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「think 2030」 vol.8 | A.T. カーニー 日本代表 関灘茂氏”ポストGAFAとなる企業を20社日本から輩出する”

「think 2030」 vol.8 | A.T. カーニー 日本代表 関灘茂氏”ポストGAFAとなる企業を20社日本から輩出する”

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世界を代表するコンサルティングファームとして、企業の戦略から実行までを支援しているA.T. カーニー。その日本代表に、同社最年少の38歳という若さで大抜擢されたのが、関灘茂氏だ。

シリーズ企画「think 2030」のvol.8となる今回は、関灘氏をインタビュイーに迎え、「2030年に向けた企業 × オープンイノベーションの未来」という視点から、日本の企業・ビジネスパーソンの進むべき道を考えていく。

関灘氏からは、これまで経営コンサルタントとして数々のプロジェクトを担当してきた経験から、記事前半では外部を巻き込んだプロジェクトやオープンイノベーションを成功に導くためのコツ、そして記事後半では日本経済再生に向けて必要なスキルやマインドセット、未来に向けての展望などを伺った。


▲A.T. カーニー マネージングディレクター ジャパン(日本代表)、パートナー 関灘 茂 氏

2003年、神戸大学経営学部卒業後、A.T. カーニーに入社。消費財・小売業界を中心に、エンタテイメント、モビリティ、金融、不動産などの幅広い分野のクライアントの経営コンサルティングに携わる。2014年には、同社最年少の32歳でパートナー昇進。2020年1月には、同じく最年少の38歳で日本代表に就任した。同社代表を務める傍ら、グロービス経営大学院やK.I.T.虎ノ門大学院などで教壇に立っている。INSEAD(欧州経営大学院)MAP修了。

「新規事業の創造」から「既存事業の変革」まで、数々のプロジェクトを牽引

――まず、これまでのご経歴や、手がけてこられたプロジェクトについて簡単にお聞きしたいです。

関灘氏: 2003年に新卒でA.T. カーニーに入社しました。ビジネスアナリストというポジションからはじめ、さまざまなポジションをへて、現在は日本代表を務めています。私がこれまでメインで担当してきた領域は、業界軸では消費財・小売業界、サービス軸ではデジタルトランスフォーメーションです。テーマで言うと、戦略からオペレーションまで。「新規事業の創造」から「既存事業の変革」までと、特定クライアント企業に長く深く関わるタイプの経営コンサルタントだと思っています。

――具体的には、どのようなプロジェクトを?

関灘氏: 守秘義務があるため詳しくはご紹介できませんが、「新規事業の創造」だと、ITサービス企業がヘルスケア領域で4桁億円を超える新規事業を創出するプロジェクトや、金融機関の非金融領域への進出を支援するプロジェクト。既存事業のなかで、新しいサービス・商品を生み出すというものや、新ブランドの創出を支援するといったプロジェクトも手がけてきました。

「既存事業の変革」だと、既存事業のコスト構造を根本的に変革するプロジェクトもありましたし、既存オペレーションをEnd to Endで俯瞰して抜本的な生産性・効率性の向上を実現する仕事もありました。イノベーションの可能性は創造側と変革側の両方にあるので、その両方でクライアント企業の支援をしてきました。

――それらのプロジェクトの中には、オープンイノベーションで価値創造していくタイプのプロジェクトもあったのですか。

関灘氏: 我々のような経営コンサルタントが入る時点で、クライアント企業から見るとオープンイノベーションの要素が入ったプロジェクトになっていると思います。我々は、クライアント企業と守秘義務契約を結び、非公開情報もすべて開示していただいて、クライアント企業の皆さんと一緒にどう進めるべきかを考えます。

また、実行に近づく過程で、我々だけではなくクリエイターの方やテクノロジー分野のスペシャリストなど様々なエキスパートの方々と協働します。そうした意味では、我々の手がけるプロジェクトはすべて、オープンイノベーションプロジェクトだといえるのではないでしょうか。


オープンイノベーションプロジェクトを、成功させるための秘訣とは

――外部の人たちを巻き込みながらクライアントのオープンイノベーションプロジェクトを進める場合、推進力を高めるためには、どういう点に留意するとよいのでしょうか。

関灘氏: 我々が手がけている仕事のひとつで、「外部の人たちと連携をして、社内だけでは成しえない価値を生み出せるようにする」という長期伴走型のクライアント社内変革プロジェクトがあります。当たり前と言えば当たり前のことなのですが、クライアント企業をX社として、外部戦力をA社・B社・C社と仮定したときに、X社が複数の外部戦力を使い分けようと思えば思うほど、X社は大変になります。

――大変になるとは?

関灘氏: たとえば、クライアントのX社は、A・B・Cの各社にオリエンテーションを行い、X社の考えを理解してもらいます。そのうえで、それぞれの提案を見たときに、「これはX社にとっては意味がある提案だね」となりますよね。あるいは「A社とB社の提案と組み合わせれば、よりよい取り組みになりそうだね」だとか、「でも、C社からの提案とは齟齬があるから、A社に直してもらわないとね」だとか。そういう形で、X社をハブに外部戦力が増えれば増えるほど、複雑さを増してしまうのです。

――その事象に対して、打開策はあるのでしょうか。

関灘氏: やはりクライアントであるX社の能力が高まらないことには、うまく進めることはできません。X社のオリエンテーション能力や、オリエンテーションをする前段階にある事業に対する現状・課題認識、あるべき姿を考える意思、さらには社内のステークホルダーのコミットメント獲得など――そういった能力を高めておく必要があります。それらがクライアント企業の中でできていない状態で、外部のA・B・C各社と議論をしても、うまくいかない場面も多数目撃してきました。

また、X社の志や本気度が高まっていないと、A・B・C各社が本気を出してくれないという現象も起こります。X社という会社の格は高くても、その中の個々人の志や本気度の高低は様々で、力量ある外部戦力は志や本気度を見極めているのです。したがって、外部から見たときに、「ちょっとやそっとのレベルでは、この人に価値を提供できない」という水準にまで、X社やその個々人の志や本気度を引き上げておく。そして、外部戦力からもその志や本気度に呼応できる人材を連れてきてもらう。そういう状況をつくることが、ひとつの対応策です。

――ハブになる人たちの能力を底上げする、と。

関灘氏: はい。内部人材の能力の底上げ以外には、オリエンテーションがうまくできるようにするための枠組みづくり、アウトプットを評価するための仕組みづくり、そのアウトプットに対して適正な対価を支払うための成果と対価を一致させる仕組みづくりなどを行います。これらに時間をかけて取り組むと、クライアント企業の皆さんは、様々な外部戦力ともいい仕事ができるようになっていく。いい循環が生まれるようになるのです。

ですから、プロジェクトを円滑に進める秘訣は、変革を起こしたいクライアント企業の内部人材の能力アップと、どういうビジョンで何を成し遂げたいかという部分の明確化、成し遂げたいことと現状とのギャップ、その根本原因の明確化と課題の構造化。ここまでがビシッとできて、オリエンテーションができれば、外部戦力との効果的な協働が進みます。

――なるほど。

関灘氏: また別のプロジェクトで得た気づきをお話しすると、オリエンテーション能力をいくら高めても、考えていることすべてを企業間で完全一致させることは困難です。常にX社、A・B・C各社の間には、分かりあえない部分が残ってしまう。すべての考えや思いを完全に一致させることは、夫婦間や親友間であっても難しいでしょう。企業間ではなおさらです。

――分かりあえない部分は許容して進むのですか。それとも、差を埋めるための何らかの努力をするのですか。

関灘氏: 差を埋めるために、非言語でのコミュニケーションが有効な場合があります。ある映画監督は、映画制作を開始する前に、主要キャストと一緒に、その作品をつくるために見ておくべき景色を一緒に見に行くんだそうです。景色を一緒に見て「ああいう世界を描きたいよね」と言った瞬間に、言語だけでは伝えられない色々な情報を共有することができます。つまり、非言語でコミュニケーションができるのです。

このように、アウトプットのイメージの共有度を高める努力をしていかないと、関係者間で「なにかイメージが違うんだよね」という状況が続いてしまう。ですから、もちろん極限まで言語化することで共有することも1つの方法論ですが、それでも難しい場合は、非言語での共有も行う。これも1つの方法論だと思います。


目指すべきは、「強い個」「経営を語れる個」「尖った個」

――今から8年後の2030年、注目されているマーケットはどこにあるのでしょうか。近未来に到来するであろう、ビジネストレンドについてお聞きしたいです。

関灘氏: 「どんな領域が、オープンイノベーションを起こしやすい領域なのか」を考えるための質問だと理解してお答えします。おそらくどんな領域であろうと、オープンイノベーションは起こしうると考えるようにしています。市場が急速に縮小している事業領域であっても、オープンイノベーションで再成長させたり、利益率を高められたり、顧客満足度を向上させることは可能である場合もある。ですから、トレンドを予測することに価値がある場合ももちろんありますが、オープンイノベーションの起こしやすい領域を発見する上では、意味のないことだと考えてみても良いでしょう。

それよりも、事業家なり経営者なりが、何に対して社会の不を感じ、何を解決したいと思っているか、何に対して憤りを感じているか。そういうことが大事で、想いさえあれば、あとはどうオープンイノベーションを起こすのかをとことん考えればいい。逆に言うと、想いのないところには、オープンイノベーションを起こすことは難しいと感じています。

――では、社会課題を解決し、よりよい未来を構築していくためには、何が必要でしょうか。

関灘氏: A.T. カーニーの社内向けに私がよく言っていることは、「本物の基礎能力を身につけよう」ということです。世の中にある生活者の不満や社会の課題、こうありたいという理想を、さまざまな事象を観察しながら、解像度を高めていく。これまでには知覚できなかったものを知覚する。そして、見えていない未来を見ようとして、何らかの可能性を見出す。

基本的には、何かしら強烈なインプットがあって、そこでプロセスが始まり、初めてアウトプットとして出てくるものなので、この基礎能力を鍛えましょうと言っています。

――多くの人は、その基礎能力が弱いのですか。

関灘氏: 観察する際の解像度が粗かったり、人の話を聞いているようでも深く聞けていなかったり、何かを構造化する際にしっかりと構造化ができてなかったりします。「見る・聞く・調べる・考える」といった基礎動作の質を上げておけば、人には見えないものが見えて、何かを生み出せる可能性が高まる。どんな時代であっても、この基礎動作をしっかり行うことが大事です。私たちは、この基礎能力を持っている状態を「強い個」と呼んでいます。

「強い個」となったうえで、「経営を語れる個」にもなったほうがいい。多くの日本の組織は、どんどん分業化しているので、経営者以外は経営全体を考える機会に恵まれません。自分が経営者になる前から、自分が経営者であったら何が重要なアジェンダであると考えるか、と圧倒的な当事者意識を持ち、アンテナを立てておくことも必要です。

――なるほど。

関灘氏: さらにそのうえで、「尖った個」になることです。日本の経営者の多くも、平成の約30年の間で経営を語っていたはずですが、時価総額、提供価値、従業員の所得などの観点で、米中をはじめとした他国に劣後しています。その理由は色々とあるとは思いますが、結局のところGAFAをはじめとした世界への価値創造と提供を続けてきた創業者・経営者のような、「尖った個」が日本には不足していたということだと思っています。

GAFAの創業者や経営者は、10歳前後ですでに世の中に何らかの価値・アウトプットを生み出していたと聞きます。たとえば、ザッカーバーグは、10歳頃に親の会社のための予約システムをつくっていたようです。先日、日本のとある財団のサポートを受けている10歳前後の複数の方々のプレゼンテーションを伺う機会がありました。世の中に何らかの価値・アウトプットを届けたいという志・本気度を感じ、刺激を受けました。

アウトプットに至るまでには、ビジネスの理解だけではなく、テクノロジーの理解、最終的には製品やコミュニケーションに落とし込むまでのクリエイティブの理解も求められます。このB(Business)・T(Technology)・C(Creativity)を越境して統合したような能力を育んでいる「尖った個」に期待をしたいです。

――つまり、基礎能力のある「強い個」、「経営を語れる個」「尖った個」へ、と。

関灘氏: はい。個々人によって、この3つの方向性にも、好き嫌い、合う合わない、などもあると思います。また、「強い個」、「経営を語れる個」、「尖った個」へと進化をした方々にも、得手不得手があるものです。なので、そういった人財が複数人で、チームで、補完・創発していく必要がある。だからこそのオープンイノベーションなのだと思います。

現状に満足していないなら「身をおく環境のレベルを上げてみるべき」

――ビジネスパーソンに向けて、「未来のためにまず一歩、こんなことをやってみたらいいのではないか」というアドバイスがあれば教えてほしいです。

関灘氏: もし、自分の職場に自分のやりたい仕事がないと思ったら、転職をした方が良いかもしれません。転職する人が劇的に増えれば、その会社は改善をするようになります。たとえば、私がA.T. カーニーに入社した2000年代前半でも、伝統的な日本の大企業に入社してから転職する人は限られていました。

ところが、当時は若手がほとんど転職をしなかったある大企業も、現在では入社後の数年で数割の若手が転職するようになりました。この大企業の人事も経営陣も考えるようになりました。「なぜ、こんなに人が辞めていくんだろう」と。

そして、「若手にもっと意味のある仕事を任せよう」、「若手にも意思決定の機会を経験してもらおう」と、経営陣の考え方が変わりつつあります。転職が増えるということは、経営陣には健全なプレッシャーとも言えます。なので、「今の職場ではチャンスはない」「仕事を任せてもらえない」と思うのなら、チャンスがあって任せてもらえる職場に転職を検討することをお勧めします。就社ではない、流動性の高い個人が増えることで、個人もプロとしての自覚が高まり、経営陣もプロが活躍できる機会を作る意識が高まり、結果として社会にも良い変化が起こる面もありそうです。

――とはいえ、転職に抵抗を感じている人も多いと思います。そういった場合は、どんなアクションをすべきですか。

関灘氏: 何かを変えるきっかけは、「環境」にあると考えています。個人の体験からは、周りにいる人たちの平均値に収斂していく傾向があるように感じています。学校でも、会社でも、そうでした。多くの人は環境に適応するもの。もちろん、そうではない方々もいますが、それほど強い意志を持たない人のほうが多数派ではないでしょうか。ですから、自身の身をおく環境を変えてみる。凄い、面白い、楽しいと素直に思える人が多い環境へ。こうした動きで、よい変化を起こせるのではないでしょうか。


ポストGAFAとなる企業20社と新興企業200社を、日本から輩出する

――最後に、2030年に向けた関灘さんご自身の展望についてもお聞かせください。

関灘氏: さまざまなものを勘定すると、2030年という時間軸の設定が難しいと思っていて、私の場合は2050年を目安にしています。なぜかというと、平成の約30年間で失ったものは、日本経済レベルでも個社レベルでも非常に大きい。それをたった8年で変えるのは無理があるからです。

30年程度の時間軸をとらないと、本質的な変化は起こせません。30年あれば、企業内の中心的な人物がほぼ入れ替わります。まだ会社のDNAや社会の常識に囚われていない今の10代・20代の人たちが、企業の中心的存在になったとき、まったく違った価値観で変化を起こせるかもしれません。そういう意味で、2050年を目安にしています。

――2050年に向けて、日本はどういう方向を目指すべきだとお考えですか。

関灘氏: 今のGAFAをはじめとした企業群は、世界の時価総額ランキングの上位を占めています。これらの企業が世界に向けて創造した価値・貢献もあると思いますが、プラットフォーマー企業の圧倒的な顧客接点の集約、業界横断展開・多国展開による富の集中など必ずしも世界の人たちにとって良いとは思えない面もあります。

なので、理想とする企業、ロールモデルとなる企業が現れる必要がある。つまり、ポストGAFAのような企業群が必要ですし、その経済をまわすモデルが必要だと思っています。日本企業20社と、スタートアップをはじめとした新興企業200社が、日本から世界へ打って出て、世界に対して新たなモデルを示す。この理想を2050年までに実現できるように、私も微力ながら貢献したいと思っています。

――日本発のポストGAFAと、ポストGAFAモデルの創出ですね。

関灘氏: はい。これらのうちの20社ほどが、世界時価総額ランキングのトップ50に入るようになれば、平成の始まりの頃ほどのインパクトはないにしても、世界経済のなかで日本企業のプレゼンスが高まり、世界に対してよい影響を及ぼす状態になるはずです。それに向けて、私自身も色んな活動を設計していきたいと思っています。これは個人的にも取り組みたいことですし、A.T. カーニー全体としても取り組んでいきたいことです。

取材後記

GAFAが席巻する今の世界経済に疑問を呈し、ポストGAFAとなりうる企業群や新たな経営モデルの必要性を説く関灘氏。そのために「強い個」「経営を語れる個」「尖った個」の育成に力を注いでいるという。A.T. カーニー社内からも2050年までに2000人を輩出する計画だというが、これらの人物が求められるのは同社に限らない。これからの時代、誰しもが持つべき素養なのではないだろか。日本再生に向けて、一人ひとりの学び直しが必要なのかもしれない。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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