動が実り、複数のスタートアップと社会実装に向けた検討を行うなどの実績にも繋がっている。中でもジョリーグッドとは、2021年にVRを用いたうつ病の認知行動療法を補助するシステムの共同開発を契約。同社は2020年12月実施のアクセラレータープログラムにおいて採択されたことから、わずか4ヶ月でのスピード締結となる。


さらに沢山のスタートアップとのオープンイノベーションを実現するため、アクセラレータープログラムも1年に一度の実施から、2021年度以降、常時募集の通年形式に切り替えたという。

通年形式では、それまで3つに限定していた募集領域を「呼吸器」、「代謝循環器」、「骨・関節」、「リハビリ・脳神経」、「デジタルヘルスケア」の5つに拡大。それぞれ予防から予後管理に至る段階で発生する課題を解決できるようなソリューションを募集している。疾患とは毛色が異なる「地域包括ケア」がデジタルヘルスケア領域に含まれているのは、地域の医療機関同士の連携を促進し、急性期から回復期、維持期まで切れ目のない医療を提供できるソリューションを求めているためという。


また同プログラムでは、領域毎に積極的に募集したいテーマを定期的に見直している。詳細は特設サイトをご覧いただきたいが、2022年9月から「呼吸不全」においては、呼吸困難などの症状悪化の兆候を事前に検知するモニタリングシステムや悪化を予防するような栄養指導、服薬の支援を行うソリューション、「糖尿病」や「骨粗鬆症」では治療の継続や個人に合った治療の支援を行うソリューションなどを求めている。遠隔医療を実現にアプローチできるようなソリューションも歓迎という。

帝人ファーマの考えるスタートアップとの連携パターン


アクセラレータープログラムにおける4つの連携パターン例が田島氏から紹介された。1つ目はアンメットメディカルニーズを満たす新規治療法の開発や保険外領域の新規製品・サービスの開発などにおける「共同研究・共同開発」。2つ目は帝人ファーマの販売網を活用し、スタートアップの医療機器やシステムを展開する「販売提携」、3つ目は治療継続の促進などの医療従事者の業務を支援するソリューションにおける、帝人ファーマとスタートアップの両社による「医療従事者に対する共同提案」、最後はパートナー企業のシステムと帝人ファーマの多職種連携システムの機能強化・補完を目的とした「システム連携」だ。


アクセラレータープログラムを行う企業において、こうして連携パターンまで具体的に明示するケースは残念ながら少ない。説明責任のリスクや関係者との調整の不都合、そもそもオープンイノベーションで実現したいことが明確でないことなどから提供可能なアセットや連携への言及を控え、別途協議にする傾向が見受けられる。また実施したとてもPoCより先に進まないこともしばしば。スタートアップからすると、どちらの企業と組みたいと思えるかは一目瞭然だろう。

田島氏の「医療従事者や患者様のニーズに応えるソリューション創出のために熱量あるスタートアップを求めています。医療に新たな価値を提供していきましょう」という結びの挨拶からも本気度が感じられた。


取材後記

「これまでプログラムで採択させていただいた企業は、医療・メディカル領域での実績が豊富な企業ばかりではありません。医療業界特有の法規制対応等については私たちがしっかりサポートします」と田島氏がピッチ後のインタビューで語ったように、帝人ファーマのアクセラレータープログラムでは、必ずしも医療・医薬領域における豊富な経験・実績を持った企業ばかりを求めているわけではない。

今回の募集テーマと親和性の高い技術・アイデアを持った企業はもちろんだが、業界・業種や専門領域を超え、意外性のあるコラボレーションを展開したいと考える企業にも十分にチャンスがあると言えそうだ。今後も同社が推進するオープンイノベーションの動向から目が離せない。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:加藤武俊)

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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

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